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2020/01/01

LOMO OKC11-35-1(OKS11-35-1) 35mm F2 for KONVAS


  

LOMOの映画用レンズ part 8
ロモの第三世代1980's、
焦点距離35mmのシネレンズは
シャープネスとコントラストが向上
LOMO OKC11-35-1 35mm F2
LOMOは数多くの映画用レンズを世に送り出しました。中でも焦点距離35mmのモデルはバリエーションが豊富にあり、改良の余地がたくさん残っていたようです。今回取り上げるOKC11-35-1LOMO1981年に発売した焦点距離35mm11作目にあたるシネレンズで、映画用カメラのKONVAS-1シリーズ (OCT-18マウント)やKONVAS-2シリーズ (OCT-19マウント)、KINOR-35シリーズ (OCT-19マウント)に搭載する交換レンズとして市場供給されました[1]KONVASのシネレンズとしてはこれまで紹介してきたOKC1-35-1OKC8-35-1があり、前者から後者への改良では設計構成が見直され、中心解像力を落とす代わりに像面特性の改善が図られました。本モデルでは設計構成が再び見直され、中心部の画質を重視した初代OKC1-35-1に近い描写設計に戻っています。シャープネスとコントラストは大幅に向上し、歪みの補正が悪化している点を除けば現代のレンズに近い優れた描写性能です。本モデルからはマルチコーティングが採用され、カラーフィルムの時代にふさわしい鮮やかな発色が得られるようにもなっています。
レンズの設計は下図のような逆ユニライトタイプの後玉を2分割した独特な構成形態で、他に例を知りません[2]。個々のレンズエレメントが厚めにデザインされており、各面の曲率を緩めた収差を生みにくい構造になっています。像面の平坦さは前モデルのOKC8-35-1にはかないませんが、シャープネスとコントラストは先代のどのモデルよりも良好で、初代OKC1-35-1が課題としていた周辺部の光量不足も改善されています[1]。このレンズがいつまで生産されていたのか確かな情報はありませんが、市場に流通している製品の中からは1992年に製造された個体が見つかっています。

OKC11-35-1の構成図:文献[2]からのトレーススケッチ。左が被写体側で右がカメラの側。設計構成は5群6枚で逆ユニライト型からの発展型です


参考文献・資料
[1] 収差図(LOMO) RedUser.net : ロシアUSSRレンズ サバイバルガイド
[2] LOMOのテクニカルシート(1981年)
  
入手の経緯
eBayでの現在の取引相場は350ドル程度かそれ以上です。数年前までは300ドルを切る値段でも買えましたがOKCシリーズは35mm/50mm/75mmの各モデルが近年ジワジワと値上がり傾向にあります。
今回紹介する羽根つきのモデル(OCT-18マウント)は少し前の201712月にウクライナのレンズセラーがeBay329ドル(フリーシッピング)で出品していた個体です。値切り交渉を受け付けていたので300ドルで交渉したところ自分のものとなりました。オークションの記載は「MINT CONDITION(美品)。絞り羽に油染みはない。絞りリングとフォーカスリングはスムーズでソフトに動く。ガラスはクリーンで、カビやキズはない。レンズはコリメーターでチェックしており問題は見当たらない。レンズフードとキャップが付いている」とのこと。綺麗な個体が届きました。

重量(実測):239g(フード無しでは222g), 絞り羽:10枚構成, 最短撮影距離:1m, 絞り:F2(T2.3)-F16, 設計構成:5群6枚, OCT-18マウント

  
レンズブロックのモデルは20188月にロシアのイーベイセラーから253ドル+送料の即決価格で落札しました。オークションの記載は「ガラスはクリアでキズ、クモリ、カビ、バルサム剥離、歪み、拭き傷などはなく、コーティングも問題ない。絞りの動きは適正でフォーカスリングや絞りリングはスムーズに動く。レンズキャップが付属する」とのこと。こちらも綺麗なレンズが届きました。
 
