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2024/03/10

LOOMP (LOMO) OKC1-75-1 (OKS1-75-1) MACRO 75mm F2

























LOMOのヘビー級マクロ・シネレンズ
LOOMP(LOMO) OKC1-75-1 (OKS1-75-1) 75mm F2  OCT-19 mount
ロシア製シネレンズにマクロ撮影用モデルがあることは、流通品を何度か目撃していましたので、認識はしていました。私が目撃した製品個体はPO2-2M、OKC1-75-1、OKC6-75-1の3製品で、いずれも焦点距離が75mmの35mm映画用レンズです。これらは撮影フォーマットがAPS-Cに近く、中望遠レンズというよりは望遠レンズのカテゴリーに入りますので、本来なら不人気のジャンルです。しかし、ライカ判(フルサイズセンサー相当)でもダークコーナーの出ない製品であることからポートレート撮影に流用できるため人気があります。さらにレンズがマクロ撮影仕様ともなれば流通量は少ないため、高額で取引される傾向があります。ただし、今回のレンズはデカさと重さでコレクターには嫌煙されているのでしょう。10万円前後の比較的買いやすい価格帯で流通しています。京都のブログ読者の方から1本お借りする機会が得られましたので、軽くレポートすることにしました。
お借りしたのはLOMOの前身団体である LOOMP(レニングラード光学器械工業企業体連合)が1964年代に製造したシネマ用マクロレンズのOKC1-75-1です。このレンズはそれ以前から存在していたKMZ PO2-2M やLENKINAP PO60の後継モデルにあたる製品です。レンズのヘリコイドは巨大で、金属製のため重量は何と865gもあります。ヘリコイドを完全に繰り出した時の全長は最も短い時の2倍にもなり、撮影倍率(最大値)は1.4倍に達します。センサーサイズと同じ幅の被写体を最短撮影距離で撮影すると、写真の幅の1.4倍の大きさで写ることになります。

OKC1-75-1(MACRO) 75mm F2: 重量(実測) 865g, 最大撮影倍率 x1.4, フィルター径 52mm, 設計構成 4群6枚ガウスタイプ, F2-F16, 絞り羽 16枚構成, 最短撮影距離 30cm前後, 定格撮影フォーマット Super 35mm(APS-C相当), マウント規格 OCT-19, Pコーティング(単層), 最大撮影倍率 約1.4倍
 
焦点距離75mmのシネレンズと言えば、1940年代中半に開発されたPO2-2がロシアでは始祖的な存在です。その後はレニングラードのLOOMPやLENKINAP工場でPO2-2をベースとする改良モデルのPO60(1950年代中半~)やOKC1-75-1(1960年代~)が開発されます。これらはいずれも2つの貼り合わせ面を持つ4群6枚構成のレンズで(下図)、レンズエレメントの形状や各部の寸法が似通っていますので、PO2-2からの直接の流れを汲んだ製品と言って間違いありません。
PO2-2とOKC1-75-1の構成図でGOIレンズカタログからのトレーススケッチです
 
今回のレンズはマクロ撮影用の特殊仕様ですが、ヘリコイドの繰り出し量が大きいだけで、光学系は通常撮影用のOKC1-75-1と同一であるというのが自然な解釈です。根拠はありませんが、GOIのレンズカタログにはマクロ版のOKCシリーズは掲載されていませんし、今回のレンズ個体の銘板にマクロモデルであることを主張するような表記は見当たりません。文献がないので、あとは撮影で判断するしかありません。マクロ撮影用に再設計された光学系であれば収差変動を考慮し補正の基準点が近接側にあるため、遠方撮影時には開放で少しフレアが出たり、背後のボケがゴワゴワと硬めのボケ味になる事が予想されます。
さて、届いたレンズを手に取り、デカさと重さ、金属とガラスの塊のような鏡胴に思わず笑ってしまいました。しかし、驚くのはまだはやく、ヘリコイドを回すと更に一回りも二回りも巨大化するのです。シュタインハイルのマクロレンズも見事な存在感でしたが、ここまでは重くはなかったです。
 
作成したOCT-19 to LEICA Mアダプター
レンズはOCT-18の後継にあたるOCT-19というマウント規格です。この種のレンズをデジタルカメラで使用するためのアダプターは存在するにはしますが、M42やライカなど汎用性の高いマウント規格に変換するアダプター製品が見当たりません。今回は様々な部品を組み合わせることで、ライカMマウントに変換するためのアダプターを自作しました。部品の組み合わせを下の写真に示します。当初予定していたM42アダプターの制作は途中で断念しました。マウント側の間口が後玉の直ぐ後ろに来てしまい、光の反射が画質に悪影響を及ぼすと判断したためです。
 
