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2017/04/07

PETRI CAMERA Co. High-speed Petri part 1: Petri 55mm F1.8



ペトリカメラの高速標準レンズ part 1
滲んだ水彩画を手でこすったような
独特なボケ味が魅力
PETRI CAMERA Co., Petri C.C Auto 55mm F1.8
ペトリカメラの代表的な高速標準レンズといえば、やはり1960年代に一眼レフカメラ用として大量に供給されたPetri C.C Auto 55mm F1.8であろう。力みの入った妖しいボケ、緻密で高解像なピント部、美しい軟調気味のトーン、温調にこけるノスタルジックな発色など、オールドレンズのツボを見事におさえており、雰囲気のよくでる描写、そして何よりも激安であることが、このレンズの大きな魅力となっている。レンズのガラス面には感染力の強いペトリ菌が高い確率で潜んでいるという報告例があり、オールドレンズファンをアッと言う間に虜にしてしまうと噂されている。アサヒカメラが1967年に掲載したレンズの解像力に関する性能評価の記事では、このレンズがクラス最高水準の測定値をたたき出し、コストパフォーマンスの良い優れたレンズであると評価された。
ペトリカメラが口径比F1.8の高速標準レンズを作りはじめたのは1962年登場のペトリフレックス7に搭載する交換レンズからで、Petri Automatic 55mm F1.8(上写真・中央)が最初である。これ以降の1960年代は一眼レフ用標準レンズに55mm F2と55mm F1.8の2種類が同時に供給された。カメラの方はペトリV6(1965年発売)やペトリFT (1967年発売)など新製品の発売が相次ぎ、これに合わせてレンズ名もPetri C.C Autoに改称されるとともに、鏡胴のデザインや光学設計が頻繁にマイナーチェンジされた。
シリーズの第1回はペトリV6用に供給されたPetri C.C Auto 55mm F1.8(上写真・右 S/N:164323)とペトリFT用に供給されたPetri C.C Auto 55mm F1.8(上写真・右 S/N:477318)の2本を取り上げてみたい。
Petri V6 instruction book(説明書)からトレーススケッチしたPetri C.C Auto 55mm F1.8の構成図。左が前方となっている。構成は4群6枚の準対称ダブルガウス型
設計構成は両モデルとも4群6枚の準対称なダブルガウス型(上図)である。インターネット上でペトリ情報の収集と分析をすすめているペトリ@wikiには同社の高速標準レンズに関する重要な記述がある[記事1 in petri@wiki]。特に興味深いのは55mm F1.8の設計構成に旧型と新型がある点で、Petri Automaticからの流れを組む旧型がどこかで新型に置き換えられた経緯についての慎重な推理が展開されている。また、新型についても後群2枚にトリウムガラスが使われたペトリFT用の最初期のモデル(ここでは新型前期モデルと呼ぶ)が、間もなくこの部分をランタンガラスで置き換えた後期モデルに入れ替わる経緯が論じられている[記事2 in Petri@wiki ]。私が今回入手した3本のレンズはペトリ@wikiのなかの「旧型(s/n 91986)」および「新型前期(s/n 164323)」と「新型後期(s/n 477418)」のそれぞれに対応している。ちなみに、C.Cの記号はペトリカメラが独自に名前をつけた、同社のガラスに使用されているコーティング「コンビネーション・コーティング」を意味している。
下の写真はこれら3本のレンズを前群側から比較したものである。光の反射パターンが旧型(写真中央)と新型(写真の左右)では大きく異なっており、新旧のモデルはレンズエレメントの曲率に差のある、異なる設計であることがわかる。一方、左右の新型モデルを比べると中玉側の光の反射色に明らかな差があり、前群側のコーティングの種類にも変更が施されていることがわかる。ガラス硝材が異なれば透過光の波長分布が変わるのでコーティング編成が変わるのは当然で、ペトリ@wikiで述べられている推理をリコンファームしたことになる。ペトリ@Wikiには私が入手したものと同型の新型前期モデルと新型後期モデルについての詳細な比較分析があり、新型前期モデルからは人体に影響のないレベルの微量な放射能を検出できることが明らかにされている。なお、レンズを設計したのは旧型が富田良三氏、新型が島田邦夫氏である[記事3 in Petri@wiki]。
中央は旧型のPetri Automatic、左右は新型のPetri C.C Auto。点光源からの光の反射を比べると旧型は反射が左右にばらけており、新型は反射が纏まっている。前群の光学設計が異なることが明らかに判る。また、新型の間にもコーティング色に差が見られ、前期モデル(右側)ではマゼンダ色に見えるコーティングが、後期モデル(左側)ではパープル色に変化している





