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2023/11/24

Konica Hexar AR 28mm F3.5: 中判デジタル機で35mm判広角レンズを使う



中判デジタル機で35mm判広角レンズを使う:

ローエンド製品が超広角レンズに化ける反則技

Konica Hexar AR 28mm F3.5 (Konica AR mount)

最近あまり話題にはならなくなりましたが、写真用語の一つに「35mm判換算」というものがあります。35mm判とは俗に言う「ライカ判(36mmx24mm)」を指す写真フィルムの規格で、デジタル撮影が全盛期を迎えた今では、フルサイズセンサーがこれに相当します。この用語が多く使われるようになったのは、APS-C規格やマイクロフォーサーズ規格のイメージセンサーを搭載したカメラが先行して普及したためです。

よく知られているように、50mm F2の標準レンズに対する35mm判換算での焦点距離はAPS-C規格のカメラで約75mm相当、マイクロフォーサーズ規格のカメラでは約100mm相当と、いずれも少し望遠寄りになります。要は50mm F2のレンズをAPS-C規格のカメラにマウントして使用すると、35mm判カメラ(フルサイズセンサー機)75mm F3(1.5倍を乗じた焦点距離と開放F値)のレンズを用いた場合と同等の写真(同じ画角、同じボケ量の写真)が撮れ、マイクロフォーサーズ規格のカメラにマウントして使用した場合には、35mm判カメラに100mm F4(2倍を乗じた値)のレンズを用いた場合と同等の写真が撮れるという意味です。用いるレンズが35mm判ならば、中心の良像域のみを利用した贅沢な使い方になるなんて言われた時期もありました。しかし、レンズは四隅まで均一な画質を得る目的から中心解像力を抑えるよう設計されているため、この認識は幻想でしかありません。四隅と中心は画質的にトレードオフの関係にあり、概して35mm判レンズの中心画質は、これより小さなフォーマットに最適化されたレンズの中心画質より劣るのが実情です。

さて、ここまでの理屈を中判イメージセンサー(44x33mm)を搭載したFujifilm GFXシリーズに当てはめると一体どうなるでしょうか。50mm F2の標準レンズをGFXにマウントして使用した場合の35mm判換算値は、0.78倍を乗じた39mm F1.56となります。35mm判レンズの場合にはケラれていまう可能性がありますが、運良くケラれずに使う事ができれば理論上はフルサイズ機で39mm F1.56の超ハイスペックレンズを使用した場合と同等の写真が撮れるという見立てになります。注目したいのは、このような使い方をした場合に中判用レンズを用いる場合に比べ、概して中心部の画質はより高く、周辺部の画質はより低くと、大きな「画質の勾配」が生じる点です。このような大きな画質勾配を持つレンズに個性の際立つものが多いのは、オールドレンズユーザの間では周知の事です。では、本題に入りましょう。


広角35mm判レンズを中判デジタル機にマウントする

広角レンズにはイメージサークルのマージンが小さなものが多く、35mm版レンズを中判デジタル機に搭載して流用する場合には写真の四隅が暗くなる、いわゆる「ケラレ」が生じるケースが多くあります。しかし、運良くケラレの出ない製品に出会う事ができれば、ある意味で穴場的な使い方ができます。先に経験的な事柄を抑えておきましょう。