重量(実測): 110g, 絞り羽: 10枚構成, 設計構成: 5群6枚, マウント: M36x0.75

 

デジタル一眼カメラへの搭載例
回のブログエントリーではOCT-18マウントのレンズをフジフィルムのFXマウントに変換する事例を紹介します。下の写真をご覧ください。必要な部品はすべて市販品です。レンズによっては後玉の出っ張りに配慮しヘリコイドをM46-M42に変えなくてはなりませんが(←前ブログエントリー参照)、OKC11-35-1は出っ張りが少なくM42-M39ヘリコイドでも間口への干渉がありませんのて、フジフィルムのデジタルカメラに搭載できます。このままカメラの側のスリムアダプターを交換するだけでSONY Eマウントにも変更できます。


続いて、レンズヘッドの個体ですが、鏡胴にM39M36ステップアップリングをはめてM39ネジに変換すれば、ここから先は自由度が多くあります。M42-M39変換リングを用いてM42-M42ヘリコイド(12-18mm)にのせM42マウントにもできますし、M42-M39ヘリコイド(25-55mm)にのせてライカLマウントにもできます。部品は全てイーベイで買い揃えることができます。

M42 to M42 Helicoid(12-18mm)を用いてM42マウントに変換する場合のレシピ。一眼レフカメラで使用する場合、フルサイズ機ではミラー干渉してしまいますので、APS-C機で用いるのが良いでしょう。最短撮影距離は23cmくらいですので接写も十分にできます
 
撮影テスト
現代のレンズに近い高いコントラストと鮮やかな発色を持ち味とするレンズです。開放からピント部の像はたいへんシャープで、フレア(コマフレア)は等倍拡大時にようやく検知できるレベルです。少し絞ればカリカリの描写で、細部までスッキリとしたクリア―な描写になります。発色はたいへん鮮やかですが、夕方や日陰など光量の少ない条件では青みが増しカラーバランスがクールトーンにコケる事が多くあります。LOMOのカタログスペックを信じるなら解像力は先代の2つのモデルを大きく超えており、実写でもピント部中央は十分に緻密な像ですが、等倍まで拡大するとややベタっとした解像感になっており、正直言うと先代のモデルを超える程の解像力とは思えません。どちらかと言えば解像力よりもコントラストを重視したレンズ設計なのでしょう。逆光で光源を入れるとシャワーのようなハレーションが虹を伴いながら盛大に発生します。この手の虹を望んでいる方には願ってもない良いレンズだと思います。歪みは樽型でやや大きめに生じる点はテクニカルデータどおりです[2]。ボケは適度に柔らかく概ね安定しており、グルグルボケや放射ボケ、二線ボケなどの癖はありませんが、口径食が顕著で写真の四隅で玉ボケが半月状に欠けて見えます。
今回もイメージサークルの違いを期待してOCT-18マウントのモデルとレンズヘッドのモデルの両方を手に入れました。残念ながら両者のイメージサークルに違いはなく、レンズヘッドのモデルをフルサイズ機に搭載して使う場合ではこちらに示すように四隅に暗角が生じ、フルサイズセンサーをカバーすることができませんでした。本レンズはAPSC機またはフルサイズ機のクロップモードで用いるのがベストな使い方です。


CAMERA:FUJIFILM X-T20
LENS: OKC8-35-1 (OCT-18マウントモデル)

F2(開放) Fujifilm X-T20(AWB) スッキリとヌケのよいクリアな画質のレンズです

F2(開放) Fujifilm X-T20(AWB) 逆光撮影になるとシャワー状のハレーションが派手に出ます

F2.8 Fujifilm X-T20(AWB)
F2(開放)Fujifilm X-T20(WB:日陰)
F2(開放)Fujifilm X-T20(WB:日陰)

F2(開放)Fujifilm X-T20(WB:日陰)

F2(開放)Fujifilm X-T20(WB:日陰)