入手の経緯
黒鏡胴(新型後期モデル)のPetri C.C Auto 55mm F1.8(S/N:477318)は2017年2月にヤフオクを介して、千葉の古物商からカメラ(ペトリFT)付きのものを1000円+送料で入手した。オークションの記述は「ジャンク品として出品している。レンズは綺麗。シャッターには不具合がある」とのこと。目的はレンズなのでカメラがジャンクでもかまわない。ペトリブランドの中古相場は総じて安く、オークションでは状態に応じて1000~5000円程度、中古店では5000円~10000円(カメラ付き)程度で流通している。ジャンクとして出回っている個体の大半でカビが発生しているので、安い個体はオーバーホールをしてから使う事が前提となる。今回はカメラがジャンク、レンズは綺麗とのことで入手したものの、届いた商品には前玉の裏と後玉にカビがあったので、自分で分解し清掃した。

Petri C.C auto 55mm F1.8 (新型後期モデル S/N:477318): 絞り羽根 6枚構成、フィルター径 52mm, 最短撮影距離 0.6m, Petriブリーチロックマウント
黒鏡胴(新型前期モデル)のPetri C.C Auto 55mm F1.8(S/N: 164323)とシルバー鏡胴(旧型)のPetri Automatic 55mm F1.8(S/N: 91986)は2017年2月にヤフオクを介してカメラ(ペトリV6)付き、ズームレンズPetri 85-200mm付き、露出計付きのセットのものを長津田のリサイクル業者から576円+送料で落札した。オークションの記述は「ジャンク。部品取りにどうぞ」とのことで詳しい記載はなかった。届いた品は黒鏡胴(新型前期モデル)が完全に綺麗なガラスであったが、ズームレンズとシルバー鏡胴(旧型)のAutomatic 1.8/55には中玉にカビがいたので分解し清掃することになった。ジャンクとはいえ、ペトリの中古価格は異様なほど安い。この値段ならオーバーホールのいい練習材料になる。
Petri Automatic 55mm F1.8(旧型モデル S/N: 91986), 絞り羽根 6枚構成, フィルター径 55mm, 設計構成 4群6枚ガウス型, 最短撮影距離 0.6m, Petriブリーチロックマウント



Petri C.C Auto 55mm F1.8(マウント部を52mmネジに改造, 新型前期モデル S/N: 164323 ), 絞り羽根 6枚構成, フィルター径 55mm, 設計構成 4群6枚ガウス型, 最短撮影距離 0.6m, トリウムガラス使用モデル, Petriブリーチロックマウント
デジタル一眼カメラで使用する
ペトリマウントのフランジバックはキャノンやニコンなど大方のデジタル一眼レフカメラよりも短い。レンズをデジタル一眼カメラで使用するにはミラーレス機に搭載する以外に方法はない。現在のところミラーレス機で使用するためのアダプターの市販品は存在せず、eBayにSony Eマウント用とFujifilm FXマウント用の改造アダプターが時々登場する程度である。レンズを使用するには工房等にマウント部の改造を依頼するのも一つのてである。あるいはペトリカメラがかつて市場供給していたPETRI-M42アダプター(下の写真)の中古品を手に入れ、レンズのマウント部をM42ネジに変換、M42ヘリコイドとミラーレス機用スリムアダプター(カメラマウント)を組み合わせSONY EマウントやOlympus マイクロフォーサーズマウント、Fujifilm Xマウントなどに搭載するという手もある。なお、最近eBayにこのPETRI-M42と同等のアダプターが出ているとの情報がある。





もうひとつのアプローチはジャンクのペトリ製カメラからマウント部を取り外し、マウントアダプターを自作するという方法である。ただし、いずれのアプローチにおいてもフランジバックは自分で微調整しなければならず、一般ユーザーには敷居が高い。また、レンズ本体を購入後に本体の値段を超える投資が必要になる。