1.焦点距離がより短い製品ほどケラレの発生頻度は高く、中判デジタル機での流用はより困難になる。

2.ケラレの出ない広角レンズに出会える可能性があるギリギリのラインは焦点距離28mm辺り。ただし、発見できる製品は少なく、全体の1/5にも満たない。

ちなみに、焦点距離28mmのレンズをデジタル中判機で使用した場合の35mm判換算値(焦点距離)は22mmです。運良くケラれない製品を見つけることができれば、かなり広大な画角を持つ超広角レンズとなります。焦点距離28mmのレンズに対しては、この焦点距離を好む愛好者が一定数いる一方で、「スナップ撮影にはやや広角過ぎる」「広角レンズとして使うにはパースが不足気味」など中途半端である点を指摘する声が昔から絶えずあり賛否両論でした。こうした評判に呼応しているのか定かでありませんが、28mmの広角レンズには不遇な扱いをうけている非常に安値の製品が現在の中古市場にゴロゴロとあります。一つの事例として今回の記事ではKONICA HEXAR 28mm F3.5を取り上げてみることにしました。このレンズのイメージサークルは広く、GFXのイメージセンサーを完全にカバーすることができますが、中古市場では極めて安値で取引されており、私は美品クラスの個体を国内のネットオークションにて2500円で入手しました。他にもMINOLTA W.Rokkor 28mm F2.8がケラれの出ない製品であるという事前情報を得ています。チープなレンズの代表格であるKOMURA 28mmとPETRI 28mmは残念ながらケラれてしまいました。焦点距離28mmの広角レンズは数多くのメーカーから製品供給されていますので、探せばGFXで使用できるレンズがまだまだ発掘できると思います。

 

重量(カタログ値) 195g, 最短撮影距離 0.3mm, 絞り F3.5-F16+AE, 設計構成 5群5枚, フィルター径 55mm, 絞り羽 6枚構成, 市場供給期間 1975-1978     

KONICA HEXAR AR 28mm F3.5の基本情報

HEXARはコニカのローエンド製品につけられたブランド名称で、上位のブランドにはHEXANONがあります。レンズは1975年に発売され、当時AEに対応した一眼レフカメラのオートフレックスT3(1973年登場)やAcom1(1976年登場)に搭載する広角レンズとして市場供給されました。1978年に後継製品のNEW HEXANON AR 28mm F3.5が登場したことで、発売から僅か3年で生産中止となっています。ただし、後継製品と光学系が同一ですので、ブランド名称が変わっただけで存続していたという見方もできます。設計構成は下図に示すように非常にシンプルな5群5枚構成のレトロフォーカスタイプです。製造コストの面から見ると、これで焦点距離28mmをカバーできたのは凄い合理性だと思います。

今日HEXAR 28mmは上位モデルのHEXANONと同等かそれ以上の値で取引されています。これは主に90年代にコニカのレンジファインダー機でHexarブランドが名声を得たことと、HEXAR 28mmがHEXANONの同等品より希少であるためです[2]。

KONICA HEXAR AR 28mm F3.5 構成図:KONICA公式パンフレット[1]からのトレーススケッチ。設計構成は5群5枚のレトロフォーカス型

参考文献・資料

[1] 公式パンフレット(2ページ折込):Englisch, Deutsch, Französisch, Schwedisch, Italienisch und Spanisch言語

[2] The Konica AR System: http://www.konicafiles.com/

[3] Aperturepedia "Konica Lens database"

 

撮影テスト

まずはカメラの設定でアスペクト比を65:24に変え、35mm判(フルサイズセンサー)に近い対角線画角で撮影してみることにしました。設計規格に近い使い方ですので、当然ながらケラれることはありません。こんな使い方ができるのは中判デジタル機ならではの醍醐味でしょうね。このアスペクト比であれば35mm判レンズのほぼ全てをケラレ無しで使用できます。いつか機会があれば、このクロップモードで超広角レンズのHOLOGON 16mmを使ってみたいと思います。

さて、HEXANONは開放からシャープに写るレンズです。歪みは樽型で少し目立ちますが、十分に実用的な写真画質が得られます。後半からは規格外のフォーマットで使いますので、性能評価についてはこのくらいにしておきましょう。写真作例をどうぞ。

F8, Fujiflm GFX100S(AWB, Aspect Ratio 65:24, FS: CC)


F8, Fujiflm GFX100S(AWB, Aspect Ratio 65:24, FS: CC)
F8, Fujiflm GFX100S(AWB, Aspect Ratio 65:24, FS: CC)

