おしらせ


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2024/01/08

Carl Zeiss Jena ERNEMANN-ERNOSTAR 5cm F1.9

ERNOSTAR特集 PART 2

シネマ用レンズとして供給された

焦点距離5cmのエルノスター

Carl Zeiss Jena ERNEMANN-ERNOSTAR 5cm F1.9

エルノスターを開発したエルネマン社でしたが、1926年にツァイス・イコン社の設立母体として他社と合併し消滅してしまいます。ただし、エルネマン社の一部のカメラやレンズは、合併後も短い期間だけCarl Zeiss Jena製品として生産されました。今回紹介するERNEMANN-ERNOSTAR 5cm F1.9もそうした製品の一つで、35mm映画用レンズとして同社がZeiss傘下で1930年頃まで生産したKino model E、およびCarl Zeiss Jena製品の35mm Kinamo N25というカメラに搭載され市場供給されています。注目すべきはこのレンズの設計で、エルノスターファミリーの遺伝子を受け継ぐ系統であることは確かなのですが、下図に示すとおり、これまで事例のなかった4群5枚構成なのです。よく観察しますと、この構成はよく知られている4群4枚の10cm F2と、4群6枚の10.5cm/8.5cm F1.8のちょうど間をとった関係になっており、開放F値が1.9である事が正にそれを暗示しています。この事実が計画的であったかどうかはわかりませんが、ベルテレは構成枚数を1枚づつ追加しながら開放F値を0.1刻みで明るくしたようです。同一構成のレンズとしては、戦後に登場したKOMURA 105mm F2.8, 135mm F2.3, 135mm f2.8などがあります。

 


入手の経緯

レンズは2023年の写真工学研究会グループ写真展で出展者としてご一緒したサンドさんからお借りしました。はじめからライカMマウントに改造されており、デジタルミラーレス機で使用できる状態になっていました。レンズはカビ、クモリ等ない良好な状態です。シリアル番号が94万番代ということで1930年に製造された個体のようです。中古市場で一体幾らで取引されているのかは個体数が少ないこともあり、わかりませんが、10万円~20万円で買えるようなものでは無いとだけは断言できます(さすがに100万円はしませんが)。 

Erneman Ernostar 5cm F1.9: 絞り F1.9-F22, 絞り羽 12枚, 4群5枚エルノスター1型変形, ノンコート, フィルターねじはないが34mm前後が緩くハマる  


撮影テスト

解像力といい、発色傾向といい、自分が求めるオールドレンズの感覚にスッと入り込むものがあり、すごく気に入りました。例えるならカラフルな折り紙を扱う創作表現の世界に一人和紙を用いて切り込んでゆくような感覚で、折り紙を現代レンズによる描写表現に例えています。

レンズは35mmシネマ用フォーマットが定格で、APS-Cセンサーを搭載したデジタルカメラで用いるのが相性のよい組み合わせです。ただし、イメージサークルには余裕があり、フルサイズセンサーはおろか、もう一回り大きな中判デジタルセンサーでも、どうにか使用できます。

ガラス面にコーティングの無いいわゆるノンコートレンズですので、コントラストは低めで、発色はあっさりと淡く、軟調傾向の強い描写ですが、開放でも滲みはなく、レトロな意味でおしゃれな写真が取れる類のレンズです。モノクロ撮影との相性もかなり良さそうです。今回はフルサイズ機での試写がメインでしたが、四隅まで良好に解像しており、ボケも素直で安定感があります。エルノスターの構成で気にしなければならない歪みや四隅でのピンボケ(像面湾曲)ですが、実写ではそれほど気になることはありませんでした。ちなみに、こういう個性丸出しのわかり易いレンズこそ、オールドレンズを始めたばかりの入門者に使ってもらいたいと、いつも思っています。正直、自分は欲しくなってしまいました。手頃な価格で買えるもんなら本当にオススメしたいです。

F1.9(開放)  Nikon Zf (WB:日光)

F1.9(開放)  Nikon Zf (WB:日光)















F1.9(開放)  Fujifilm GFX100S(35mm判フルサイズモード, WB auto, FS CC)

F1.9(開放)  Fujifilm GFX100S(35mm判フルサイズモード, WB auto, FS CC)

F1.9(開放)  Fujifilm GFX100S(35mm判フルサイズモード, WB auto, FS CC)





