おしらせ


2014/03/23

Carl Zeiss Jena Pancolar 50mm F1.8(M42)rev.2



Pancolar(パンコラー)の前期モデルと言えば黄色く変色したガラスを持つことから、いわゆる「放射能レンズ」の代名詞的な存在となっている。カラーフィルムでの撮影時にみられる黄色転びの激しさが容易には受け入れられず、かつては安値で売買される時期もあった。しかし、デジタルカメラの登場が窮地のレンズに救いの手を差し伸べている。カメラの画像処理エンジンに組み込まれているカラーバランスの自動補正機能が発色の癖を強力に補正し、写真の仕上がりが大きく改善したのである。長い間、死蔵品のような扱いを受けてきたレンズの価値はここに到って見直され、もともと温調な発色を好む欧米人からはノスタルジックな写りが素晴らしいと評価は上々である。経年による材質変化を長所に変え、デジタルカメラとのコラボレーションで見事な復活を遂げたのである。


ハイテンションな色ノリで世界を華やかに写しとる

温調レンズの決定版 PART1:

Carl Zeiss Jena Pancolar 50mm F1.8

Pancolar 50mm F1.8は旧東ドイツのVEB Zeiss Jena社が戦前から続くBiotarの後継製品として1965年に投入した高速標準レンズである。高性能な新種ガラスを用いてBiotarのアキレス腱とも言える像面特性の弱さを改善させ、戦後のZeiss Jenaブランドを象徴する看板製品となっている。レンズの設計したのはH.Zöllner (ツェルナー)とW. Dannberg (ダンベルグ)という人物で、Zöllnerは他にもFlektogon 35mm F2.8, Tessar F2.8(戦後型), Biometar F2.8, DannbergはFlektogon 20mmと同25mmの設計開発を手がけている。 Pancolar 1.8/50のルーツは4群6枚構成のFlexon 2/50 (1957-1960年Praktina/Exakta用)および同一設計による後継のPancolar 2/50 (1959-1969年Exakta/M42/Exakta用)である。Pancolarは後の設計変更で口径比がF1.8となり1965-1970年まで製造され、シリアル番号8552600 (1970年生産)あたりで再び設計変更されている。この設計変更では構成を5群6枚とすることで描写性能を維持したまま放射性物質(酸化トリウム)を用いない安価な硝材に置き換えられた。この置き換えにはコストの削減以外にも2つのメリットがあり、1つは後年、F1.8の前期モデルに対して発覚した経年によガラス硝材の黄変(α線の照射が原因でおこるガラスの結晶構造の破壊、格子欠陥でブラウニング現象あるいはソラリゼーションと呼ばれている)を回避できること、もう一つは光の透過率がやや向上するため、画像の中央部から四隅にかけてコントラストの画角特性が均一にできるという点であった。ゼブラ柄のPancolar最後期バージョン(1970-1975年)と黒鏡胴のMC Pancolar (1975-1981年)にガラス材の経年黄変がみられないのはこのためである。なお、誤解してはならない点として強調しておくが、5群6枚構成への設計変更はブラウニング現象が発覚する前から計画されていたことであり、同現象が引き金になったわけではない。台帳の記録では5群6枚の新設計が完成したのは1963年5月とあるが、この時点でZeissはブラウニング現象に気付いておらず、その証拠にZeissは同年12月に同じくブラウニング現象が顕著に見られるPancolar 55mm F1.4をリリースしている。 MC Pancolar 1.8/50の5群6枚設計はMC Prakticar 1.8/50のごく初期のバージョンまで継承されるが、セカンド・サードバージョンでは採用されずPancolarの血統はここで途絶えている。
Pancolar各モデルの生産時期と生産本数をブロック形式で表した。各ブロックの面積は生産本数に比例するよう描いている。Pancolarのルーツはプロ用一眼レフカメラのPraktina、およびExaktaの交換レンズとして供給されたFlexon(フレクソン) 50mm F2で、このレンズは1957年から1960年までの3年間に19400本が生産されている。Flexonは1959年にPancolar 50mm F2へと改称され、その後1969年までの10年間で133500本が生産されている。更に1964年の再設計で口径比F1.8(4群6枚)のモデルも用意され、1965年に登場、本稿ではこのレンズを「前期モデル」と称することにする。前期モデルはM42とExaktaの2種のカメラマウントに対応し、1970年までの5年間で39420本が生産された。しかし、ガラス材に10-30%程度含有させる酸化トリウムが原因で製造時に無色透明だったガラスが後に黄色に変色する進行性の組成変化が発覚し、酸化トリウム不含ガラスを用いた別設計へのモデルチェンジを余儀なくされている。再設計後のシリアル番号8552600以降のモデル(本稿では後期モデルと呼ぶ)でガラス材に黄変がみられないのはこのためである(ちなみにFlexonとPancolar F2でも黄変はみられず、おそらく酸化トリウムは未使用のようである)。この再設計ではガラス材の性能のダウンを補うため、レンズの構成が4群6枚から5群6枚に変更されている。空気と硝子の境界面が1面増えるものの酸化トリウムを含んだガラス材よりも光の透過率がやや向上するため、デメリットはそれほど大きくはない。なお、前期モデルよりも後期モデルの方がボケの拡散が柔らかいとの世評である。これは恐らく空気レンズの導入が球面収差の中間部の膨らみ(輪帯球面収差)を効果的に叩いているためであろう。事実なら解像力も後期モデルの方が向上しているはずである。後期モデルは1970年に市場投入が始まっているが、デザインや仕様の異なる幾つかのバージョンが存在が知られている。これらは大きくわけて1970年から1975年まで生産され174280本が市場供給されたゼブラ柄鏡胴で単層コーティングのバージョンと、1975年から1981年まで生産され171008本が市場供給された黒鏡胴でマルチコーティングのバージョン(MC Pancolar)の2種に区分できる。更にゼブラ柄のバージョンには絞りリングのデザインが異なる2種のバージョンが存在し、また、黒鏡胴のバージョンにも名盤の字体やマルチコーティングの表記が異なる幾つかのバージョンが存在している。後期モデルの5群6枚設計はMC Pancolarを経て、1980年代に生産されたCarl Zeiss Prakticar 1.8/50の初期バージョンに継承されている。ただし、Pancolarの血統はここまでで、Prakticar 1.8/50のセカンド・サードバージョンからは旧Meyerのゲルリッツ工場での生産に切り替わり、設計もMeyer Oreston 1.8/50(4群6枚)のものが採用されている