 

続いてクロップ無しのフルフレーム写真です。すぐ見てわかるように全くケラれていませんし、光量落ちも気にならないレベルに収まっています。

GFXシリーズでケラレ無しで使える広角レンズがありましたら、ぜひ紹介してください。その際は、こちらもご覧になってください。

F8,Fujifilm GFX100S(WB:auto, FS: CC) 
F8, Fujifilm GFX100S(WB:auto, FS: CC) 
F5.6, Fujifilm  GFX100S(WB:auto, FS: CC) 











F8, Fujifilm GFX100S(WB:auto, FS: CC) ちなみに開放F3.5での同じ場面ですとこんな感じになります。本来は写らない部分に滲みが出ていますが、本来の画角でカバーされる部分は滲みのない像で、開放でも十分にシャープですね。絞れば全画面でシャープ




F8 Fujifilm GFX100S(WB auto, FS CC)








2023/02/11

PETRI C.C Auto 28mm F3.5


ペトリカメラの主力広角レンズ

PETRI C.C Auto 28mm F3.5

ペトリカメラのネタもそろそろ今回で最後になりそうな頃合いですが、取り上げるのは同社が1966年頃に発売した焦点距離28mmの広角レンズPETRI C.C Auto 28mm F3.5です。このレンズは同年のフォトキナに新型一眼レフカメラのPETRI FTと共に出展されました[1]。28mmといえば古くから広角レンズの代名詞のような焦点距離で、各社ここには力を入れてきました。室内での撮影には広すぎず狭すぎずの絶妙な画角が要求されるわけで、焦点距離35mmでは画角が足らず、24mmではパースペクティブによるデフォルメが効きすぎる。焦点距離28mmのレンズはまさにこのような状況で活躍したわけです。

レンズの構成は7群7枚のレトロフォーカスタイプで(下図参照)、自動絞り機構を容易に組み込めるよう、絞りの位置を比較的前方に退避させる工夫が盛り込まれています[2]。レンズを設計したのは55mm F1.4や55mm F1.8(後期型), 21mm F4などペトリカメラの主要なレンズを手掛けた島田邦夫氏で、後群のパワー配置から見て明らかなように、1960年発売のNikkor-Hをベースに改良を施した製品であると判断できます。Nikkor-Hはコマ収差の新しい補正方法を切り拓いたレトロフォーカス型レンズの名玉で、これ以降の多くのメーカーの手本になった事で知られています[3]。島田氏の特許資料[2]によると「従来のレトロフォーカス型レンズでは絞りの位置がカメラのボディーに近すぎ、自動絞りの機構を組み込むには窮屈なのだが、(光学設計を工夫し)絞りを比較的前方に退避させることで、これに対応できるようにした」とのこと。ただし、コマ収差の除去がより困難になるため、同時にマスターレンズの側を変形トリプレットにすることで困難を解消したそうです。

Petri 28mm F3.8(左)とNikkor-H 2.8cm F3.5(右)の構成図。上が前玉側で下がカメラの側。Nikkor-Hは後群マスターレンズ側の配置を正負正正とすることでコマ収差が効果的に補正できることを実現した画期的なレンズですが、PETRIは明らかにこれを参考にしているように見えます。前群側の2枚で歪みを効果的に補正しています


参考文献

[1] PETRI@wiki: 「日本カメラショー・フォトキナ出品カメラ

[2] 日本特許庁 昭41-49384(1966年7月29日);特許公報 昭44-23393(1969年10月4日)「絞りを比較的前方に置いたレトロフォーカス式広角レンズ」 

[3] ニッコール千夜一夜物語:第十二夜 NIKKOR-H Auto 2.8cm F3.5

[4] PETRI @ wiki 「ペトリの社内資料レンズデータ編」に掲載されていた社内資料 


PETRI C.C Auto 28mm F3.5(1st model): フィルター径 52mm, 絞り F3.5-F16, 絞り羽 6枚構成, 重量 208.5g, 設計構成 7群7枚(レトロフォーカスタイプ), 最短撮影距離 0.6m, PETRIブリーチロックマウント

