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2023/09/24

Ichizuka Opt. Co. COSMICAR 25mm F1.4 and PENTAX COSMICAR 25mm F1.4

新旧COSMICARの描写比較

Ichizuka Opt. Co. COSMICAR( Professional Kinotar ) 25mm F1.4(C-mount)

and PENTAX COSMICAR 25mm F1.4(C-mount)

COSMICAR(コズミカ)といえば現在はROCOH IMAGING(旧PENTAX)が市場供給しているCCTV用レンズのブランドですが、かつては東京都新宿区に拠点を構え、1951年より米国や日本に8mm Dマウントと16mm Cマウントのシネマムービー用レンズを市場供給した市塚光学工業株式会社のブランドでした[1]。同社はOEM生産にも積極的に取り組み、自社ブランドIZUKAR(イズカー)や、米国向けブランドのKINOTARとKINOTELでもレンズを製造[2]、広角から望遠、明るい大口径レンズ、マクロ撮影用レンズまであらゆる種類のシネレンズを手掛けていました[3]。1967年にコズミカ光学株式会社(Cosmicar Optical Co.)へと改称しますが、その後は経営不振に陥り他社との合併を繰り返しながら、最終的には旭光学(後のPENTAX / RICOHイメージング)の傘下に収まっています。

今回取り上げるのは市塚光学がコズミカ光学に改称した頃に市場供給したと思われるCOSMICAR 25mm F1.4(前期モデル)と、その後継製品で旭光学の傘下で生産したPENTAX COSMICAR 25mm F1.4(後期モデル)です。文献[4]には市塚光学製シネレンズの構成図がいくつか掲載されていますが、残念ながら今回取り上げるレンズの構成図は見つかりませんでした。現物をみるかぎり両モデルはどちらもガウスタイプの発展形です。両レンズの構成や用途はやや異なり、前期モデルは6群7枚のクセノン・ズマリット型で16mmシネマムービー用レンズであるのに対し、後期モデルは5群6枚のウルトロン型のCCTV用レンズです。旭光学の傘下で画質性能的にどのような変化があったのか、新旧COSMICARの写りの違いを堪能してみたいと思います。ちなみに前期モデルは米国ミモザ社のブランド登録商標であるProfessional Kinotarでも市場供給されていました。本ブログの過去の記事(こちら)で取り上げたProfessional KINOTAR 50mm F1.4は今回の前期モデルとは姉妹品の関係にあたります。 

参考文献・資料
[1]アサヒカメラ 1958年10月広告

[2] United States Patent and Trademark Office

[3]Popular Photography ND 1957 4月; 1957 1月(米国)

[4]1956~7年版 カメラ年鑑 日刊工業新聞社

COSMICAR (市塚光学製)前期型 25mm F1.4: 鏡胴に市塚光学のマークICHがみられる。構成 6群7枚ガウスタイプ(クセノン・ズマリット型), Cマウント, フィルター直径 30.5mm, 最短撮影距離 0.5m, 絞り値 F1.4-F22,  重量(実測) 106g, 定格は16mmシネマフォーマット
COSMICAR(ペンタックス製)後期型 25mm F1.4: 構成 5群6枚拡張ガウスタイプ(ウルトロン型), Cマウント, フィルター径 27mm, 最短撮影距離 0.3m, F1.4-F16, 重量(実測) 88g, 定格は16mmCCTVフォーマット

入手の経緯

COSMICARの前期モデルは米国でProfessionl KINOTARの名称で販売されていました。eBayでは150ドル程度で取引されており、国内ではオークションで1万円から1.5万円程度の値が付きます。現在は国内で探す方が安価に購入できると思います。後期モデルは現在もRICOHイメージング社がPENTAXブランドで市場供給しており、新品が17800円(税別)で購入できます。中古品の場合は国内のオークションで5000円程度以内で売買されています。旭光学の時代から販売されおり、とても息の長い製品ですね。