F2(開放)Fujifilm X-T20(WB:日光) 歪みを除けばこれと言った欠点はなく、性能的には現代のレンズと大差ありません

F2(開放)Fujifilm X-T20(WB:日光)




F2(開放)Fujifilm X-T20(WB:日光) 逆光でもコントラストは良好です

2019/11/28

LOMO/LENKINAP OKC/OKS 35mmF2 cine-lens family: OKC1-35-1, OKC8-35-1, OKC11-35-1

KONVAS(OCT-18マウント)用に供給された羽根つきの製品:左からOKC11-35-1, OKC8-35-1, OKC1-35-1

レンズヘッドで供給された製品:OKC8-35-1(左), OKC1-35-1(手前), OKC11-35-1(右奥)
 
LOMOの映画用レンズ part 6-8 (プロローグ)
LOMOが改良に最も力を入れた
焦点距離35mmの主力レンズ群
LOMO/LENKINAP OKC(OKS) 35mm F2 family: 
OKC1-35-1, OKC8-35-1, OKC11-35-1
今回からLOMOが市場供給した焦点距離35mmの製品群を取り上げます。ポピュラーなものとしてはOKC1-35-1, OKC8-35-1, OKC11-35-13種があり、それぞれ設計構成や描写の味付けが異なります。初代のOKC1-35-1(LENKINAP時代の1959年頃に登場)は中心部に偏重した描写設定で立体感に富み、ポートレート向きであるのに対し、2代目のOKC8-35-1(1971年に登場)は中心部の性能をやや抑える代わりに像面特性と歪みを大幅に改善、風景にも対応できるフラットな描写性能を実現しています。3代目のOKC11-35-1(1980年代初頭に登場)は構成枚数を6枚に落とし製造コストと空気境界面数を同時に削減するとともにコーティングをマルチコート化、コントラストとシャープネスを合理的に向上させ、発色は鮮やかになっています。中心部を重視した初代OKC1-35-1に近い設定で解像力を更に向上させています。それぞれ鏡胴に羽根のついた製品(上段写真)とレンズヘッドとして供給された製品(下段写真)が市場に流通しています。せっかくなので全部入手し各モデルの違いを比べてみたいと思います。前者の羽根つきの方がシネレンズっぽさが出ており独特な外観で格好良いのですが、後者の方がコンパクトなうえケラれが少ない分だけイメージサークルは大きく、中にはフルサイズ機でも使える製品があります。