F5.6  Fujifilm GFX100S(Aspect Ratio 29mmx16mm[65:4からのクロップ], WB auto, FS CC)


F1.9(開放) Nikon Zf (WB:日光)















































続いて、中判イメージセンサー(44x33mm)を搭載したGFX100Sにてクロップ無しで撮影した結果です。絞ると四隅が少しケラれてしまい口径食も出ますが、開放ではケラれません。ただし、像面湾曲とぐるぐるボケ、糸巻き状の歪みが目立ち始めます。大きなボケ量は魅力ですが、安定した画質を求めるならば、おとなしくフルサイズセンサーまでにしておくのがよさそうです。

F1.9(開放)  Fujifilm GFX100S(WB auto, FS CC)

F1.9(開放)  Fujifilm GFX100S(WB auto, FS CC)

F5.6  Fujifilm GFX100S(WB auto, FS CC)絞ると四隅がケラれます

F1.9(開放)  Fujifilm GFX100S(WB auto, FS CC)

F1.9(開放)  Fujifilm GFX100S(WB auto, FS CC)

F1.9(開放)  Fujifilm GFX100S(WB auto, FS CC)






































2024/01/06

Ernemann Ernostar 100mm F2 (converted M42)

ERNOSTAR特集 PART 1 

写真表現の新境地を切り拓いた

高速レンズの革命児
 
Ernemann Anastigmat ERNOSTAR 10cm F2

人間の目は素晴らしい機能を持っています。目の水晶体を変形させ、遥か遠くの海原を横切るヨットや手元の小さな印刷活字に自在にピントを合わせることができます。目の虹彩を伸び縮みさせ取り込む光量を調整し、浜辺の陽光の下でも夜の薄暗がりのなかでも、不自由なく像を捉えることができます。写真機は後を追うように、こうした機能を獲得してゆきました。
薄暗い光のなかで撮影のできるカメラを写真家たちが手にしたのは1920年代になってからのことです。最初にあらわれたのは「目に見えるものなら何でも写せます」というキャッチ・フレーズで1924年に登場したERMANOX(エルマノックス)というレンズ固定式カメラで、今回ご紹介するERNOSTAR(エルノスター)100mm F2という高速レンズが搭載されていました。レンズの開放F値は当時としては格段に明るく、エルノスターの登場により、夜間や屋内でも三脚や特別な照明に頼ることなく、手持ちでの高速撮影が可能になったと言われています[1]。それまでの写真撮影といえば、三脚を立て、光量が少ない環境下ではフラッシュを発光させる必要がありました。たとえ目には見えても、それを暗い場所で写真に収めるのは容易なことでなかったのです。被写体はポーズを決め、そのまま露光の間静止していなければならず、このスタイルが当時の写真撮影の一般常識でした。時代は過渡期にあり、この状況に目を付けたのがユダヤ系ドイツ人でフォト・ジャーナリストのエーリッヒ・ザロモンという人物です[2]。ザロモンはしばしば正装して外交官の会議や裁判所におしかけ、隠し持ったエルマノックスでヨーロッパの政治家達の活動や歴史的な瞬間を記録、当時のグラフ誌に写真を次々と発表していきます[3]。なにしろ外交官達は誰一人として自分たちが被写体の中心にいることを自覚していなかったので、自然な表情、ありのままの姿を写真にさらすこととなります。人間の真の姿を捉えた「ザロモンの隠し撮り」はヨーロッパ中の人々を熱狂させ、後のジャーナリズムのあり方を変える新しい潮流を生み出したのです[2,3]。
エルノスターを用いたザロモンの創作活動は写真術の可能性に対する人々の認識を広げる契機となり、「キャンディッド」という造語とともに写真文化に対する大きな波及効果を生み出しました。キャンディッドとはポーズを取るなど作為的に作り込んだ美しさではなく、自然な表情、気取らないありのままの美しさを表現することを指しており、現在のスナップ・ショットによる写真表現の原点とも言える思想です。写真文化にかつてこれほどまで影響を与えたレンズが、あったでしょうか?
フォトジャーナリストのE. Salomon(左)と レンズ設計士のL. Bertele(右)のイラストで、AIが写真から生成したものです。ザロモンのほうはイケメンに描かれすぎている感があります・・・


