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2018/10/22

試写記録:Schneider Kreuznach REOMAR 45mm F2.8 改Leica-L

F2.8(開放)sosny A7R2(WB:auto)  開放ではピント部全体を薄いフレアが纏い、柔らかい描写傾向となります

F4  sony A7R2(WB:auto) 1段絞ればフレアは消え、スッキリとヌケがよく、コントラストは素晴らしいレベルで





F5.6 sony A7R2(WB:日光)  やや青みののったクールトーンな色味で、美しく仕上がります

F2.8(開放) sony A7R2(WB:日光) 再び開放。やはりピント部を薄いベールの様なフレアを纏いますが、中央はしっかりと解像しており線の細い繊細な描写です

F4  sony A7R2(WB:日光)もう一度絞ったショット。シャープでスッキリと写るレンズです


Camera SONY A7R2
Lens Schneider Kreuznach REOMAR 45mm F2.8







知人に代わってオークションで購入(代行落札)したレンズが数日間だけ我が家に転がり込んできましたので、軽く試写結果をリポートしてみたいともいます。ドイツのSchneider(シュナイダー)社がKodak(コダック)社のRetinette IA/IBというレンジファインダーカメラに搭載する固定式レンズとして1958年頃から1966年まで供給したReomar(レオマー)です。Reomarにはこれ以前の旧式のRetinetteに搭載されたモデルもありますが、開放F値がF4.5やF3.5とやや暗かったり、焦点距離が50mmであったりと、少し仕様が異なります。
今回紹介するReomar(後期型)にはSchneider社製の個体に加え、Rodenstock(ローデンストック)社製の個体があります。大衆機のRetinettiがヒットしたことで生産供給が追い付かず、Rodenstock社にOEM供給を依頼したためだという話を誰かに教えてもらったことがありますが、確かな情報ではありません。どなたか信ぴょう性の高い情報をお持ちの方は教えていただけると幸いです。


レンズのデザインが面白く、シャッターの部分に人物の上半身のイラストや集合写真、風景などが刻まれています。一体何だろうとよく見てみると、何とシャッターユニットにヘリコイドを内蔵しておりピント合わせができます。レンズシャッターなので、これにはビックリ。レンズ構成は3群3枚のトリプレットです。
絞り羽 5枚構成, 絞り指標 F2.8-F22,  設計 3群3枚(トリプレット), フィルター径 29.5mm, PRONTOR 250Sシャターに搭載, ヘリコイド内蔵



オークションに出品されていた段階で既にカメラから取り出され、ライカLマウントに改造されていましたので、アダプターを介してSONY A7R2で使用することにしました。スッキリとヌケのよいクリアな写りで、開放からコントラストの高いレンズです。細部に目を向けると写真の中央は開放で線の細い繊細な描写となり、滲みをまといながらもしっかりと解像しています。1段絞れば滲みは消えシャープネスが向上、カリッとした解像感の強い仕上がりとなります。カラーバランスはやや青みが強くなる傾向があり、白が引き立つクールトーンな描写です。クリアでヌケの良い性質と相まって、とても清楚で品のある味付けになります。

2017/11/20

G.Rodenstock Doppel-Anastigmat HELIGONAL 6cm F5.2








歴史の淀みを漂う珍レンズ達 part.4
クアドラプレットを組み込んだ
幻の広角レンズ
G.Rodenstock Doppel-Anastigmat HELIGONAL 6cm F5.2(ドッペル・アナスティグマート ヘリゴナル)
レンズの設計構成は描写の性格を決める重要はファクターなので、構成が特異なレンズには俄然興味が沸いてくる。1905年に登場したドイツ・ミュンヘンの光学メーカー、ローデンストック(G. Rodenstock)社のヘリゴナル(HELIGONAL)は、まさにそんなマニア心をくすぐるレンズの一つであろう[1]。このレンズは現存する個体数が極めて少ないため、レンズフリーク達が探し求める幻のレンズとして指名手配されている[3]。私も以前から気になりマークしていたが、ある日、偶然にも入手できたのでレポートしてみたい。
ヘリゴナルは1905年に登場し、少なくとも1911年まではエストニア向けのカタログに掲載があったため確かに供給されていた[3]。レンズについての資料は極めて少なく、キングスレークの本[4]に簡単な記載がある以外には、専門誌に掲載されていたチラシがネットで見つかる程度である[5,6]。しかも、チラシにはスペックに関する詳細が何一つ記されておらず、推奨フォーマットはおろか搭載されていたカメラが何であったかなど不明な点が多い。文献[7]には広角レンズと記されており、35mm換算で焦点距離21mmから30mm辺りの推奨画角とあるが、根拠となる資料がないうえ、どうも使用してみた感触では、30mmから40mm(中判6x6フォーマットか645フォーマット)あたりではないかと考えるようになった。
レンズの設計は前群にダブレット(2枚玉)、後群にプロターリンゼ型のクアドラプレット(4枚玉)を配置した独特な構成形態をとっており(下図)、前群を外した後群だけの状態でも、口径比F12のアナスティグマートとして撮影に使用できる。黎明期の広角レンズには珍しく前・後群が非対称のため、発売当初は専門誌からかなり酷評された[1,3]。当時の広角レンズはまだ対称型が主流で時代が早すぎたのであろう。しかし、実際には開放から充分な画質が得られることから、評価は次第に良くなっていったそうである。
G.Rodenstock Heligonal F5.2(1905-1911)構成図: 文献[2]からのトレーススケッチ(見取り図)。全群は2枚のはり合わせによるダブレット、後群はCarl Zeiss(パウル・ルドルフ設計)が1895年に発売した4枚玉のプロターリンゼ型クアドラプレットである