 

入手の経緯

レンズは2023年2月と3月に1本づつヤフオクから手に入れました。ペトリの35mmF2.8はだいぶ値上がりしてしまいましたが、このレンズはまだあまり認知されていないようで、国内のネットオークションでは5000円にも満たない安値で取引されています。自分が手に入れた1本めのレンズもオークションの記載にカビがあると記載されていたため入札されず、3000円+送料で手に入れることができました。届いたレンズを見ると傷やクモリのない悪くない状態で、カビもレンズ2枚目の裏側に小さなものが居座っている程度でした。前群の光学ユニット全体が回せば簡単に外れる構造になっていましたので、取り出して清掃しみることに。。。しかし、残念ながらコーティングにはカビ跡が残りました。写真には全く影響の出ないレベルですので、値段を考えれば充分な個体です。2本目のレンズもヤフオクからで、PETRIの一眼レフカメラ本体と標準レンズ、PETRIズーム、テレコンのセット品を5000円で入手しました。カメラやレンズはペトリにしては珍しく丁寧に手入れされており、カビやクモリ等のない良好なコンディションでした。

PETRI to LEICA Mアダプター:秋葉原の2nd Baseで購入できる特製品を使用しました


撮影テスト
開放から中央は滲みの少ないシャープな描写のレンズです。線は太く、解像力よりもコントラストで押すタイプですが、現代のレンズに比べればコントラストは緩めで、トーンもなだらかなオールドレンズらしい側面を備えています。開放では遠方撮影時に光量落ちが目立ちますので、気になる場合は少し絞る必要があります。写真四隅の倍率色収差はやや強めに出ています。この種の広角レンズにありがちな樽型の歪みはよく補正されていますが、この補正に関する影響で近接撮影力が弱いとの解説がNikkor-Hに対してあります[2]。このレンズもおそらく同様で、最短側では解像力が弱い印象を受けました。拡大すると像がベタッとしています。最短撮影距離が0.6mとおとなしめの設定になっているのも頷けます。
F3.5(開放), SONY A7R2(WB:日光) 今日もこの子に付き合ってもらいます


F8, Sony A7R2(WB:日陰)
F3.5(開放), Sony A7R2(WB:日陰) 近接での解像力はこんなもんです

F8, SONY A7R2(WB:日光) 基本的に線の太い描写です 

F8, SONY A7R2(WB:日光)レトロフォーカスタイプにしてはゴーストは出にくい印象です。歪みもよく補正されています

2022/08/08

Petri C.C Auto 21mm F4

   

そのレンズ、旨いのか?不味いのか?
ペトリカメラのウルトラワイド

PETRI C.C Auto 21mm F4

結論から言いましょう。高性能です。ペトリのレンズが高性能なのは描写性能に高い基準を設けていたからで、製品化の際には同時代のニッコールと撮り比べをおこない、どちらがペトリなのか見分けができない事を基準としていたそうです[1]。レンズの性能に対する同社の自信は宣伝時に用いた「性能はニコン。価格は半額」というキャッチフレーズにもあらわれています。技術的にハードルの高いレンズでは、メーカーの設計理念の高さが描写性能に如実に表れるのではないでしょうか。