ERNOSTAR

レンズはかつてドイツに存在したERNEMANN(エルネマン)という光学機器メーカーから供給されました。同社は後の1926年にツァイス・イコン社の設立母体として他社と合併し消滅します。この会社でレンズの設計を行っていたのがベルテレ(Ludwig Bertele)という設計士で(上図・右)、後にツァイスでゾナーやビオゴンといった歴史的名玉を開発します。ベルテレはエルネマン社で同僚のクルーグハルト(August Klughardt)と明るいレンズを設計、1921年に「エルネマンの星」と名付けられたエルノスター(ERNOSTAR)を開発します[4]。レンズは1924年に固定レンズとしてエルノクス(後にエルマノクスに改称)に搭載され登場しました。

レンズの設計は下図に示すとおりで、1894年にCooke(クック)社のDannis Taylorが開発した3枚構成のトリプレット(図の青)の前方に凸レンズ(図の赤)を1枚追加し屈折力を強化した4群4枚構成です。追加した凸レンズ(図の赤)が球面収差とコマ収差を増大させないアプラナティック条件を満足するため、トリプレットを起点としながらも収差を増大させずに明るくできる合理的な構造になっていました。ただし、全体で見ると前群に正の屈折力が集中しすぎた構造になっており、歪曲収差や像面湾曲をなんとかしないといけません。エルノスターでは後群に1枚ある弱い正レンズを絞りから遠くに配置することで、実質凹レンズのような働きに変え、糸巻き状の歪曲を緩和するとともに、テレフォト性(光学系全長を焦点距離よりも短くする性質)も実現しています[5]※1。画角を広げさえしなければ歪曲収差と像面湾曲は目立たないレベルに抑えられているのです。少ない枚数ながら、高い合理性を持つ優れた設計構成といえます。


※1 トリプレットの前方に正の凸レンズを据えた構成としてはErnostarの登場よりも早い1916年にC.M.Minorが設計した米国Gundlach社のUltrastigmatの特許がある。ただし、Ernostarでは前方に据えた正の凸レンズがこの時代としては革新的なアプラナティック条件を満足しており、前群側に正パワーが集中したことによる糸巻き状の歪曲を補正するため後群が離れた位置に据えられているなど大幅な進歩が見られ、Ultrastigmatとは一線を画する設計であった。この種の構成がUltrastigmat型ではなくErnostar型と呼ばれるようになった所以はこうした事情からきているものと考えられる。

Ernostar 100mm F2の設計構成。文献[4]からのトレーススケッチです。左が前方で、右がカメラの側となっています


参考文献・資料
[1]ライフ写真講座『カメラ』
[2]Erich Salomon Photographien 1928-1938 (Berlinische Galerie 2004)
[3] Leica Barnack Berek Blog: Eric Salomon - The First Modern Photojournalist-
[4]イギリス特許GB186917(1921), Pat. DRP468499 (1924) DRP458499?
[5]レンズ設計の全て 辻定彦 電波居新聞社

Ernemann Anastigmat ERNOSTAR 10cm F2: 最短撮影距離 1m, 絞り羽 12枚, 重量(改造品)640g, フィルター径 54mm前後(特殊), 絞り指標 F2 - F36, 本品はマウント部はがM42に改造されている。焦点距離100mmのレンズにしてはバックフォーカスの短さが印象に残る




入手の経緯
レンズはオールドレンズ愛好家のlensa5151さんからお借りしたものです。経年を経た個体であるにも関わらず状態はたいへん良好で、はじめから現代のカメラで使用することを前提にM42マウントに改造されていました。レンズは希少性からか中古市場では高額で取引されており、eBayで購入する場合にはレンズ単体で2000ドル(2014年時点では1500ドルくらい)、カメラ(Ermanox)とセットでは少なくとも3000ドル程度は用意しなければなりません。eBayには常に数本が売り出されているので、1920年代はよく売れたレンズだったのでしょう。
 