Pancolar 50mm F1.8の前期モデル(1964年設計)のレンズ構成。「東ドイツカメラの全貌」(朝日ソノラマ)からトレーススケッチした。左が前群で右が後群(カメラ側)。4群6枚の典型的なダブルガウス型である

左はFlexon 50mm F2の構成図(1954年設計)。典型的なダブルガウス型(4群6枚)である。右はPancolar 50mmF1.8の後期モデルの構成図(1967年設計)である。後群に負の空気レンズを持つ5群6枚の構成である。これらの硝材の黄変はみられない



ガラス材の進歩と放射能ガラスの登場
明るく高性能なレンズを開発するには光学系全体として大きな正のパワーを稼ぎながら、同時にペッツバール和を最小にさせることが重要である。そのためには光学系の凸レンズに可能な限り屈折率の高いガラスを用いることが必要になる。こうした要求に対する最初の大きな進歩が1886年に登場したイエナガラス(新ガラス)で、ガラス材の原料にバリウムを加えることで屈折率の大幅な向上に成功したのである。ガラス材の進歩はレンズ設計の可能性を押し広げ、その直後からプロター、ダゴール、プラナー、テッサーなど重要なレンズ構成(アナスチグマート)が次々と登場している。その後、硝材の性能は1930年代に再び飛躍的な進歩をみせる。希土類金属の酸化ランタンを原料とし、低分散ながらも屈折率を大幅に向上させた新種ガラスが登場したのである。このガラスを用いて1946年に再設計されたTessar F2.8(H.ツェルナー設計)では球面収差とコマ収差の補正力が改善し、戦前のイエナガラスで設計されたテッサーF2.8(W.メルテ設計)に対し、解像力とヌケの良さで大幅な性能の向上を遂げている(Jena Review 2/1984 P.78参照)。その後、1950年代には酸化トリウムを10-30%含有させた新しい新種硝子(いわゆる放射能ガラス)が開発され屈折率は更に向上、1965年に新型レンズPancolar 50mm F1.8(前期モデル)を登場させている。しかし、硝材に含まれる酸化トリウムがα線を放射し、ガラス内の含有物の組成を化学変化させることが発覚した。このためZeissは1970年発売の後期モデルから、この種のガラス材の使用を中止し、5群6枚の新設計へと移行している。
ゼブラ柄・前期型(1965-1970年製造39420本): フィルター径 49mm, 絞り F1.8-F22, 最短撮影距離 0.45m, 重量(実測)200g, 絞り羽 8枚, 設計 4群6枚(シリアル番号8552600からの後期型は5群6枚、絞り羽根は6枚に変更), M42マウントとEXAKTAマウントの2種のバージョンが存在する。ガラス面にはZeiss所属のウクライナ人物理学者Olexander Smakula博士が1935年(特許開示は1937年)に発明した光の反射防止膜(Tコーティング)が蒸着されている








