おしらせ


2016/02/03

VEB Pentacon PENTAFLEX Color(Domiplan) 50mmF2.8 (M42 mount)*









ある知人曰く、「ペンタコン製レンズの特徴は国産レンズには見られない魅力的なボケと適度な解像感、そして何よりレンズの安さである」。なるほど、このレンズはまさにそうだ。

東ドイツのペンタコンブランド PART 2
ドイツ製品最強のコストパフォーマンスを誇る
バブルボケレンズ
VEB Pentacon Pentaflex-Color (Domiplan) 50mm F2.8
その知人からマクロ域でバブルボケが出るレンズと教えてもらい、さっそく試してみることにした。旧東ドイツのペンタコン人民公社(VEB PENTACON)が一眼レフカメラのPentaflex SL(1967年登場)に搭載するキットレンズとして供給したペンタフレックス・カラー(Pentaflex color)50mm F2.8である。ドイツ製レンズの中では1、2位を争うロープライス製品であり、eBayでは30ユーロ前後で大量に売買されている。しかも、バブルボケが出るとなれば、手をださない理由はない。では、何故こんなに安いのか。実は最短撮影距離が0.75mとやや長く、バブルボケのスイートスポットであるマクロ域まであと一歩届かないのである。しかし、案ずることはない。この問題はマクロエクステンションリングやヘリコイド付きアダプターを併用することで簡単に解決できるのだ。
さて、製品のルーツを調べる中でバブルボケの出る理由については一定の理解が得られた。ペンタコン人民公社は1968年にレンズメーカーのメイヤー・オプティック(Meyer optik)を吸収しており、このレンズの正体はメイヤーのドミプラン(Domiplan) 50mmF2.8と同一、つまり1963年に姿を消したトリオプラン(Trioplan) 50mm F2.9の後継レンズなのである。トリオプランには焦点距離100mmと50mmの2種類のモデルがあり、どちらもバブルボケが顕著に発生するレンズとして有名である。
レンズの構成は下に示すような3枚構成のトリプレットタイプで、製造コストの低いシンプルな設計にも関わらず中心部の解像力は良好なうえ、シャープでヌケが良く、グルグルボケが出やすいのが特徴である。なお、ペンタフレックス銘のレンズには50mm F1.8(M42マウント)も存在し、これはメイヤー・オプティックのオレストン(Oreston)をベースとするガウス型レンズである。
Domiplanの断面図(左)およびPentacon DOMIPLANの構成図(右)。構成図は「東ドイツカメラの全貌」(Hummel, Koo 村山著, 朝日ソノラマ)からのトレーススケッチ(見取り図)





ペンタコン人民公社はメイヤー・オプティックを吸収した後、1971年にレンズの製品ラインナップを再構成し、メイヤーブランドの一部を同社のプラクチカール(Prakticar)ブランドへと置き換えている。ただし、どういう理由かは不明だがドミプランだけは例外的にプラクチカールファミリーに編入せず、Pentacon Domiplanとして存続させた。もしかしたら当初はテッサータイプのPrimotar 50mm f2.8をPrakticarに編入させる計画があり、席を空けておいたのかもしれない。
手に取ればDOMIPLANとPENTAFLEX-COLORが同一品であることを改めて実感できる。両者は銘板に刻まれた名称等を除き、細部に至るまで完璧に同一である




入手先
このレンズは2016年1月にドイツ版eBayを介しドイツの写真機材専門のセラーから32.5ユーロ(4160円)+送料9ユーロで落札した。オークションの記述は「新品同様。ドミプランの100%コピーである。レンズはプラクチカとCanon 600Dでテストした」とのことで、フロントキャップとリアキャップ、UVフィルター、Schachtの接写用マクロリング(6mm丈)が1枚付属していた。届いたレンズはパーフェクトに近い非常に良い状態であった。eBayでは今も流通量が豊富なレンズで価格もこなれているので、じっくりと探し、状態の良い個体を選ぶとよいであろう。
Pentaflex-Color/Domiplan: 重量 150g, フィルター径 49mm, 最短撮影距離 0.75m, 画角 47°, 絞り羽 6枚, 設計構成 3群3枚トリプレット型, 絞り値 F2.8-F22, 対応マウント M42, Exakta(Domiplanのみ), Domiplanについては極僅かにペンティナ(Pentina)マウントの個体も存在するようである(2016年1月にeBayで目撃)



撮影テスト
このレンズはフルサイズ機に準拠した設計仕様になっているが、バブルボケを生かす事を最優先に考えるなら、マイクロフォーサーズ機やAPS-C機などセンサーサイズが小さいカメラで用いることをおすすめする。例えばマイクロフォーサーズ機で用いると焦点距離100mm相当の望遠レンズとなり、望遠圧縮効果が起こるため、1枚の写真の中に大小さまざまな大きさのバブルボケを生み出すことができる。また、撮影倍率が2倍となり最短撮影距離の長いこのレンズの弱点が克服できるうえ、四隅の画質に弱点をもつトリプレット特有の問題も解決できる。それだけではない。トリプレット型レンズによく見られる非点収差由来のグルグルボケも殆ど目立たなくなるのだ。せっかくシャボン玉を送り出すのだからグルグルと回る嵐の中ではなく、穏やかなそよ風の中に放ちたい。そう思うのは私だけであろうか。
SONY A7での写真作例
F2.8(開放), sony A7(AWB):  手前にガラスがあるので後ボケが被写体の前方に写り込んでいる

F2.8(開放), sony A7(AWB): 

F2,8(開放), sony A7(AWB): 