ヘリゴナルのような接合面を多く持つ密着タイプの設計構成はこの時代以前の主流であったが、レンズ設計の軸足はテッサーやダイアリートなど明るいレンズを設計するのに有利な分離タイプにシフトしてゆき、このレンズも短い期間の供給のみで、1912年の同社の輸出カタログでは姿を消している[8]。第一次世界大戦後にも同社から全く同名のレンズが発売され1925年頃まで供給されていたが、そちらはよくあるラピッドレクチリニアタイプのポートレート用レンズで、海外のオークションにも度々登場する[3]。

入手の経緯
今回のモデル(広角ヘリゴナル)を購入する場合、ポートレート用ヘリゴナルとの識別が大きなポイントになるが、ネットオークションでの識別は容易なことではない。唯一のヒントはローデンストック社のカタログに掲載されていたイラスト[3]であろう。これをみて鏡胴のデザインで判断することと、鏡胴側面に記載されたF5.2の口径比のみが確かな糸口となる。同社の製品台帳には1934年よりも前の情報が欠落しているため、シリアル番号から製品個体の製造年を割り出す事はできない[9]。
ある日、日本のヤフー・オークションに広角ヘリゴナルと思われる個体が登場。みるとシリアル番号が8000番台と極めて初期のレンズであったので、期待は一気に高まった。ポートレート用ヘリゴナルとの違いを知るマニアは日本にいくらもいないので、これは千載一遇のチャンスと入札、レンズは3万円ちょっとで私のものとなった。届いたレンズが広角ヘリゴナルであることを判断するには現物の後群がクアドラプレットである事を確認するだけだ。「レンズ神よ。これまで何度も幸運を分け与えてくれたが、今もう一度チャンスを分け与えたまえ~」。後群を覗き込むと思わず溜め息が出た。暗い反射が3個に明るい反射が2個のクアドラプレット。紛れもなく広角ヘリゴナルであった。
G.Rodenstock  Doppel-Anastigmat Heligonal 60mm F5.2: 絞り羽 10枚構成, 構成2群6枚ヘリゴナル型, 絞り 5.2/6.3/7.7/9/11/16/22/31/?, フィルターネジなし



参考文献
[1]Johnson, George Lindsay, Photographic Optics and Colour Photography: Including the Camera, Kinematograph, Optical Lantern, and the Theory and Practice of Image Formation., New York: D. Van Nostrand Company(1909)
[2]  構成図の掲載雑誌:Forsner's Fotografiska Magasin, Priskurant I, 1910-11, Stockholm Örebro
[3] camera-wiki, HELIGONAL
[4] 「写真レンズの歴史」キングスレーク著 朝日ソノラマ
[5] Rodenstock社の広告(1906年) フランス語(LINK)
[6] "LES ANASTIGMAT RODENSTOCK sont superieurs, Representant"  L.CAVALIER, PARIS (1908年)フランス語(LINK
[7] Lens Collectors Vade Mecum, 3rd edition
[8] G. Rodenstock Lenses of Quality Catalog 1912 for USA
[9] Rodenstockの台帳には1934年よりも古い記録がないため、いったい何本のレンズが作られたかなど、このレンズに関する確かなデータを得ることはできない