自作OCT-19マウント・アダプターの部品構成。これで微かにオーバーインフとなります
 

入手の経緯
レンズは京都のブログ読者からお借りた個体で、このレンズを使うためのOCT-19アダプターを自作で作っほしいというご相談とともに送られてきました。私はプロではないので、この手の依頼は原則受けないのですが、このデカいレンズには興味がありましたので、お引き受けすることとしました。eBayでアダプター製品を見回しますと、OCT-19マウントのアダプターは200ドルから300ドルと高値で取引されています。ただし、汎用性の高いM42やライカマウントに変換するようなアダプター製品はまだ存在しないようです。レンズの方はもともとeBayで700ドルで売られていたものを値切り交渉により525ドルで手に入れたとのことです。ガラスの状態は傷、カビ、クモリ等なくたいへん良好でした。私も値切り交渉は時々しますが、そこまで安くしてもらった経験はまだありません。せいぜい10~15%引きくらいまでです。
 
撮影テスト
高性能なレンズです。開放から滲みはほぼ見られず、ピント部には十分な解像感があります。開放での画質はやや軟調気味で発色もやや淡くなるものの、1段絞ればコントラストは向上し、更にシャープな像が得られます。ただし、絞っても階調は硬くはなりませんので、ここはオールドレンズならではの長所かとおもいます。背後のボケはポートレート域でも比較的柔らかく、綺麗に拡散しています。こうした描写の特徴からは、やはりこのレンズはマクロ用に設計されたものではなく、普通のOKC1-75-1からの転用であると感じさせられます。
定格イメージフォーマットは35mm映画用フォーマット(APS-C相当)ですので、規格外のフルサイズ機で用いると、通常は画角内に写らない広い領域が写ります。しかし、グルグルボケや放射ボケは全く見られませんし、ピント部も像は四隅まで安定しています。歪みは樽型ですがフルサイズ機でも目立たないレベルでした。良像域が広く、画質的にかなり余裕のある設計のようです。
続いて近接撮影ですが、開放では色収差による滲みが出ているものの2段も絞れば滲みは完全に消え、十分な解像感とスッキリとしたクリアな像が得られます。絞る事が基本のマクロ撮影ですので、開放での滲みは大した弱点にはならないでしょう。
 
F4 Nikon Zf (WB:日光)  蛇の影が現れました!


F2(開放) Nikon Zf(WB: 日光Auto) 今日もこの子がモデルです
F5.6 Nikon Zf(WB:日光Auto) 近接域の写真も一枚どうぞ。開放では少し色収差の滲みがでましたが、少し絞ると滲みは完全に消えます
F2(開放) Nikon Zf(WB:日光Auto) 背後のボケは綺麗です。このくらいの距離でボケ味が硬くならないところから推し量ると、おそらく光学系はマクロ仕様ではなく、普通のOKC1-75-1からの転用であると思われます。四隅で口径食が出ていますが、規格外のフルサイズ機で用いている事に加え、前玉がかなり奥まったところにあることが影響しているのでしょう


F2(開放) Nikon Zf(WB:日光Auto) 開放でも全く滲みません。ピントを正確にあわせ赤枠をクロップしますと・・・
Cropped from one previous photo: 中央はこのとおりシャープで、性能はしっかり出ています。もう少し拡大し、100%クロップしますと・・・
Cropped from one previous photo(100% crop) キリッとした像を維持しています

F4 Nikon Zf (WB:日光Auto) 四隅まで像は安定しており、歪みも僅かです。こういう写真は30年後に見ると面白い!こんなのあったあったと楽しめそうです。しかし、この写真だけ見ると、今の日本の物価は30年前と大差が無いことを実感します

2022/02/25

LOMO OKC1-50-1, OKC1-50-3, OKC1-50-6 50mm 50mm F2 (OCT-18 mount) OKS1-50-1, OKS1-50-3, OKS1-50-6



シネレンズ最後の秘境

ロモの映画用レンズ part 12

巨大なフォーカスレバーとゼブラ柄、カラフルな鏡胴に身を包んだお洒落系の実力派レンズ

LOMO OKC1-50-1, OKC1-50-3, OKC1-50-6 50mm F2(OCT-18 mount)

