おしらせ


2018/02/24

KMZ PO(RO)-series cinema movie lenses(Prologue)

左からPO4-1, PO70, PO56, PO2-2, PO3で、いずれもモスクワのKMZがソビエト連邦時代に製造したモデル


レニングラード生まれ、クラスノゴルスク育ちの
35mmシネマムービー用レンズ PART 0(プロローグ)
ロシアのシネマ用レンズは古くからレニングラード(現サンクトペテルブルク)の工場が生産拠点でした。この地には後に合併されLOMO [Leningradskoe Optiko-Mechanicheskoe Obyedineniye(レニングラード光学機械連合)]に参入するLENKINAPファクトリー(Leningrad Kino Apparatus)があり、1936年に登場したロシア初のシネマ用カメラのKSシリーズもこの工場で生産されています。同国のシネマムービー用レンズの原点であるPO(RO)シリーズの最初のモデル(PO2-2, PO3-3, PO4-1, etc...)が誕生したのも、レニングラードのKINOOPTIKAファクトリーでした。初期のPOシリーズは真鍮鏡胴のノンコートレンズで、銘板には工場名の"KINOOPTIKA" LENINGLADが記されていました。このレンズは第二次世界大戦の戦争賠償としてドイツから接収した光学ガラスを用いて1945年に開発され、35mmムービーカメラのKS-50BとAKS-1 に搭載する交換レンズとして市場供給されたのがはじまりです。しかし、製造コストが高く採算面での課題を抱えながら1947年に製造中止となっています。生産設備は同年にモスクワ州中部の工業都市クラスノゴルスクのKMZ(クラスノゴルスク機械工場:現ZENIT)に移設され、これ以降のPOシリーズの生産はKMZが引き継ぐことになったのです[文献1]。
1948年にKMZはPOシリーズのセカンドバージョン(PO2-2, PO3-3, PO4-1 etc...)を発売します[文献2]。レンズはKMZ光学システム設計局の主任技師Maltsevが率いる設計チームが監督し、同工場の393番プラントにて製造されました。このモデルも真鍮鏡胴で、ガラスにはブルーのコーティングが施されていました。しかし、依然として採算性が悪いことからコーティング付モデルはオプションになり、コーティングを省いたモデルとともに同時供給されました。
製造コストの問題を解決しKMZは1951年にコーティングのついた新バージョンを発売、このモデルには新開発の紫色のコーティング(Pコーティング)が施されていました。セカンドバージョンが採用したブルーのコーティングが自然な発色であったのに対し、このモデルに採用された新しいコーティングでは黄色味が強調されました。おそらくコントラストの向上が図られたのでしょう。1952年になるとロシア版Arriflex 35のKONVASという映画用カメラにもレンズの供給が始まります。
1950年代半ばになるとレニングラードのLENKINAPファクトリーでもPOシリーズの生産が始まります。再びレニングラードがシネレンズの生産拠点になるのはLOMOが創設される1965年あたりからです。LENKINAP工場で製造されたPOシリーズは後に再設計され、LOMOのOKCシリーズ、および中心解像度を100本/mmまで向上させたЖシリーズ(Gシリーズ)へと姿を変えることになります。ただし、POシリーズはその後もKMZが生産を継続しており、同シリーズのバージョン3は少なくとも旧ソビエト連邦の社会主義体制が崩壊する1991年まで作られました。本ブログでは数回にわたりPOシリーズの代表的なモデルであるPO2-2(2rd version), PO3-3M(3rd), PO4-1M(3rd)、およびPO56(3rd), PO70(3rd), PO109を取り上げてゆきます。