撮影テスト1
中判 6x9 format (PaceMaker SPEED GRAPHIC)
文献[7]にはレンズのイメージサークルが中判6x9フォーマットを余裕でカバーできるとあったものの、四隅の光量落ちが目立つ結果となった。ちなみにレンズを中判6x9フォーマットで用いた場合の撮影画角は、35mm判における焦点距離26mm相当とかなり広い。光量落ちを狙う場合はこれでもよいが、避けたいならば6x6よりも小さな撮影フォーマットがよいだろう。
開放から滲みやフレアは見られず堅実な写りで歪みもたいへん小さい。ボケは安定しており、グルグルボケや放射ボケなどは見られない。
F7.7, 銀塩カラーネガ6x9 format(Kodak Portra 400/彩度・減) 四隅の光量落ちがやや強い。好きか嫌いかと言われれば勿論すきだ
F7.7, 銀塩カラーネガ6x9 format(Kodak Portra 400)
F7.7, 銀塩カラーネガ6x9 format(Kodak Portra 400/彩度・減) 雰囲気を出すためシャッタースピードを上げて露出を少し落とし、光量落ちを目立つようにしている。また、フォトショップで彩度を少し下げている。中心は緻密に描写されている
F5.2(開放), 銀塩カラーネガ 中判6x9 format(Kodak Portra 400) 今度は露出をあげ、開放で撮影した。フレアは少なく、歪みは小さい








撮影テスト2
中判6x7フォーマット (PaceMaker SPEED GRAPHIC)
四隅に顕著な暗角が出たため、今度は中判6x7フォーマットで撮影してみた。依然として光量落ちの目立つ撮影結果であるが、かなり改善されている。
F8, 銀塩カラーネガ 中判6x7format(FUJIFILM PRO160NS)  太陽を入れたド逆光。この時代のレンズにしては、なかなかの逆光耐性で濁りはそれほどきつくない


F8, 銀塩カラーネガ 中判6x7 format(FUJI PRO160NS) 階調描写はドッペルプロタ―によく似ており、この時代のBテッサーF6.3に比べても明らかに軟らかい

F8, 銀塩カラーネガ 中判6x7 format(FUJI PRO160NS) まだ四隅の暗角はきつめだ。6x6でも広いということかな

F5.2(開放)銀塩カラーネガ 中判6x7format(FUJIFILM PRO160NS)  ボケ味は素直だ。
撮影テスト3
フルサイズフォーマット
CAMERA:  SONY A7RII
6x7フォーマットでも暗角は目立っていたので、645フォーマットあたりがジャストサイズのように思えてきた。最後にフルサイズフォーマットでの作例もみてみよう。
写りは中判カメラの時よりも明らかに軟調。開放から滲みやフレアなどはなく、少し淡いあっさりとした発色傾向とともに軽やかな心地よいトーンに仕上がる。フルサイズフォーマットでも画質的に無理はない。
F7.7, sony A7R2(WB:晴天) 発色は淡く、軽い仕上がりになる

F5.2(開放)  sony A7R2(WB:晴天, ISO1000) 35mmフォーマットでも無理のない撮影結果が得られる

F5.2(開放)  sony A7R2(WB:晴天, ISO1000)


F7.7, sony A7R2(WB:晴天、ISO1000) 逆光も平気






F7.7, sony A7R2(WB:晴天)

F11, sony A7R2(WB:晴天)

2015/07/31

Rodenstock Heligon 80mm F2.8 (Graflex XL)


知人からGraflex用のRodenstock Heligon(ローデンストック・ヘリゴン) 80mm F2.8を半日だけお借りし試写させてもらうことができたので軽く取り上げることにした。このレンズは2012年にeBayを介して写真機材専門業者から290ドルで入手したとのことだ。

