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2024/02/03

しろがねの鏡胴映えるシネクセノン

Schneider-Kreuznach cine-Xenon 25mm F1.4 (c mount)

シネ・クセノンと言えば16mm映画用カメラに供給されたシネレンズで、ARRIFLEXマウントのモデルとCマウントモデルの2種があります。本ブログでは過去のこちらの記事でゼブラ柄の後期モデルを紹介しました。今回はBOLEXに搭載する交換レンズとして1960年に登場したCマウント版のシネ・クセノンの前期モデル(アルミ鏡胴)を紹介します。後期モデルは青紫色のコーティングでしたが、今回の前期モデルはマゼンダ色のコーティングですので、コントラストや色味に若干の差が出ることが期待できそうです。

焦点距離25mm(Cマウント)のシネマ用Xenonが登場したのは1920年代と古く、1927年に製造された真鍮鏡胴の個体が確認できます。ちなみに初期のモデルは口径比がF2(2.5cm F2)でしたので、トロニエ設計の4群6枚構成だったものと思われます。1930年代後半になると再設計され口径比がF1.5まで明るくなった真鍮鏡胴のモデル(シルバーカラーとブラックカラーがある)が登場しています。このモデルは戦後の1950年代にも生産が続きますが、1950年代半ばなると鏡胴の素材がアルミに変更され軽量化が図られるとともに、Dマウントでも市場供給されようになります。1960年代に入ると口径比がF1.4の新設計モデルが登場し、ごく初期の僅かな期間だけアルミ鏡胴で作られましたが、すぐにゼブラ柄にデザインが切り替わります。今回紹介するモデルはこの時代のものです。市場に流通している個体のシリアル番号から判断する限り、F1.4のモデルは遅く見積もっても1969年まで生産されていました。

重量 155g, 絞り F1.4-F22, 絞り羽 5枚, 最短撮影距離 約0.45m, フィルター径 31.5mm, マゼンダ系コーティング









Cine Xenon 25mm F1.4: 構成は4群7枚のズミタール型で、前玉が色消しの張り合わせ(たぶん旧色消し)になっています。絞りに接する両側のガラス面の曲率差(曲がり具合の差)でコマ収差を補正しています。上の構成図は文献[2]からのトレーススケッチです

参考文献

[1] Australian Photography Nov. 1967, P28-P32 

[2] SCHNEIDER Movie Lenses for 16mm cinema cameras: シュナイダー公式カタログ


撮影テスト

描写傾向はArriflex版モデルやゼブラ柄の後期モデルと似ており、良好な解像力を維持しつつ、開放では細部に微かな滲みを伴う線の細い繊細な画作りができます。コーティングが少し違うためか、後期モデルよりコントラストが抑え気味で、味のある描写が堪能できるのがこのモデルの大きな特徴と言えます。一段絞れば滲みは消えコントラストも上がり、シャープでキリッとした画作りになります。背後のボケは硬めで過剰補正気味なところはいかにも解像力を重視したレンズの特徴ですが、開放での微かな滲みもこれが原因のように思えます。

もともとは16mmフォーマットが定格ですから、マイクロフォーサーズ機では写真の四隅にダークコーナー(いわゆるケラレ)が出ています。カメラの設定を変え、アスペクト比をシネマ用ワイドスクリーンと同じ16:9にしたり、真四角の1:1にするとケラレは目立たなくなるでしょう。

 Cine Xenon 25mm F1.4 + Panasonic GH-1

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB:☁) ピント部中央はご覧の通りで開放でも高解像です














F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB:☁) 背後のボケが硬くざわついています













F2.8 Panasonic GH-1(WB:日陰)

F2.8 Panasonic GH-1(WB:日陰)



F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB:日陰)

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB:日陰)






















2023/06/08

Schneider-Kreuznach cine-Xenon and cine-Xenon RX 25mm F1.4 (c mount)



















お洒落で可愛い双子のシネ・クセノン
Schneider-Kreuznach cine-Xenon and cine-Xenon RX 25mm F1.4 (c mount)

