おしらせ


2015/11/09

Camera Shop Guide 2: Foto:Mutori

プロショップガイド part2 
古典鏡玉の楽園
Foto: Mutori
気ままにオールドレンズ専門店を巡る旅の第2弾ですが、今回は東京の代官山に2014年6月にオープンした古典鏡玉・寫眞機材商のFoto:Mutori(フォトムトリ)を訪れました。代官山と言えば雑貨・小物屋、アンティークショップ、高級ブティック、カフェなどが点在するお洒落な街の筆頭ですが、Foto:Mutoriもこの町の雰囲気に溶け込んだアンティークショップそのものの店構えです。お店の名は宮沢賢治の作品に出てくる主人公の名前にちなんでいるそうです。ホームページがこちらにあります。


店舗はモダンな鉄筋建物の2階にあり、階段を昇ると美術品や骨董品が飾られたステキな内装が広がっています。店内の中央にあるショーケース(写真・上)の中に並べられているのは19世紀から20世紀初頭にかけて作られた各国の歴史的な古典鏡玉です。入手難度の高いとされる商品や面白い商品が厳選して置かれています。1世紀も前に造られた古い製品が大半なので、今後もなるべく長く使えるよう、しっかりとメンテナンスが施されています。商品の品揃えは豪華で、マニア層が喜ぶ逸品・珍品が数多くあり、眩しいばかりの商品ラインアップに見ているだけでワクワクした気持ちになります。
 

店長の木村さんにお店で扱う商品コンセプトについて尋ねたところ「みることは楽しいこと。カメラや写真用レンズのみに拘るのではなく、顕微鏡や天体望遠鏡、ステレオカメラなど光学機器全般を扱ってゆきたいです」と期待以上のステキなコメントが返ってきました。とても明るい方で、私の写真仲間の女性からも「私が求めるレンズの描写をお伝えすると親身になって相談に乗ってくれました。結局この店でズマリットを購入。とても親切な方でした」と良い評判が聞こえてきます。 
  
左手奥のガラスケースには1920年代から戦後間もない頃にかけて製造された小型カメラ用のレンズが置かれています。注意:写真に写っているのは木村さんではありません。小学生の娘です(汗)。。。
木村さんから商品のレンズについて説明を受ける時にいつも印象に残る口癖があります。木村さんはレンズのことを「この子」と呼び、「この子はとても繊細で云々・・・」と話すのです。商品1つ1つにまっすぐ向き合い、特徴や良さを伝え、大切にしてくれる次の里親を探す。そんな木村さんならではの心意気とレンズに対する愛情溢れる姿勢が印象的です。レンズの価値がわかる人に訪れてほしい店だと思います。
 
お店の入口
思い返せば私が初めてお店を訪ねたのは開店後間もない2014年の9月でした。その頃はVoigtlanderのHeliarに興味があり店の門を叩いたのですが、木村さんに「今、面白いレンズが入ったばかりなのですが、どうでしょう?」と紹介していただいたのがフランス製のE.Krauss Planar-Zeiss 60mm F3.6でした。私の知人に熱狂的なE.Kraussの大ファンがいましたし私自身もPlanarの初期型にはたいへん興味がありましたので、直ぐに購入を決めました。メンテナンスの行き届いたとても状態の良い製品個体で満足のゆく買物でした。このレンズは今でも知人が大切に使用しています。


 
交通
最寄駅は東急東横線の「代官山」から徒歩5分、JR山手線と営団地下鉄日比谷線の「恵比寿」からも徒歩15分の位置にあります。月曜・火曜日が定休です。それ以外にも買い付けのための定休期間があるようです。お出かけの際はfacebook等でご確認を!