SONY Eマウントへの改造例。M52-M42ヘリコイドを用いたダブルヘリコイド仕様なので、被写体にグッと近寄り、接写ができるようになっている

 
撮影テスト
Petri 55mm F1.8は中古相場がたいへん安いにもかかわらず、オールドレンズとしてのツボをついた楽しいレンズである。どのモデルもピント部中央は開放から緻密でシャープ、トーンは軟調気味で軟らかく、中間部の階調がよく出ているものの、淡泊にはならず発色もしっかりとしている。背後のボケはどのモデルともゴワゴワと硬く力んだ性格で、力強く描かれた絵画のようにみえるところが独特で非常に面白い。また、各モデルとも2線ボケが顕著にみられ、これがフレアをまといながら綺麗に滲み、妖しい雰囲気を醸し出している。安いのに、とてもワクワクするレンズだ。逆光ではゴーストやハレーションが出やすいので、コントラストを維持したいならフードをつけたほうがよいだろう。旧型よりも新型の方がピント部四隅でのフレア量が少なく、その分だけシャープでコントラストは良い。新型前期モデルはトリウムガラスを用いているためか、後群側のガラスに若干の黄変がみられ、他のモデルよりも発色が温調気味であった。
どのモデルも個性が強く、味わい深い素晴らしい描写のレンズでありながら、ピント部はシャープでメリハリがあるところがスバラシイ。私個人としては温調でノスタルジックな描写を楽しむことのできる新型前期モデルが3本の中では最も好きなレンズだ。
C.C auto 55mm F1.8(新型前期モデル S/N 164323)@ F1.8(開放) + sony A7(WB:晴天, ISO2000): これも凄い。近接時のみならずポートレート時にもワクワクするようなボケ味が体験できる。ピント部の解像力は良好で線の細い繊細な描写。階調は軟らかく、中間部のトーンが豊富に出ている


Automatic 55mm F1.8(旧型モデル S/N: 91986)@F1.8(開放)+sony A7(WB:auto)

Automatic 55mm F1.8(旧型モデル S/N: 91986)@F1.8(開放)+sony A7(WB:auto): 旧型の開放描写は新型よりも若干ソフトな印象だ

C.C auto 55mm F1.8(新型後期モデル S/N 477318)@ F5.6 + sony A7(WB:晴天) 後期モデルの方がスッキリとヌケが良く、さらにフレア量が少ない印象だ

C.C auto 55mm F1.8(新型後期モデル S/N 477318)@ F4 + sony A7(WB:晴天) 

Automatic 55mm F1.8(旧型モデル S/N: 91986)@F1.8(開放), ゴワゴワとした歯ごたえのあるボケ味が、絵画のような面白い雰囲気をつくりだしている。ペトリのレンズの大きな特徴だ





C.C auto 55mm F1.8(新型前期モデル S/N 164323)@ F1.8 + sony A8(WB:日陰):近接では収差変動により球面収差がアンダーになるので、背後のボケは柔らかくとろけるように綺麗だ。黄色っぽく写るのは後玉のトリウムガラスが黄変しているためだ

C.C auto 55mm F1.8(S/N 164323)@ F2.8 + sony A8(WB:日陰) やはり前期モデルは温調気味の美しい発色だ
C.C auto 55mm F1.8(S/N 477318)@ F4 + sony A7(WB:日光) レンズの元々の最短撮影距離は0.6mだが、改造時にヘリコイドに搭載したため、とても寄れるようになった
C.C auto 55mm F1.8(S/N 477318)@ F4 + sony A7(WB:日光)

Automatic 55mm F1.8(旧型モデル S/N: 91986)@F1.8(開放)+sony A7(WB:晴天), やっぱり水彩画だ!
C.C auto 55mm F1.8(S/N 164323)@ F2.8 + sony A7(WB:曇天):
C.C auto 55mm F1.8(S/N 164323)@ F4 + sony A7(WB:曇天):

上下段ともC.C auto 55mm F1.8(S/N 477318@ F1.8(開放), sony A7(AW 日陰) こっ、これはすごい。シャーマンだ!
C.C auto 55mm F1.8(S/N 164323)@ F4 + sony A7(WB:晴天):  逆光ではハレーションが盛大に出るも、淡泊になりすぎず堪えている。こんなに雰囲気のある描写がこんなにリーズナブルなレンズで実現できることが素晴らしい。私たちは一体、何にお金をつぎ込んでいるのであろうか



9 件のコメント:

  1. Hello. I am a Korean user.
    I am always looking for information about lenses.
    I'm just curious about petri orikkor kubayashi 50 / 2.0.
    I have a lot of information about the petri lens here. Https://www52.atwiki.jp/petri/

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    1. Hi Hun Lee
      〉I have a lot of information about
      〉the petri lens here.
      〉Https://www52.atwiki.jp/petri/

      Yes. This petri@wiki is the most important website
      providing the information on Petri and i referred to
      this site several times in the blog-entry.