 駆け足プチレポート 3 G.Rodenstock Heligon 80mm F2.8 (Graflex XL)
米国Graflex社が1965年から1973年にかけて生産した中判カメラのGraflex XLにはPlanarとHeligonの2本の交換レンズが用意された。勘の良い方は「オヤッ?」と思う事であろう。定番のXenotarではなくHeligonだからである。Xenotarと言えば質感を細密に写しとるシャープな描写で人気を博しRolleiflexやLinhofなどに供給され、Planarと双璧をなした名レンズである。ところが、Graflex XLではHeligonが選ばれた。理由を探るためGraflex XLの1967年のカタログを当たると「有名なZeiss Planarか新製品のRodenstock Heligonが選択可能だ。1本選ぶなら先ずは求めやすい価格で驚くほど高い性能を備えたHeligonをおすすめする」と当時の新型レンズHeligonを大きくとりあげ絶賛している。かつてプレスカメラ界の雄とまで言われたGraflex社が競合他社を相手に巻き返しをはかるには、独自色を強く打ち出しRolleiflaxやLinhof、Hasselbladに流れたユーザー達を呼び戻さなければならなかった。Rodenstockを採用したのは新型レンズの導入にその命運をかけたからではないだろうか。何だかとても良く写りそうな気配が漂うレンズである。
重量(実測)200g, F2.8-F32, 構成 6枚(Graflex xl catalog in 1967参照), 最短撮影距離 2.5ft (75cm), 推奨イメージフォーマット 中判6x7cm, フィルター径 40.5mm, 絞り羽 5枚構成, シャッター XL Compur (B,1-1/500s), レンズ名はギリシャ語の「太陽」を意味するHeliosに「角」を表すGonを組み合わせたのが由来とされている


撮影テスト
開放から破綻なくキッチリと写り、滲みやフレアはほぼみられない。コントラストが高くシャープでヌケの良いレンズである。シャープネスとコントラストはグラフレックス版Planarよりも高い印象をうける。発色は鮮やかで力強くカラーバランスも悪くないが、グリーンのハイライト域に粘りがなく黄色に転びやすい性質は以前取り上げたHeligon 50mm F1.9にもみられる共通の傾向である。解像力は良好であるが、背後のボケは開放でやや硬くザワザワと煩くなることがある。これは解像力を追求したことによる反動であろう。背後のボケがブワーッと力強く拡散し、前ボケが柔らかくとろけるようにみえるあたりは、いかにも大口径のダブルガウス型レンズにみられるボケ味であるが、この性質が中判用レンズでも観られたのはある意味で斬新であった。レンズ構成についてはGraflex XLの1967年のカタログに6枚という記載があるので恐らくダブルガウスであろう。今回は時間の関係により35mmフォーマットのみでの撮影だったので、周辺部の画質やグルグルボケについては評価できない。
F8 Nikon D3 digital,AWB: ブワ~ッと勢いよく拡散する背後のボケと、とろけるような前ボケ。ダブルガウス型レンズがなつかしい。発色は鮮やかで力強い
F4  Nikon D3 digital,AWB: スッキリとヌケが良くコントラストも良好である
F2.8(開放) Nikon D3(AWB): 開放では背後のボケがやや硬くザワザワと騒がしくなるが、ピント部はシャープで高解像だ
F2.8(開放) Nikon D3:解像力が十分にあり、開放でもキッチリと写るレンズであることがわかる

2011/09/14

Rodenstock Eurygon 30mm F2.8(M42) Rev.2 改訂版


クールトーンな西独のレンズ達 3:
無骨なデザインを纏った
青の伝道
私が初めて手に入れたオールドレンズは焦点距離35mmのFlektogonとAngenieuxで、どちらも温調な発色特性を持ち味とするレンズであった。ところが次に手に入れた本レンズの描写は、これらとはまるで異なっていた。はじめて試写した時の印象を今でもはっきりと覚えている。レンズをデジカメにマウントし恵比寿や代官山の町をぶらつきながら家族の姿を撮っていたところ、写るもの全てがクールトーンであっさりと上品に見え、「このレンズには何かあるな」という強い感触を得た。人の肌はやや白っぽく、地面やビルのコンクリートがやや青っぽく変色するのだ。それはツァイスのコッテリとした温調で華やかな色彩とは明らかに異なり、なおかつコントラストが低い事に由来する淡白な発色傾向とも異なっていた。その後、SchneiderやSchachtなど他の西独製レンズにおいても同様の性質があることに気付き、この種のレンズに対する興味はますます高まっていった。ある時、地元横浜市でオールドレンズの改造を手掛けるNOCTO工房でSchneiderのレンズが持つ青の魅力(シュナイダーブルー)の事を聞かされ、西独レンズ達のクールな発色特性に対する認識は揺るぎないものとなった。