2015/12/19

Fuji Photo Film X-Fujinon 50mm F1.9 (Fujica X-mount)*










Xフジノンの明るいノンガウス part 3(最終回)
これにて結成!フジノンのノンガウス3兄弟
Fuji Photo Film X-Fujinon 50mm F1.9
フジカ交換レンズ群の著しい特徴はコストを徹底して抑えるストイックなまでの開発姿勢がレンズのバリエーションに多様性を生み出している点である。レンズ構成はバラエティに富み、エルノスター型、クセノタール型、プリモプラン型、ゾナー型、ガウス型など何でもありのパフォーマンス空間が展開されていた。今回はその中から少し珍しい反転ユニライト型の設計構成を採用したX-Fujinon 50mm F1.9を取り上げる。この種の設計を広めたのは1960年代に中判カメラの標準レンズとして活躍したリンホフ版プラナー(G.ランゲ設計)である。本ブログでも過去にグラフレックス用に供給された同一構成のプラナーを取り上げているが、線の細い繊細な開放描写を特徴としていた。今回取り上げるフジノンは、このレンズにインスパイアされた製品であると考えられる。
レンズの設計はダブルガウスの前群側のはり合わせレンズを分厚い1枚のメニスカスレンズに置き換えた5群5枚の形態である(下図)。構成枚数がダブルガウスより1枚少ないうえ、後群のバルサム接合部が空気層に置き換えられているので、製造コストを抑えるには有効な設計であった。各エレメントを肉厚につくることで屈折力を稼ぎ、この種のレンズ構成としては異例のF1.9の明るさに到達している。このレンズは1970年代にM42マウントのフジカSTシリーズ用レンズとして登場し、X-Fujinonシリーズへの移行後(1980年~)も生産が継続された。
X-Fujinon 50mm F1.9の構成図。構成は5群5枚の反転ユニライト型(空気層入り)である。標準レンズでこのくらいの明るさを想定するなら通常は6枚構成によるダブルガウスを採用するのが定石であるが、本品は僅か5枚の構成でガウスタイプと同等の明るさF1.9を成立させている。接合面を全く持たないことも製造コストの圧縮には有利で、チープな製品を実現することにおいても高い技術力を投入することができた日本製品ならではの独自色を感じる  
入手の経緯
このレンズは2015年4月にヤフオクを介して東京の個人出品者から落札した。オークションの記述は「フジカAXシリーズのレンズ。状態は良好で奇麗。キャップはついていない」とのこと。スタート価格3000円、即決価格5000円で売り出されていたが、自分以外に入札はなく、開始価格3000円で私のものとなった。実に人気のないモデルである。届いたレンズは僅かなホコリと前玉にコーティングレベルのクリーニングマークが2~3本あるのみで、実用十分の状態であった。キットレンズとしての供給がメインだったのでカメラとセットで売られていることも多い。
Xフジノンのフランジバックは43.5mmとデジタル一眼レフカメラで用いるには短すぎるため、現代のカメラで使用する場合にはマウントアダプターを介してミラーレス機で用いることになる。どうしてもデジタル一眼レフカメラで用いたいならば、やや流通量は少ないがM42マウントの旧モデルを探すとよい。フジカXマウント用のアダプターがやや高価なので、アダプターを含めたトータルコストを考えると、M42マウントのモデルを選択した方が懐には優しい。
重量 150g, フィルター径 49mm, 絞り値 F1.9-F16, 絞り羽根 5枚構成,  最短撮影距離 0.6m, 構成 5群5枚(空気層入りの反転ユニライト型), 対応マウントはフジカXマウントとM42マウント, レンズは海外でPORSTブランドでも市販されていた




撮影テスト
開放ではピント部を僅かなフレアが覆いシャドー部の階調が浮き気味になるなど、オールドレンズにはよくある、いい場面もみられる。コントラストは低下気味となるが、これはXフジノンの明るい標準レンズに共通する性質なので、おそらく背後の硬いボケ味をフレアで覆い目立たなくするための意図的な描写設計なのであろう。フレアを抑えクッキリとしたシャープな像を求めるには一段以上絞って撮る必要がある。ポートレート撮影では背後のボケがザワザワと煩くなる事があるが、少し絞れば安定する。なお、グルグルボケや放射ボケは、このレンズに関しては全く出ない。発色はノーマルでシアン系の色乗りが力強く出るあたりは現代的な写りである。解像力は良好だが80年代のレンズとしてはごく平凡なレベルだ。
正直なところ大暴れの描写を求めていた私としては期待外れのレンズであったが、自分がレンズの描写に求める価値観やレンズとの相性がハッキリわかったので、それだけでも一つの収穫であった。

撮影機材 SONY A7, メタルフード使用
Photo 1, F1.9(開放) sony A7(AWB): 開放では極僅かにフレアが発生するが、これに独特の青みがかった発色が相まって肌が綺麗にみえる。解像力は高いしヌケもよい。絶妙なフレアレベルだ

Photo 2, F1.9(開放) sony A7(AWB): このくらいの距離では背後のボケが硬めでザワザワとうるさくなる。本レンズも含め5枚玉のレンズにはボケの硬いものが多い。ピント部の画質は四隅まで良好なレベルである






Photo 3, F1.9(開放) Sony A7(AWB): 厳しい逆光にさらしてみたが、空の色がちゃんと出た。ハレーション(ベーリンググレア)は出るがゴーストはでにくいようだ

