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2023/10/29

Meopta OPENAR 40mm F1.8 ( c mount )



ある日、私はこのレンズを手に口が開きっぱなしでした。手に入れたのは遡ること6年も前の事です。インターネット上に投稿されていたこのレンズによる写真を見て漠然と惹かれるものがあり、eBayでポチったまではよかったのですが、そのまま忘れ去っていたのです。そしてある日、防湿庫を整理していたら、奥の方ですまなそうに「僕のこと覚えていますか?」などと言い「にゅ~っ」と顔を出して来たのがこの子で、「あっ!」と口が開きっぱなしになったのでした。

チェコからやって来たシネマ用レンズ

MEOPTA OPENAR 40mm F1.8 (c mount)

OPENAR(オプナー)はMEOPTA(メオプタ)社の16mmムービーカメラAdmira 16 A1 electricに搭載する交換レンズとして1963年にカメラと共に登場しました。カメラはプロ向けに開発された製品ではなく、マチュアがホームムービーを撮影するためだとカタログに紹介されており、電動で動くのが売りだったようです。ネットには女性モデルがピストルグリップを片手で握りニッコリ笑って撮影している当時の広告写真が見つかりますが、これは間違いなく痩せ我慢。本体重量が2.1kgもあるので、かなり怪力なモデルを採用しているようです。カメラは旧ソビエト連邦に数多く輸出され、シンプルな操作性と信頼性で人気だったようです。交換レンズは今回ご紹介するOPENAR 40mm F1.8が豪華な5群7枚構成のガウスタイプで、イメージサークルはマイクロフォーサーズセンサーを完全にカバーでき、APS-Cセンサーでは四隅に光量落ちが出るもののケラれることはありません。焦点距離40mmはCマウント系レンズには珍しく、APS-Cで用いると標準レンズ、マイクロフォーサーズではポートレート用レンズの画角となります。一粒で二度美味しい、人気が出そうなモデルですね。これ以外には7群8枚の広角レトロフォーカスタイプLargor 12.5mm f1.8、4群6枚の標準レンズOpenar 20mm f1.8、3群5枚の望遠レンズOpenar 80mm f2.8があります。LargorとOpenar 20mmはマイクロフォーサーズ機で用いると大きくケラれてしまうので、Nikon 1など更に小さなセンサーを採用したカメラが適しています。望遠のOpenar 80mmはAPS-C機で用いると四隅に光量落ちがみられるものの、イメージセンサーをギリギリでカバーできるようです。

 

メオプタ社についてのおさらい

メオプタ社は1933年に旧チェコスロバキアの小都市Prerovにて地元工業学校教授Alois Mazurka博士の主導のもと設立されたOptikotechna(オプティコテクナ)社を前身とする光学機器メーカーです[2]。博士は就労先の工業学校に光学専攻を設立し若手を育成、それがオプティコテクナ社の設立に繋がりました。設立後は引き延ばし機、暗室具、暗室用コンデンサー、プロジェクター装置などの生産を手がけ、1937年には郊外に新工場を建設、事業規模を拡大してゆきます。1939年に6x6cm判の二眼レフカメラFlexette(フレクサット)を開発することでカメラ産業への進出も果たしています。ところが、間もなくチェコスロバキアはドイツ帝国による支配をうけることになります。第二次世界大戦が始まり、同社はドイツ軍の要求に応じ軍需品(望遠鏡、距離計、潜望鏡、双眼鏡、ライフル)を製造するようになります。そしてドイツは敗戦、大戦終結の翌年1946年にオプティコテクナ社はチョコスロバキア共産党政権の下で国営化され、現在のMEOPTA(メオプタ)へと改称されます。メオプタの由来はME(機械:mechanical) + OPTA(光学機器:Opical device)です。戦後間もなくメオプタ社は引き延ばし機の分野で世界最大規模のメーカーに成長し、また中東欧における唯一のシネマプロジェクター製造メーカーとなっています。しかし、戦後の東西冷戦体制が同社を再び軍需産業メーカーへと変えてしまいます。1971年にはワルシャワ条約機構軍への軍需品生産が売上高の75%を占めるまで増大、同社は正真正銘の兵器開発メーカーになります。国営企業が武器を生産し戦争や破壊行為に荷担する事への避難の声が国内外から高まっていきました。こうした企業体質を変えようとする動きは冷戦構造の崩壊と1989年のビロード革命による共産党政権の崩壊で大きく前進します。1988年にメオプタ社はライフルの減産を発表し、1990年に生産を0%とすることで兵器産業からの脱却を宣言しています。ただし、この数値にはライフル照準器や戦車の照準器などが武器としてカウントされておらず、同社は今現在も軍需光学製品を生産しており、軍需産業からの完全な脱却には至っていません。メオプタ社は1992年に民営化を果たし、今もチェコを代表する東欧最大級の光学機器メーカーとして企業活動を継続させています。