OKC1-50シリーズはLOMO(ロモ)がロシア版アリフレックスの異名をもつ映画用最高級カメラ(映画用35mmフォーマット)のKONVASに供給した焦点距離50mmのレンズです。日本で既に広く認知されているPO3-3Mの後輩にあたるモデルで、洗練された高い光学性能を特徴としています。LENKINAP時代の1950年代中頃に登場し、大きな設計変更のないまま同社の中核モデルとしてソビエト連邦崩壊の1990年代初頭まで長期にわたり生産されました。鏡胴から突きだしたヘラジカの大角のような見事なフォーカスレバー(指掛け)とゼブラ柄、経年変色した美しい鏡胴が見る人の目を引くもう一つの特徴で、一見して特殊な用途に使われていたレンズであることがわかります。デジカメにマウントして町に出かけると、特異なデザインが人々の好奇心を煽るようで、アメリカの美術館や博物館をこのレンズで撮影して回っていた頃には「一体これは何なのか」「どんな風に写るのか」などと話かけられる機会が多くありました。映画館のワイドスクリーンで上映されるような映画を撮るレンズだと答えると、大抵の人は初めて目にする種類のレンズに驚きの表情を浮かべていました。人々のリアクションを楽しむことができるのは、正にオールドレンズユーザーとして冥利に尽きます。
LOMOの映画用レンズには鏡胴の表面素材が酸化している個体が多く、元はブラックだったものが経年を経てメタリックグリーンやメタリックブラウン、パープルなど美しく変色しています。変色の程度は湿度などの保存環境に左右されて決まりますので個体ごとに異なっています。運良く美しい色の固体に出会うことができれば、この世に1本しかない偶然の産物、自分だけのオリジナルレンズであるかのような愛おしい気分に浸れます。LOMOのOKCシリーズをお探しの方は、ぜひ時間を掛けて変色した固体を探してみてください。
OKC1-50シリーズには幾つかのバージョンが存在します。まず注目したいのは1950年代半ばに登場し1977年まで製造された初期モデルのOKC1-50-1で、主に35mm映画用カメラのKONVAS-1/1M(OCT-18マウント)や、バヨネット式のOCT-19マウント(ロシア版PLマウント)を採用したKONVAS-2MとKINOR-35Hに搭載する交換レンズとして供給されました。ほぼ同じスペックをもつ競合製品のKMZ PO3-3M(KONVAS用)に比べると、中心解像力が10%向上しコントラストも向上するなど、画質面での改良がみられます[1]。また数は少ないもののDRUJBA( Дружба =「友情」の意) という防音カバーのついたMitchel BNC型の映画用カメラや、16SP(1958-1964年販売)という16mm映画用カメラに供給されたモデルも存在します(双方とも入手済み)。これらのガラスに蒸着されている反射防止膜は単層膜のいわゆるシングルコーティングですが、後の1977年もしくは1978年にリリースされた後継モデルのOKC1-50-6にはマルチコーティングが施され、シャープネスの向上がみられます。OKC1-50-6はOKC1-50-1と同じ光学設計ですが、新世代のフィルムカメラに対応するため、レンズボディの後部が短くなっています。ボディの設計変更により、OKS1-50-1よりイメージサークルのカバー範囲が僅かに狭くなりましたがコントラストは向上しています。また16mm映画用カメラのKinor 16CXシリーズ(1965年登場)に搭載する後継製品としてもKMZからもOKC1-50-4がリリースされています。こちらはOKC1-50-1(OKC1-50-6)とは別設計の一回り狭いイメージサークルに最適化されているようです。フルサイズ機で使うにはケラレ量が大きく、APS-C機で使うことになります。光学系の各部の寸法はOKC1-50-1よりもむしろPO3-3Mに似ており[1]、解像力は中心部、周辺部ともPO3と同等、レンズがPO3を製造していたKMZからリリースされているという点も頷けます。このレンズは別の機会に取り上げたいと思います。さらにLENKINAP(LOMO) OKC1-50-3というレンズもあり、1950年代後期の比較的早い時期にKONVAS用として既に登場していました。このモデルも入手してはみたのですが、OKC1-50-1との差がどこにあるのか、いまいちよくわかりません。反射防止膜はシングルコーティングで、市場に出回ることの少ない製品です。
 