Cine Xenonと言えば日本ではアリフレックス用の16mmシネマムービーレンズが雑誌になどで取り上げられ、先行して知られるようになりました[1]。写真中心部の素晴らしい描写力や、マイクロフォーサーズ機で使用した際に見られる大きく破綻した周辺画質などが話題になり、レンズ構成がライツ・ズミタール(7枚玉)と同一である事もあって、一部のマニア層の人々を虜にしています。今回はこのレンズと同一設計のであるBolex用Cine Xenon(ノーマルタイプ)、およびBolex H-16 Reflex用に供給されたCine Xenon RX(RXタイプ)を取り上げ紹介します[2,3]。RXタイプの方はBolex H-16 Reflex用に供給された特別仕様で、カメラにはプリズムが内蔵されていましたので、このプリズムと協力して画質補正ができるよう設計されています。ただし、プリズムなしのデジタルカメラでも普通に使用することができ、画質への影響は限定的のようです。
cine-Xenon 1.4/25(ノーマルタイプ): 重量(実測) 152g  , 最短撮影距離 約0.45m, フィルター径 31.5mm,  絞り値 F1.4-F22, 開放T値 1.5, 絞り羽 5枚構成, 設計構成 4群7枚
cine-Xenon RX 1.4/25(RXタイプ):145g(実測),  最短撮影距離 約0.45m, フィルター径 31.5mm,  絞り値 F1.4-F22, 開放T値 1.6, 絞り羽 5枚構成, 設計構成 4群7枚

 
姉妹製品のアリフレックス用Cine Xenonは昨今のインフレによる影響や、ライカマウントに変換できる高い汎用性のため、市場での相場は7~8万円(5年ほど前まではeBayで3.5~4万円程度でした・・・)を超える高値で取引されるに至りましたが、ボレックス用であれば、ケルンやアンジェニュー、コダックなどの高級ブランドがまだ数万円で取引されていることからもわかるように、依然として相場は落ち着いており、穴場的に安く手に入れる事ができます。これはM42マウント系レンズに対して同モデルのEXAKTAマウント系レンズが安値で取引されていた以前の状況によく似ています。今回ご紹介するレンズは2017年にeBayにて、200ドルを少し超える値段で手に入れました。現在もこの状況は大きく変わっていませんので、3~4万円程度で手に入れることができます。

姉妹品のアリフレックス版Cine Xenon
 
デザインに目を向けると、姉妹品のアリフレックス版Cine Xenonにはピントリングに指掛があるなど特殊なデザインが栄えますが、今回ご紹介するボレックス版Cine Xenonも負けてはいません。極小の鏡胴にオシャレなゼブラ柄、被写界深度表示の凝ったギミックなど、ピリリとアクセントの効いたとても素敵なレンズであることが写真からも見て取れると思います。
レンズの設計は下図に示すような4群7枚構成で、ライツのズミタールF2と同一ですが、Cine Xenonでは前玉の正エレメントが分厚く設計され、この部分で屈折力を稼ぐ構造となっており、1段明るいF1.4の口径比を実現しています。下図はノーマルタイプの設計構成ですが、RXタイプも同一構成です。
Cine-Xenon F1.4(ノーマルタイプ)の光学系。ちなみにRXタイプも構成は同じですが、細部が異なると思われます。構成は4群7枚のズミタール型で、前玉が色消しの張り合わせ(たぶん旧色消し)になっています。絞りに接する両側のガラス面の曲率差(曲がり具合の差)でコマ収差を補正しています。上の構成図は文献[3]からのトレーススケッチです

焦点距離25mm(Cマウント)のシネマ用Xenonが登場したのは1920年代と古く、1927年に製造された真鍮鏡胴の個体を確認しています。ちなみに初期のモデルは口径比がF2(2.5cm F2)でしたので、トロニエ設計の4群6枚構成だったものと思われます。1930年代後半になると再設計され口径比がF1.5まで明るくなった真鍮鏡胴のモデル(シルバーカラーとブラックカラーがある)が登場しています。このモデルは戦後の1950年代にも生産が続きますが、1950年代半ばなると鏡胴素材がアルミに変更され軽量化が図られるとともに、Dマウントでも市場供給されるようになります。更に1960年代に入ると口径比がF1.4の新設計のモデルが登場し、ゼブラ柄とアルミ鏡胴の2種で市場供給されています。RXタイプが登場したのもこの頃からです。市場に流通している個体のシリアル番号から判断する限り、これらは遅く見積もっても1960年にはリリースされ、1969年までは確実に生産されていました。
  