Photo 4, F4 sony A7(AWB): これくらいが最短撮影距離。もう少し寄れるとよいのだが・・・

Photo 5, F4 sony A7(AWB): ハイライト部がもうちょい粘るといいのだが…ちなみにグラフレックス版プラナーはもっと粘った


 
今回の特集「Xフジノンの明るいノンガウス」ではガウスタイプのレンズとは異なる描写を求め、3本の明るい標準レンズを取り上げました。この中で私が一番気に入ったのは、皆さんご察しのことかもしれませんが、1本目の55mm F2.2です。理由は使っていて一番ワクワクしたレンズだからです。3本のレンズに共通する性質はレンズの構成枚数がガウスタイプよりも少ないことと、ボケ味が硬いことです。ボケ味が硬いのは球面収差の補正パラメータが不足しているからで、これは構成枚数が少ないことと密接に関係しています。補正パラメータの不足を収差の過剰補正で強引に処理していますので、その副作用としてボケの輪郭部に火面と呼ばれる光の集積部が生じ、ボケ味が硬くなるのです。この傾向が最も強かったのが4枚玉の55mm F2.2でした。バブルボケはオールドレンズに特有の描写特性であることを、改めて強調しておきたいと思います。
 

2015/07/27

Carl Zeiss Planar 80mm F2.8 for Graflex XL (グラフレックス・プラナー)




Planar(プラナー)と言えばRolleiflex (ローライフレックス)やHasselblad (ハッセルブラッド)に供給されたレンズがその後のプラナーの評価と人気を決定付けたモデルとして有名であるが、Linhof Technica (リンホフ・テヒニカ)やGraflex XL(グラフレックスXL)に搭載され商業写真や報道写真の分野で活躍したモデルも忘れてはならない存在である。線が細く軽やかでエネルギッシュな描写傾向は戦後のオールドプラナーに度々みられる持ち味の一つであるが、こうした描写傾向はグラフレックス版プラナーにおいてもみられるのであろうか。

駆け足プチ・レポート2
Carl Zeiss Planar 80mm F2.8(Graflex XL)
報道用カメラのSPEED GRAPHIC (通称スピグラ)で名を馳せた米国Graflex(グラフレックス)社。今回取り上げるレンズは同社が1965年から1973年にかけて生産したGraflex XLという中判カメラに対し、旧西ドイツのCarl Zeissから供給された交換レンズである。このカメラに対してはG. Rodenstock (ローデンストック)社からもHeligon (ヘリゴン) 80mm F2.8が供給されており、Planar 80mmとHeligon 80mmがメインストリームレンズという扱いでカメラのカタログに並んで収録されていた。カタログではHeligonについて「求めやすい価格で驚くほど高い性能を備えたレンズ」「ブライダルフォトグラファーの最初の1本に最適」と紹介した上で、Planarについては上位のモデルという位置づけで「色再現・解像力・コントラストにおいて最高画質を求めるならばベストな選択だ」と絶賛している。今回のレンズは何だかとても良く写りそうな予感がする。

レンズの設計構成はGraflex XLの1967年のカタログ[文献1]に5枚と記載があるのみで詳しいことは明らかにされていない。さっそくガラスに光を通すと前群側には明るい反射が4つ、後群側には明るい反射が4つと暗い反射が1つあり、4群5枚の逆ユニライト(逆クセノタール)タイプであると判断できる。このタイプのレンズについてがはZeissのJ.Berger(ベルガー)とG.Lange(ランゲ)による1950年代初頭の研究があり、構成図の米国特許が複数公開されている[文献2-4]。

左はレンズを前玉側からみたところで4つの明るい反射がみられるので構成は2群2枚、右はレンズを後玉側からみたところで4つの明るい反射①②③⑤と1つの暗い反射④がみられるので2群3枚である。構成は明らかに4群5枚の逆Uniliteまたは逆Xenotarであると判断できる