前期モデルには後期モデルの3~4倍の値がつきます。興味深いことですが、中古市場では古いレンズの方が価値があるということでしょうか。

撮影テスト

結論から申しますと、今回取り上げる前期モデルと後期モデルの間には画質的に大きな差があります。前期モデルは開放でフレアが目立ち、柔らかい描写傾向となります。コントラストは低めで色のりはあっさりしており、オールドレンズらしい画作りには好都合なレンズです。イメージサークルは広く、マイクロフォーサーズセンサーでは深く絞った際に四隅が僅かに欠ける程度です。ただし、本来写らない部分の画質ですので、中央から外れたところでは像面湾曲でピンボケ気味になり、樽型の歪みが目立ちます。1~2絞っても柔らかいままでした。グルグルボケは近接域で若干目立ちます。

後期モデルは流石にPENTAXの技術が入ったためか、シャープでコントラストの高い、高性能なレンズに変貌を遂げています。開放でも滲みはほとんど見られず、発色も鮮やかです。像面の平坦域は前期モデルよりもだいぶ広く、写真の四隅のみでピンボケします。歪みの補正はだいぶ改善されているように見えます。

前期モデルと後期モデルでここまで性能差があるのには、正直驚きました。後期モデルの設計にあたっては、PENTAXの設計陣がかなりテコ入れしたのでしょう。両レンズともマイクロフォーサーズ機で使用した際のケラレは極僅かで、私には全く気にならないレベルでした。ケラレを少しでも気にする人は、カメラの設定からアスペクト比を変えて撮影するのがよいかと思います。

Ichizuka Opt. Co. COSMICAR 25mm F1.4 

 Panasonic GH1

F2.8  Panasonic GH-1(WB:日陰)


F1.4  Panasonic GH1(WB:auto)

F1.4  Panasonic GH1(WB:auto)

F1.4  Panasonic GH1(WB:日陰)
F1.4  Panasonic GH1(WB:auto)




F5.6  Panasonic GH1(WB:日光)
F2.8 Panasonic GH1(WB:日陰)

PENTAX COSMICAR 25mm F1.4

 Panasonic GH1

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB, 日陰) シャープで高コントラスト。流石に現行モデルというだけのことはあります

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB, 日陰) でも、イメージサークルの規格を超えたセンサーでは、周辺画質が程よく乱れます

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB, 日陰) 中央の高画質と周辺の破綻がほどよくブレンド!

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB, 日陰) ケラレはマイクロフォーサーズ機で、あまり気にならないレベルです

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB, 日陰)



2020/02/14

Asahi Opt.Co.(PENTAX) Auto-Takumar 35mm F2.3 M42-mount


元祖レトロフォーカスの国産コピー
Asahi Opt.Co., Auto TAKUMAR 35mm F2.3(M42 mount)
一眼レフカメラの広角レンズを開発したパイオニアメーカーとして知られるフランスのP.Angenieux(アンジェニュー)。同社が1950年に発売したType R1 35mm F2.5は世界初のスチルカメラ用レトロフォーカス型広角レンズとして後世に名を残す名玉となりましたが、このレンズと全く同一構成の国産レンズがありました。後にPENTAXとなるAsahi Opt.Co.(旭光学工業)が一眼レフカメラPENTAX S2の発売に合わせ1959年から1962年にかけて市場供給したTAKUMAR(タクマ―) 35mm F2.3です[1,2]。今や710万円もするType R1によく似たレンズを手頃な価格で入手できるわけですから、これは手に入れないわけにはいけません。さっそくレンズ構成を見てみましょう。
下図の左がTAKUMAR、右の短いほうがType R1で、確かに同一構成のレンズであることがわかります。設計構成はテッサータイプ(後群のブルーの部分)をベースレンズとして前方にオレンジ色の2つのレンズユニットを追加したレトロフォーカスタイプです。最前面に据えられた大きな傘のようなレンズユニット(負のメニスカスレンズ)の効果によりバックフォーカスの延長が図られ、一眼レフカメラにおけるミラー干渉の回避を実現しています。これは、いわゆる眼鏡による近視補正の方法をレンズ設計に持ち込んだようなものです。

   
左がAsahi Opt. Co., TAKUMAR 2.3/35(1959年発売)、右がP.Angenieux Type R1 2.5/35(1952年発売)の光学系(トレーススケッチ)。設計構成は5群6枚のレトロフォーカス型
 