 

★参考 

[1] Adomira 16 A1 electric 公式マニュアル

[2] MEOPTA公式ホームページ

MEOPTA OPENAR 40mmF2.5: 絞り F1.8-F22, 絞り羽 6枚, 最短撮影距離 0.8m, フィルター径 35mm, 重量(実測) ,  Cマウント, 5群7枚ガウス発展タイプ


入手の経緯

eBayを経由しウクライナなど東欧のセラーから入手するのが一般的なルートです。私は2017年11月に状態の良さそうな個体をウクライナのセラーから総額114ドルで購入しました。商品はエクセレントコンディションとの触れ込みでカビ、クモリのないクリアなガラスとのことでした。届いた品はガラスこそ良好な状態でしたが、ピントリングがカチンコチンに固まっていました。自分で分解しグリスを入れ替えることに。Cマウントレンズはヘリコイドの構造がシンプルな製品が多くメンテナンスは慣れた人にはごく簡単です。現在の取引価格は最低150ドルからで、市場での流通量は今でも豊富です。ただし、相場価格は私が入手した頃よりも明らかに高くなっています

 

撮影テスト

ChatGPTは柔らかい描写のレンズと言っていましたが、彼は実際に試写していませんし、言っていることも間違いです。7枚玉の威力なのでしょうか、かなり高性能で、開放から滲みは無く、高解像でシャープな像が得られます。レンズは16mmシネマフォーマットが定格ですが、イージサークルには余裕があり、APS-Cセンサーでも写真の四隅に少し光量落ちが出る程度でケラれる事はありません。マイクロフォーサーズ機では四隅まで均一な光量が得られます。このクラスのシネレンズを規格外の大きなセンサーで使うと四隅の画質に無理が出るのが常ですが、このレンズは画質的に余裕があり、良像域がとても広く、APS-Cセンサーの四隅まで像面は平坦です。ボケは流石にグルグルしますが、避けたいならばマイクロフォーサーズ機で用いれば全く目立たないレベルになります。

F1.8(開放) Fujifilm X-T20(WB:日陰) APS-C機でのケラれ具合はこんなもんです


F1.8(開放) Fujifilm X-T20(WB:日陰)
F1.8(開放) Fujifilm X-T20(WB:日陰)



F2 Fujifilm X-T20(Aspect Ratio 16:9, AWB)
F1.8 Fujifilm X-T20(Aspect Ratio 16:9, AWB)
F1.8 Fujifilm X-T20(Aspect Ratio 16:9, AWB)
F1.8(開放) Fujifilm X-T20(Aspect Ratio 16:9, AWB)
F1.8(開放) Fujifilm X-T20(Aspect Ratio 16:9, AWB)




F1.8(開放) Fujifilm X-T20(Aspect Ratio 16:9, AWB)
F1.8(開放) Fujifilm X-T20(Aspect Ratio 16:9, AWB)

2012/01/05

Meopta Meogon 80mm F2.8 改M42 (L39/M39 Enlarging lens)


Meopta Meogon 2.8/80の前期モデル(上)と後期モデル(下)
 