F2.8(開放), sony A7(AWB):

F2.8(開放), siny A7(AWB):



Olympus PEN E-PL6での写真作例
バブルボケを大きく見せたいならば、レンズをヘリコイド付きアダプターで用いるか、マクロエクステンションリングを併用するのがよい。マクロエクステンションリングを用いる場合には、オリンパスPEN(M4/3)用かM42レンズ用のどちらかを手に入れればよい。
F2.8(開放), Olympus Pen EP-L6(AWB) + MACRO Extension Ring: 小さなバブルと大きなバブルが共存できるのは望遠レンズ特有の圧縮効果のおかげである。遠方のバブルが大きく誇張され、迫ってくるように見える


F2.8(開放), Olympus Pen EP-L6(AWB) + MACRO Extension Ring: 先代のトリオプランにも引けをとらないハッキリとしたバブルが出現している






10 件のコメント:

  1. ブライアン2016年2月4日 14:00

    このブログをたまたま見つかりましたがすごいです!
    いろんな方法で面白いレンズを使って、参考になりました!お嬢さんもいいモデルですね!

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    1. ブライアンさん

      コメントありがとうございます。日本ではオールドレンズのための専門の雑誌が何冊かスタートしました。今ブームの波がきています。楽しんでください!

      http://www.amazon.co.jp/%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%82%BA%E3%81%AE%E6%99%82%E9%96%93-Vol-2-%E7%8E%84%E5%85%89%E7%A4%BEMOOK/dp/4768306934

      http://www.amazon.co.jp/%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%89%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%82%BA%E3%83%BB%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%95-Vol-5-%E7%8E%84%E5%85%89%E7%A4%BEMOOK-%E6%BE%A4%E6%9D%91%E5%BE%B9/dp/4768306527/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1454566929&sr=1-1&keywords=%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%89%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%82%BA%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%95

      http://www.amazon.co.jp/gp/switch-language/product/4768306691/ref=topnav_switchLang?ie=UTF8&keywords=%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%89%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%82%BA%E3%80%80%E7%BE%8E%E5%B0%91%E5%A5%B3&language=en_US&qid=1454566957&s=books&sr=1-1

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  2. 今とてもこのPENTAFLEX Colorが気になっております。
    Canon5Dmark3で使用したいのですが使用できるか等調べる方法等ありますでしょうか?
    開放でさえ使えれば購入する気なのですが情報が無いのとオールドレンズ初心者で悩んでおります。
    このページを見るたびに物欲が止まりません!!

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  3. 使用可能です。M42-EOSアダプターを使いレンズにカメラをマウントします。
    ピン押しタイプのアダプターを購入するという点に注意してください。
    一番おいしいのはマクロ域ですので、M42マクロエクステンションチューブか
    EOS用のエクステンションチューブのどちらかが必要になるとおもいます。

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  4. spiral様♪
    感謝します!すごく嬉しいです。エクステンションチューブですね。
    こちらもチェックします!
    もやもやが消え前に進むことができます!ありがとうございます!

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    1. EOS用のエクステンションチューブの方をおススメします。
      M42エクステンションチューブでピン押しタイプのものって少ないと思いますので。

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  5. rough-and-ready2017年2月28日 18:17

    はじめまして。レンズについて知りたいときに拝見して、勉強させてもらっています。

    バブルボケに興味があってこのレンズを手に入れたのですが、このレンズは、ピンが押された状態だと、絞りを開放にしても、微妙に絞り羽根が開ききれず、その結果、ボケが真円にならない持病があるようにように思うのですが、いかがでしょうか。
    最初に手に入れた個体がそうだったので、その個体固有の問題かと思って、どうせバブルボケのためのレンズならと思って、強引に絞り羽根を取り去ってしまいました(乱暴)
    それでも気になって、ebayで二個目を購入してみたのですが、これもまた同様な症状、これはもうこのレンズの構造的な問題なのではと思っていますが、さすがに「三個の礼」をつくす気にはなれません。

    Fujinon 55mm F2.2を近所のhardoffから救出して、こちらは分解清掃して組み上げたのですが、ヘリオスもビックリの超グルグルボケレンズ、これはなんかおかしいと思っていたら、こちらに「非点収差に由来する背後のグルグルボケは全く目立たないレベルである。」との記述があって、組み間違えたのだと悟りました(笑)素人がいじるのはよくないですね。

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    1. コメントありがとうございます。
      私の手元には既にレンズがないので、残念ながら確認できませんでした。すみません。

      フジノンはどこかのエレメントがひっくり返ってしまったのかもしれませんが、これはこれで、面白いレンズかもしれませんね。どこかをのエレメントをひっくり返すと超グルグルになるのですね。

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    2. rough-and-ready2017年3月1日 0:03

      コメントいただきどうもありがとうございました。

      Fujinonは、https://flic.kr/p/SatQpy こんな写りだったのですが、さすがに変だなと思っていました。さきほどいちばん後の玉を裏返してみたら、まともな写りになりました。

      いつも素晴らしい情報を届けていただいてありがとうございます。新しい記事を楽しみにしています。

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    3. あれまぁ、凄いグルグルですね。私も一番後ろのエレメントをひっくり返して遊んでみようと思います。ありがとうございます。

      Domiplanはフロント・テレコンを使い焦点距離を倍にすると面白いかもしれません。リア側につけるテレコンではなく、明るさの変わらないフロント・テレコンバータです。テレコンつけて収差が増して、超バブルレンズになったら、それはそれで面白いのではと思っていますが、実験してみないとわかりません。

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