初期のレトロフォーカス型レンズには画質的に改良の余地が多く残されており、特にコマ収差の補正が大きな課題でした[3]。開放ではコマフレアがコントラストを低下させ、発色も淡白になりがちだったわけですが、これに対する解決法が発見されたのは1962年になってからのことです[4]。本レンズの製造期間が僅か3年と短期だったのは、日進月歩に進歩していた1960年代初頭のレトロフォーカスタイプの設計技術が、よりシャープで高コントラストなレンズを実現できるようになったからでしょう。

参考文献 

[1] Asahi Pentax S2 取り扱い説明書 1959
[2]  Takumar 2.3/35Type R1と同一構成であることはこちらの有名サイトに掲載されていた情報で知りました:「出品者のひとりごと・・」解説とオーバーホール工程: Asahi Opt. Co., (旭光学工業) Auto – Takumar 35mm/f2.3M42(20201月)
[3]「写真レンズの基礎と発展」小倉敏布 朝日ソノラマ (P174に記載)
[4] ニッコール千夜一夜物語 第12夜 Nikon-H 2.8cm F3.5 大下孝一
 

入手の経緯

中古市場では数こそ多くはありませんが、常に流通している製品です。ヤフオクでの取引相場は17500円から25000円くらいでしょう。私は2019年春に同オークションにて17500円の入札額で競り落としました。オークションの記載は「カビ、クモリ、バルサム切れ等なくガラスは美品。外観は写真で判断してほしい。フィルター枠には凹みがある」とのことでしたが、届いたレンズはヘリコイドが重めなうえマウント部にガタがありました。説明不足なので返品してもよかったのですが、自分で修理して使う事にしました。本レンズの場合は流通している個体の大半で前玉の裏に多めの拭き傷が見られます。写りに影響がないのであれば、ある程度の拭き傷は仕方ないものだと思います。
  
Takumar 35mm F2.3: 重量(カタログ値) 310g, 最短撮影距離 45cm, 絞り値 F2.3-F22( 半自動絞り), 絞り羽 10枚構成, フィルター径 62mm, 設計構成 5群6枚レトロフォーカス型(アンジェニューR1)

 

 

撮影テスト

Type R1と似ている描写傾向はありますが、想像していたよりも異なる部分の方が多くありました。Type R1よりもコントラストは高く、発色はより鮮やかでカラーバランスはノーマル、ヌケも良いです。これらはコーティングの性能やガラス透過率による差なのかもしれません。ピント部はType R1Takumarもたいへん解像感があり、被写体の質感をしっかりと捉えてくれます。四隅ではコマ収差の多いレンズにみられる玉ボケの変形がみられますが、ぐるぐるボケなどは無く、ボケはおおむね安定しています少しハイキー気味に撮るのがオススメで、開放では薄いベールを一枚覆ったようなコマフレアが強調され少しぼんやりしますが、それでいて色ノリはしっかりとしておりアーティスティックな雰囲気を作り出すことができます。Type R1では黄色にこける独特な発色と何とも表現しがたい味のある軟調描写が魅力でした。カメラ女子が使いこなすというよりはオジサンがカッコよい写真を狙うのに適したレンズだったのですが、TAKUMARの方は発色がノーマルで人肌の質感や色味も綺麗、花も鮮やかに撮ることができます。玄人向きのType R1、万人向きのTakumarといったところではないでしょうか。どちらも滲み系レンズで個性は強めです。

Photo: Shingo Shiojima
Location: 横浜イングリッシュガーデン
Camera: SONY A7S

F2.3(開放) sony A7S 美しいコマフレアが画面全体を覆っています
F2.3(開放) sony A7S 発色はType R1よりもノーマル。美しい肌の質感表現だとおもいます
F2.3(開放) sony A7S 35mmの広角でも口径比がF2.3もあれば、なかなかのボケ量が得られます

F2.3(開放) sony A7S

F2.3(開放) sony A7S 白い部分が少しぼんやりしますが、そこがいいんです







 

Camera: SONY A7R2
Location: 鎌倉
Photo: spiral

F2.3(開放)  SONY A7R2(WB:日光) 滲み系レンズの滲みを活かすには明るめに撮るのがオススメです

Camera: Fujifilm GFX100S
Photo: spiral
Aspect ratio 16:9

















続いて中判デジタルセンサーを搭載したGFX100Sでの写真です。アスペクト比を16:9に設定しダークコーナー(ケラレ)を防止しています。

F2.3(開放)Fujifilm GFX100S (16:9, WB:⛅)
















