おしらせ


2016/08/08

Carl Zeiss Pro-Tessar 35mm F3.2, 85mm F3.2, 115mm F4 and Tessar 50mm F2.8(Prologue)


特集コンタフレックスのプロ・テッサー(プロローグ)
肉厚ガラスで奏でる美しい旋律
プロテッサー(Pro-Tessar)は旧西ドイツのツァイス・イコン(Zeiss-Ikon)社が1957年から1975年まで生産した一眼レフカメラのコンタフレックスIII型以降のモデル(Contaflex III、IV、Rapid、Super、Super(new)、Super B、Super BC、S)に供給したコンバージョンレンズ群である。米国をはじめとする西側諸国への広告戦略がうまくゆき、コンタフレックスシリーズは人気商品となった。カメラにははじめからテッサー(Tessar) 50mm F2.8が標準搭載されており、テッサーの前玉をPro-Tessarの各モデルに交換することで広角35mm、中望遠85mm、望遠115mm、等倍マクロ撮影、ステレオ撮影などに対応することができた。レンズのラインナップは下記のとおりである。
  • Pro-Tessar 35mm F4およびF3.2(改良型)
  • Pro-Tessar 85mm F4およびF3.2(改良型)
  • Pro-Tessar 115mm F4
  • Pro-Tessar M1:1 50mm F5.6(マクロ専用)
  • Steritar B(ステレオ撮影用)
焦点距離35mmと85mmのモデルははじめF4の口径比で登場したが、1962年に同一構成のまま口径比をF3.2まで明るくした新モデルに置き換わっている。レンズを設計したのは名玉ローライフレックス版プラナーの設計者として知られるギュンター・ランゲ(Günther Lange)で、1955年と1956年に出願した本レンズの米国特許の記録がみつかる[文献1,2]。
Pro-Tessarファミリーの構成図(文献[3]からのトレーススケッチ(見取り図))。上方の青で着色した部分が前群側(コンバージョンレンズの側)で、黄色に着色した部分が後群側(カメラの側)という位置関係になっている。青で示したコンバージョンレンズ群を交換することで様々な焦点距離や用途に対応させることができた



プロ・テッサーの魅力は何と言っても肉厚ガラスを用いた異様な設計形態であろう(上図)。焦点距離35mmのモデルにもかなりの肉厚ガラスが備わっているが、85mmや115mmのモデルに至っては、もう見事としか言いようがない。このような設計形態はレンズをコンパーシャッターに無理やり適合させるところから来ており、シャッターの狭い開口部に光を通すため、前群側で屈折力を大いに稼ぐ必要があった。シャッターの制限から来るハードルを高い技術力で突破してしまうあたりは、いかにもツァイスらしい製品と言える。なお、Zeiss-Ikon社がこうまでしてシャッターへの適合に拘ったのは、同社が二大シャッターメーカーのコンパー(Compur)とプロンター(Prontar)を傘下に入れてしまったためであると言われている。シャッターの生産量を維持するという経営面での事情と、何でも作れてしまうZeissの技術力が重なり、このような異様な設計形態を生み出す原動力になった。これは驚くべき事例である。
 
プロテッサーをデジタルカメラで用いる
プロ・テッサーはコンタフレックス用テッサー50mm F2.8の後群側をマスターレンズとするコンバージョンレンズ群である。テッサーの前玉はバヨネット方式になっており、これを外してプロ・テッサーに取り換える仕組みになっている(下・写真参照)。レンズを現代のデジタルカメラで用いるにはコンタフレックスの本体に固定されているマスターレンズをシャッターユニットごとカメラから取り出し、デジカメ用のマウントに改造すればよい。私は手元にあったPK-NEXアダプターを使いSony Eマウントに変換することにした。これさえあれば、プロ・テッサーシリーズ全てをデジタルカメラで用いることができる。肉厚ガラスを通り、狭いトンネルをくぐり抜けた光はデジタルカメラのセンサーにどんな像を結ぶのか。興味は増すばかりである。
PK-NEXアダプターに搭載したコンタフレックス用テッサー。前玉はバヨネット方式で据え付けられており、これを外してプロ・テッサーと交換する仕組みになっている



プロ・テッサーを設計したGランゲは同時代にJベルガー(J.Bergar)らと共にマスターレンズをガウスタイプ(Satz-Planar 50mm f2)とする別バージョンのコンバージョンレンズ群を設計しており、製品化はされなかったものの、1957年に広角レンズのプラナー・ゴン(Planar-Gon)35mm f4と望遠レンズのプラナー・テル(Planar-Tel)85mm f4を開発し試作品の段階まで漕ぎ着けている[4]。やはり、これらも肉厚の光学エレメントを多用したレンズであった。
 
参考文献
[1] 焦点距離85mmと50mmのモデルの米国特許:G.Labge, US Pat.2816482(Filed in 1956)
[2] 焦点距離35mmnのモデルの米国特許:G.Lange, US Pat.2835168(Filed in Aug.1955),  US.Pat 2844997(Filed in Nov.1956)。なお、115mmについてはG.Langeとの関連を示す記録がない
[3] 構成図:PHOTO-REVUE(French Magazine), Nov.1956, pp.284
[4] Walter Owens, Vintage Camera Lenses

2016/08/07

E.Krauss Planar-Zeiss 60mm F3.6 写真作例追加

E.Krauss Paris Planar-Zeiss 60mm F3.6
写真作例の追加
だいぶ前に書きました「Carl Zeissの古典鏡玉part 3: Planar初期型」の写真作例を追加しました。この記事は内容が少し古くなってきましたので、いずれ新たな知見を加えブラッシュアップをはかるつもりです。今回は作例のみ。
Eクラウス(E.Krauss)社のプラナー(Planar-Zeiss)は1年半ぶりに使用しましたが、やはり素晴らしいレンズでした。開放では柔らかさのなかに緻密さがあり、とても繊細な写りです。
F4, sony A7(AWB): 線の細い繊細な描写です
F3.6(開放), sony A7(AWB): ここちよい柔らかさが生きています
F3.6(開放), sony A7(WB:曇天): 開放でも中心解像力は充分。前ボケには美しいフレアがのり、しっとり感がただよっています

F5.6, sony A7(AWB):絞ればシャープ。さて、これは何処でしょう?こたえは・・・
F8, Sony A7(AWB): 蒸気汽車の中でした
F4, sony A7(AWB): 

F5.6, sony A7(AWB): 少し絞れば遠景も充分にシャープです
このレンズが製造されたのは1905年頃ですが、現代のデジタルカメラで使用しても、満足のゆく写真が撮れます。このレンズとの出会いは生涯忘れることがないでしょう。