今回再び紹介するEurygon(オイリゴン)30mm/F2.8はドイツ・ミュンヘンに拠点を置くG.Rodenstock(ローデンストック)社が35mm一眼レフカメラ用として少量だけ生産した焦点距離30mmの広角レンズだ。レンズ名は「広い」を意味するギリシャ語のEurysと、「角」を意味するGonを組み合わせたのが由来で、そのまま「広角」という意味になる。Rodenstockといえば1877年に行商人のヨーゼフ・ローデンストックが起業し、眼鏡造りで名を馳せた光学機器メーカーである。カメラ用レンズも1890年代に生産を始め、2000年までプロ向けの大判用レンズを造り続けていた。現在は企業活動を眼鏡の生産のみに一本化することで写真用レンズの生産から撤退している。Rodenstock社の製造台帳によるとM42マウントやEXAKTAマウントのEurygonが生産されたのは1956年から1960年にかけてであり、2本のマスターレンズに加えExaktaマウント用が1300本、M42マウント用が1400本製造されたと記録されている。光学系は6群7枚のレトロフォーカス型で、対応マウントは少なくともM42、EXAKTA、DKL(デッケル)の3種が存在していた。鏡胴の造りが良く、ラッパ型の独特な形状と無骨なゼブラ柄のデザインには強いインパクトを受ける。
Eurygonのレンズ構成は6群7枚のレトロフォーカス型である。上記の構成図は1959年の米国向けパンフレットに掲載されていた図をトレースしたものだ。1939年に生みだされた重金属を含む新種ガラスは青の短波長光に対する透過が悪いという欠点を持っており、青と黄のカラーバランスに深刻な影響を及ぼした。この欠点を補うためにアンバー系のコーティングが導入されカラーバランスの適正化が図られた(カメラマンのための写真レンズの科学:吉田 正太郎著)。硝材とコーティングの連携によるカラーバランスの適正化は、どのような撮影条件においても破たんなく安定でいられるのだろうか。おそらく、このあたりにクールトン軍団のレンズ達が持つ個性豊かな色彩の秘密が隠されているのだろう。
最短撮影距離 0.4m, 重量 305g, フィルター径 58mm, 焦点距離 30mm, 開放F値 F2.8, 絞り機構は手動。焦点距離の異なるゼブラ柄の姉妹品には50mm/F1.9の標準レンズHeligon(4群6枚)、100mm/F4(4群5枚)、135mm/F4(4群5枚)、180mm/F4.5(5枚構成)の3種の望遠レンズRotelar(ロテラー)、135mm/F3.5のYonar(イロナー)などがある。1959年当時の米国版カタログとドイツ版カタログには各レンズの価格が掲載されており、Eurygonが179.5ドル(425マルク)、Heligonが169.5ドル(405マルク)、Rotelar3種 144.5/144.5/139.5ドル(340/375/355マルク)、Yonar 285マルクと記されている。レンズの構成枚数から考えればEurygonの製造コストが一番高く、そのぶん値段も高かったのであろう
入手の経緯
私が以前に所持していたEurygonは一度売却してしまったので、今回のEurygonは買い戻した品となる。本品は2009年にeBayを介して米国大手中古カメラ業者のケビンカメラから入手した。商品ははじめ756ドルの即決価格で売り出されていたが、値切り交渉を持ちかけたところ680ドルで私のものとなった。商品の解説はMINTYで状態の良いレンズとの触れ込みだったが、届いた商品はマウント部にガタがあった。仕方なく修理に出して改善したのはいいが、最近になって後玉の外周部に薄いカビの除去跡を発見(カビではなく確かなカビの除去跡)、それを見た瞬間、思わず「しまった!見なければよかった。」とぼやいてしまった。気付かなければ幸せなことだってある。ケビンカメラからは前にも一度、明らかにクモリのあるレンズをMINTYとの触れ込みで購入したことがあった。米国の超有名店とはいえ説明不足は明らかで、この時以来、同店に対する私の信頼はガタ落ちである。なお、カビの除去跡は描写に全く影響の出ないレベルであった。私はコレクターではないので、手に入れたレンズを手放す日もそう遠くないが、このレンズを再び手放すとなれば安くなってしまうんだろうな~。やっぱり売却は無理か・・・。