F2.3(開放)Fujifilm GFX100S (16:9, WB:⛅)

F2.3(開放)Fujifilm GFX100S (16:9, WB:⛅)

F2.3(開放)Fujifilm GFX100S (16:9, WB:⛅)










2015/09/05

Pentax smc PENTAX soft 85mm F2.2 (PK)









被写体の前方にバブルを生み出す
大口径ソフトフォーカスレンズ
PENTAX  smc Pentax Soft 85mm F2.2 
オールドレンズの分野ではちょっとしたブームになっているバブルボケであるが、これを被写体の背後ではなく前方に出す方法を考えはじめた。バブルボケとは収差を過剰(プラス)に補正したレンズに共通してみられるシャボン玉の泡沫のようなボケである。ちょうど大小さまざまなコンドームが折りたたまれた状態のまま、空間内を集団浮遊している状況を思い浮かべてもらえると理解しやすい。今回はこれを被写体の後方ではなく前方側に発生させたいのである。理論上は収差を逆方向にマイナス補正(補正不足に)したレンズを用いればよく、ソフトフォーカスレンズが最適である。また、ボケ量がある程度大きなレンズであることも重要である。あまり耳にしたことはないが、大口径ソフトフォーカスレンズを使えばよい。はたして、そんなレンズは実在するのであろうか・・・。探しはじめると間もなく見つかった。smc Pentax Softである。
このレンズはPENTAX(現RICOH IMAGING)が1986年から1990年にかけて4年間だけ生産した焦点距離85mmのポートレートレンズで、口径比はこのカテゴリーとしては異例のF2.2とたいへん明るいのが特徴である。構成は下図に示すような1群2枚の色消しダブレットで、望み通りに球面収差がマイナス側(補正不足側)に大きく倒れる設計である[文献1]。この種のマイナス補正型のレンズは被写体の背後でフレア(ハロ)を纏う柔らかい良質なボケが得られるため、ソフトフォーカスレンズには好んで用いられている。ただし、これとは反対に被写体の前方側のボケは硬く、ざわざわと煩いボケになったり2線ボケが出ることも想定できる。今回期待しているのは、まさにこういう性質なのである。さて、バブルボケは本当にでるのであろうか。確証のないままレンズの入手に踏み切ることになった。

参考文献
文献1: 「レンズ設計のすべて」辻定彦著
smc PENTAX SOFT 85mm F2.2の構成図トレーススケッチ(見取り図)。構成は1群2枚の色消しダブレットで左が被写体の側、右がカメラの側である
入手の経緯
本レンズは2014年12月にヤフオクを介して大黒屋・久里浜店から落札購入した。商品の解説は「使用に伴う汚れや傷があるが目立つ傷はない。レンズ内部にはわずかなチリがある。中古品の為、格安スタートにしている。ノンクレーム・ノンリターンでお願い」とのことで前後のキャップが付属していた。開始価格10000円でスタートし3人が入札、返品不可なのでリスクも考え13500円に設定したところ11500円+送料1000円で私のものとなった。届いたレンズは外観にこそ僅かな傷がみられたが、ガラスにはホコリやチリなど全くみられず、素晴らしい状態であった。
重量(公式) 235g, フィルター径 49mm, 絞り羽 6枚, 絞り F2.2-F5.6, 最短撮影距離 0.57m, 製造期間 1986-1990年, レンズ構成 1群2枚, マルチコーティング(smc), Pentax Kマウント
撮影テスト
結論から言えば被写体の前方にハッキリとしたバブルボケが出ることが確認できた。使い方次第ではかなり面白い写真になるだろう。
ソフトフォーカスレンズは収差を意図的に残存させ、コマやハロなど収差に由来する滲みやフレアを積極的に利用することで柔らかい描写を実現している。本レンズも含め収差の残存方法は球面収差をマイナス側(補正不足側)に倒すのが一般的で、この場合は背後のボケがフレアに包まれるとともに大きく柔らかい拡散になるなど美しいボケ味となる。反対に前ボケは像が硬くなりシャボン玉の泡沫のような美しいバブルボケが発生する。絞れば徐々にフレアは収まりヌケもよくなる。最も深く絞ったF5.6では中心解像力も悪くない水準に達している。
少し絞っている, Sony A7(AWB): いきなり出ましたバブルボケ。背後のボケは前方のボケよりも柔らかく拡散している
F2.8近辺まで僅かに絞っている, Sony A7(AWB): 圧縮効果を利用すれば、このとおり大小不揃いのバブルボケも出せる