入手の経緯
本品は2008年6月にeBayを介し英国の中古カメラ業者から135ドルの即決価格にて落札購入した。商品の状態はエクセレントとの評価で「カビ、クモリ、傷はなく、僅かに若干ホコリの混入がある。絞り羽根はクリーンでスムーズに動作する」とのこと。届いたレンズは大きな問題こそなかったが、ヘリコイドリングがカチコチに重かった。当時のeBayでの相場は100ドル~120ドル程度、ヤフオクでは15000円位であった。現在は相場が若干上がっており、綺麗なものだとeBayでは150-200ドル前後、ヤフオクでは1.5~2万円程度の値段で出ている。

撮影テスト
4年半ぶりにPancolarを使ってみて、とても特徴がつかみやすいレンズだと改めて実感した。コントラストは高く、発色はコッテリと濃厚。ただし、階調には適度な軟らかさがあり絞り込んでも硬くはならない。変色したガラス材の影響で発色が黄色に引っ張られ、フィルム撮影時、特にカラーポジフィルムでの撮影時にはその影響を顕著にうける。一方、デジタル撮影ではカラーバランスの補正機能が自動で働き、発色はやや黄色い程度で許容範囲におさまる。偶然の産物とも言えるこのレンズの温調な発色にはノスタルジックな演出効果があり、ウィスキーの「熟成」にも似た組成変化をうけ完成、製造から長い年月を経ることでオールドレンズならではの描写特性を堪能できる別のレンズに生まれ変わっている。ピント部の解像力は開放から良好で四隅まで実用的な画質である。ただし、1~2段絞っても解像力の向上は限定的で抜群さには欠ける。コマやハロなどの滲みは開放からキッチリと抑えられており、前ボケ側にモヤモヤとしたものがみられる程度で、ピント部と背景はスッキリとしていてヌケが良い。逆光には弱く、撮影条件が悪いとフレア(内面反射由来)が発生し、発色が淡白になったり濁ったりもする。グルグルボケや放射ボケは激しくならず、四隅でも像が僅かに流れる程度である。開放ではポートレート撮影時に後ボケが硬く、像がゴワゴワと騒がしくなり、2線ボケもよく出る。反対に前ボケは滲みを纏いながら柔らかく綺麗に拡散する。他の一般的なガウス型レンズと同様に近接撮影では球面収差がアンダー(補正不足方向)に変化しており、近接撮影時では後ボケが柔らかく綺麗に拡散する。
このレンズは絞った時の画質の立ち上がりが鈍いので、やや大きな輪帯球面収差があるように思える。これが解像力の足を引っ張ると同時にボケ味を硬くしているのであろう。こうした傾向は今回取り上げるパンカラーF1.8の前期バージョンにみられる特徴であるが、後期モデルでは後群に空気レンズが導入され、こうした性質は改善、ポートレート域でも後ボケは柔らかく綺麗に拡散するようになっている。私は前期モデルの温調な発色の方が好みである。以下作例。

