おしらせ


2012/04/24

GENERAL SCIENTIFIC CORP. MILTAR(ミルター) 75mm F2, M42(Eyemoマウントからの改造) modified from Eyemo mount

MILTAR MADE BY GENERAL SCIENTIFIC CORP. CHICAGO U.S.A. FOR BELL and HOWELL CO.
ELF 3INCH (75mm) T2.2 (F/2) 35mm CAMERA LENS TYPE VNo.G1070
USE 2" FILTER Bell and Howell CO.SIZE 7
M氏「いいものがあるんだ(ゴソゴソ)。どうだ凄いだろう。ケケケ
Spiral 「こいつはMILTARじゃねえか。軍の払下品か何かか?」
M氏「ケーッ、ケッケッケ。驚いたか。出所は口外するなよ」

シカゴ生まれのミリタリーレンズ

GSC Miltar 75mm F2

MILTAR(ミルター) 75mm F2は米国BELL & HOWELL社が米軍に納入したミリター仕様の35mm版ムービーカメラ(EYEMOマウント)に搭載されていた大口径中望遠レンズだ。Miltarという名称はMilitaryが由来のようである。このレンズの生産時期について定かな情報はないが、EYEMOマウントの需要から考えると1955年頃までに製造された品であろうと思われる。レンズをBell & HOWELL社に供給したのは米国のシカゴに拠点を置いていたGSC(GENERAL SCIENTIFIC CORP.)というメーカーである。聞き慣れないメーカー名だが、戦前に生産された一部のカメラにこの企業名が出てくることがある。同一名で1987年創業の米国軍需企業が存在するが、この企業とは無関係のようだ。レンズの構成に関する資料は一切手に入らない。ガラスに光を通して反射面の数を数える限りではダブルガウスタイプで間違いなさそうだ。レンズの口径は50mmの標準レンズに換算するとF1.33相当とかなり大きく、被写界深度の非常に浅い表現力豊かな描写設計といえる。Miltarには焦点距離の異なる幾つかの姉妹モデルが存在しており、今回のF2/75mmに加えF2/25.5mm, F2/50mm, F2/100mm,  F2.8/128mm, F3.5/152mmなど全部で6種類を確認している。基本的にはどれもEYEMOマウントだが、LEICA-Rマウントの個体が存在するようである。今回手にした製品個体は元々EYEMOマウントであったものをPENTAXのヘリコイド・エクステンションチューブに組み込んでM42マウントに変換した改造品である。
絞り F2-F22, 絞り羽 15枚, フィルター径 55mm弱(特殊径), 重量(改造後の実測) 350g, コーティングは単層マゼンダ系。イメージサークルはフルサイズセンサー(35mm版銀塩フォーマット)をカバーしている

入手の経緯
ある日、オーナーであるM氏から「面白いレンズがあるぞ」と言われお借りしたのが今回取り上げるMiltarだ。M氏はレンズを私に貸す直前に何か意味深な事を語っていた。彼のメールの内容を一部引用しよう。

M氏 「このレンズを用いた時の感覚はAngenieux 1.8/90を試写した時のそれに似ている。レンズの事は特別意識せず何かに取り憑かれたように被写体へと集中できる。吐き出す画には何かあるような印象だ。」

う~ん怖い。恐らく彼の本心はレンズを私に預け、そこに宿る米兵の残留思念について調べてくれと言いたいのだ。間もなくレンズは元払いで私のもとに届いた。私はただのオールドレンズグルメであって霊媒師でもなければ霊感もない。レンズの出所については極秘ルートを経由しており、絶対に秘密にしてくれとM氏から口止めされている。鏡胴に彫り込まれたコードは米軍の部隊内で横流しを防止するためなのだとか。「ケーッ、ケッケッケ。

撮影テスト
心霊写真を撮るつもりなど一切ないので、実写テストは短期間でさっさと終わらせた。このレンズの特徴はコマフレアとグルグルボケである。ゴーストは出ない(笑)。
開放絞りでは被写体に極薄い綺麗なコマフレアが発生しフワッと柔らかい像になる。近接撮影ではこれが更に顕著化し、ハイライト部が薄い絹のベールをまとう。この性質をうまく利用すれば、花見や結婚式などで美しい写真効果が得られるだろう。解像力は開放絞りでやや落ちるが、細部に目を向けない限り近接撮影においても気になる程像は甘くない。1段絞ればコマフレアが消えコントラストとシャープネスがともに向上、ビシッとシャープな写りに変わる。この時代の大口径ガウス型レンズは開放から絞る時のシャープネスの向上が驚くほど急激である。他の種類のレンズではこうはならない。こうしたガウス型レンズの豹変性については「一度で二度おいしい」という表現がピッタリと当てはまる。コントラストが低いため発色はややあっさりとしているが、カラーバランスは悪くない。また、階調描写は柔らかく、深く絞り込んでも硬くなる事は無い。距離によっては被写体の背後にグルグルボケが発生し、ボケ味に妖しさを添えてくれる。M氏の感じていた残留思念とはこのことなのであろうが、これも1段絞れば大人しくなる(すっこんでいなさい)。以下作例。


