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2010/12/27

Will Wetzlar, Vastar 50mm/F2.8(M42)



 最も小さいM42マウントレンズ!?

私はコンパクトで精巧に造られた工業製品に目が無い。一度手にすると、つい長い時間が経ってしまう。そして、eBayを覗いていたある日、Vastar(バスター)と言う名の極小レンズに出会ってしまったのだ。それはもう豆粒のようにかわいく、アルミ製の美しいレンズであった。カメラにマウントできるのかさえ疑わしい小さな小さな姿。これはもう放ってはおけない・・・欲すぃ~。アラフォーにもなろうというオッサンに少女のようなトキメキが宿る。「何だか胸がドキドキする」とパソコンの前で柄でもない言葉を吐いてみた。返ってきたのは「またカメラ?」という妻の冷ややかな反応。グフフフ。腹の内はそれほど純粋ではない。そのとき、「これ、ほしぃ~」と娘の応援。待っていました。パパのトキメキがわかるのは愛娘の胡ちゃんだけだものね♪。ほれぇ、ここにある「自動入札ボタン」を、ちょっとだけ押してみようか。すると妻が「似たようなレンズ持ってんでしょうがぁ。ほれ~」。と銀色のレンズを目敏く差し出してきた。そっ、それは、SPIRAL愛蔵のCassaronではないかぁ!レンズを格納している防湿庫の中身を把握している恐ろしい妻。私のドス黒いトキメキが一気にけし飛んでいった。仕方なくCassaronを売却し、Vastarを購入するという交換条件を呑むことになった。トホホ。
あまりに小さいのでマウント面がむき出しになる
今回入手したVastar 50mm/F2.8はドイツ中西部にあり、Leica発祥の地として知られるWetzlarに拠点を置く中堅光学機器メーカーのWilhelm Will KG社が極僅かに製造したトリプレット型単焦点レンズだ。対応マウントはM42のみである。レンズの製造時期について確かな情報はないが、鏡胴に用いられているアルミ素材の需要やフィルター枠に記されたVコーティングのスタンプマークなどから、1950年前後から50年代中頃に生産された製品ではないかと思われる。同社は顕微鏡用対物レンズ、双眼鏡、拡大鏡、プロジェクター用レンズなどの生産で実績がある。カメラ用レンズについては本品以外にもADOX社のGolfという中判カメラ用にADOXARという名の焦点距離75mmのレンズを供給した。また、超小型カメラのMINOXブランドにレンズやビューファインダーを供給していた。Will社の生産したM42マウントレンズは私の知る限り本品のみのようである。同社は現在もHELMUT HUND GmbH社の傘下で顕微鏡用レンズの生産などを中心に企業活動を続けているようだ。
焦点距離50mm, 絞り値 F2.8-F22, 最短撮影距離 3ft(約0.92m),
絞り羽根は10枚構成, 重量(実測)70g, フィルター径は28mm, M42マウント
 
★入手の経緯
2010年11月にドイツ版eBayにてアンティークカメラ専門の業者から落札購入した。オークションの記述は「非常に美しい状態。内部のチリは少なく作品に影響はない」とある。はっきりとした商品の写真を提示していた。本品は流通量の極めて少ない珍品であり、競買は9人のバイヤーによる16件の入札で争われたが、最後は入札締め切り10秒前に私のセットした自動入札ソフトが作動し、63ユーロで仕留めた。送料込みの総額は75ユーロ(約9500円)である。届いた品は、後玉のガラス端部に明らかなコーティングの剥離があった。これを出品者はチリと表現していたのだ。カメラ専門の業者でも、こういう初歩的な検査ミスをする。APS-Cサイズのセンサーを搭載した一眼カメラで使用する分には問題無いが、ちと微妙な買い物になってしまった。

極小レンズ達。左がINDUSTAR 50-2 50/3.5、右がCASSARON 40/3.5
中央がVASTAR 50/2.8で3本の中では最も細身でコンパクトだ
★撮影テスト
本品の光学系は古典的な3群3枚構成のトリプレット型ということで、画質的にある程度厳しいことは覚悟していた。使用してみたところ、開放絞り付近ではピント面の結像がポワーンとソフトで解像力不足。ピントの芯が掴みにくく苦労した。アウトフォーカス部の結像は乱れ気味で、近接撮影の際には輪郭部が2線ボケになりザワザワと滑らかさを欠いたボケ味となる。周辺の結像はやや流れる傾向にある。絞れば画質は改善する。基本的には絞って使うレンズであろう。
digital(NEX-5)/AWB: 近接撮影の作例。ピント面はかなりソフト
である。背景の植物でボケ味は滑らかさを欠いた目障りな結像
を示している。F5.6まで絞ればボケ味は素直になるが、ピント面
はまだ解像力不足だ

digital(NEX-5)/AWB: 花びらに注目。開放絞りではハイライトが
球面収差の影響で汚く滲んでしまう。F8まで絞ればさすがに
ピント面には、それなりの解像感が出る

F5.6, digital(NEX-5)/AWB: 2段も絞ってもグルグルボケ(回転ボケ)は
出るようだ。周辺部に奥行きがある場合の結像はご覧のようにかなり
厳しい
F5.6, digital(NEX-5) /AWB: こういう背景ならば2段絞る程度で問題なし

F8, digital(NEX-5)/AWB:やはりこれぐらい絞ればスッキリ写る。
実用的なシャープネスといえる

F11, digital(NEX-5)/AWB: 遠景の撮影では問題なし(端部は怪しいが・・・)。
ボケ味については2段絞れば改善するが、ピント面の解像力には依然として物足りなさが残る。実用的な画質を得るには遠景で2~3段、近景で3~4段は絞る必要がある。同じトリプレット型レンズでもシュタインハイル社のCASSARONならば、もう少しはまともに写るんだけれどなぁ。まぁ、小さいんだから文句ばかり言っても仕方ないが。
★撮影機材
SONY NEX-5 + VASTAR 50/2.8 + お手製フード(ボール紙丸めて輪ゴムでパッチン)

トリプレットとは収差の補正に最低限必要な3枚のレンズ構成から成る極めてシンプルなレンズ形態である。小さいレンズを造るには好都合な設計だが、画質的には厳しく、より高度な収差のコントロールが可能な3群4枚のテッサー型レンズにコンパクトレンズ業界の主役の座を奪われてしまた。


本品よりも更に小さいと思われる一眼レフ用レンズをご存知の方がいましたら、ぜひ教えてください。

2010年はこのエントリーで最後の投稿となります。研究者生活の空いた時間にストレス発散を兼ねて片手間に書いているブログです。乱文の連発でしたが、辛抱強くご愛読いただき、ありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。
良いお年をお過ごしください。
SPIRAL