F2.2(開放), Sony A7(AWB): クラゲちゃん大集合!。コマ収差も大量に発生しており四隅でボケ玉がクラゲ状に変形している様子がわかる

F2.2(開放), Sony A7(AWB):楽しい!このレンズは遊べる
F4.5, Sony A7(AWB):深く絞めば中央には解像力がありヌケも良い







F2.2(開放),Sony A7(AWB): 絞りを全開にしフレアを最大にすると、こうなる





F3.5, Sony A7(AWB, ISO5000): フレアは多ければいいというものではない・・・みたい

2010/07/12

Asahi Opt. Fish-eye-TAKUMAR 17mm/F4(M42)


一般撮影に魚眼レンズが使えることを広く認知させた銘玉

魚眼レンズとは180度以上の極めて広い視野角を持つレンズであり、全周(円周)魚眼と対角線魚眼の2種に大別される。このうち全周魚眼とは画面対角線よりもイメージサークル径が小さいレンズのことをいう。上下左右すべての方向で180度以上の画角が得られ、写真に写る画像は円形となる。天体撮影や気象観測、監視カメラ、高山でのパノラマ撮影などで用いられることが多い。これに対し対角線魚眼は画面対角線よりもイメージサークル径が大きいレンズであり、写真に写るのは通常の四角い画像となる。一般撮影にはこちらのタイプの方が向いている。
Fish-eye(魚眼)という言葉が初めて使われたのは米国の物理学者R.W.ウッドによる1911年の著書Physical Optics(物理光学)の一節である。まずウッドは湖面おける光線の屈折について、我々が高校物理で学ぶ屈折の法則を論じている。次にピンホールカメラを水中に設置して造ったFish-eyeカメラと称する実験装置を用いて、魚の視点で水中から眺める水上の景色が180度の視野角をカバーできることを実証、これがFish-eyeという言葉の起源となった。よくある誤解だが、魚眼レンズは魚の目に似せて造ったわけではない。
工業製品として造られた最初の魚眼レンズは英国の光学機器メーカーR & J Beck Ltdが1924年に製造した全周魚眼タイプのHill Sky Lens、写真撮影用としてはニコンが1938年に気象観測のために開発した180度の視野角を持つ全周魚眼レンズが世界初である。ニコンは1962年に一眼レフカメラに搭載できる世界初の全周魚眼レンズFisheye Nikkor 8mm/F8を発売した。この製品はフォーカスリングがついておらず、深い被写界深度を生かしたパンフォーカスでの撮影を前提とする焦点固定式レンズであった。後玉がカメラ側に大きく飛び出しているのでミラーアップの状態で撮影を行うという制約があり、バルブモードで天球撮影を行うなどの特殊用途を想定して造られた。これに対し旭光学(現PENTAX)は一般撮影での用途を想定した対角線魚眼レンズの開発を推し進めた。1962年に同社から発売されたFish-eye-Takumar 17mm/F11はミラーアップなしで撮影できる世界初の対角線魚眼レンズである。このレンズも焦点固定式であったが、同社は5年後にフォーカス機構を持ち開放絞り値を大幅に明るくした後継品を発売した。
今回取り上げるFish-eye-Takumar(フィシュアイ・タクマー)17mm/F4(旭光学、1967年発売)はフォーカスリングを持つ初の魚眼レンズである。一般撮影での用途を想定した製品であり、本品が発売された直後から魚眼レンズによる写真作品が数多く現れるようになった。本品は写真撮影の分野に新しい可能性を切り開いた歴史的な銘玉なのである。
鏡胴は薄くコンパクトでパンケーキレンズ風に造られている。フィルター枠の部分を回転させると内蔵カラーフィルターがリボルバー式に入れ替わるユニークな構造を持っている。180度の対角線画角を持つため、足のつま先から頭上方向まで一枚の写真に一気に写すことができ、何とも気持ちがよい。
TAKUMARブランドは安いというイメージが一般的な認識として定着しているが、本品は珍しいレンズなのでeBayでの中古相場は500㌦もする。国内中古相場は5万円前後であろう。ちなみに後継のSMC(マルチコーティング)版のレンズは本品よりも更に100-200㌦程高値だ。
重量:228g, 画角180度,  最短撮影距離:0.2m, レンズ構成:8群8枚, 絞り羽:5枚, 絞り値:F4-F22, 3種の切替式のフィルター(L39UV/Y48/O56)を内蔵する。本品はフィルムの現像でお世話になっている自宅近くのカメラ店の店員さんにお借りしたレンズだ