参考文献
[1]「オールドレンズ×美少女」 上野由日路著  玄光社MOOK 2015年
[2] Australian Photography Nov. 1967, P28-P32 
[3] SCHNEIDER Movie Lenses for 16mm cinema cameras: シュナイダー公式カタログ
 
マウントアダプター選びにはご注意を
レンズのマウント部近くには絞りリングのクリック感を制御するボタンが付いています。赤いボタンを押し込むとクリックの「ある」状態となり、緑のボタンでは「なし」となります。このボタンがマウントアダプターの土手に干渉し装着できないケースが報告されており、アダプター製品との相性が問題になるようです。いい機会ですので、Cマウントレンズをマイクロフォーサーズ機に搭載するためのアダプター4製品、フジFXマウント機に搭載するためのアダプター2製品に対し、干渉の有無を確認してみました。
アダプターとレンズの相性問題:相性が悪いと左の写真のように、レンズをアダプターに取り付ける際にボタンがアダプターの土手部分に干渉してしまい、根本まで完全にねじ込むことはできません。右は相性の良いアダプターに搭載した場合の事例です。懐の部分が深いアダプターを用いれば干渉はおこりません

検証の為に集めたアダプター。ご協力いただいた皆様に感謝いたします

 
結論から申しますとフジ用のアダプターは懐の部分が広く設計されており、いずれも干渉が起こりませんでした。一方でマイクロフォーサーズ機用のアダプターでは4製品中2製品で干渉が発生しました。ちなみに干渉のない2製品のうち一方には構造上の欠陥があり、カメラへのマウント時にガタの出ることが知られています(上の写真の手前右側の商品)。
マイクロフォーサーズ機用のアダプターの中では下の写真の左側のアダプターが唯一推奨できる製品です。無限のフォーカスもほぼピッタリ(微かにオーバーインフ)でした。
左側の製品がレンズを干渉なく装着できるアダプターです。M42スクリューマウントにも対応しえとり、その分だけ懐が広くなっているのが特徴です。側面が1週にわたり凸凹しているデザインです。これによく似たアダプターが右側の製品ですが、こちらの製品はレンズのボタンに干渉してしまいました

よく似たデザインの製品が1つありますのでアダプターを探す際には注意してください(上の写真の右側)。アダプター側面にある凸凹パターンがそっくりですが、レンズのボタンが窪みの内側部分で干渉してしまいました。製品を見分けるポイントは側面の凸凹です。左の製品は凹凸パターンが1週にわたって刻まれていますが、右側の製品は文字が刻印されている部分だけ、凸凹パターンがありません。
 
撮影テスト
技術力の高いシュナイダーのレンズですから、やはりどう転んでも、よく写る製品であることに違いはありません。今回ご紹介するシネ・クセノンも中央はシャープでコントラストは良好、開放からプロフェッショナルユーザの期待に応えられるだけの充分な描写性能を実現しています。細部に目を向けるとCine Xenonのノーマルタイプには引き画では感知できなかった薄い滲みが出ており、水面下で繰り広げられている収差設計の駆け引きの一端が見え隠れしています。F1.4を実現することは簡単なことではなかったはずですが、球面収差を過剰補正の設定にすることで、解像力の向上が図られているものと思われます。RXタイプの方はというと、ノーマルタイプとは少し異なる描写設計である事がわかります。以下で写真作例を交えながら両タイプの違いを見てゆきましょう。
もともとは16mmフォーマットが定格のレンズです。マイクロフォーサーズ機では本来写真に写らない部分まで写ってしまいますので、画質的に四隅が破綻気味になるのは考えてみればごく当たり前のことです。ダークコーナー(いわゆるケラレ)も出ています。カメラの設定を変え、アスペクト比をシネマ用ワイドスクリーンと同じ16:9にすれば、ケラレはより小さく目立たなくなりますし、真四角が嫌いでなければ1:1にするとケラレは全くで出なくなります。やはり映画用なので私は16:9の設定で使うことにしました。この設定、案外とハマりますので、試した事の無い方にはオススメですよ!。
 