四隅までスカッと写る驚異の5枚玉
PART2: MEOPTA MEOGON 2.8/80


Biometar/Xenotar型レンズの優れた描写特性は平面像の精密複写に適していることから、活躍の舞台は引き伸ばし用レンズ(エンラージングレンズ)の分野にも広がった。シリーズ第2回はチェコ(旧チェコスロバキア)のPrerov(プレロフ)に拠点を置き、暗室用具やシネマプロジェクターの分野で中東欧最大級の規模を誇る光学機器メーカーのMeopta(メオプタ)社が1960年代から1970年代にかけて生産した引き伸ばし用レンズのMeogon(メオゴン) 80mm F2.8である。引き伸ばし用レンズは画質への要求の高さから一般に小口径の製品が多く、35mmの一眼レフカメラに転用した場合には表現力に不満が残る。Meogonのように80mm F2.8(50mm換算でF1.75)と大きな口径を実現した常用画角の製品は稀である。この口径で引き伸ばし用レンズに求められる高い画質基準をクリアできたのは、画角特性の良いBiometar/Xenotarタイプの光学設計だからこそであろう。
Meogonの光学系で左側が前群側となる。後群にある凹メニスカスレンズはBiometarよりもやや厚く、Unilite型よりも薄い
MEOGONにはゼブラ鏡胴の前期モデルとダークブルー色の後期モデルが存在する。両者の光学系はコーティング色の構成と配置まで含め同じにみえる。試しに両者の前群を交換してみたが、撮影には全く支障がなかったことから、やはり前期モデルと後期モデルは光学系が同一なのであろう(2本とも買う必要はなかった・・・)。製品個体に表記されたシリアル番号が4桁しかなく、生産数はあまり多くなかったようだ。レンズの設計構成をみると、Biometar/Xenotar型レンズの特徴である後群の凹メニスカスレンズがBiometarよりもやや厚く、Unilite型よりも薄い。このレンズエレメントの厚みは描写設計と密接に関わっており、薄くしてゆくとトポゴン型レンズの性質が優位になり画角特性(周辺部の画質)が向上、Biometar / Xenotarタイプのように隅々まで均一な画質になる。逆に厚くしてゆくとガウス型レンズの性質が優位に強まり、大口径化が容易になる。Meogonの描写特性はBiometar/XenotarタイプとUniliteタイプの中間的な位置付けにあるようだ。

MEOPTA(メオプタ)社
同社は1933年に旧チェコスロバキアの小都市Prerovにて、地元の工業学校教授Alois Mazurka博士の主導のもと設立されたOptikotechna(オプティコテクナ)社を前身とする光学機器メーカーだ。博士は就労先の工業学校に光学専攻を設けることに尽力し、それがOptikotechna社の設立に繋がった。設立後は引き延ばし機、暗室具、暗室用コンデンサー、プロジェクター装置などの生産を手がけ、1937年には郊外に新工場を建設し事業規模を拡大した。1939年に6x6cm判の二眼レフカメラFlexette(フレクサット)を開発することでカメラ産業へも進出している。しかし、間もなくチェコスロバキアはドイツ帝国による支配をうける。第二次世界大戦が始まり、同社はドイツ軍の要求に応じ軍需品(望遠鏡、距離計、潜望鏡、双眼鏡、ライフル)を製造するようになる。大戦終結の翌年1946年にOptikotechna社はチョコスロバキア共産党政権の下で国営化され、現在のMEOPTAへと改称された。社名の由来はME(機械:mechanical)+OPTA(光学機器:Opical device)である。戦後のMEOPTA社は引き延ばし機の分野で世界最大規模のメーカーに成長し、また中東欧における唯一のシネマプロジェクター製造メーカーとなった。しかし、戦後の東西冷戦体制がMEOPTAを軍需産業メーカーへと変えてしまった。1971年にはワルシャワ条約機構軍への軍需品生産が売上高の75%を占めるまで増大し、同社は正真正銘の兵器開発メーカーになっていた。国営企業が武器を生産し戦争・破壊行為に荷担する事への避難の声が国内外から高まっていた。こうした企業体質を変えようとする動きは冷戦構造の崩壊、1989年のビロード革命による共産党政権の崩壊を経て僅かに前進した。1988年にMeoptaはライフルの減産を発表し、1990年に生産を0%とすることで兵器産業からの脱却を宣言している。ただし、この数値にはライフル照準器や戦車の照準器などが武器としてカウントされておらず、同社は今現在も軍需光学製品を生産しており、軍需産業からの脱却には至っていない。Meopta社は1992年に民営化を果たし、今もチェコを代表する東欧最大級の光学機器メーカーとして企業活動を継続させている。