Graflex XL Planarの特徴は後玉が前玉よりも大きい事と包括画角(対角線画角)が58°とやや広い事である。こうした条件にあう構成図を探すと、ZeissのG.Langeによる1954年の米国特許[3]の中の1本が当てはまる(下図)。Langeは有名なRolleiflex 2.8C用Planar (1954年登場)を設計した人物でもあり、J.Bergerと共にHasselbrad 500C用のPlanar 80mm F2.8(1957年登場)の設計にも取り組むなど、プラナーブランドの育ての親と呼べる設計者である。Graflex XL Planarと同一構成で後玉の大きいモデルとしては他にもLinhof TechnicaのPlanarがある。Linhof用とGraflex XL用は生産された時期が近く、イメージサークルやレンズ構成の一致に加え、ラインナップの共通性、前・後玉のサイズや曲率の類似性など共通項は多い。おそらく両者の設計は同一であろう。

G. Lange, US Pat 2799207(1957), FIG.1からのトレーススケッチ。Graflex Planar 80mm F2.8と100mm F2.8の設計構成の原型と考えられる。前玉外側と後玉外側の2面の曲率操作のみでコマの補正をおこなうことができる
Graflex XL用レンズのラインナップには95mmや100mmの焦点距離を持つモデルもある。これらは中判6x7フォーマットでライカ判の標準画角に相当するレンズであり、本来ならばメインストリームレンズになるところだ。しかし、実際には80mmの準広角モデル(ライカ版の焦点距離39mmに相当)の方が多く出ていた。理由は80mmのレンズの方が丈が短く、それまで主流だったフォールディングカメラにギリギリ内蔵できたためである。また、被写体までの距離を詰めることでフラッシュ光を効果的に利用できるというメリットもあった。中判カメラを用いる写真家達の間では80mmの焦点距離が当時の定番となっていたようだ。
 
入手の経緯
レンズは20119月にヤフオクを介してrakringjpさんから落札購入した。商品の解説は「目立つキズはなく美品。些少のスレはあるが打撲キズはない。レンズに目立つキズ、クモリ、カビなどはない。前玉裏側中央に気泡、中玉に僅かにホコリがある。いろいろな部品を組み合わせM42マウントに改造している」とのこと。グラフレックスXLPlanarは後玉径がとても大きく改造の難度は高いはず。どうやってM42マウントに変換しているのかにも興味があった。見ると改造に用いられているパーツやヘリコイドは全て日本製のBORGブランドであり、部品点数も多い。重量級のレンズなので高耐久な部品で固められているのであろう。改造は技巧に富んでおり、相当なアイデアと製作コストが費やされているように感じられた。オークションは予想どうり数人による激しい争奪戦になったが、最後は43800円で自分のものとなった。届いたレンズを改めてみると巨大な後玉を通すために太いヘリコイド(BORG 7757, M57 Helicoid S)が用いられており、ヘリコイドの内径が大きく広げられているなど手の込んだ改造が施されている。貴重なレンズが手頃な価格で手に入り、とてもいい買い物であった。
 
フィルター径: 49mm, 絞り指標: F2.8-F22, 構成: 4群5枚, コンパーシャッター(1/400s),  最短撮影距離 0.75mm, 推奨イメージフォーマット: 中判6x7cm(カタログ値), 重量(実測): 460g (改造品のため部品込), 写真の左と中央ではマウント部の部品を外し後玉を露出させている。右はすべての部品を装着しM42マウントにしたところ




参考文献
[1] Graflex XL (1967) Graflex Inc.; グラフレックスXLカタログ
[2] Rudolf Kingslake, A History of the Photographic Lens; ルドルフ・キングスレーク「写真レンズの歴史」 朝日ソノラマ
[3] Gunther Lange, US 2799207 (1954)
[4] Gunther Lange, Johannes Berger, US 2744447 A (1953)
[5] 「オールドレンズレジェンド」澤村徹 著、和田高広 監修 翔泳社 2011年