撮影テスト
西独クールトーン軍団の描写に共通する独特の色彩については、以前から繰り返し紹介してきた。日光照度の高い撮影条件で青とその補色関係にある黄色のバランスが不安定化し、シャドー部が青、ハイライト部が黄色に引っ張られることで素晴らしい色彩が生みだされる。また、やや照度低い状況においても、白い壁や灰色のコンクリートが青に引っ張られて変色することもあり、これらは条件次第でさわやかな青にもなれば、病的な青にもなる。また、緑が照度に応じて青緑に転んだり黄緑に転んだり、コロコロと不連続に変色するのも面白い。Eurygonもこの種のレンズの性質を備えており、簡単に言ってしまえば制御不能なのだ。しかし、辛抱強く付き合っているといいこともある。このレンズでしか撮れない不思議な色彩に出会う事ができる。
Eurygonの撮影結果にはピント面に解像力があり、近接撮影でも開放絞りからスッキリと写る。周辺画質に歪みや像の流れなど大きな破たんはなく、画質の均一さという意味では良くまとまった優秀なレンズといえる。近接撮影時に開放絞りでグルグルボケが発生するが、1段絞れば治まり、2線ボケの無い穏やかで綺麗なボケ味となる。深く絞り込んでもシャドー部がカリカリと焦げ付くことは無く、階調は暗部に向かって緩やかに変化する。焦点距離30mmのレンズともなれば深い被写界深度を利用したパンフォーカス撮影も可能だ。以下では銀塩撮影(ネガフィルム)とデジタル撮影(Sony NEX-5)による作例を示す。
F4 銀塩撮影 FujiColor Reala 100(ISO100): ブルドックの前足や体毛、瞳などが青味がかっている。不思議な色彩が出ている
F2.8 Fujicolor SP400(ISO400): 葉の緑の色が照度に応じて不連続に変化する。日向では黄色に転び、日陰では青に転んでいる

F4 銀塩撮影 FujiColor Reala100(ISO100):   地面のコンクリートや背後のいろいろなものが青味を帯びている
F4 銀塩撮影 FujiColor  Reala100(ISO100): このように近接撮影でもスッキリとシャープに撮れる。多くの作例で画面全体に青の薄いベールがかかったような不思議な色が出る
F5.6 銀塩撮影 FujiColor Reala100(ISO100): そうかと思えば、この作例のようにノーマルな発色の時もある。緑の背景が絵のように綺麗だ
F4 NEX-5 digital, AWB: 写真用レンズとは球面ガラスを使って光線を屈折させ平面像を得る変換機構だ。この変換による画質の破たん(収差)はEurygonのような広い画角を持つレンズになるほど深刻であり、像が流れたり歪んだりと周辺画質に大きな影響が表れる。しかし、このレンズの場合はよく補正されており大きな破たんはないようだ
★撮影機材
銀塩撮影 Canon EOS kiss + M42-EOS adapter(中国製) + 八仙堂広角レンズ用メタルフード
デジタル撮影 Sony NEX-5 +kipon M42-NEX adapter + 八仙堂広角レンズ用メタルフード

Schneiderのレンズにおいて見出されている独特な青の発色はシュナイダーブルー(Schneider Blue)と呼ばれることがある。オールドレンズの描写力が持つ、現代のレンズにはない「味」を明確に指した表現だ。こういう表現が増えてゆけば、オールドレンズに対する価値認識は今よりもずっと向上するのであろう。EurygonやHeligonのようなRodenstockのレンズも、シュナイダーのレンズに良く似た発色傾向を示し、素晴らしい色彩を生み出すことができる。近いうちにシュナイダーブルーの発案者であるNOCTOの岡村代表がシュナイダー製レンズの描写に関する特集記事を発表される予定なので、是非ご覧いただきたい。