引き伸ばし用レンズ(エンラージングレンズ)の魅力
引き伸ばし用レンズとはフィルム像を印画紙に焼き付ける行程で用いられる複写用レンズである。描写設計が近接撮影に最適化されているものの、無限遠からの一般撮影にも使用可能で、絞り開放時には残存収差が現れ描写がソフトになる。これを好んで一般撮影(規格外の遠距離撮影)で使用する者もいる。収差が過剰に補正されていることから近接撮影で高解像な画質が得られるのはともかく、一般撮影で数段絞って使用した場合において球面収差の膨らみが全くなくなり、極端に高解像なレンズへと化けるケースもある。収差変動によりメーカーも想定していなかった一芸に秀でた描写力を示すケースである。しかし、単なるダメレンズにしかならない可能性も大いにある。この種のレンズを一般撮影に用いる遊びはコアなマニア達によって細々と続けられてきたが、口に出して魅力を語る人は少なく、どのレンズがどうなのかなど情報は極めて少ない。一流メーカーのレンズが非常に安く手に入るので、エンラージングレンズはレンズ遊びの穴場と言ってよい。

MEOGONをヘリコイドユニットにマウントする
引き伸ばし用レンズはヘリコイド(光学部の繰り出し機構)が省かれており、一眼レフカメラやミラーレス機の交換レンズとして用いるには下の写真のようにヘリコイドユニットに装着する必要がある。多くはマウント部がライカスクリューと同じM39/L39ネジになっており、変換リング(写真・左)を介してM42マウントのフォーカッシングヘリコイド(写真・中央のBORG製OASYS 7842)に搭載することができる。ちなみに、もう少しストロークの長いヘリコイドユニット(OASYS 7841)でも同様の改造にトライしてみたが、内部の天板がレンズの後玉ガード部に当たり無限遠のフォーカスが得られなかった。そこで仕方なくOASYS 7842を用いることになったのだが、マウント部とヘリコイドユニットの間に無駄な隙間(写真・右)ができてしまった。沈胴式みたいな姿でカッコイイと思うのは私だけであろうか?。このレンズを見た某人は、これを「沈胴しない式」と表現していた・・・トホホ。
本品を含め引き延ばし用レンズにはヘリコイドがついていない。一眼レフカメラで使用するために別途フォーカッシングヘリコイド(BORG製OASYS 7842)とM42-M39変換リングを用いてM42マウントに変換している。M42-M39変換リング(写真・左)はeBayにて5ドル程度(送料込み)で入手できる。ちなみに中国製のフォーカッシングヘリコイド(17-31mm)でも問題なく使用可能であった
入手の経緯
ゼブラ柄の前期モデルはポーランド版eBayを介し、2011年12月に個人の出品者から購入した。商品の状態は「非常に良い」と簡素な記述であった。2週間後に届いた品はチリやホコリの混入があったが前群を外して内部をブロアーで吹いたら完全に綺麗になった。ガラスは拭き傷すらない極上の状態で、こりゃラッキー。海外相場は65~90ドル程度とたいへん安く、ヘリコイドユニットと変換リングを合わせても150~170ドルとコストパフォーマンスのたいへん良いレンズだ。ちなみにMeogon 80mm F2.8は後期モデルを目にすることが多く、ゼブラ柄の前期モデルは希少性が高い。
Meogon 80mm F2.8(前期型):重量(実測・ヘッド部のみ) 186g, フィルター径 39mm, 絞り値 F2.8-F22, 構成 4群5枚Biometar/Xenotar型, ヘッド部ネジ M39(ライカL互換), 絞り羽枚数 5枚, 絞り機構 手動(マニュアル),コーティングはアンバー系が中心で一部マゼンダ系