OKC1-50-1の構成図(GOIレンズカタログ[1]からのトレーススケッチ)。設計構成は4群6枚のオーソドックスなガウスタイプです
 
レンズ構成は上図のような4群6枚のオーソドックスなガウスタイプです。PO3-3Mの構成図と比べると前群側の屈折力が更に強く、前後群の対称性が更に崩れた形態です。
 
参考文献・資料
[1] GOIレンズカタログ(1970年)
 
LOMO OKC1-50-1 50mm F2: 重量(フード込みの実測)218g, 最短撮影距離(定格) 1m, 絞り F2-F16, 絞り羽 14枚, フィルター径 45mm, シングルコーティング, KONVAS-1/1M(OCT-18), マウントS/N: N75***(1975年製造個体), 映画用35mmフォーマット(APS-C相当)に準拠
OKC1-50-1 50mm F2: Дружба(DRUJBA=「友情」)という名のカメラが採用していたバヨネットマウント, 焦点距離50mm, 絞り F2(T2.3) - F16, 最短撮影距離 1m, 映画用35mmフォーマット(APS-C相当)に準拠, シングルコーティング
LENKINAP OKC1-50-3 50mm F2: 重量(実測)211.5g, フィルター径 45mm, 絞り F2(T2.4)-F16, 絞り羽 14枚構成, S/N: N59***(1959年製造個体), 最短撮影距離 1m, KONVAS OCT-18 mount , シングルコーティング, 映画用35mmフォーマット(APS-C相当)に準拠
LOMO OKC1-50-6 50mm F2: 重量(フード込みの実測)215g, 最短撮影距離(定格) 1m, 絞り F2-F16, 絞り羽 14枚, フィルター径 45mm, マルチコーティング, KONVAS-1/1M(OCT-18)マウント, S/N: N86***(1986年製造個体), 映画用35mmフォーマット(APS-C相当)に準拠





今回、比較検討のために入手したOKC1-50ファミリー
16mm映画用カメラのKinor 16CXシリーズ用としてリリースされたOKC1-50-4(KMZ製)。16mmフィルム用であるが、イメージサークルには余裕がありAPS-Cをカバーできた。今回取り上げるLOMO製とは毛色の異なる別設計レンズであるため、別の機会にどこかで取り上げることにする
 
入手の経緯

国内にレンズの流通は少なく、eBayを経由しロシアやウクライナ、ベラルーシ、モルドバなどのセラーから購入するのが主なルートです。日本では秋葉原の2ndbaseでライカマウントに改造した個体を若干数揃えていました。2022年現在のeBayでの取引相場はレンズヘッド単体のみの値段が350~500ドル(送料別)あたりです。このレンズをデジタルミラーレス機にマウントするためのアダプターがeBayに何種類か出ています。おすすめはOCT18 - Leica M(写真・下)で、ライカマウントに中継させミラーレス機にマウントし、ヘリコイドアダプターの外部ヘリコイドでピント合わせを行うことです。このレンズが採用しているOCT-18(オスト18)というマウント規格はヘリコイドを繰り出す際に鏡胴の回転を防ぐ「直進キー」と呼ばれる機構がカメラやアダプターの側にないと、ヘリコイドが正常に機能しません。ちなみに直進キーのあるアダプターも存在はしているのですが、現在のところは、まだとても高価です。直進キーのない安価なアダプターでもピント合わせはできますが、絞り冠との同時操作がやや難しくなりますし、調子に乗って繰り出しすぎると光学ユニットが鏡胴がら抜け外れてしまいます。ピント合わせを外部ヘリコイドに頼る事をおすすめするのはこのためです。

 

ポーランドのセラーがeBayで販売しているOCT18-Leica M簡易アダプターです。直進キーはありませんが、とても良く出来ている製品でした。



写真・左はM42-M39(17-31)直進ヘリコイドに載せライカL(L39)マウントに改造した事例です。使い勝手が格段に向上しました。改造はやや難度が高く、鏡胴をヘリコイドに収めるためにマウント側の銀色の部分を切除しました。参考までにこちらに提示してあります。かなり面倒なのでやり方は質問しないでね・・・!
 