TAKUMARというブランド名は旭光学の初代社長・梶原熊雄氏の弟でレンズの開発にあたった梶原琢磨氏の名から来ており、「切磋琢磨」にも通じる所から名付けられた。梶原琢磨氏は技術者であり写真家でもあったが、後に油絵画家に転向している。

★撮影テスト
魚眼レンズは光屈折を利用して人間の目の能力を超えた180°以上の視野角に渡る像を平面状の感光体に射影する。屈折の法則により視野角が深いほど像が圧縮されるため、外周に向かうほど撮影像が樽状に歪む(歪曲収差)。通常の写真撮影用レンズ、特に広角レンズでは歪曲収差が補正され歪みが目立たないようになっているが、魚眼レンズはこの歪曲収差を残している点が特徴である。外周では像が小さく縮み中央部では大きく広がることから、歪みを効果的に取り入れたユニークな作品を造り出すことができる。
Fish-eye-Takumarはガラス面のコーティングが単層であるうえにフードをつけてハレ切りをおこなうことができない。そのため逆光にはめっぽう弱く、視野角内に太陽光源の侵入を許すとゴーストやフレアが盛大に発生する。屋外で本品を使用する際には充分に気を付けなければならない。最短撮影距離が20cmと短く、近接撮影にはなかなか強い。犬や猫などの顔をアップで撮影する最近流行の構図にも取り組めそうだ。
 

F11 銀塩撮影(Fujicolor Reala ACE 100): たまに使用するとスカッと開放感のようなものを感じてしまうレンズだ。画像端部では像の歪みが大きく、建物がバナナのように曲がってしまうのが面白い。右下の女の子のあたりにゴーストが盛大に発生している。レンズにはフードがつけられないので太陽光源には注意を払いたい

F4 銀塩撮影(Fujicolor Reala ACE 100): 被写界深度の極めて深いレンズとはいえ、近接撮影ではこのとおりにしっかりボケてくれる、ボケ味は悪くない。最短撮影距離まではもう少し寄れるが、これ以上寄ると前玉を爪で引っかかれそうなのでやめておいた
F11 銀塩撮影(Fujicolor Reala ACE 100): なぜかこのレンズを用いると縦の構図が多くなってしまう。このレンズのオーナーの方も同じような事を言っていた

★内蔵されているオレンジフィルターを使って遊ぶ
本来はモノクロ撮影でコントラストを向上させるために用いられるカラーフィルターだが、せっかく内蔵されているので、あえてカラー撮影で使ってみても面白い。レトロな雰囲気を演出したり、ちょっと非現実的な作風にしてみたりと、使い方によってはなかなか良い効果を生む。
F11 銀塩撮影(Fujicolor Reala ACE 100): こちらは太陽光を積極的に導入した作例だ。左下にゴーストが発生しているが、オレンジフィルターを用いた作例ではあまり目立たなくなっている
F11 銀塩撮影(Fujicolor Reala ACE 100): こちらはオレンジフィルタを用いて撮影し、後でカラーバランスを調整して仕上げた。金属の光沢感がとてもいい雰囲気になった

★撮影機材
PENTAX MZ-3 + 旭光学 Fish-eye-Takumar 17mm/F4 + FujiColor ネガ(Reala ACE 100)