ダークブルー色の後期型モデルは米国版eBayを介しスロバキアのカメラ用品業者(取引件数は何と19128件!!で好評価100%)から2011年11月に落札した。商品の状態はMINT in BOX(箱入りの新品同様品)で「未使用のオールドストック品、カビ、クモリ、傷がなく、絞りリングはスムーズ」とのこと。良くわかる拡大写真を提示しており、後玉についた指紋までクッキリと見えた。ただし、箱は50mm/F2.8のMeogon Sのものであり、元々の箱はロストしているとのこと。最近知ったアンドロイド携帯用のスナイプ入札ソフトで120ドルの最大入札額を設定し放置したとこと、89ドル(送料込の総額106ドル)で落札されていた。私以外にはフランスから1名の入札があり一騎打ちとなった。円高パワーをナメたらあかんでぇ!日本経済ごめんなさい。さすがにこんなレンズを狙うのはXenotar型レンズの愛好者ぐらいであろう。10日後に届いたレンズは僅かにホコリの混入がある程度で十分に良い品であった。こちらの海外相場も前期型とほぼ同じである。認知度が低く、レアであるにも関わらず相場は安い。
Meogon 80mm F2.8(後期型): 重量(実測・ヘッド部のみ) 176g, フィルター径 39mm, 絞り値 F2.8-F22, 構成 4群5枚Biometar/Xenotar型, ヘッド部ネジ M39(ライカL互換), 絞り羽枚数 5枚, 絞り機構 手動(マニュアル), コーティングはアンバー系と一部マゼンダ系の混合



撮影テスト:解像力はBiometarと同等。撮る対象を選ぶ事が肝心
 Biometar/Xenotarタイプのレンズにはガウスタイプのような画面中央部の突出した解像力はないが、そのかわりに四隅まで解像力の落ちない優れた画角特性が備わっている。このレンズはキレるなと人が目で見て感じる作例の多くは被写体をアップで写すような場合であり、このときに効果が表われるのは中央部を重視した1点突出型の解像力ではなく、分散型の解像力なのだ。引き伸ばし用レンズのMeogonにも四隅まで解像力の落ちない優れた画角特性が備わっている。
 Meogonを試写していて真っ先に気がついたのは後ボケが良く整っていることである。グルグルボケなど背景周辺部における像の流れが全くと言っていいほどなく、TessarやSonnarで撮ったのかと見間違えるレベルである。ただし、背景のボケ味は硬く、輪郭部にエッジが立つため、ザワザワと煩くなるケースがあり、撮る対象に注意する必要がある。世間には柔らかいボケを好む人が多いようだが、時には硬いボケも悪いものではない。像の形が崩れないので、上手く利用すれば例えば点光源などに対し、素晴らしい写真効果が得られる。コントラストは高くないため、ややあっさりとした淡泊な色のりとなる。曇天下にコンクリートなど灰色のものを撮ると青っぽく、また人の肌はやや白っぽくみえるなどクールトーン気味の発色である。F2.8の開放絞りでは球面収差の過剰補正が効き、像がややソフトでやわらかい描写になるが、1段絞るF4では周辺部まで解像力とコントラストが著しく向上、モヤモヤとしたものが無くなりスッキリと写るようになる。2段以上に絞った際の画質の向上は中央部・周辺部ともに僅かである。このレンズは一段絞ればほぼピーク性能に達するようで、最もおいしい絞り値はF4となる。開放絞りからF4までは解像力もコントラスト性能もBiometarと比べ全く遜色ない高いレベルに達している。安物なのに大したレンズだ。ただし、絞りを2段閉じた際にもコントラスト性能の更なる向上が見られるBiometarの方が、深く絞る際にメリハリの強い描写となる。
 Meogonは階調表現が鋭く、絞るとかなり硬い描写となる。建造物やモノ撮りには好都合だが、柔らかさが求められる人物撮影には向いていない。Biometarの時には温調な発色特性が硬質感を心理的に和らげてくれたが、Meogonはクールトーンなので、どうしても人が物体のように無機的に写ってしまう。描写特性による向き不向きをよく認識し、撮る対象を選り分ける必要がある。以下に銀塩撮影とデジタル撮影による作例を順に示す。もちろん、無補正・無加工だ。