撮影テスト
レンズの定格イメージフォーマットは昔のアトム判(45x60mm)という規格ですので、一回り大きな中判66フォーマット(56x56mm)か、もしくが一回り小さな中判645フォーマット(41.5x56mm)のカメラで用いるのがよさそうです。ただし、今回のお借りしたレンズははじめから35mm判(24x36mm)で用いることを前提にマウント部がM42ネジへと改造されていたので、デジタルカメラのSony A7と銀塩一眼レフカメラ(M42マウント)で使うことにしました。レンズを実写してみたところ、思っていた以上に素直で安定感のある描写であることがわかりました。
発色傾向は温調なうえ階調描写がとても軟調なため、古いレンズらしい奥深い味わいがあります。デジタル撮影、フィルム撮影を問わず、淡く優しい色の出方となりますし、モノクロにも合います。ただし、発色が過度に薄くなることはなく、開放でも力強い色の出方が保たれています。ピント部の解像力は中判レンズとはいえ開放でも十分なレベルで、細部まで緻密に描写しています。背後のボケに大きな乱れはなく安定感があり、稀に2線ボケがみられましたがバブルボケが出るほど硬くはならず使いやすいボケ具合です。なお、近接域では収差変動が起こり、柔らかく綺麗なボケ味になります。ピント部の画質は均一でコマ収差もとても良好に補正されています。開放から滲みは全くなく、スッキリとヌケの良い描写です。カメラが35mmフォーマットなので中央部のみの限定的な評価になりますが、歪みや像面湾曲は目立たないレベルでした。グルグルボケや放射ボケにも全く見られません。機会があれば、より大きなイメージフォーマットを持つFujifilmのGFXでも試写してみたいと思います。1920年代にこの明るさでここまで素直に写るレンズが登場していたのは大変な驚きです。
それでは、デジタルカメラと銀塩カラーネガフィルムによる撮影結果を御覧ください。

F2(開放), Sony A7(AWB): マクロ域で、しかも開放であるにもかかわらず、このとおりにシッカリと写る。なんだかスバラシい性能のレンズである予感がする
F4.5, 銀塩撮影(Fujifilm C200)+Yashica FX-3:ピント部には解像力がありカラーフィルムでの色のりも良い

F3.2, 銀塩撮影(Fujifilm C200)+Yashica FX-3: ほんとうに素晴らしいレンズだ

F3.2, 銀塩撮影(Fijifilm C200)+Yashica FX-3: 


F3.2,  銀塩撮影(Fijifilm C200)+Yashica FX-3: 

F2.8, 銀塩撮影(Fujifilm Vervia 400)+Yashica FX-3: 背後のボケには安定感があります







F2(開放), Sony A7(AWB): ピント部の解像力は開放でも十分にあります
F3.2, Sony A7(AWB):中央部を拡大したものが下の写真



上の写真のピント部の一部を拡大クロップした。やはり緻密な描写です。中判レンズのわりに充分な解像力が得られているのは大変な驚きです




2023/10/21

Wollensak Raptar 3inch (76. 2mm) f2.5 cine telephoto



ウォーレンサック社

シネマ用 高速望遠レンズ

Wollensak Raptar 3inch (76.2mm) f2.5 cine telephoto

今の私はエルノスター型レンズの予想外の性能にどはまりしている最中です。高価なガラス硝材を使いコスト度外視で作れば、僅か4枚の構成でも凄い性能に到達できる事をエルノスターは教えてくれています。そこで今回取り上げたいのが、米国WOLLENSAK社が1950年代初頭に生産したラプター 3inch F2.5 (RAPTAR 3 inch F2.5 Cine Telephoto LENS)という望遠レンズです。ラプターという名はWOLLENSAK社の最高級ブランドで、名称の由来はRAPID(=高速な)だそうです。このレンズにはFASTAX-RAPTARという軍用・研究所向けに供給された裏バージョンが存在し、これを映画用に転用したのが今回のモデルです。鏡胴のつくりは素晴らしく、ただならぬオーラにつつまれており、このままデジカメにつけて撮ることに一瞬ためらいを感じてしまうほどです。レンズの構成図は見当たりませんが、オーバーホール時に確認したところ確かに4群4枚のエルノスター初期型でした。これまでの経験からも分かるように、エルノスタータイプのレンズはコントラストとシャープネスで押し通す性格のものが多く、写真の四隅まで安定感があり、ボケ味も素直で美しいのが特徴です。本家エルノスターを取り上げる前に少し寄り道しておきたい面白そうなレンズです。このレンズのF2.5という中途半端な口径比はエルノスター構成の設計限界なのでしょう。そういえば、同じエルノスター型レンズにPrakticar F2.4という製品がありました。
WOLLENSAK RAPTAR 3inch F2.5 CINE TELEPHOTO:フィルター径 40mm, 最短撮影距離 3 feet弱(約0.9m), 重量(実測) 270g/フード込み300g , 絞り F2.2-F22, 設計構成 4群4枚 エルノスター型,  c マウント, シリアル番号から本品は1953年に製造された個体であることがわかります