撮影テスト

いずれのモデルもAPS-Cセンサーをカバーできる広いイメージサークルを持っています。フルサイズセンサーでは四隅が若干ケラれますが、純正フードを外すとケラレは僅かとなりギリギリ許容できるレベルです。開放からシャープネスやコントラストは高く、シャドー部の黒の締まりのよい高性能なレンズです。先代モデルのPO3-3やPO3-3Mに比べると中央から四隅にかけての良像域が一段と広く、レンズをフルサイズ機に搭載して用いた場合でも、画面の隅までメインの被写体をしっかりと描き出してくれます。ただし、グルグルボケはややきつめに出る印象でした。像面を平坦化したぶん反動で非点収差が大きくなってしまったのかもしれません。あっちを引っ込めればこっちが出てしまうのは我々人間の営みにもよくある事です。フルサイズ機で用いる場合、四隅に光量落ちがあります。明暗差のある場所でうまく利用すればトーンが誇張され、ダイナミックな画作りができます。

理屈上はシングルコーティングのモデルの方が軟調で味のある描写が楽しめますし、マルチコーティングのモデルの方がコントラストやシャープネスが高く、発色も更に鮮やかです。ただし、実写による感覚・感想としては両者に大差はなく、どちらのモデルもコントラストやシャープネスは良好でした。明確な差は逆光時に出るものと思われます。ちなみに逆光時のゴーストは比較的出やすいレンズです。

 

OKC1-50-6(OKS1-50-6)での写真作例
 
OKC1-50-6@F2(開放) +sony A7R2(WB:日陰) シャドーのトーンがなだらかで、階調はよく出る感じです。明暗差の大きな場面では、四隅に向かってトーンが誇張されるようです。よさそう!


OKC1-50-6 @F2(開放) + sony A7R2(WB:日光) フルサイズ機で用いる場合にはグルグルボケがややきつめに出ます。中心部のシャープネスが高くて高性能なレンズです














OKC1-50-6 @F2(開放) + sony A7R2(WB:日陰) 暗部(黒)の締まりがとてもいいです

OKC1-50-3(OKS1-50-3)での写真作例

OKC1-50-3@F2(開放, without hood) + sony A7R2(WB: 日陰, FF mode) 開放での繊細な質感表現はシネレンズならではのものですね。
OKC1-50-3@F2.8(without hood) + sony A7R2(WB:日陰, FF mode) 












OKC1-50-3@F2.8(without hood) + sony A7R2(WB:日陰, FF mode)
OKC1-50-3@F2(開放) +sony A7R2(WB:⛅, FF mode)  フルサイズセンサーにシネレンズの組合せの場合、四隅がピンボケすることが多くありますが、このレンズでは像面が平らなのか中心から外れたところまでピントが合います
OKC1-50-3@F2.8(without hood) + sony A7R2(WB: ⛅, FF mode) 四隅の僅かなケラレもいい味を出してくれます



OKC1-50-1(OKS1-50-1)での写真作例
 
今回はお芝居などで活躍中の鈴木康史さん( @bff_actmodel13 )にモデルとして登場していただきました!写真ではわかりにくいのですが、ちょっとだけ松潤にも似たルックスの鈴木さん。かわいらしさとカッコよさの同居した魅力的な男性です。
 
OKC1-50-1 @ F2(開放) Fujifilm X-T20 (AWB, F.S.: Standard) 開放描写の質感表現が、これまたとてもよいです。
OKC1-50-1 @F2.8 Fujifilm X-T20 (AWB, F.S.: Classic Chrome) 

OKC1-50-1 @F2.8 Fujifilm X-T20 (AWB, F.S.: Standard)



2021/08/25

LOMO/GOMZ G-21 Ж-21, 28mm F2 Konvas OCT-18 mount

 

LOMOの映画用レンズ part 12

ガウスタイプに帰着した
ロシア製シネレンズ 28mm

LOMO/GOMZ Ж-21 (G-21) 28mm F2 (KONVAS OCT-18 mount)