定休日 月・火曜
営業時間 14:00-20:00



店内の撮影機材
Voigtlander NOKTON 50mm F1.5/ CZJ Flektogon 20mm F4
Sony A7
Copyright(C) M42 SPIRAL
お店の写真は承諾を得たもを掲載しています。転用はご遠慮ください


SPIRAL的かめら屋めぐり PART1
FLASHBACK CAMERA(千葉県流山市)は
こちら


2015/11/08

FUTURA FREIBURG BR. EVAR 50mm F2 (M34 Futura Screw)*




プリモプランとは似て非なる変形エルノスター
FUTURA (FREIBURG BR.) EVAR 50mm F2 
Primoplan(プリモプラン)の同型レンズと聞いて俄然興味が湧いてきたので思い切って入手してみた。Futura Kamerawerk(フトゥーラ・カメラ)が1950年代に生産したEvar(エバール) 50mm F2である。事実ならとても珍しい種族のレンズだが、試写してみたところ、どういうわけか描写傾向が全く異なるので興味は増すばかりである。Primoplanは中心解像力こそ高いが、写真の四隅を捨てたような開放描写と荒々しく回る背後のグルグルボケを特徴とするジャジャ馬のヤンキーレンズである。明らかに非点収差が大きく、こうした描写傾向を加味して本ブログの過去のエントリーでは第2群のはり合わせが「旧色消し」であるとの大胆な予想を立てていた。これに対してEvarはピント部四隅まで画質が均一に保たれグルグルボケも出ない優等生で、像面湾曲や非点収差が良好に補正された別人格の写りとなっている。Evarは本当にプリモプラン型なのであろうか。下に示すような構成図が手に入った。構成は4群5枚の変形エルノスター型で、第2群に接合面を持つプリモプランとよく似た設計となっている。特許資料が手に入らないので断定はできないが、接合面のカーブがだいぶ緩いので、恐らく第2群の接合レンズはPrimoplanとは異なる「新色消し」ではないだろうか。「新色消し」の導入は非点収差の補正に有利に働くので四隅の画質を良好に補正できるものの球面収差の補正には不利となる。Evarの描写傾向はこうした予想ととてもよくマッチしている。ちょうどトリプレットとテッサーの関係を思い起こしてもらうとよいが、この場合にはトリプレット的なのがPrimoplanでテッサー的なのがEvarという対応になる。なお、Evarの第2群で増大した球面収差は他のエレメントの助けを借りて光学系全体で補正できるので、硝材の選択がうまくゆけば中心解像力もそれほど悪いものにはならないとのこと。さて、Evarがどんな写りになっているのかは見てのお楽しみである。
 
レンズの構成図(スケッチ):左は原型となったErnemann Ernostar F2(4群4枚)、中央は発展型のMeyer Primoplan F1.9(4群5枚)、右は同じく発展型のEvar F2(4群5枚)である



Futura
Futura Kamerawerk(フトゥーラ・カメラ)は第二次世界大戦中にドイツ空軍に従事しカメラや光学機器の製造に携わっていたがFritz Kuhnert(フリッツ・クーネルト)という人物が1950年にドイツのFreiburg(フライブルク)に設立したカメラメーカーである。Kuhnertは1942年にOptische Anstalt Fritz Kuhnert(フリッツ・クーネルト光学研究所)を設立しFreiburgに工場を建てたが、1944年10月の連合軍の爆撃で大破している。戦後はグンデルフィンゲン(Gundelfingen)の郊外に新工場を建て1947年にEfka 24という24x24mmフォーマットのビューファインダーカメラを発表、続けて上位機種のFuturaレンジファインダーカメラを開発し1950年の第一回フォトキナで発表した。この頃Kuhnertの会社は経営難に陥っていたがハンブルクに拠点を置く船舶会社のオーナーが会社を買収し新たなオーナーに就くとともに会社名を改称し、有限会社Futura Kamerawerk (以後はFuturaと略称する)を再スタートさせている。Futuraは1950年から1957年までの間に4種類の35mmのレンズ交換式レンジファインダーカメラ(Futura, Futura P, Futura S, Futura SIII)を発売している。これらは主に米国などへの輸出用として市場供給されていた。交換レンズのラインナップは大変充実しており、Ampligon 4.5/35, Futar 3.5/45, Frilon 1.5/50, Evar 2/50, Elor 2.8/50, Frilon 1.5/70, Tele Futar 3.8/75, Tele Elor 3.8/90, Tele Elor 5.6/90に加えSchneider Xenar 2.8/45が用意されていた。レンズ名の幾つかはKuhnert一家の家族の名前を由来にしており、Elorは妻Eleonore、EvarとPetarは彼の子供達EvaとPeterから来ている。Frilon F1.5はとても明るいレンズであるとともに希少性が高い(あまり売れなかった)ため、現在の中古市場では極めて高額で取引されている。レンズは全てM34スクリューネジの同一マウント規格で統一されており、上記の4種類のカメラ全てに搭載できる。Futuraのレンズにはミラーレス機用のアダプターも存在しeBayで入手可能であるが、高額なのでステップダウンリングを用いて34mmから42mmに変換しM42ヘリコイドアダプターに搭載してミラーレス機で用いるのが安上がりである。Futuraのレンズを設計したはシュナイダー社の設計士Werner Giesbrechtである。ただし、レンズの製造はSchneider Xenarを除き全てFutura自身が自社工場でおこなっていた。なお、カメラやレンズの生産は1957年頃まで続いていたそうである。