撮影機材
デジタル撮影: Sony A7(AWB)
フィルム撮影: Fujicolor SuperPremium 400 (Pentax MZ-3)
2014年3月某日午後、鎌倉・長谷にて 
F1.8(開放), sony A7(AWB): 色褪せた古いプリント写真をみているようなノスタルジックな色合いである

F1.8(開放), sony A7(AWB):  後ボケはゴワゴワと硬いが、反対に前ボケはモヤモヤとしたフレアをまといながら綺麗に拡散している。ピント部に滲みは無くヌケはよい




F4, sony A7(AWB): 2段絞ればボケは綺麗だが、開放ではこちらに示すような2線ボケ






F1.8(開放), sony A7(AWB): 2線ボケも目立つ。ゼブラ柄の後期モデルは設計変更によって導入された空気レンズが球面収差の膨らみを叩いているためか、このあたりに改善がみられ、背後のボケは柔らかいとのことである





F1.8(開放), sony A7(AWB): 開放付近でのこの温調さが気分を高揚させる。日差しの戻った暖かい春先に使うと最高にいい写りだ





F2.8, sony A7(AWB): 少し絞るとボケは大人しくなる。過剰補正型レンズの場合、少し絞ると解像力は急激に向上し素晴らしいキレを見せるのだが、このレンズの場合は可もなく不可もなく

F4, sony A7(AWB): もう少し絞るとカラーバランスはかなりノーマルに近づく






F8, sony A7(AWB):  ここまで絞り込んでも階調は適度に軟らかい
F1.8(開放)  Fujicolor SP400(ネガ): 最後にフィルムでの作例を一枚。デジタル撮影の時とはまた違った発色だ


















15 件のコメント:

  1. この間のヘリコイド問題はこれでしたか。しかし、ヘリコイドのグリス固着もヘリコイドだけにして灯油かベンジン風呂に漬け込むのかなぁ?と。普通に固着じゃ無くバラせて交換ならまだ良いのですが、それでもヘリコイド関係はカビの除去の何倍も気が重いので、固着品は手を出さない様に、もしジャンクに紛れて来たらそのまま固着ジャンクで流しちゃいます。(笑) ちなみにウチのパンコラーは880****なので後期・・・黄変してません。F2のは823****でした。^^
    そう言えば現像って大変ですねぇ。PhotoshopElements9でゴミ取りとかだけだったのが、レンズ補正のフィルターかけて・・・でもイマイチで、Lightroom5とレンズ補正のアプリを導入しました。Lightroom5はまだ難しいですが、ゴミ取りだけはもの凄く便利で綺麗になりましたね。カメラのアプリの方は入れただけで、我が家のレンズ全部入るのかなぁ~?と心配です。(笑)

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  2. F2のほうは黄色いガラスでしたでしょうか?やや黄色い程度ではないかと想像しているのですが、いかがでしたでしょうか。

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  3. スパイラルさん

    とても面白い記事です。
    Pancolarは優秀なレンズだと思いつつ出来すぎなところがある気がしてついついてにとってないレンズのひとつです。その反面ゼブラやエキザクタ用のうで付きレンズにはコレクション欲をかきたてられます。そういう意味では悩ましいレンズです。

    ひとつ質問させていただきたいのですが、Biotarの設計をブラッシュアップしてPancolarを設計する際に、Biotarの弱点である球面収差をトリウムガラスの屈折率で負の力を増大させ打ち消したという理解でよいのでしょうか?
    あと後期型は酸化トリウムを使わなくなり減少してしまった負の力を空気間隔の負の力で補ったということでよいのでしょうか?
    僕がいまいち物理や光学や数学が苦手なため理解力に限界があります。ご教授いただけると幸いです。また新しい記事楽しみにしております!

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    1. ヨッピーさん

      こんばんは。研究熱心でとても感心します。私もまだまだわからない事だらけで、設計者の方からメールなどで連絡をもらい、これまで少しずつ独学で得た知識を補正しています。

      >Biotarの設計をブラッシュアップしてPancolarを設計する際に、
      >Biotarの弱点である球面収差をトリウムガラスの屈折率で負の
      >力を増大させ打ち消したという理解でよいのでしょうか?