市場価格
2022年夏頃、eBayにて本品とCine Velostigmat 1inch F1.5がセットで出品されていたものを、競買の末にお買い得価格で入手しました。本命がCine Velostigmatでしたので、今回のレンズは意図せず入手してしまったわけです。届いた個体はオーバーホールが必要でしたが、ピントリングをグリス交換し、ガラスの清掃もしたところ、カビ・クモリのないなかなか良いコンディションとなりました。ちょうどCマウント系の望遠レンズが欲しいというオールドレンズ女子部の知人がいましたので、この記事を書いたらお譲りすることとなっていますレンズは主に米国内で流通しており、eBay経由で米国のセラーから入手するのが一般的な購入ルートです。取引価格はコンディションにもよりますが、200ドルから250ドルあたり(現在の為替で30000~40000円あたり)です。米国からの購入の場合、送料が高いうえガッツリと税金を取られるので注意が必要です。また、同社の3inch望遠シネレンズには外観がよく似たF2.8やF4のモデルがあるので、購入時の勘違いにも注意してください。
 
撮影テスト
さっそく試写してみたところ、やはり滲みのないスッキリと写る高性能なレンズでした。ピント部は解像感がたいへん高く、開放でも像の甘さは全くありません。コントラストも高く、シャドー部には締まりがあり、そのぶん発色は鮮やかです。色味に癖はありません。ボケは素直で距離に依らず安定しており、グルグルボケや放射ボケとは無縁です。イメージサークルには余裕があり、本来は16mmのシネマフォーマットが定格ですが、APS-Cセンサーでもケラれることなく使えます。
4枚構成のエルノスター初期型はやはり戦後に大化けしたようです。コーティング技術やガラス硝材の進捗が、この種のレンズ構成の潜在能力を大きく引き出してくれたように思います。
F2.5(開放) Fujifilm X-T20(WB:⛅,F.S.: ST)

F4, Fujifilm X-T20(WB:⛅, F.S.:ST)シャドー部の締りは良好です

F2.5(開放) Fujifilm X-T20(WB:⛅ F.S.: ST) ボケは距離に依らず四隅まで安定感しており、綺麗なボケ味が得られます

F4, Fujifilm X-T20(WB:⛅ F.S.: ST) 最短撮影距離ではこのくらい

F4 Fujifilm X-T20(WB:⛅, F.S.:ST)

F2.5(開放) Fujifilm X-T20(WB:⛅ F.S.:ST)

F4, Fujifilm X-T20(WB:⛅ F.S.:ST) 発色は濃厚かつ鮮やか

F2.5(開放) Fujifilm X-T20(WB:⛅ F.S.:ST)

F2.5(開放) Fujifilm X-T20(WB:⛅ F.S.:ST) 逆光では写真全体が均一に軟調化し、いい雰囲気に写ります

2023/10/16

Carl Zeiss Sonnar 85mm F2.8



時を超え密かにゾナーへと転生した覆面レスラー

Carl Zeiss SONNAR 85mm F2.8

レンズ設計の変遷はエルノスターからゾナーが誕生した過程のように、「レンズ構成の複雑化=高性能化」という観点で杓子定規的に語られる傾向が多いのですが、生物同様に本来はそんな単調なものではなく、もっと複雑な過程を経由しながら現在に至っています。ガラス硝材の進歩により屈折面を多く持つレンズ構成が後に先祖返りする、いわゆる「退行的進化」を遂げるケースが、まさにそのような事例の典型でしょう。この退行的進化とは、「退化」に適応的な意義が認められる場合に限って使われる系統学の用語です。今回は退行的進化を経て1970年頃にゾナーへと転生したエルノスタータイプの中望遠レンズ、Contaflex 126用SONNAR 85mm F2.8(1968年登場)とRollei SL 35用SONNAR 85mm F2.8(1970年登場)を取り上げ紹介します。両者はどちらも4群4枚の同一構成で製造時期が被っていますので、設計も完全に同一であろうと思われます。半世紀もの時を越えゾナーとして蘇ったエルノスターに、一体どれほどの性能が期待できるのでしょうか。

 

ゾナー:ご先祖様だかなんだか知らないが、今さら出てきて、お前みたいな老いぼれに何が出来るというのだ。

エルノスター:うるさいぞ小僧。一眼レフ業界から追い出されそうなくせに、偉そうに語るでない。いいから黙って見ていろ。

  