POシリーズの記事が完結した後はロモ(LOMO)のシネマ用レンズを取り上げる予定です。LOMOは35mm映画用カメラのKONVASにレンズを多数供給していました。中でもOCT-18マウントで供給されたレンズは大きく突き出した羽根を外観上の特徴としており、これがヘラジカの角に似ているため、私は勝手に「ヘラジカレンズ」と呼んでいます。ロモのレンズは初期に作られた製品個体に顕著な色落ちがみられ、ダークグリーンに色落ちした個体やブロンズゴールド、ダークブルーなど色落ちした個体など何種類かあります。まさに、経年が生み出したアート作品!。美しさと高性能を兼ね備えた素晴らしいロモのレンズ群についても特集を組む予定です。取り上げる個体はOKC1-18-1 18mm F2.8, OKC 1-35-1 35mm F2, OKC8-35-1 35mm F2, OKC11-35-1 35mm F2, OKC1-50-1 50mm F2, OKC1-50-3 50mm F2, OKC1-50-6 50mm F2, OKC1-75-1 75mm F2, OKC6-75-1 75mm F2です。いずれも旧ソ連時代最高峰のプライムレンズです。
KONVAS用(OCT-18マウント)に供給されたLOMOのOKC1-50-1(初期型) 
左からOKC6-75-1, OKC1-50-6, OKC1-50-1, OKC11-35-1で、レニングラード(現サンクトペテルブルク)のLOMOが製造したモデル

マウントアダプター
現在、市場に流通しているPOシリーズの多くは映画用カメラ(ロシア版Eyemo)のKS-50BやAKS-1に供給された製品個体ですが、残念なことにマウントアダプターの市販品が存在しません。カメラで使うには工房などがライカLマウントに改造した個体を探すしかありませんが、改造費込みでなので市販価格は高額になっています。ただし、マウントアダプター経由でレンズを使う方法が一つあり、ロシア版アリフレックス35のKONVASに供給された製品個体を手に入れるのです。例えばPO2-2M、PO3-3M、PO56、PO70にはKONVASが採用したOCT-18マウントの製品個体が存在します。これに対応するアダプターがロシアのRafCameraから市販されており、レンズを各種ミラーレス機で使用することができます。入手先についてはeBayをあたってみてください。
PO3-3M(KONVAS OCT-18マウント・後期型)とRafCameraのアダプターに種々の部品を組み合わせて作った自作アダプター。OCT-18マウントのレンズをSONY Eマウントのカメラに装着でき、無限遠のフォーカスを拾える(わずかにオーバインフ)




私がRafCameraから入手したのはOCT-18 マウントを58mmのフィルターネジに変換するアダプターです。フィルターステップアップリングを介して、このアダプターを市販の直進ヘリコイドにマウントしています。ヘリコイドのカメラ側を末端処理すれば、SONYやFUJIのミラーレス機で使用できるヘリコイド付きアダプターになります。例えばM42スリムアダプターを使えばSONY Eマウントにすることができますし、M39スリムアダプターを使えばFUJIFILMのミラーレス機にマウントすることが可能です。例えば上の写真のように直進ヘリコイドM46-M42 Helicoid 17-31mmを用いればSONY Eマウントにすることも可能です。M42-M39 17-31mmを用いてFUJIFILM Xマウントにすることもできます。

参考文献
[文献1]Luiz Paracampo, "LOMO" - From RAOOMP to LOMO 100 years of Glory!-, Hercules Florence International Ed. (2014)

[文献2]КАТАЛОГ фотообъективов завода № 393 (1949)
[The catalog of photographic lenses of the plant № 393]

3 件のコメント:

  1. ご無沙汰しています。
    懐かしいレンズ群の登場で、解説が大いに楽しみです。
    ミラーレスの登場で、短焦点も使用可能になりましたから、先日来よりの投稿も興味深く拝見しました。

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    1. ご無沙汰しています。私自身はマイナー路線に進む性格で、
      人が扱ってないレンズに何かあるのではと、
      変な期待を持つ癖があります。
      よろしくお願いいたします。

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    2. >私自身はマイナー路線に進む性格で、
      こう言われると、何やらかつての自分のことを言われているようです。(笑)

      LOMOやKMZはかなり奥が深そうです。

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