★★銀塩(フィルム)撮影★★
使用フィルム Kodak ProFoto XL100 / Fujicolor V100
カメラ Pentax MX
minolta角形メタルフード(被せ式)使用
F4 銀塩撮影(FujiColor V100) 一段絞れば充分な解像力が得られる。背景にグルグルボケや放射ボケは全くでない。遠距離撮影で像面湾曲の補正がアンダーになっているのであろう。同類のBiometarやXenotarにはない大きなアドバンテージと言えるだろう。髪の毛のあたりを見てもらうとわかるが硝子のようにバキバキの質感である。階調表現が鋭く硬質感が強いので人を撮るには注意が要る

F5.6 銀塩撮影(Kodak ProFoto XL100) このレンズの長所はやはり四隅まで解像力が落ちないことである
F8 銀塩撮影(Kodak ProFoto XL100) 被写体を平面的に均質に写す際には大きな力を発揮する
F8 銀塩撮影(Kodak ProFoto XL100) 発色は青みがかる傾向が強くクールトーンだ

★★デジタル撮影★★
カメラ Nikon D3 digital
minolta角形メタルフード(被せ式)使用
F5.6 Nikon D3 digital(AWB): フィルム撮影の時にはシャドー部に青みがのるなどクールトーン調の発色であったが、デジタル撮影ではカラーバランスの自動補正が効くためかノーマルな発色となる

F2.8開放 Nikon D3 digital(AWB): このレンズの特徴である硬いボケを利用した作例。しかし予想以上にいい色がでるレンズだ。背景に伸びる枝の描写がとても気に入っている

F5.6 Nikon D3 digital(AWB): 世間には柔らかいボケを好む人が多いようだが硬いボケもそう悪いものではない
F5.6  Nikon D3 digital(AWB): 私は神社での作例作りに苦手意識があり失敗作の山を築き上げていたが、今回のMeogonは想像以上に頼りになるレンズなので、シャッターをガンガンを切ることができた
F5.6 Nikon D3 digital(AWB):周辺部の文字や蜘蛛の糸までクッキリと見える

F2.8  Nikon D3 digital(AWB):  近接撮影の場合は引き伸ばし用レンズの本領が発揮される。開放絞りから高い解像力となり、乾燥した肌の質感や鼻水の跡などがハッキリと写っている。ただし、髪の毛がガラスのような質感でバキバキ。人を撮るには硬すぎる描写だ
F11 Nikon D3 digital(AWB): 参考までに遠景も1枚加えておく。歪みはほぼないようだ。これは高速道路がビルを突き抜けている奇妙な風景だ

絞り値と画質の変化
画像中央部の解像力とコントラストを絞り値ごとに評価した。検査にはフルサイズ機のNIKON D3を用いている。最初の被写体は表面に凹凸のある錆びた金属車輪で、これを晴天時に屋外で撮影している。


ピント部は車輪中央部から上方へと伸びる細長い軸受けの表面である。ライブビューの拡大機能も援用し目でジックリとピントを合わせフォーカスエイドでチェックするという二段階ステップを踏んでいる赤で示した着色部を拡大し、絞り値ごとに並べたのが下の写真である。画像をクリックすると拡大画像が表示されるが、ブログの標準ビュアーが邪魔して写真が十分に拡大されない場合があるので、右クリックから画像をいったんPCに保存してご覧いただくのがよい。
写真をクリックすると拡大画像が表示されます
絞り開放のF2.8では像がややソフトになり階調表現もハイライト方向への伸びが僅かに悪い。1段絞るF4では解像力とコントラストがともに向上し、凹凸部がキッチリと再現されるようになる。ただし、2段以上絞っても画質の向上は僅かである。