2010/10/13

Rodenstock Heligon 50mm/F1.9 (M42) Rev.2 改訂版
ローデンストック ヘリゴン


個性豊かな色彩を見せる幻のレンズ

  今回再び紹介するHeligon(ヘリゴン)50mm/F1.9はドイツ・ミュンヘンに拠点を置く光学機器メーカーのRodenstock(ローデンストック)社が1959年に35mm一眼レフカメラ用として極めて少数だけ生産した単焦点標準レンズだ。光学系は4群6枚の非対称ガウス型でM42、EXAKTA、DKL(デッケル)、Leica-L(35mm/F2.8)、Agfa(50mm/F2)、Retina(50mm/F2)と6種のマウントに対応している。無骨なデザインと個性的な描写力を特徴とし、知る人ぞ知る珍品としてオールドレンズ・コレクターの間では国際指名手配されている。焦点距離の異なる姉妹品には30mm/F2.8と35mm/F4の広角レンズEURYGON(オイリゴン)、100mm/F4、135mm/F4、180mm/F4.5の望遠レンズRotelar(ロテラー)、135mm/F3.5のYonar(イロナー)、120mm/F4.5のソフトフォーカスレンズImagon(イマゴン)などがある。ローデンストックのカメラ部門は主にプロフェッショナル向けの大判用レンズを生産していたため地味な存在であるが、実力やブランド力はライカ、ツァイス、シュナイダーらと同等であり、優れた製品を世に送り出してきたヒットメーカーである。
ローデンストック社(G.Rodenstoc社)は1877年に行商人のヨーゼフ・ローデンストックがドイツのヴュルツヴルクに設立し、主にバロメーターや精密機器、測定器、眼鏡レンズやフレームを生産していた。1880年に眼鏡レンズの周縁に黒い溝切りを施して煩わしい反射を抑えた「ディアフラグマ・レンズ」が大ヒットすると欧州やロシアへの輸出が増え、1883年には本拠地をミュンヘンに移転、1893年に新工場を建てるなど事業規模を拡大させていった。また、この頃から製造を開始したカメラ用レンズの売れ行きが輸出を中心に好調で、これによって生まれた利益は当時の事業全体の拡大を下支えしていた。しかし、後の世界恐慌では輸出が急減し4年で62%も売り上げを落とすなど経営が悪化し、銀行からの圧力やナチスドイツ政府による乗っ取りの危機に直面するなど企業としての存続が危ぶまれた。1930年代中期から再びカメラ用レンズの生産が好調となり、この頃にはクラロヴィッドI型・II型という初の自社製カメラも造られている。しかし、レンズの受注先からの圧力により間もなくカメラの製造は停止に追い込まれてしまった。第二次世界大戦に入ると国防省による厳しい監視のもと自由な事業活動が制限され、同社が生産できたものは戦車の照準器や潜望鏡、眼鏡レンズのみに限られた。終戦時にはミュンヘン本社の施設が40%も破壊されていたが、そのわずか4週間後にアメリカ占領地での唯一の大型工場として眼鏡製造の再スタートを果たすと、経営状態は急速に改善していった。1950年代に当時としては革新的だった有名人を起用した広報戦略が効果をあげ、主力商品の眼鏡が大ヒット、終戦直後に200人程度であった社員の数は僅か10年程で10倍以上にも膨れ上がった。今回紹介するヘリゴンはRodenstock社が企業体としての復興を遂げ、絶頂期を迎えていた1956年から1959年にかけて製造された製品である。Rodenstockの台帳を見るとF1.9のHeligonはExaktaマウント用が160本、M42マウント用が3本のマスターレンズを含め合計1039本製造された。かなりレアなレンズである。
その後も同社は大判カメラ用レンズの生産を続けたが、2000年には写真用レンズの開発・製造を行う光学機器部門をLinos AG社(ドイツ・ゲッチンゲン市)に売却し社名もRodenstock GmbHに変更、製造を眼鏡のみに一本化することで、写真用レンズの生産から撤退している。

米国版のカタログに掲載されていたHeligon 1.9/50(4群6枚)の光学系をトレースしたもの
焦点距離/絞り値:50mm/F1.9-F16、フィルター径:52mm、最短撮影距離:0.6m、重量(実測):260g   光学系は4群6枚で非対称ガウス型。絞り羽は9枚構成。マウント部には絞り連動ピン、マウント部近くにレリーズ穴がついている。絞り機構は半自動絞り。本品はM42マウント仕様となる。コーティングの色は紫。レンズ名はギリシャ語の「太陽」を意味するHeliosに「角」を表すGonを組み合わせたのが由来である。米国版カタログおよびドイツ版カタログによると、1959年当時の価格はEurygon 2.8/30が179.5ドル(425マルク)、Heligon 1.9/50が169.5ドル(405マルク)、Rotelar3種(4/100, 4/135, 4.5/180)が144.5/144.5/139.5ドル(340/375/355マルク)、Yonarが285マルクであった

Heligonの後玉ガード外し: Heligonにはドーム状の大きなレンズガードがついており、このままの状態で使用するとEOS 5Dなどのカメラではガードがミラーに干渉してしまう。しかし、この後玉ガードはネジ込まれているだけなので手で回して外すことができる。いったん外してしまえば後玉そのものには出っ張りがないため、EOS系を含むあらゆるカメラで後玉がミラーに干渉する心配はない

 