Cine Xenon 25mm F1.4 + Panasonic GH-1

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB:曇空; Aspect Ratio 16:9) 前ボケにフレアが乗り綺麗ですが、やや過剰補正の設定なのでしょう

F2.8 Panasonic GH-1(WB:曇空; Aspect Ratio 16:9)少し絞れば大変シャープで、とても高性能なレンズであることがわかります

F2.8 Panasonic GH-1 (WB:曇空 ; Aspect Ratio 16:9) ケラレはこんなもんです。許容できるかどうかは人によります

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB:曇空; Aspect Ratio 16:9) でも、雰囲気はよく出ます

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB:曇空; Aspect Ratio 16:9) 少しグルグルボケが出るのは、アリフレックス版モデルでも見られていた特徴です

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB:曇空; Aspect Ratio 16:9) コントラストは充分で癖のない自然な発色です
 
Cine Xenon RX 25mm F1.4 + Panasonic GH-1

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB:日光, Aspect Ratio 16:9)
F5.6 Panasonic GH-1(WB:日光)
F2.8 Panasonic GH-1(WB:日光, Aspect Ratio 16:9)
F4 Panasonic GH-1(WB:日光, Aspect Ratio 16:9)
F5.6  Panasonic GH-1(WB:日陰, Aspect Ratio 16:9) 絞るとケラレがだいぶ目立つようです

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB:日陰, Aspect Ratio 16:9)




 
ノーマルタイプとRXタイプの画質比較
最後に2つのモデルの画質を比較してみましょう。カメラはPanasonicのGH-1で写真のアスペクト比を16:9に設定して撮影しています。
Cine Xenonのノーマルモデル(上段)とRXモデル(下段):絞りは開放

2つのモデルの開放での撮影結果を比較すると、ノーマルモデル(上段)の方がピント部にフレアが出ており、より柔かい描写傾向であることがわかります。RXモデル(下段)は開放でもフレアの無いスッキリとした描写で、コントラストはより高く、その分だけ発色はコッテリと濃厚に出ています。背後のボケに目を向けると、RXモデルの方が見た目のボケ量は大きく癖のない整ったボケで、対するノーマルモデルはやや硬めのボケ味で若干ぐるぐるボケが出ています。ノーマルタイプは完全補正か若干の過剰補正のレンズによく見られる描写傾向であるのに対し、RXタイプは補正不足気味のレンズによく見られる描写傾向であることがわかります。少し絞ればノーマルタイプの方が解像力・コントラスト共にRXタイプを凌駕すると思われます。ケラれ具合に大きな差はありませんが、強いて言えばRXタイプの方がコントラストが強いせいか、四隅での暗角が暗く沈み込むように見え、ケラレが目立ちます。この2種のレンズの描写傾向の差はケルンのSWITAR AR/RXシリーズでも、ほぼ同等でした。本ブログで過去に扱っていますので合わせてご覧ください。
以下の画像でもノーマルタイプとRXタイプの比較を行っていますが傾向はやはり同じです。深く絞った際の画質に大きな差はありませんでしたので、開放の画質のみ提示します。


上の写真の中央を拡大したのが下の写真で、左がノーマルタイプ、右がRXタイプです。やはりノーマルタイプの方が滲みがあり、若干柔かく発色も淡い印象で、RXタイプの方がコントラストは高く開放でもスッキリしています。背後のボケはRXタイプのほうが大きく、前ボケはノーマルタイプの方が大きくボケるように見えます。両レンズの味付けの差は購入者に選択の余地を与えてくれる想定外の発見でした。皆さんはどちらのタイプを選択しますか?私は滲みがもう少し強く、絞った際の解像力に明確な差があれば、文句無しでノーマルタイプを選びますが、強いて言えば今回はRXタイプタイプかな・・・。