LOMOのシネレンズには映画用に供給されたOKCシリーズと、映画用、産業用、軍需用に供給されたЖシリーズ(Gシリーズ)の2系統があります。両シリーズには鏡胴のつくりや画質基準に差があり、Gシリーズは中心解像力がOKCシリーズより高い値に設定されるなど、上位の製品に位置付けられていました。OKCシリーズの製造を担当したのは旧LNKINAP工場、Gシリーズは旧GOMZ(国営光学工場)で、両工場は統合されLOMOの一部となっています。ロシア製レンズの情報を統合的に扱ったGOIレンズカタログには映画用レンズやスチル用レンズ、プロジェクションレンズなどのテクニカルデータが網羅されていますが、Gシリーズについては一部のレンズに関する情報が収録されているのみで、入手できる情報は限られています。エビデンスのある情報をお持ちの方は、お知らせいただければ幸いです。
今回取り上げるのはロシア版アリフレックスの異名を持つ映画用カメラのKONVASに搭載する交換レンズとして、1980年代に供給されたЖ-21(G-21) 28mm F2です。レンズの設計は4群6枚のガウスタイプ(下図)で、それまでの焦点距離28mmのレンズとは比べものにならないほど軽量かつコンパクトに作られています。本体にヘリコイドを内蔵しているにも関わらず、重量はたったの75gしかありません。当時の焦点距離28mmのロシア製シネレンズと言えば設計はレトロフォーカスタイプが主流でOKC4-28-1やOKC7-28-1など大型で重量級のモデルばかりでしたので、G-21の登場はガウスタイプの設計に再び回帰することで、携帯性の向上、製造コストの圧縮を狙ったのでしょう。実はこのクラスのロシア製シネレンズには古くはPO13-1 28mm F2(1940年代に登場)とPO61 28mm F2.5(1950年代に登場)があり、もともとはガウスタイプの設計が主流で、コンパクトで軽量なレンズでした。
解像力(GOI基準)については中心が58 line/mm、エッジが35 line/mmと良好で、OKCシリーズの同等スペックの製品と比較しても全く遜色ありません。
 
Ж-21(G-21)の構成図: 左が前方で右がカメラの側。LOMOのテクニカルシートからのトレーススケッチ。設計構成は4群6枚のオーソドックスなガウスタイプ
   
入手の経緯 
2017年10月にebayを介してロシアのカメラ屋から落札購入しました。はじめ199ドル+送料15ドルの即決価格を提示していましたが、値切り交渉を受け付けていたので158ドルを提案したところ、私のものとなりました。オークションの記載は「レンズはエクセレントコンディション(写真を見てくれ)で、フォーカスリングと絞りリングはスムーズに動く。レンズに傷、クリーニングマーク、カビ、ホコリなどはない」とのこと。数は多くないもののeBayでの流通は安定しており、じっくり探せば150ドルあたりでも買えると思います。
 
LOMO/GOMZ Ж-21(G-21) :  KONVAS OCT-18マウント , 絞り羽根 6枚構成、絞り F2-F16、設計構成 4群6枚ガウスタイプ, 重量(カタログ値) 75g, 解像力 中心 58 line / mm, エッジ 35 line /mm。鏡胴にはレンズ名が記されていません














  
 
撮影テスト
光に敏感に反応するレンズのようで、開放で逆光撮影を行うとハレーション(ベーリンググレア)が多めに発生し、写真全体がモヤモヤとした光のベールに覆われるとともに、軟調気味の描写傾向となります。こういう効果を利用した作品作りを実践している人にG-21は最適なレンズなのだと思います。場の雰囲気を情緒的にとらえる事ができるのですが、日光の下では発色が濁る時がありますので使い方を選びます。中心部は開放から緻密に描写しフレアのないスッキリとした写りです。一方で四隅は開放で若干の滲みが入ります。F2.4まで絞ればフレア、ハレーションは共に消え、コントラストが向上するとともに発色は鮮やかになり、現代レンズのようなシャープな描写となります。イメージサークルはフルサーズセンサーをカバーすることができず、トンネルのように大きくケラレてしまいますが、APS-Cセンサーならば充分にカバーすることができ、光量落ちも全くありません。ポートレート域では背後に若干のグルグルボケが出ます。
 
F2(開放) Fujifilm X-T20(ISO1600): 光に敏感で光源が入るとボンヤリと写り、このレンズならではの軟調描写が得られます

F4 Fujifilm X-T20  絞ると急にパッキリとシャープに写る




F2.8, sony A7R2 (APS-C mode, WB:日光)

F2.8, sony A7R2 (APS-C mode, WB:日光)

2021/07/13

LOMO OKC6-75-1 (OKS6-75-1) 75mm F2 for KONVAS OCT-18 mount

シネレンズ最後の秘境
LOMOの映画用レンズ part 11

アグレッシブな設計で最高の性能を目指した
ロモのポートレート用レンズ

LOMO OKC6-75-1(OKS6-75-1) 75mm F2(OCT-18 mount)