      BiotarからのPancolar 2/50および1.8/50(初期型)での改良点は球面収差ではないと思います。(ただし、Pancolar前期型から後期型への改良には球面収差の改善が設計にみられます)。

      Biotarの弱点は像面特性の悪さ(つまり、ペッツバール和が大きい)です。ペッツバール和が大きいと、そのままでは像面が平らにならず(像面湾曲収差が大きい)四隅がぼけてしまいます。そこでこれを平坦にするために、やむを得ず非点収差の増大を容認して、像面を無理やり平坦にします。その代償として非点収差が大きくなりますから、Biotarではグルグルボケが大きく出るとともに四隅の解像力が悪くなります。もともとペッツバール和が小さい(理想的には0)ならば、こんなことにはなりません。どうすればペッツバール和を小さくできるかというと(数式を用いた解説は割愛しますが)、正の凸エレメントに可能な限り屈折率の高いガラス材を使うのです。そこでトリウムガラスの出番となるのです。

      >球面収差をトリウムガラスの屈折率で負の力を増大させ打ち消したという理解で
      >よいのでしょうか?

      トリウムガラスを使うのは正レンズですので、このガラスを用いれば正の屈折率が増大します。

      >あと後期型は酸化トリウムを使わなくなり減少してしまった負の力を空気間隔の負の力で補った
      >ということでよいのでしょうか?


      空気間隔は確かに負の力です。後期型では酸化トリウムを使わなくなり正レンズの屈折率が減少します。するとペッツバール和の中の正レンズの力は逆に強まります。像面が正方向に曲がってしまうのです。なんとか負の力を強化し正の力と負の力をバランスさせ、ペッツバール和を0にしなければなりません。そこで負の空気レンズを導入するという解釈です。

      こうして、像面湾曲と非点収差の2収差を抑制しますと四隅の解像力が向上し、同時にグルグルボケが抑制できます。


      後期型では後群の「新色消し」のはり合せ部分を僅かに分離した空気レンズを導入しています。この部分に元々あった貼り合せは「新色消し」ですから、非点収差を補正しますが球面収差は補正できません。しかし、分離させると、これら2収差を同時補正できるようになり、結果、球面収差の補正効果が高まります。解像力が向上し、ゴワゴワと硬かった後ボケが柔らかくなるはずです。

      ブログでは通常ここまで詳しく書かず割愛しますが、ヨッピーさんには有用な情報かもしれませんから、少し踏み込んで補足しておきます。わかりにくい解説で申し訳ありません。

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    2. スパイラルさん

      ご丁寧な解説ありがとうございます。
      分かりやすい解説のおかげで、ごっちゃになっていた各収差の相関関係が少し整理できました。

      ビオターはペッツバール和の大きさから来る像面歪曲を非点収差の増大を容認するという力業で緩和した結果ぐるぐるボケと周辺コントラスト低下を招いた。

      初代パンカラーは新しいトリウムガラスの屈折率を使い正の力を増大してペッツバール和を縮小することによって問題の根源を解消しようとした。

      後期パンカラーはトリウムガラスの使用をやめ正の力を弱め、負の空気間隔を増大することによってバランスでペッツバール和を縮小し、増えた自由度で球面収差を補正した。

      という解釈でよろしいでしょうか?

      ビオターの基礎設計時代にはなかった高屈折のトリウムガラスやコーティング技術の発明によりパンコラーでは光学設計が洗練されていく過程がわかって面白いですね。

      『柔よく剛を制す』といった感じなのでしょうか?違ったかな?

      光学設計の美しさに触れることが出来た気がします。

      ありがとうございました。


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    3. ヨッピーさん

      >スパイラルさん

      >ご丁寧な解説ありがとうございます。

      いえいえ。こちらこそ。

      >分かりやすい解説のおかげで、ごっちゃになっていた各収差の相関関係が
      >少し整理できました。


      よかったです。

      >ビオターはペッツバール和の大きさから来る像面歪曲を非点収差の増大
      >を容認するという力業で緩和した結果ぐるぐる
      >ボケと周辺コントラスト低下を招いた。

      ここは「周辺の解像力の低下」ですね。

      > 初代パンカラーは新しいトリウムガラスの屈折率を使い正の力を増大して
      >ペッツバール和を縮小することによって問題の根源を解消しようとした。

      YES!