Meogon vs Biometar どちらがシャープ?
次はBiometar(M42マウントの銀鏡胴タイプ)との比較によって、Meogonの相対的な画質を評価してみた。の写真はマンションのタイル表面を1m離れた位置から垂直に撮影したものだ。光軸合わせは画像中央部と、その左右端部の3点でフォーカスエイドが同時に点灯するように行っている。こちらのテストでもライブニューでジックリ合わせフォーカスエイドで確認をとる二段階ステップで、精確なピント合わせを行っている。実はここが最も根気の要る作業だ。画質の評価は画像中央部Aの領域と周辺部Bの領域で行った。撮影に用いたカメラはNikon D3である。



上の写真中央部のAの領域を拡大表示し、絞り値ごとに並べたのが下の写真だ。開放絞り(F2.8)では両レンズとも描写が僅かにソフトで細部の結像は甘いが、1段絞るF4では両者とも解像力が急激に向上、溝の中の極小サイズの凹凸までしっかりと再現されている。ただし、2段絞るF5.6では両者ともコントラストが若干高くなる程度で、画質の変化はごく僅かである。画像中央部における両レンズの画質はほぼ互角といってよい。両レンズとも1段絞るだけで画質はほぼピークに達する。
写真をクリックすると拡大画像が表示される
 今度は右端Bの領域を拡大表示し絞り値ごとに並べたのが下の写真だ。さすがに中央部と比べ解像力とコントラストの低下が顕著で、F2.8の開放絞りでは質感が失われモヤモヤとしている。それでも過去に行った他のレンズに対するテスト結果より優位な画質であり、Biometar型レンズの画角特性の良さを実感できる。1段絞るF4では解像力とコントラストが大幅に改善し、溝中の小さな凹凸がしっかりと再現されている。2段絞るF5.6ではBiometarのみコントラストが僅かに向上しメリハリが増している。一方、Meogonの画質に大きな変化はみられない。F5.6以上に絞る際の画像周辺部のコントラスト性能はBiometarの方が僅かに優れているようだ。
写真をクリックすると拡大画像が表示される


MeogonはBiometar並の高画質が得られるコストパフォーマンス抜群のレンズである。おもろいレンズを発掘でき今回は大満足であった。


NEX 5への搭載例


焦点距離105mm以下の常用画角を持つ大口径引き伸ばし用レンズ(口径20mmより大きなもの)
口径が大きい引き伸ばし用レンズはボケが大きく表現力に富むため、写真用レンズとしての転用価値が大きい。引き伸ばし用レンズの中にも稀に大きな口径を持つ製品が存在するので、情報を収集し整理ておく事には一定の価値がある。以下に焦点距離105mm以下の常用画角を持つ大口径(20mmよりも大きな口径)の引き伸ばし用レンズに関する情報を列記してみた。原則的に名の通ったメーカーの製品のみで、メーカー名がはっきりしないものはリストから除外している。レンズの口径(有効口径)を計算するには「焦点距離」を「開放絞り値」で割れば良く、計算方法は以下の通りとなる。

レンズの有効口径(effective aperture) X = 焦点距離(Focal length)開放絞り値(maximum aperture)

たとえばMeogon 80mm F2.8では X = 80mm ÷ F2.8 = 28.5 となる。ボーダーとなるX=20mmは50mmの標準レンズに換算した場合にF2.5の口径を持つレンズに相当する。計算例を挙げると、75mm F3.5ではX=75÷3.5=21.4mmなのでOK、75mm F4.5の場合にはX=16.6mmなのでNGということになる。ボーダーライン(ボーダー上は含めない)は焦点距離50mm F2.5、55mm F2.75、60mm F3、75mm F3.75、80mm F4、90mm F4.5、100mm F5となる。Xの値が大きいレンズほど、ある意味で表現力の豊かなレンズということになる。