★入手の経緯

本品は2009年6月にeBayを介して米国のビンテージカメラ専門業者ゴー・ケビン・カメラから即決価格610㌦(6万円弱)で落札購入した。商品の解説にはMinty/Rare (98% Mint)とあり、届いた商品はまさに新品同様の極上品であった。海外のあるレンズ収集家はブログ上で、M42マウントのHeligonについて「eBayで7年間も購入の機会を待ったが出品されたのはたったの2件だった」と嘆いている。本品は1200本程度製造されたレンズなので、もう少し流通してもよいはずであるが、コレクターが手放さないためなのか市場に出回ることは殆ど無い。中古相場は不明だが、2011年12月に状態の良い品がeBay出品された際には1800㌦の値がついていた。また、2012年4月にヤフオクで「良品」が出品された際には、何と189000円で落札されていた。うーっ、凄い値段。私のレンズも売ってしまおうか悩む。

★撮影テスト

Heligonを入手し1年4カ月が経つが、使用する度に個性豊かなレンズであることを実感するようになってきた。本レンズは発色に際立った特徴があり、光の様子で色彩がコロコロと変わる面白さがある。発色についてはシャドー部の青みが強く、したがってその補色にあたる黄色が薄めになる点を押さえておけば、このレンズの性質を把握できる。赤のバランスは明暗に依らず適度だがHeligonを介すとよりビビットに表現される。赤と青の間の紫系中間色には抜群の再現性があるが、青と黄色の間の緑系中間色はカラーバランスが不安定でハイライト部では黄緑、シャドー部では青緑に転ぶなど全く異なる色彩を示す。これら紫系と緑系の2種の中間色は寒暖のどちらにも感じられる特別な色(「中性色」とも呼ばれる)であり色調全体に大きな影響を与える。Heligonのコロコロと変わる不思議な色彩は、明暗の変化に対する青の不安定性に由来していると考えられる。実写ではシャドー部でコンクリートなどの白や灰色基調の色が青く色づいて見える。また、晴天時の日陰や、日没後の色彩が全体的にクールトーン調(冷黒調)に表現される。これに対し、ハイライト部では黄色が強まり、植物等のグリーンや黄緑色に変色する。まるで水彩画で描いたかのような不思議な色彩が生みだされる。コントラストは決して高いとは言えないが、中間階調が豊かで階調変化がなだらかなため、微妙なトーンの表現を得意とする。また黄系統を除けば、全般に難しい中間色の色再現性が際立って優れているのも特徴だ。本レンズは中間階調が豊富なことからも、光の内面反射を効果的に利用した設計になっている。内面反射光の中でも青色成分はレンズ内に蓄積しやすく、これが過度に進行するとフレアや青かぶりとなってしまうが、青の内面反射を限定的に取り入れることで個性豊かな色彩を実現しているのではないかと思われる。

★日没間際と曇天下でのテスト・・・光量の少ない条件下では全体的に青にが増しクールトーン調に仕上がる

F1.9 銀塩(Kodak Gold100) 曇り空の下での撮影結果。青みがやや強くクールトーン調の仕上がりだ
F1.9 銀塩(UXi-200): 日没間際でのショット。開放絞りではボケ癖に注意したほうがよい。背景の端部にガサガサしたものがあると結像の流れが目立つ
F2.8 銀塩(UXi-200) 1段絞ればボケ癖については問題ない。端部までよく整った柔らかいボケ味だ.
F5.6 銀塩(FujiColor PN400N) こちらは最短撮影距離でのショット

 

 ★光量の豊富な晴天下でのテスト撮影・・・シャドー部には青みがのこりハイライト部は独特な淡い発色となる。全体として実に個性的な色彩が生みだされる

F8 銀塩(Fujicolor S-400)光量が増えると様子が一変し、緑系中間色が黄色に転んでいる。独特な発色だ
上段 f2.4 銀塩(Fujicolor S-400) / 下段 F2.8 銀塩(Fujicolor PN400N) シャドー部の青みが強く、ハイライト部の黄色が薄め
上段 F2.8 銀塩(UXi-200)/ 中段F5.6銀塩(UXi-200) / 下段F2.8 銀塩(PN400N): クールなシャドーと黄色に転ぶハイライトにより、このレンズの個性が最大限引き出され、とても不思議な色彩空間を生む。アウトフォーカス部の緑が不安定な色彩で面白い
F2.8 銀塩(Fujicolor PN400N) 光の明暗の変化に伴い緑のカラーバランスが不安定に変化している。暗部では青みがかり、明部は黄色化。また、木々の間をすり抜けて入ってくる少し暗めの玉ボケが薄らと青く色づいている。中央の花は白に近い微妙なピンクであるが、しっかりと現物に近い色を再現している

★撮影機材

PENTAX MZ-3 + Rodenstock Heligon 50mm/F1.9 (M42 mount) + minolta metal hood