      > 後期パンカラーはトリウムガラスの使用をやめ正の力を弱め、負の
      >空気間隔を増大することによってバランスでペッツバール和を縮小し、
      >増えた自由度で球面収差を補正した。
      >という解釈でよろしいでしょうか?

      自分の解釈と同じです。トリウムガラスをそうではない安価な普通の重クラウンガラスに戻す趣旨についてはツァイスの機関誌に解説が出ています。英文ですが。

      > ビオターの基礎設計時代にはなかった高屈折のトリウムガラスや
      > コーティング技術の発明によりパンコラーでは光学設計が洗練されていく過程が
      >わかって面白いですね。

      そうですね。あとは西のZeissとの利権争いで"Biotarブランド"の使用が危うい
      状況でしたので、いちはやくPancolarに切り替えたのでしょうかね。

      > 『柔よく剛を制す』といった感じなのでしょうか?違ったかな?
      >

      うーん。??
      またどうぞ

      削除
  4. 今回のPancolarの記事、興味深く読ませていただきました。
    Pancolar50mmF1.8は持っていませんが、その前に出たPancolar50mmF2(クローム鏡胴のM42マウント)は持っています。淡い発色とF3.5より絞ったときの恐ろしいまでのリアリティと質感表現に魅せられています(私はマウントアダプター経由でEOS6Dに装着して使っているが、EOS6Dでミラー干渉しないことを確認しています)。ただ出回っているのはExaktaマウントばかりでM42マウントはなかなか見つからないんですよね・・・
    私のものは変色はほとんどありません。ただCZJのレンズは使う前に2~3週間ほど窓際で日光浴したほうが画像が引き締まっていい結果が出る場合がほとんどです。
    それとFlexon50mmF2ですがExaktaマウントもあるはずです(ブリコラージュ工房NOCTOでExaktaマウントをキヤノンEOSマウントに改造したものを見たことがある)。
    Pancolarといえば、2013年の暮れにPancolar55mmF1.4を入手しましたが、ウワサ通り変色が凄くて3週間ほど窓際で日光浴したらだいぶ変色が取れました(これもEOS6Dでミラー干渉しないことを確認しています)。曇りの日の陰影描写が凄すぎるうえにレア玉なので取扱いには非常に気を遣います。2013年の暮れにPancolar55mmF1.4のジャンク品(カビ&ホコリまみれ)が565ユーロ(当時のレートで約83600円)で落札されたのをみて正直ビビリましたが。

    また新しい記事を期待しています。

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    1. >ただ出回っているのはExaktaマウントばかりでM42マウントはなかなか
      >見つからないんですよね・・・

      Exaktaよりは圧倒的に少ないですが、
      M42マウントの個体も実在し、
      Praktina用も2700本ほどありますね。


      >それとFlexon50mmF2ですがExaktaマウントもあるはずです

      台帳にもしっかり記載がありました。


      > 3週間ほど窓際で日光浴したらだいぶ変色が取れました

      日焼けサロンに持ち込めば、
      もっと早いかもしれません(笑)。

      削除
  5. お世話になります。
    この記事は何度も読ませて戴きました。
    数年も前の記事にコメントさせていただくのは如何なものかと思いましたが、参考になれば幸いです。

    当方、Pancolar(といいますかCarl Zeiss Jenaの標準レンズ)がとても性に合うようで飽きては売り、また買い求め、壊れてはジャンクで売り、また買い求めを繰り返しております。

    Pancolar 50mm f2の方は黄変は見受けられません。
    と言うものの、そもそも前玉、中玉にアンバーなコーティングが施されており、確認出来ませんでした。
    後玉に関してはシアン色の相変わらずのコーティングです。
    (当方所持 シリアル82スタートのリングがイボイボのタイプです。)
    ただ、発色はかなりアンバー寄り、コントラストはかなり低めの淡い発色です。
    ビオター程ではありませんが、グルグルと力強いボケが出ます。(kipon BAV eyesと併用してますので流れがより顕著になるのかもしれません。)
    何と言うか…ビオターやヘリオスをかなり逆光に強くしたイメージでしょうか…。