撮影テスト
軟調系レンズなのにスッキリとヌケが良く発色も力強い。こうした反則的な性質はグラフレックス版プラナーの大きな魅力である。
開放ではピント部を僅かなフレアが纏い、線の細い繊細な描写となる。このためコントラストが低下しシャドーが浮き気味になるが、中間階調は豊富に出ており、発色が淡泊になったり濁ったりすることはない。ハイライトの階調には粘りがあり、露出をハイキーに振っても白とびを起こしにくいため、気持ち良く伸び上るダイナミックなトーンを捉えれば力強く鮮やかな発色と相まって、このレンズならではの素晴らしい描写表現が可能である。良く晴れた日に屋外で用いれば、軽やかでエネルギッシュな写真表現に出会うことができるであろう。
解像力は充分なレベルであるが、補正をチューンし過ぎていないあたりが特徴のようで、背後のボケは適度に柔らかく2線ボケ傾向にも陥らない。「質感の細密描写に偏重しすぎず、あくまでも叙情性を残す」。Graflex Planarはオールドプラナーの描写理念を正しく受け継いだツァイスの正統派レンズである[文献5]。

デジタルカメラ(35mm版フルサイズ機)での写真作例
Camera: Sony A7 / Canon EOS 6D
Image circle trimming tool
F2.8(開放), Sony A7(AWB)+イメージサークルトリミングツール: 近接では線が細く軽やかでエネルギッシュな描写傾向だ
F2.8(開放), sony A7(AWB)+イメージサークルトリミングツール:階調がなだらかなうえハイキーに振っても白とびを起こさずに階調が粘ってくれる
F2.8(開放), EOS 6D(AWB)+イメージサークルトリミングツール:ピント部は四隅まで安定しておりヌケも良い。ここまで開放で3枚撮ったが不安材料は全くない。開放でポートレート域を撮ると距離によっては極稀にグルグルボケがみられることがある

F4, EOS 6D(AWB)+イメージサークルトリミングツール:晴れた日に持ち出し少しハイキー気味に撮ると、雰囲気良く写る

中判6x7フォーマットの銀塩カラーネガフィルムによる撮影
Camera:  Graflex Pacemaker Speed Graphic(4x5) +Horseman Rollfilm holder 6x7cm
Film: Fujifilm Pro160NS (120 rollfilm)

続いてカラーネガフィルムによる撮影結果を示す。レンズの推奨イメージフォーマットは中判6x7cmである。スピグラに中判120フィルム用のロールフィルムバックを装着し定格イメージフォーマットで撮影した。
F8,  銀塩撮影(Fujifilm Pro160NS カラーネガ, 6x7 medium format ) 伸び上がるハイライト部のグラデーションを大きくとらえることで、エネルギッシュな描写表現が可能である
F8,  銀塩撮影(Fujifilm Pro160NS カラーネガ, 6x7 medium format )
F2.8(開放), 銀塩撮影(Fujifilm Pro160NS カラーネガ, 6x7 medium format)
F2.8(開放), 銀塩撮影(Fujifilm Pro160NS カラーネガ, 6x7 medium format) 開放でこれだけ写れば充分ではないだろうか
F4  銀塩ネガ撮影(Fujifilm Pro160NS, 6x7 medium format ) ボケは概ねどのような距離でも安定しており、適度に柔らかい


 銀塩カラーネガフィルム(35mm判)での写真作例
Camera: Yashica FX-3 super 2000(M42マウント仕様)
Film: Fujifilm Superia Venus 800 and Kodak Ultra Max 400

今回入手したPlanarはM42マウントに改造されているので、一眼レフカメラでも使用することができる。せっかくなので35mmのカラーフィルムで撮影した結果も提示しておく。もともと中判用のレンズではあるが、35mmフォーマットで用いても画質的に無理はなく、撮影結果は良好である。やはりハイライト部が美しいレンズであるという印象に変わりはない。
F4,銀塩カラーネガ( Fujifilm Superia Venus 800/35mm判) 



F4, 銀塩カラーネガ (Kodak Ultramax 400/35mm判)