本来の母機であるFutura-Sに搭載したところ。美しいカメラだ




重量(実測) 102g, フィルター径 39mm前後(39mmで若干緩いがOKであった), 絞り F2-F16, 絞り羽 13枚構成, 設計構成 4群5枚(変形エルノスター型), マウント Futura M34 Screw, レンズ名はカメラを設計したFritz Kuhnertの娘Evaの名が由来である



入手の経緯
このレンズは2015年11月に大阪の中古カメラ店からFutura-Sのカメラにマウントされた状態で3万8千円で購入した。レンズについては「カビ、クモリ、バルサム切れ、傷などなくとても良い状態」とのこと。届いたレンズはコーティングの表面の拭き傷のみで他に問題はなかった。カメラの方にはシャッターが低速側でやや粘る不調があった。経年品なのでこの程度の問題は仕方ない。
Futuraのレンズはコーティングがこれまで見てきたどのメーカーのレンズよりも弱く、どの個体もコーティングの表面をよく観察すると、極薄い拭き傷が一面全体にびっしりとみられ、まるで磨いた跡のような様子になっている。おそらく軽く拭いても全て拭き傷になったのであろう。クリーニング歴のない未開封の個体を除き、どうもこのような拭き傷を持っている個体しか市場にはないので、レンズを入手したいのならば覚悟のうえで、欲張らずに実用コンディションを探すのが正解だ。私の場合はコーティングの状態が良い個体を3~4年探したが徒労に終わった。写りに影響がないなら、このまま用いるのがよいし、影響があると判断される場合には、修理に出しコーティングしなおすのがよい。
  
撮影テスト
中心解像力は高くシャープに写るレンズだ。開放ではポートレート域において極僅かにフレアが出るが問題ないレベルである。後ボケはザワザワしていて硬く2線ボケも出やすいが、グルグルボケはみられず反対に前ボケはフレアに包まソフトになる。ちなみにプリモプランの方はかなり激しいグルグルボケが出ていた。プリモプランよりも像面湾曲が良好に補正されているようで、ピント部の良像域はプリモプランよりも格段に広い。ちなみに、プリモプランは元来シネマ用なので、スチル用とは設計理念が異なるレンズである。階調は軟らかくトーンはなだらかである。発色はノーマルでこれといった癖はない。
F4, Sony A7(AWB):トーンはとても軟らかく美しい。下に拡大写真を示すが、ピント部は解像力が良好だ
上の写真の一部を拡大したもの。ピント部はとても緻密で高解像だ
F5.6, sony A7(AWB): ピント部は四隅まで安定感がある

F2(開放), Sony A7(AWB): 開放でもフレアは少なく、スッキリとヌケが良い描写である

F4, sony A7(AWB): しかし、シャープなレンズだ