さて、今回取り上げるレンズはペトリカメラが開発し1973年に発売した焦点距離21mmのウルトラワイドレンズPETRI C.C Auto 21mm F4です。このレンズが誕生した時代は国内でもミラーアップなしで使える一眼レフ用ウルトラワイドレンズが各社から出始めた頃で、先行製品のCarl Zeiss Jena Flektogon 20mm F4(1961年発売)やNikkor-UD 20mm F3.5などを意識した製品を各社開発していました。レンズ構成は下図のような6群9枚の複雑な形態で、時代的にはコンピュータを利用して設計された光学系です。ペトリのレンズ設計は初期はそろばんで、その後は手回し式のタイガー計算機に変わり、さらに機械式のモンロー計算機、最後はデータをテープで送るコンピュータに変遷したとのことです[1]。このレンズは最後期の製品なので、設計は紙テープ式の旧式コンピュータだったのでしょう。レンズ設計を担当したのは同社の55mm F1.4や55mm F1.8(新型)を手掛けた島田邦夫氏です。島田氏の手掛けたレンズには優れたものが多く、この21mmも例外ではありません。ただし、開発時は社内の基準をクリアすることに大変苦労したそうです[1]。

参考文献

[1] petri @ wiki「ペトリカメラ元社員へのインタビュー(2013年)」リバースアダプター氏

[2] petri @ wiki「ペトリの社内資料レンズデータ編」に掲載されていた社内資料をトレーススケッチした見取り図です。ガラスの種類についてはソース元を見てください。光線軌道シミュレーションなどもあります

 

Petri C.C Auto 21mm F4光学系見取り図(トレーススケッチ)[2]。設計構成は6群9枚のレトロフォーカス型で、第一レンズがはり合わせになっているのが、他ではあまり見ない特徴です
PETRRI C.C Auto 21mm F4:フィルター径 77mm, 絞り F4-F16, 絞り羽 6枚構成, 最短撮影距離 0.8m(0.5m前後までマージン有), 設計構成 6群9枚レトロフォーカスタイプ, 重量(カタログ値) 370g  , マウント規格 ペトリブリーチロックマウント

















 

入手の経緯

2022年5月にヤフオクでリサイクルショップが出品していたものを即決価格で購入しました。国内のオークションではカビやクモリのある個体が4万円位から取引されています。コンディションにもよりますが、相場は4〜7万円あたりでしょう。オークションの記載にカビがあると記されていましたので届いた商品を見たところ・・・・居た居た。絞りに面した後群側に成長中のカビが居座っていました。後群の光学ユニット全体が回せば簡単に外れる構造でしたので、取り出して拭いてみると完全に綺麗になり、コーティングは大丈夫でした!。ガラス自体はクモリや傷のない大変状態の良い個体なのでラッキーな買い物です。ネットに一切の作例が出ていないので、どんな写りなのか楽しめそうなレンズです。デジタルカメラへのマウントには2nd baseで入手できるPETRI-Leica Mアダプターを使用しました。

 
撮影テスト
描写性能の高さには驚きました。少し前に撮影テストした同時代のMIRANDA 21mm F3.8よりも開放でのシャープネスやコントラストは明らかに良好で、中心部から中間画角にかけてフレアの少ないスッキリとした描写です。ピントの山がつかみやすく、ダラダラとピントの合う同等製品が多い中、このレンズはキレのある合焦が特徴です。ニッコールを性能の指標として製品開発を行っていただけのことはあります。開放では写真の四隅にコントラストの低下と発色の濁りがあり、この部分に関して言えば同時代・同クラスの他社製レンズと大差はありません。また、光量の多い晴天下の屋外撮影では、開放時に四隅の周辺光量落ちが目立ちますので、1段以上絞って撮影する必要があります。ただし、こういう状況下ではシャッター速度の観点からみても、そもそも絞って撮影するわけですので、使い方を考慮した最適化が描写設計にも行き渡っていると考えるべきでしょう。絞り込んだ時の四隅の画質はとても良好で、フレアの少ないしっかりとした描写です。歪みは概ねよく補正されていますが、中間画角でやや樽型になり、四隅の最端部近くでは反対に糸巻き状に歪んでいます。広角レンズといえば樽型の歪み方が定番なので、ちょっと新鮮かな。逆光時のゴーストが出にくいという噂は本当のようで、フレクトゴン20mm F4よりもゴーストはおとなしい印象でした。ペトリカメラのレンズ設計力の高さを改めて実感することができる価値のある一本です。
 