F4 Fujifilm X-Pro1 digital, AWB: 階調描写はたいへん軟らかい。実際よりも少し白っぽくクリーミーに見えるのは薄いコマフレアが発生しているためだ

F2 EOS 5D2 digital AWB: 開放絞りで近接撮影をおこなうとハイライト部からコマフレアが盛大に出る(M氏ご提供)

F2.8 銀塩撮影 Pentax MX/Kodak Pro XL100: 1段絞っただけだがピント部はここまでシャープに写る。いぃ(吐息ブハー)

F2  EOS 5D2 digital, AWB: 古いダブルガウス型レンズならではの妖しいボケ。背後で何かがザワザワと走り回っているぞ(M氏ご提供)

F4 銀塩撮影 Pentax MX/Kodak Pro XL100: しっかりと写る良いレンズではないか。どこに残留思念なんかあるのだ・・・

世の中には星の数ほどレンズのブランドが存在する。Miltarのような表に出ないブランドまで含めオールドレンズグルメ達の興味は尽きることがない。しかし、これらを一つ一つ集めていったのでは、財布の中身が先に尽きてしまう。リッチなセレブならばともかく、レンズをコレクションするという営みはレンズグルメ達にとって、本来はあるまじき姿なのだ。所有欲から解放され、かわりに経済的な自由を得る。オールドレンズグルメ達がハッピーになるためには、レンズを長期間所有しない姿勢(買ってもすぐに売る事)に徹することが重要なようである。あ~、セレブになりたい。
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楽しんでください。

10 件のコメント:

  1. うわ~、ツバキの作例、絵の感じがするですねwww

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  2. 開放ではフワッとしています。

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  3. スパイラルさん

    トロニエの魔鏡でお世話になりました。
    ヨッピーです。カラーウルトロン(ローライプラナー)もトロニエの助言が入っているのですね。俄然興味がわいてきました。凹ウルトロンは高価でなかなか手が出ませんがカラーウルトロンなら何とかなりそうです。余談ですが最近友人がエキザクタマウントのクセノン50mmF1.9を買いました。繊細な背景とシャープな描写が同時代のレンズのなかでは際立っている気がします。ブログにあるとおり、当時からボケの美しさに着眼していた設計者と言うのがうなずけます。今回こちらにコメントさせていただいたのは、このブログを拝見した後に同じレンズを見つけて購入してしまいました(笑)GENERAL SCIENTIFIC CORPのMILTAR 25.5mm F2.2です。アイモマウントをNEXマウントに改造したものです。僕は現状NEXを持っていないので試写出来ていないですが、NEXを入手し次第、試写をしたいと思っています。武骨な作りがアーミーレンズらしいですね。スパイラルさんの75mmの写りはすばらしいと思います。武骨な外観と繊細な写りがたまらないです。
    General Scientific Corp謎な会社ですね。

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    1. ヨッピーさん

      コメントの書き込みありがとうございました。

      >凹ウルトロンは高価でなかなか手が出ませんが

      凹ウルトロンを安く手に入れる裏技ですが、
      Icarex 35S用BMマウントの凹Ultronがあり
      何とこれをEOSに変換するアダプターが最近
      出回っています。こちらのマウントですと、
      M42の凹Ultronよりいくらか安く手に入ります。

      でもカラー・ウルトロンの描写も凹ウルトロンに一歩も引けを
      とらない素晴らしいものがあります。写真に美術的なセンスを
      持ち込んだパイオニア設計士が助言しただけのことはあります。


      >余談ですが最近友人がエキザクタマウントのクセノン50mmF1.9
      >を買いました。繊細な背景とシャープな描写が同時代のレンズのなかで
      >は際立っている気がします。