中央部の拡大写真。左がノーマルタイプで右がRXタイプの結果

2023/03/16

Schneider Kreutznach XENOTAR 60mm F2.8

プラナーやアンジェニューがそうであるように、このクセノタールにも昔から絶対的な信頼を置くプロカメラマンや熱狂的なファンがいます。今回はやや変則的な焦点距離60mmの試作モデルを手に入れましたので、ファンの皆様には大変申し訳なく思いますが、美味しい役をいただこうと思います。このレンズはGFXなど中判デジタルセンサーを搭載したカメラとの相性が良さそうです。

やっぱり凄い。シュナイダーの旗艦レンズ

Schneider Kreutznach XENOTAR 60mm F2.8

前群にガウス、後群にトポゴンの構成を配し、奇跡的にも両レンズの長所を引き出すことに成功した優良混血児をXenotar / Biometar型レンズと呼びます。この型のレンズ構成は戦前からCarl Zeissによる特許が存在していましたが、製品化され広く知られるようになったのは戦後になってからです。他のレンズ構成では得がたい優れた性能を示したことから一気に流行りだし、東西ドイツをはじめ各国の光学機器メーカーがこぞって同型製品を開発しました。この種のレンズに備わった優れた画角特性(周辺画質)と解像力の高さは当時のダブルガウス型レンズの性能を凌ぎ、テッサーも遠く及ばないと称賛された程です。ピント部の優れた質感表現に加え、広角から望遠まであらゆる画角設計に対応できる万能性、マクロ撮影への優れた適性、一眼レフカメラにも適合するなど多くの長所が見出され、テッサー、ゾナー、ガウスなど優れた先輩達がしのぎを削る中で大きな存在感を誇示したのです。

このレンズに対しては「設計はBIOMETARと一緒でしょ?」という言い分もありますが、実際の所は硝材の構成まで含め、全く同じということはありません。両レンズの設計は構成配置こそ同じですが、下図のようにXENOTARは前玉と後ろ玉の曲率がきつく、正エレメントの厚みもBIOMETARより薄めで、全体に丸みがあり、背丈も低く、ダルマさんみたいな形状です。気のせいもあるかと思いますが母親のトポゴンに近い形態で、BIOMETARとは異なる別物であるような印象をうけます。設計の基礎となったガウスタイプとトポゴンタイプの交配(折衷)において、トポゴンの形質を強く受け継いでいるのでしょうか?

トポゴンに備わった画角特性の優位性とガウスタイプの持つ優れた描写性能の美味しいところを鷲掴みし、写真の四隅まで力強い描写性能を実現したのが、このレンズの特徴です。

BIOMETAR(左)とXENOTAR(右)の構成図:上が被写体側で下がカメラの側

XenotarはドイツのSchneider社が中・大判カメラ用レンズとして1951年から35年以上もの長期に渡り生産していた主力製品で、ドイツ語ではクセノタール、英語ではクセノターと読みます。レンズ名の由来は原子番号54のキセノン原子、あるいはこの原子の語源となったギリシャ語の「未知の」を意味するXenosと言われています。Rolleiflex用に加え、Linhof-Technika用やSpeed Graphic用にSynchro-Compur/Pronter SVSシャッターモデルなどを生産、少なくとも9種類(75mm F3.5、80mm F2.8、80mmF2、100mm F2.8、100mm F4、105mm F2.8、135mm F3.5、150mm F2.8、210mm F2.8)が市場供給されました。今回ご紹介する60mm F2.8はシュナイダー社の台帳[1]に掲載があり、同社が1953年1月に4本のみ試作したうちの1本です。試作品はこの焦点距離以外にも、50mmF2.8が4本(1951年)40mmF2.8が5本(1952年)、85mm F2.8が3本(1955年)、105mm F3が4本(1957年)存在するようです。また、台帳には無い95mm F4の実物をeBayで確認したことがあり、台帳も完全ではないようです。レンズを設計したのは戦後のSchneider社で設計主任の座についたギュンター・クレムト(Günther Klemt)です。Xenotar F2.8とF3.5の特許をそれぞれ1952年と1954年に西ドイツで出願し、翌年には米国でも出願しています[2]。クレムトは他にも同社でSuper Angulonを設計(1957年)、また公式な資料は見つかりませんがKodak Retina用に開発された戦後型のXenonシリーズ(Xenon/Curtar Xenon/Longer Xenon)も彼が手がけたと言われていますが本当かな???[3]。