F4(開放) sony A7R2(WB:日光) 開放から中央は充分な画質でコントラストも良好、F8に絞ったこちらの画像と比較しても大きな差はありません。四隅の光量落ちがやや目立ちます

F8 sony A7R2(WB:日光) 続いて絞った結果です。四隅まで充分に良好な画質です



















F8 sony A7R2(WB:日陰) シャープなレンズなので、絞るとカリカリになるケースもあります


F11 sony A7R2(WB:日光)
  

F4 vs. F8

F4(開放) sony A7R2(WB:日光) 中央から中間画角まででしたら開放でもスッキリと写りコントラストも良好、四隅もこのクラスのレンズとしてはフレア量の少なめな良好な画質です。ただ、開放では光量落ちがやや目立つ結果に







F8 sony A7R2(WB:日光) 中央は灯台の中腹に空いた排気口の中のブレードの数までハッキリとわかります。四隅も高画質




































 
銀塩フィルムでの撮影

FILM: KODAK C200カラーネガ
Camera: PETRI V6
 









2022/07/17

Auto MIRANDA 21mm F3.8


















ぺンタレフカメラのパイオニア
ミランダの交換レンズ群 part 5

フレクトゴン20mmを手本にした

MIRANDAマウントのウルトラワイド

AUTO Miranda 21mm F3.8

MIRANDAブランドのレンズの中で焦点距離25mmに次ぐポピュラーなモデルが今回取り上げるAuto Miranda 21mm F3.8です。レンズメーカー各社のOEM製品であるSOLIGORブランドにもミランダマウントの同一モデルがありますが、販売時の価格設定はミランダ純正モデルより若干安価でしたので、Auto MIRANDAはSOLIGORの上位ブランドという位置づけであったようです [1]。レンズの発売年は不明ですが1972年には既に発売されていました。AIC Photo Inc. ARRIMATSU CORP.(1972年) から出ているSoligorレンズのカタログに構成図付きで掲載されており、1972年に印刷された米国小売業者のプライスリストでも確認できます[1,4]。焦点距離が20mmではなく21mmであることを中途半端だと受け止める人も多くいると思いますが、これは対角線画角がライカ版35mmでちょうど90度であるところから決まっています。切りの良い焦点距離よりも、本質的に重要な切の良い画角が重視された結果が21mmだったのです。いかにもドイツ人的な発想であることは容易に想像ができます。21mmの起源は1958年に登場したスーパー・アンギュロン 21mm F4だったのでしょうか?。

Auto Miranda 21mmを供給したメーカーがどこであったのか、エビデンスとなる資料は見つかっていません。鏡胴のよく似たRIKENON 21mm F3.8の存在が確認でき、ミランダ研究会によると同等のトミノンやヤシノンもあるそうなので(これについて当方は未確認)、今回取り上げるAUTO Mirandaを富岡光学製であるとする仮説はとても有力です[2]。もうひとつの対抗仮説はTOKINAが製造したというものです。同社はかつてT4マウントのSOLIGOR 21mm F3.8を生産していました[3]。ただし、MirandaマウントのSOLIGOR 21mm F3.8とは鏡胴のデザインが異なっておりピントリングが金属のローレット加工ではなくゴムです。決定的な資料がない状況を考えると検証のためには中を開け、部品レベルで分析するしかないでしょう。エビデンスのある情報をお持ちの方から情報提供が寄せられるのをお待ちしています。

AUTO MIRANDAには焦点距離の更に短い17mm F4があり、同一レンズでM42マウントのNoritar 17mm F4が発見されていますので、ノリタ光学が製造したことは間違いありません。製造本数は極めて少なく入手は困難のため、現実的に入手が可能なモデルの中では今回取り上げる21mm F3.8が最も画角の広いレンズであると言えます。