      私もそう思います。Xenon F1.9は大好きなレンズの一つです。
      ボケも軟らかく綺麗に拡散します。後ボケが少しグルグルと回転することが
      ありますが色はとてもいいですし、階調描写も優れています。
      Xenonはいまだに手放さない数少ない一本です。シネクセノンとの
      描写の比較なんか面白そうですね。


      >当時からボケの美しさに着眼していた設計者と言うのがうなずけます。

      そうなのですが、残念ながら戦後型のXenon F1.9はトロニエの設計では
      ないようです。トロニエは1944年に他社に移籍しているからです。
      設計者は実ははっきりしませんが、フォトグラファーズ・ベーダ・マキューム
      の資料にはF1.9のクセノンが登場した時期にシュナイダーの
      設計主任だったG.Klemt(XenotarやSuper-Angulonの設計者)の可能性が
      高いと書いてあります。


      >MILTAR 25.5mm F2.2です

      F2.2ですか!25.5mmはF2かと思っていましたが私の勘違いでしたでしょうか?
      参考になりますので、ご教示いただければ幸いです。


      >武骨な作りがアーミーレンズらしいですね。

      そうですね。同感です。そして、メーカーもまったく謎です。

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  4. Spiralさん

    返信ありがとうございます。

    >Icarex 35S用BMマウントの凹Ultronがあり
    そんな裏技があったとは。考えもしませんでした。早速探してみます。

    >戦後型のXenon F1.9はトロニエの設計ではありません。
    そうなんですね。勉強になります。トロニエ設計のXenonを根気強く探していきます。

    >F2.2ですか!25.5mmはF2かと思っていましたが

    ご指摘のとおりでした。レンズの刻印を見ていたらF/2で、T2.2でした。レンズの絞り指標が2.2スタートだったのでF値だと勘違いしておりました。

    最近Spiralさんの返信が楽しみです。お忙しいと思うので、無理ない範囲でお答えいただけるとうれしいです。

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    1. ヨッピーさん
      こんばんは

      >トロニエ設計のXenonを根気強く探していきます。

      トロニエの設計品はいずれもF2のクセノンです。
      80mmと50mmがあります。
      戦前に設計されたものですが入手されるのでしたら
      戦後に製造されたものが状態もよく、コーティングも
      付いていますのでオススメです。


      >お忙しいと思うので、無理ない範囲でお答えいただけるとうれしいです。

      お言葉に甘えて、のんびりと返信させていただきますね。


      最近、面白いレンズを手に入れました。
      Carl meyerのSPEED 50mm F1.9(DKLマウント)というレンズです。
      で、Carl ZeissとHugo Meyerを足して2で割ったような名称ですが、
      これは米国ブランドです。

      ではでは

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  5. ゴーストは出ないんですね。(^^) 
    え~、すっかりご無沙汰しており申し訳ありません。
    ご無沙汰してる間にミリタリーレンズ…何だかますますマニアック度が増してるような。(笑)
    ちなみに最近の私は懐具合が寂しくてオールドレンズ系のショップHPを見ないようにしております。

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  6. どうもご無沙汰しております。

    >オールドレンズ系のショップHPを見ないようにしております。

    やっぱりあれですか、AngenieuxとPancoloarが
    ひびいちゃいましたか?お高いレンズ達でしたから。

    しかし、オールドレンズの価格は世界経済とは無関係に
    右肩上がりですね。Biotar 75mmなんか、私が手に入れた1年半前には
    MINTが1000ドルでしたが、今は1600ドルくらいです。

    凹Ultronも2~3年前は3.5-4万円だったのが、今じゃ6万円です。

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  7. はじめまして。
    Miltarで検索していてこちらにたどり着きました。
    Eymoマウントのレンズには、面白そうなものが沢山あって、
    魅力を感じながらも、バックフォーカスが短そうで手を出さずにいました。
    画像と説明を拝見すると、M42マウント化が出来そうですが、バックフォーカスは
    問題なかったのでしょうか。

    私は、アルパにマウントして使っているのですが、アリフレックスなどは、
    フランジバック長はかなりあるもののバックフォーカスが短くて以前あきらめたことがありました。

    どうも、シネレンズは規格がいろいろあってわかりずらいです。

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    1. こんにちは
      このレンズのバックフォーカスは長く、一眼レフでもミラーの可動部を十分に確保できます。問題ありませんでした。イメージサークルの小さいシネレンズではバックフォーカスが短くなりがちですが、このレンズは35mm版なのでバックフォーカスには余裕があります。

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