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20mmより大きな口径(X>20mm)を持つ焦点距離105mm以下の
引き伸ばし用レンズ(メーカー名不明のレンズは除外)
Enlarging lenses with large effective aparatyure >20mm
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Schneider(Germany)
Componar 75mm f3.5(X=21.4)
Componar-S 105mm F4.5(X=23.3, Inverse tessar type,L39)
Leitz(Germany)
Focomat 9.5cm F4.5(X=21.1)
V-Elmar 100mm f1:4.5(X=22.2)
FujiFilm(JP)
E-Rector/Fujinar-E 75mm F3.5(X=21.4, Tessar-type)
Fujinon-ES 105mm F4.5(X=23.3)
Fujinon-ES 135mm F4.5(X=33.3)
Nikkon(JP)
EL-Nikkor 63mm F2.8(X=22.5)
Angenieux(France)
Type X1 75mm F3.5(X=21.4, L39, tessar type)
Meopta(CK)
Meogon 80mm F2.8(X=28.5,biometar/xenotar type)
Rodenstock(Germany)
Apo Rodagon-N 105mm F4(7 elements in 5 groups, X=26.3)
Aop Rodagon 90mm F4(X=22.5)
Rogonar-S 105mm F4.5(Tessar type)
Ross(UK)
Resolux 9cm f4(X=22.5, Tessar type)
Konishiroku/Konica(JP)
Hexar 75mm F3.5(X=21.4)
E-Hexanon 75mm F3.5(X=21.4)
MMZ(USSR)
INDUSTAR-58 ENLARGER 75mm F3.5(X=21.4, Tessar type)
VEGA 5U 105mm F3.5(X=30, Xenotar type)
Boyer Paris(France)
Topaz 75mm F2.9(X=25.9)
Saphir B 85mm F3.5(Euryplan type X=24.3)
Saphir B 75mm F3.5(Euryplan type X=21.4)
Taylor(JP)
Tayon 75mm F3.5(X=21.4)
minolta(JP)
E.Rokkor 75mm F3.5(X=21.4,L39)
Steinheil(Genmany)
Cassar 73mm F3.5(30mm thread)
Quinon 56mm F1.9(X=29.5) rare
Wollensak(USA)
velostigmat enlarging 89mm F3.5(X=25.4)
velostigmat 85mm F3.5(X=24.3)
Schacht(Germany)
Travegar 75mm F3.5(X=21.4,L39)
Dallmeyer(UK)
100mm F4.5(X=22.2)
Kodak(USA or Germany)
Color Printing Ektar/Enlarging Ektar
87mm F4.5, 93mm F4.5, 96mm F4.5, 100mm F4.5, 103mm F4.5
Beseler(USA/OEM product made in Wetzlar Germany)
Beslon 100mm F4.5(X=22.2)
Beseler 75mm f3.5(X=21.4)
Omega(USA/OEM)
EL-OMEGAR 75mm F3.5(X=21.4)
VOSS 75mm F3.5(X=21.4, L39,Triplet)
LPL(JP)
75mm F3.5(X=21.4, L39)
Nitto kogaku(JP)
Kominar-E 75mm F3.5(X=21.4)

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●メーカー不明のため除外(参考) Unknown Co.
E-OCEAN 75mm f3.5 (X=21.4,L39, made in Japan)
URTRASHARP 75mm F3.5(X=21.4,made in Japan)
Firstcall 75mm f3.5(X=21.4,4 elements)
Arista 75mm f3.5 (X=21.4, L39)
Hansa 75mm F3.5 (X=21.4,made in Japan)
TAYLOR TAYON 105mm F4.5(X=23.3)
SEAGULL 75mm F3.5(X=21.4,L39)
Soligor 75mm F3.5(X=21.4, made in Japan)
Vivitar 75mm F3.5(X=21.4,L39,made in Japan)
King 75mm F3.5(X=21.4, made in Japan)
SPECIAL ENLARGING ANASTIGMAT 75mm F3.5(X=21.4)

他にも大口径の引き伸ばし用レンズをご存じでしたら、掲示板等でお知らせいただければ幸いです。