レンズ構成は下図・左のような8群9枚で、第7群にはり合わせユニットを持った複雑な構成形態になっています[4]。時代的にはコンピュータ設計のレンズですが、やはりコンピュータによる設計で1961年に発売されたフレクトゴン20mm F4前期型(下図・右)を意識した構成であることは、この比較図から見ても明らかです[5]。この設計では広角レンズで一般的にみられる樽型歪曲収差を、前群に設けた2枚の発散性メニスカス(2群目と3群目のレンズ)を利用して抑えています。この設計はVEB Zeiss JenaのDannbergらが1956年に考案したもので、はじめは1955年の広角化アタッチメントの開発に利用されました[6]。

 

参考文献・資料

[1] 1972年の米国小売店でのプライスリスト

[2] ミランダ研究会 Ultra wide angle lenses

[3] トキナー交換レンズ価格一覧表

[4] Soligor Universal Automatic T4 Lens systm, AIC Photo Inc. ARRIMATSU CORP. (1972)

[5] Flektogon 20mm特許 DDR Pat.30477 (1963) 

[6] Pat. GDR No.17177, 22nd Dec.1956

Auto MIRANDA 21mm F3.8: フィルター径 72mm, 絞り羽 6枚構成, 絞り F3.8-F16, 最短撮影距離 0.3m, 重量(実測) 312g, MIRANDAバヨネットマウント , 設計構成 8群9枚






 ★入手の経緯 

レンズは2022年春にeBayを介して米国の撮影機材を専門に扱うセラーから200ドル(27000円)+送料で入手しました。オークションの記載は「ファインコンディションで未使用に近い。ケースとキャップが付属する」とのこと。ホコリも僅かの美品でした。オークションでの相場はコンディションにもよりますが150~200ドル程度でしょう。Soligorブランドの同等品の方がもう少し安値で(100~150ドルあたりで)流通していますので、ブランド名に拘らないのであれば、そちらでよいと思います。私は敢えて拘ってみましたけれど。
 
撮影テスト
この時代のウルトラワイドレンズは絞って撮ることを前提に設計されていますので、敢えて開放で使用すると、中央から少し外れたところで像が明らかに甘くなります。四隅の光量落ちも少し出ますが1段絞れば均一な光量になります。四隅までシャープな像を得たいなら2段絞る必要があるでしょう。このレンズの設計に影響を与えたフレクトゴン20mm F4と比較すると、逆光ではやはりゴーストはでるものの、フレクトゴンよりは出にくい印象です。逆に薄いベールのようなハレーション(グレア)は多めに発生し、強い逆光時はコントラストが落ちて発色が若干濁ります。フレクトゴンは深く絞ってもトーンが硬くなることはなかったのですが、ミランダは2段しぼると急にシャープになり、暗部の締りが強めに出るようになりました。発色に癖があるという噂を耳にしていたのですが、デジタル撮影(SONY A7R2)で特に気になることはありませんでした。歪みの補正については定評のあるフレクトゴンと遜色はなく、1970年代のウルトラワイドレンズとしてはまぁまぁ良好な補正レベルだと思います。

F8, Sony A7R2(WB:日光)













F3.8(開放)続いて開放。四隅で光量落ちが若干みられる。参考までにF8に絞った写真はこちらです

F8, Sony A7R2(WB:日光)














F3.8(開放) Sony A7R2(WB:日光)

F8, Sony A7R2(WB:日光)



































F8, Sony A'R2(WB:日陰)
F8, Sony A7R2(WB:日陰)

F8, Sony A7R2(WB:日陰)

F8, Sony A7R2(WB:日陰) 歪みもこのクラスのレンズとしては良好に補正されている印象です
F8, Sony A7R2(WB:日陰)

F5.6, Sony A7R2(WB:日光)
F8, Sony A7R2(WB:日光)