 
参考文献
[1] Großes Fabrikationsbuch, Schneider-Kreuznach band I-II, Hartmut Thiele 2008
[2] US Pat.2683398 / US Pat.2831395)
[3] A Lens Collector's Vade Mecum参照
Schneider XENOTAR 60mm F2.8: レンズは後からコンパーシャッターに搭載しました。購入時は未使用の状態で、前後群のレンズユニットがアーカイブ用に用意された特殊な鏡胴に収められていました。後玉のもの凄い湾曲が目を引きます


入手の経緯

レンズは2016年にドイツ版eBayにて個人の出品者から落札しました。「良好なコンディション」との触れ込みで、絞りの無い特殊な鏡胴に前群と後群が据え付けられた状態で売られていました。前・後群が16mm間隔であることや、取り付け部のネジ径がコンパー00番と同一の22.5mmでしたので、別途用意したシャッターユニットに据え付けた上でM42 to M39直進ヘリコイド(17-31mm)に搭載し、ライカL(L39)マウントレンズとして使用することにしました。レンズは試作品ですので、市場での決まった相場はありません。ちなみに、量産モデルの80mm F2.8はeBayにて現在10万円前後の値段で取引されています。

撮影テスト

ピント部の緻密な質感表現といい、なだらかなトーン描写といい、改めて評価の高いレンズであることを再確認しました。スッキリとしていてヌケが良く、被写体がそこに居るかのような臨場感や空気感の伝わってくる描写です。ボケはやや硬めでゴワゴワとしており、僅かに四隅が流れることがあります。今回の個体は逆光で円を描くような物凄いゴーストが出ました。避けたい場合にはフードを付ける必要があります。撮影にはレンズの性能を最大限に引き出すため、中判デジタルセンサー(44X33mm)を搭載したGFX100Sを用いました。全て開放絞りでの撮影結果です。

MODEL: Hughさん親子

CAMERA:FUJIFILM GFX100S

F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光, FS: NN) トーンはオールドレンズのまま、ピント部の質感表現の緻密さは現代レンズにも引けを取らないと言ったところでしょうか


F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光, FS: NN) もはやヤバい性能であること確定です
F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光, FS: NN) 背後のボケは硬め

F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光, FS: NN)
F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光, FS: NN)

2021/11/12

Schneider Kreuznach SL-ANGULON 35mm F2.8 (Rollei QBM)

 