ローライQBMマウント用ゾナーの構成図(Zeiss公式カタログ The Finest Optic by Zeissからのトレーススケッチ)で4群4枚のエルノスタータイプです。コンタフレックス126用ゾナーの構成図は入手できませんでしたが、同一構成ですのでQBMゾナーと同一設計であると思われます



中古市場での相場
QBM SONNARのeBayでの相場は200-250ユーロ(30000-40000円)、CONTAFLEX 126 SONNARは250-300ユーロあたりです。ドイツのセラーが比較的安価な値段で出しており、送料もリーズナブルなのでオススメです。ただし、今は日本の中古市場の方が安く手に入るケースが多く、この記事を執筆している時点でも、国内のネットオークションにはContaflex 126 SONNARとQBM SONNARの状態の良さそうな中古品が20000円前後で出ていました。海外と国内で、このような相場価格の逆転現象が起きているのは、為替が変化し最近円が急に安くなったためであろうと思われます。これだけ価格差があると、いずれ海外に流出してしまうでしょうね。
 
Carl Zeiss Sonnar 85mm F2.8, (Contaflex 126マウント),  製造国 旧西ドイツ, 絞り羽 5枚, 絞り F2.8-F22, 最短撮影距離 1m, フィルターネジ 専用バヨネット, 構成 4群4枚エルノスター型(基本形)。Contaflex 126アダプターは高価なので、自分でマウント部をM42ネジに変換するためのアダプターを自作しました。デッケルマウントのアダプターの構造を利用して、マウント部にある絞り連動ピンを動かせる仕組みになっています。これにM42-M39ヘリコイド(12-19mm)を組み合わせることで、レンズをライカL39マウントレンズとして使用することができるようになります
Carl Zeiss Sonnar 85mm F2.8 (Rollei QBM), 重量(カタログ値) 198g,  原産国 旧西ドイツ/ シンガポール,  絞り羽 6枚, 絞り F2.8-F22, 最短撮影距離 1m, フィルターネジ 49mm, 構成 4群4枚エルノスター型(基本形), 製造期間 1970-1981, 1974年よりHFTコーティング,  Voigtländer Color-Dynarexの名称で出ていた同一設計バージョンがある
撮影テスト
Sonnar(QBM)とSonnar(Contaflex 126)は設計構成が同一ですので、描写傾向はよく似ています。開放からスッキリとしていてヌケが良く、フレアは全く見られません。コントラストは良好でピント部は解像感に富んだシャープな像となり、線の太い力強い描写が得られます。発色は濃厚かつ鮮やかで、開放でもシャドーの締まりは良好です。背後のボケは端正なうえに柔らかく、グルグルボケや放射ボケは全く検出できません。美ボケレンズと言ってよいでしょう。現代レンズのような安定感ですが、これ本当に4枚玉なのだろうかと目を疑いたくなるような、とても高性能なレンズです。

Sonnar 2.8/85(Contaflex 126 mount)
+
SONY A7
 
F4 sony A7(AWB, iso:2500) トーン描写はなだらだ 

F2.8(開放)  sony A7(WB:曇天)

F4 sony A7(WB:電球)

F4 sony A7(WB:晴天) 

F2.8(開放) sony A7(WB:晴天)  
F2.8(開放) sony A7(WB:晴天)

F5.6 sony A7(WB:晴天)


SONNAR 85mm F2.8 (QBM mount)
+
SONY A7
続いてQBM SONNARですが、Contaflex 126用SONNARと描写傾向はそっくりです。こちらも欠点の見当たらない素晴らしい性能で、この安定感ならプロが仕事で使っていてもおかしくないレンズだと思います。
 
F5.6 sony A7(WB:晴天) 
F2.8(開放) sony A7(AWB)
F5.6, sony A7(WB:晴天)
F2.8(開放) sony A7(WB:晴天)
F2.8(開放) sony A7(AWB)
 
エルノスターの構成にここまで高いポテンシャルが備わっていた事には、正直言って驚きました。戦前のエルノスターがF2ではなくF2.8で作られていたら、評価はもっと高かったのかもしれませんね。次回は元祖エルノスターを取り上げたいと思います。いやぁ、これは楽しみです。
F4 sony A7(AWB)

F5.6  sony A7(AWB)

F4 sony A7(AWB)