    Pancolar 50mm F1.8ですが、私が知る限りゼブラ前期には2ver.あるかと思います。
    前期の初期ロットと後期ロットで名盤の取り付け(外し方)などが微妙に違っていました。
    1本を日焼けさせて見ましたが、コーティングは毎度のシアン系のコーティングでした。
    前玉と後玉にトリウムランタンガラスが採用されているようです。

    ゼブラ後期ですが、知る限り微妙に違うモデル…計三種あるような気がします。
    1つは70年初期のものですが無限遠で1センチ程出ているタイプ(前期より少し長め程度でしょうか?)
    レンズ全長も前期より少し長い位です。

    二つ目は白文字MC Pancolarの様に何となく全長が長いタイプです。

    三つ目は電子接点があるタイプ。
    絞り機構が以前のものに比べて少し複雑でした。
    エレクトリック化に際するものかなぁと考えております。

    MCタイプにも三種バリエーションがあるらしく、焦点距離が違うものも合わせれば、キリがないな…と思いながらもついつい手を出してしまう悩ましいレンズです。

    長々と失礼いたしました。

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    1. lensfreak様

      とても貴重な情報にたいへん感謝いたします。
      参考にさせていただき、ブログを少しブラッシュアップしました。
      お力添えありがとうございます。

      > Pancolar 50mm f2の方は黄変は見受けられません。
      > と言うものの、そもそも前玉、中玉にアンバーな
      > コーティングが施されており、確認出来ませんでした。
      > 後玉に関してはシアン色の相変わらずのコーティ
      > ングです。(当方所持 シリアル82スタートのリングが
      > イボイボのタイプです。)ただ、発色はかなり
      > アンバー寄り、コントラストはかなり低めの淡い発色
      > です。

      トリウム入りガラスは50mm F1.8の前期型からのつもりで書いていましたが、
      伝わりにくい文章だったかもしれません。少し補足文を入れ、F2のモデルは
      黄変がないことを強調してみました。

      > ビオター程ではありませんが、グルグルと力強
      > いボケが出ます。(kipon BAV eyesと併用してますので
      > 流れがより顕著になるのかもしれません。)
      > 何と言うか…ビオターやヘリオスをかなり逆光に
      > 強くしたイメージでしょうか…。

      そうですか。F2はグルグルボケが良く出たのですね。
      やはり、グルグル等を力強く抑え込むには、
      トリウムガラスの力を借りるひつようがあったのでしょうか。
      興味深いご経験です。


      マイナーチェンジがたくさんあったのには、とても驚きました。

      紫系コーティングの件も承知しました。
      また、よろしくお願いいたします。

      削除
  6. 失礼しました、紫系のコーティングですね
    訂正です。

    返信削除
  7. 私もCarlZeissJenaのPancolarを愛用していますが、Elctric仕様になっているので、後期型
    の終わりの方のMC化される直前のものかと推察しています。
    私の保有しているPanColarですが、Biotarの形質を強く引いているようで、赤色にすごく反
    応するようです。
    何枚か試験撮影しましたが、植込みの木の葉も赤色側に偏差していました。
    逆光写真などではフレアーが発生し、Planarのようなじゃじゃ馬レンズと化すこともわかり
    ました。
    だから、シングルコートからマルチコートに変更されたのじゃないかと推察しています。

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    返信
    1. シングルからマルチコートへの移行はダブルガウスのような
      空気境界面の多いレンズでは必須だったのでしょうね。

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  8. PancolarとPrakticar、描写がそっくりだと思ったのは錯覚ではなかったのですね。すっきりしました。ありがとうございます。
    しかしPancolar、F1.8(後期型)よりはF2の方が立体感があってピントも合わせやすいと思うのは私だけでしょうか?

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    返信
    1. レンズ設計が進歩すると中心部のみならず、四隅の描写性能が向上し
      写りが平面的になる、ということでしょうかね。このあたりは
      発展途上のレンズの方が面白い写りであることが多々あります。

      削除

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