QBMレンズの広角ツートップ  後編

Schkeider Kreutznach SL-ANGULON 35mm F2.8 

シュナイダー社はこの種のレトロフォーカス型広角レンズに対して通常CURTAGON(クルタゴン)のブランド名をつけるのですが、本レンズに対しては戦前から使用してきた伝統的な名称を襲名させました。理由はわかりませんがLeica用に同社が供給した広角レンズの名称にもSuper-Angulonが使用されており、EDIXAなど大衆機に供給したレンズとの差別化をはかっているという解釈が考えられます。ただし、ALPA用にはCURTAGONでレンズを供給していましたし、Rollei SL用にはシフトレンズのPC-CURTAGON 4/35もあり、こうした事実がこの解釈を支持しません(出だしから自爆でスミマセン)。そうなると、残るはRollei SL用に少し前の1970年から供給されていたCarl Zeiss DISTAGON 35mmとのレンズ名の被りに配慮したという解釈です。バックフォーカスを長くとる意味からきたDISTA(離れた/遠くの)+GON(角)に対し、焦点距離を短くとる意味からきたCURTO(短くする)+GON(角)では、まるで反対の事を言っているようで調子が狂います。妄想は尽きないので、このくらいにして本題に入りましょう。
SL-ANGULON(SLアンギュロン)はシュナイダー社が一眼レフカメラのRollei SL35/SL2000シリーズ用に1972年から1976年までの期間で市場供給したレトロフォーカスタイプの広角レンズです。設計は下図・右に示すような6群7枚構成で、CURTAGONをベースとする正常進化版です。初期のCURTAGONは5枚構成でしたが(下図・左、ALPA用に供給された改良版では1枚増えた6枚構成になり(下図・中央)、今回紹介する製品では更に1枚増えた7枚構成に到達、改良の度に設計がどんどん豪華になっています。また、前群の空気間隔が減り、光学系全体がコンパクトになっている様子もわかります。構成枚数が画質性能の決定要因にはなりませんが、設計自由度の多さに加え、時代的にはコンピュータ設計のアドバンテージを余すところなく発揮できましたし、シュナイダーの製造技術の高さを踏まえれば、本レンズが高性能であることは間違いないでしょう。やはり、QBMマウントで先行発売されていたZeiss-OberkochenのDISTAGON 2.8/35を強く意識した改良なのかもしれません。5枚玉のCURTAGONですら既にだいぶ高性能でしたので、今回取り上げる7枚玉の後継レンズはその遙か上を行く、ひたすら高性能なレンズに仕上がっているものとおもいます。オールドレンズとしては、ここがどうしても弱点になるわけですが。
 
 ★入手の経緯
eBayでの取引価格は200ユーロ(26000円)から250ユーロ(33000円)あたりでしょう。私が入手したのは2021年8月にフランクフルトのレンズセラーがドイツ版eBayに200ユーロで出品していた個体です。オークションの記載は「わずかにホコリの混入があるがカビ、クモリ等のない状態の良い中古品。ピントリング、絞りリングの動作は適正で、問題個所はない」とのこと。値切り交渉を受け付けていたので180ユーロでどうかと申し出たところ了解が得られ、送料込みの総額191ユーロで私のものとなりました。
Schneider-Kreuznach Rollei SL-ANGULON 35mm F2.8: フィルター径 49mm, 絞り F2.8-F22, 絞り羽, 重量(カタログ値) 206g, 製造期間 1972-1976年, 設計構成 7群6枚レトロフォーカス型, 最短撮影距離 0.3m


 
撮影テスト
前回の記事で紹介したQBMマウントのDISTAGONと比較される事の多いレンズですが、このレンズもDISTAGONに勝るとも劣らない、あるいはそれ以上にも思える高性能なレンズで、コンピュータ設計のアドバンテージを余すところなく発揮して作られたカラーフィルム時代の申し子とでもいいますか、現代レンズの直接の祖先みたいな性格のレンズです。開放からスッキリとヌケが良く、コントラストや発色は良好、解像力よりも解像感(シャープネス)に注力した線太な描写を特徴としています。かつてレトロフォーカス型レンズが課題としていたコマ収差に由来するフレアや滲みは、全くと言っていいほど見られません。ただし、歪みがやや目につく時があり、フロント部の2枚の凹凸レンズで補正していますが、効果は充分ではないように思えます。ボケは距離によらず安定していて、像は四隅まで整っています。光学系がコンパクトで前玉が鏡胴の少し奥まったところに引っ込んでいるためでしょうが、逆光にはかなり強いです。フードによるハレ切りが無くても、ゴーストやハレーションはほとんど出ませんでした。周辺光量が豊富な点やグルグルボケが出にくい点などはレトロフォーカスタイプならではの性質です。
 
 
F8 sony A7R2(WB:日光)逆光も平気です。ゴーストはほとんど出ません
F5.6 sony A'R2(WB:日光)このとおり歪みはやや残っています

F4 sony A7R2(WB:日光) とてもシャープで解像感の高いレンズです
F2.8(開放) sony A7R2(WB:日光) 開放でも全く滲まず!



F5.6 sony A7R2(wb:日光)
f4  SONY A7R2(WB:日光)
F2.8(開放) sony A7R2