      Thank you for the posting.

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  2. Petri C.C 50mm F1.8には、少量ながらM42のものもあります。しかしM42ということもありペトリマウントのものよりは高値で取引されているようです。
    私のM42の個体はどうやら新型のもののようで、独特の{水彩画のような発色」が人気なのか市場にはあまり出回らなくなりましたね。

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    1. Petri C.CのM42マウントというのはペトリ@WIKIの解説中にある、主にFT1000用として作られたモデルのことですよね。ペトリの一眼レフ用レンズは「M42にはじまりM42に終わる」ブランドというわけですね!。コメントありがとうございました。

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  3. こんにちは。
    Petri、いいですよね。私はKonica AR用のアダプターにPetriのジャンクカメラから取り外したマウントをネジ止めして使っています。レンズもカメラも結構集まりました。

    自分で最初に写した画像をパソコンで確認した時の衝撃は今でも忘れられません。様々なメーカーのオールドレンズを所有していますが、他に似た描写をするレンズが思い当たらないのです。中身の構造も独特で、カメラ本体同様、オリジナリティに溢れていると思います。

    滲んだ水彩画を手でこすったような・・・まさにそんな感じもしますね。私は色とりどりの大小のタイルをバラ撒いたような・・・と思ってました。
    時々猛烈に使いたくなってしばらく使う→飽きる→思い出して猛烈に使う→飽きる、の繰り返しです(笑)

    Nikonは高価だし恐れ多い、AsahiPentaxも手が届きそうで届かない「でもレンズ交換式の一眼レフというのをどうしても使ってみたい!」という慎ましい一般市民に大きな夢と希望を与えてくれた素晴らしいカメラ・レンズメーカーだと思います。時折小馬鹿にしたような意見を述べている方もいらっしゃいますが、当時、清水の舞台から飛び降りる覚悟で購入した方々もいらっしゃる筈で、そういった方々の人生や思い出を否定されているようで大変悲しくなります。私たちはいつからそんなに偉い日本人になってしまったのか・・・。

    Part2,3も楽しみにしております!

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    1. コメントありがとうございました。

      >他に似た描写をするレンズが思い当たらないのです。

      ですよね!私がペトリのレンズを気にしはじめたのは、2年ほど前に一人の写真家がfacebookのMFlensesに投稿した何でもない写真をみてからです。新緑を背景に一列に並んだティーカップを撮った写真ですが、荒々しいタッチで描かれた絵画のようにも見える独特なボケ味に度肝を抜かれ、思わずシェアしてしまいました。

      > 一般市民に大きな夢と希望を与えてくれた素晴らしいカメラ・レンズ
      > メーカーだと思います。

      なるほど。素晴らしいカメラメーカーですね。

      このブログは私自身にコレクション欲がないせいもあり、
      高価なレンズも廉価なレンズも平等にあつかうことができます。
      自分のブログの長所を一つみつけました(笑)。

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  4. 再びこんにちは。

    >高価なレンズも廉価なレンズも平等にあつかうことができます。

    清らかな長所と思います。
    私も常々「レンズやカメラに上も下も無い」と考えております。

    2.0,1.8,1.7,1.4と、それぞれ描写が微妙というか大胆というか「見た目は結構似てるけど違う」と思っていますので、spiral様がどの様なご感想を抱かれるのか?今後の記事を楽しみにしております。

    背景のボケの件ですが、2線ボケどころの騒ぎではなく、更にボケを呼び込んでbokeh quartet、不思議に調和した旋律を奏でているように思います。

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    1. なるほど、おもしろいですね。2線ボケどころか3線ボケ、4線ボケと凄まじく、
      ばらけているので2線ボケほど目ざわりでもないといったところでしょうかね。
      ボケ味が独特の旋律を奏でています。

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    2. 〉不思議に調和した旋律を奏でているよう

      なるほど!これです。次回のタイトルはこれで決まりました。

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