焦点距離75mmの映画用レンズは本来の撮影フォーマットがAPS-C相当ですので、中望遠レンズというよりは望遠レンズのカテゴリーに入ります。一方で35mmライカ判(フルサイズセンサー相当)でもダークコーナー(ケラレ)の出ない個体が多く、ポートレート撮影にも適した画角で使えるため、昔からたいへん人気がありました。このクラスのシネレンズは焦点距離35mmや50mmのモデルに比べ、元々の値段(製造コスト)が高かったことや、望遠レンズのために市場供給された個体数が少なかったことなどから、コレクターズアイテムとなっています。フランスのKinoptik(キノプテック) や英国のCooke(クック)など、受注専門の高級メーカーのレンズにはオークションで50~75万円もの値がつき、Carl Zeissのシネプラナー85mmでさえ30万円あたりの値段で取引されています。一般庶民には既に手の届かない高嶺の花ですが、LOMOの製品ならば今はまだ手の届く価格帯にあります。ただし、お買い得だからと言っても、性能ではいっさい妥協したくないでしょうし、シネレンズならではの描写力を心行くまで楽しみたい。ならば、このレンズを選べば間違いないでしょう。LOMOの高性能レンズOKC6-75-1です。 
レンズの設計構成を下に示しました。コストのかかる分厚いガラスを多用しながらも貼り合わせ面を全て外し、設計自由度を最大数まで高めた6群6枚のガウスタイプで、攻めの姿勢をグイグイと感じるアグレッシブな構成が魅力です。ガラスの厚みで屈折力を稼げば、そのぶんガラス境界面の曲率を緩める事ができるので、収差を生みにくい構造になります。また、このレンズは空気層を利用して輪帯部の球面収差を減らす構造にもなっています。そのぶん空気境界面が多くなり光の乱反射が問題になりますが、マルチコーテイングを導入することでこの影響を食い止めています。お買い得などころか、西側諸国の製品を凌駕してしまうかもしれない大きなポテンシャルを感じるレンズです。


 
焦点距離75mmのシネレンズと言えば、1940年代中半に開発されたPO2-2がロシアでは始祖的な存在です。その後はレニングラードのLENKINAP工場でPO2-2をベースとする改良モデルのPO60(1950年代中半~)や、OKC1-75-1(1960年代~)が開発されています。これらはいずれも2つの貼り合わせ面を持つ4群6枚構成のレンズですので、PO2-2からの直接の流れを汲んだ製品と言って間違いありません。レンズエレメントの形状や各部の寸法も似通っています(上図・左と中央)。PO2-2の光学系は焦点距離50mmのPO3-3と酷似しており、1.5倍のスケール変換を施しただけのようです。このため、包括イメージサークルにはかなりの余裕があります。一方で今回取り上げるOKC6-75-1はLOMOの時代(1965年~)に開発された新設計のレンズで、それまでのモデルとは大きく異なる6群6枚構成です。ガラス面に使われているコーティングにはエレメントごとに、マゼンダに輝く種類のものとグリーンに輝くものが複合的にみられます。今回手に入れた3本の個体のうちの2本はマゼンダのコーティング色が濃く、光を通すと光学系全体が赤っぽく輝いて見え、残りの1本はマゼンダ色が薄いぶんだけ、光を通すと光学系全体がグリーンに輝いて見えました。ちなみに開放でのT値はどの個体もT2.3ですのでコーティング性能に差はなさそうです。光学系はこのモデルのために計算された専用設計のようで、同一構成のレンズがGOIのカタログ群やLOMOの資料等に見当たりません。1971年のGOIのカタログにもまだ掲載されていませんので、それ以降に登場したモデルのようです。レンズは旧ソビエト連邦が崩壊した1990年代前半まで製造されていました。
 
中古市場での相場
国内でのレンズの流通はまずないと思ってください。レンズはeBayを介してロシアやウクライナのセラーから購入することができ、取引相場は600ドルあたりからです。レンズは90年代前半まで製造されていましたので、まだ比較的綺麗な個体が流通しています。フィルターネジがメスネジではなくオスネジになっており、汎用フードはつきません。はじめからフードの付いた個体を選ぶことをおすすめします。
LOMO OKC6-75-1  75mm F2: 絞り羽根 8枚構成または11枚構成, 最短撮影距離 1m, 絞り F2(T2.3) - F16, 重量(実測/フード込み)340g, OCT-18マウントとOCT-19マウントのモデルが存在, マルチコーティング


 
 
アダプター
本レンズは映画用カメラのKONVAS(カンバス)に搭載する交換レンズとして、市場供給されました。マウント部はカンバスの前期型に採用されたOCT-18マウントで、アリフレックス・スタンダードマウントにも似ています。デジカメでこのマウント規格のレンズを使用するには、mukカメラサービスが3Dプリンタで製造し販売ているこちらのアダプターがよさそうです。私はこのアダプターの存在を知りませんでしたので、ポーランドのセラーがeBayにて8000~9000円で販売しているOCT18-Leica Mアダプターや、ロシアのRAFCAMERAがeBayで販売しているOCT-18→M58x0.75Mアダプターを使用し、カメラにマウントしました。後者の作り方や使い方については本ブログのOKC4-28-1の記事で取り上げています。
RAFCAMERAのOCT18→M58x0.75MとM46-M42ヘリコイド(17-31mm)を組み合わせて作った特製OCT18-Sony Eアダプターです





撮影テスト

開放から滲み一つでないスッキリとした描写で、解像力の高い高性能なレンズです。ただし、ピント部を大きく拡大してみると微かにフレアが覆っており、被写体を美しく描き出してくれます。トーンはとてもなだらかで特にシャドー部を丁寧に描写しており、開放での絶妙な柔らかさと相まって、素晴らしい質感表現が得られます。晴天でも乾いたようなカリカリ描写にはならず、繊細でダイナミックな階調変化を堪能できます。ボケは距離によらず安定しており、背後のボケは硬くならず綺麗に拡散しています。
 
F2(開放) sony A7R2(WB:⛅)モデルは彩夏子さん
 
このレンズに限った話ではありませんが、フィルム時代のレンズをデジタルカメラで使用する場合には、被写体の輪郭部などが微かに色づいて見える軸上色収差が目立ちます。高性能とはいえ、このレンズも開放での撮影結果を等倍まで拡大すると白っぽい被写体の周囲が色づいて見え、コントラストの低下の一因となっています。ただし、一段絞れば色収差は完全に消滅し、シャープネスの向上とともに高い解像感が得られるようになります。まぁ、私は些細なことは気にしないので開放でつかいますけれど。
適度な柔らかさを持ち合わせながらも大きな欠点はなく、質感表現に長けた、とても優れたレンズだと思います。
 
F2(開放)  sony A7R2(セピア)モデルは彩夏子(左)と清水ゆかりさん(右)
F2(開放) SONY A7R2(セピア)

イメージサークルの大きな焦点距離75mm以上の望遠用シネレンズには一般にハレーションの出やすいモデルが多く、同じクラスの焦点距離35mmや50mmのモデルに比べ、しばしばシャープネスやコントラストが低下気味になります。こうした現象が起こる原因は、おそらく光学系の流用、すなわち焦点距離の異なる複数のモデルに対し、共通の光学系を使用しているためであろうと考えられます。PO2-2とPO3-3がまさにそうですし、例えばKinoptikのシネレンズの場合は、焦点距離の異なる数多くのモデルに光学系の流用がみられ、望遠モデルのイメージサークルに至っては中判フィルムまで包括してしまいます。無駄に広いイメージサークルが迷い光の供給源となってしまうのです。これを回避するため、望遠シネレンズには後玉側に四角い窓のようなハレーションカッターを入れる事がしばしばあり、イメージサークルをトリミングしています。
本レンズの場合、イメージサークルは75mmのシネレンズにしては小さく、フルサイズセンサーこそギリギリでカバーしているものの、四隅の画角端にやや光量落ちがみられる程まで絞られています。光学系は75mmの焦点距離にあわせた専用設計になっているようです。ハレーションは出にくく、コントラストは良好で、発色も濃厚かつ鮮やかです。
F2()Sony A7R2(WB:⛅)


F2(開放) Sony A7R2(WB:⛅)
F2(開放) SONY A7R2(WB:⛅)

F2(開放) Sony A7R2(WB:⛅)
F2(開放) Sony A7R2(WB:⛅)
 
F2(開放) Sony A7R2(WB:日陰)

F2(開放) sony A7R2(WB:日陰)














F2(開放) sony A7R2(WB:日陰)
F2(開放) sony A7R2(WB:日陰)
F2(開放) sony A7R2(WB:日陰)
F2(開放) sony A7R2(WB:日陰)


































































































F2(開放) SONY A7R2(WB:⛅)
F2(開放) SONY A7R2(WB:⛅)



 















LOMO特集は、いよいよ大詰めです。次回はエース級レンズのOKC1-50-6が登場します。