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2023/10/16

Carl Zeiss Sonnar 85mm F2.8



時を超え密かにゾナーへと転生した覆面レスラー

Carl Zeiss SONNAR 85mm F2.8

レンズ設計の変遷はエルノスターからゾナーが誕生した過程のように、「レンズ構成の複雑化=高性能化」という観点で杓子定規的に語られる傾向が多いのですが、生物同様に本来はそんな単調なものではなく、もっと複雑な過程を経由しながら現在に至っています。ガラス硝材の進歩により屈折面を多く持つレンズ構成が後に先祖返りする、いわゆる「退行的進化」を遂げるケースが、まさにそのような事例の典型でしょう。この退行的進化とは、「退化」に適応的な意義が認められる場合に限って使われる系統学の用語です。今回は退行的進化を経て1970年頃にゾナーへと転生したエルノスタータイプの中望遠レンズ、Contaflex 126用SONNAR 85mm F2.8(1968年登場)とRollei SL 35用SONNAR 85mm F2.8(1970年登場)を取り上げ紹介します。両者はどちらも4群4枚の同一構成で製造時期が被っていますので、設計も完全に同一であろうと思われます。半世紀もの時を越えゾナーとして蘇ったエルノスターに、一体どれほどの性能が期待できるのでしょうか。

 

ゾナー:ご先祖様だかなんだか知らないが、今さら出てきて、お前みたいな老いぼれに何が出来るというのだ。

エルノスター:うるさいぞ小僧。一眼レフ業界から追い出されそうなくせに、偉そうに語るでない。いいから黙って見ていろ。

  

ローライQBMマウント用ゾナーの構成図(Zeiss公式カタログ The Finest Optic by Zeissからのトレーススケッチ)で4群4枚のエルノスタータイプです。コンタフレックス126用ゾナーの構成図は入手できませんでしたが、同一構成ですのでQBMゾナーと同一設計であると思われます



中古市場での相場
QBM SONNARのeBayでの相場は200-250ユーロ(30000-40000円)、CONTAFLEX 126 SONNARは250-300ユーロあたりです。ドイツのセラーが比較的安価な値段で出しており、送料もリーズナブルなのでオススメです。ただし、今は日本の中古市場の方が安く手に入るケースが多く、この記事を執筆している時点でも、国内のネットオークションにはContaflex 126 SONNARとQBM SONNARの状態の良さそうな中古品が20000円前後で出ていました。海外と国内で、このような相場価格の逆転現象が起きているのは、為替が変化し最近円が急に安くなったためであろうと思われます。これだけ価格差があると、いずれ海外に流出してしまうでしょうね。
 
Carl Zeiss Sonnar 85mm F2.8, (Contaflex 126マウント),  製造国 旧西ドイツ, 絞り羽 5枚, 絞り F2.8-F22, 最短撮影距離 1m, フィルターネジ 専用バヨネット, 構成 4群4枚エルノスター型(基本形)。Contaflex 126アダプターは高価なので、自分でマウント部をM42ネジに変換するためのアダプターを自作しました。デッケルマウントのアダプターの構造を利用して、マウント部にある絞り連動ピンを動かせる仕組みになっています。これにM42-M39ヘリコイド(12-19mm)を組み合わせることで、レンズをライカL39マウントレンズとして使用することができるようになります
Carl Zeiss Sonnar 85mm F2.8 (Rollei QBM), 重量(カタログ値) 198g,  原産国 旧西ドイツ/ シンガポール,  絞り羽 6枚, 絞り F2.8-F22, 最短撮影距離 1m, フィルターネジ 49mm, 構成 4群4枚エルノスター型(基本形), 製造期間 1970-1981, 1974年よりHFTコーティング,  Voigtländer Color-Dynarexの名称で出ていた同一設計バージョンがある
撮影テスト
Sonnar(QBM)とSonnar(Contaflex 126)は設計構成が同一ですので、描写傾向はよく似ています。開放からスッキリとしていてヌケが良く、フレアは全く見られません。コントラストは良好でピント部は解像感に富んだシャープな像となり、線の太い力強い描写が得られます。発色は濃厚かつ鮮やかで、開放でもシャドーの締まりは良好です。背後のボケは端正なうえに柔らかく、グルグルボケや放射ボケは全く検出できません。美ボケレンズと言ってよいでしょう。現代レンズのような安定感ですが、これ本当に4枚玉なのだろうかと目を疑いたくなるような、とても高性能なレンズです。

Sonnar 2.8/85(Contaflex 126 mount)
+
SONY A7
 
F4 sony A7(AWB, iso:2500) トーン描写はなだらだ 

F2.8(開放)  sony A7(WB:曇天)

F4 sony A7(WB:電球)

F4 sony A7(WB:晴天) 

F2.8(開放) sony A7(WB:晴天)  
F2.8(開放) sony A7(WB:晴天)

F5.6 sony A7(WB:晴天)


SONNAR 85mm F2.8 (QBM mount)
+
SONY A7
続いてQBM SONNARですが、Contaflex 126用SONNARと描写傾向はそっくりです。こちらも欠点の見当たらない素晴らしい性能で、この安定感ならプロが仕事で使っていてもおかしくないレンズだと思います。
 
F5.6 sony A7(WB:晴天) 
F2.8(開放) sony A7(AWB)
F5.6, sony A7(WB:晴天)
F2.8(開放) sony A7(WB:晴天)
F2.8(開放) sony A7(AWB)
 
エルノスターの構成にここまで高いポテンシャルが備わっていた事には、正直言って驚きました。戦前のエルノスターがF2ではなくF2.8で作られていたら、評価はもっと高かったのかもしれませんね。次回は元祖エルノスターを取り上げたいと思います。いやぁ、これは楽しみです。
F4 sony A7(AWB)

F5.6  sony A7(AWB)

F4 sony A7(AWB)

2021/10/26

Carl Zeiss DISTAGON (QBM) 35mm F2.8

QBMレンズの広角ツートップ 前編

Carl Zeiss DISTAGON 35mm F2.8 

ドイツのRollei(ローライ)社が1970年に発売したRolleiflex SL35という一眼レフカメラにはCarl ZeissとSchnaiderが交換レンズを供給しており、ツァイスからPlanar, Sonnar, Distagon, シュナイダーからXenon, Curtagon, SL-Angulonなど魅力的なレンズが集まり人気を博しました。このカメラが採用したマウント形状のことをQBM(Quick Bayonet Mount)と呼びます。QBMマウントのカメラは後の1974年にVoigtlanderブランド(ローライ社が製造)でも発売され、カメラとブランド名を揃える目的から、こちらにはPlanarに代わり同一設計のColor-Ultron, Distagonに代わり同一設計のColor-Skoparexが供給されました。消費者はツァイス、シュナイダー、フォクトレンダーのドイツ三大ブランドからQBMレンズを選択できたわけです。QBMレンズの中で当時最もよく売れたのはブランド力で勝るツァイスのレンズでした。逆に販売成績が振るわなかったシュナイダーブランドのレンズは希少性が高く、特にQBMマウントのモデルにしかないSL-ANGULONは現在では高値で取引される人気商品です。今回から2回にわたり広角レンズのDISTAGONとSL-ANGULONを取り上げます。
 



初回は旧西ドイツのカールツァイス・オーバーコッヘンが設計したDISTAGON (ディスタゴン)です。このレンズにはドイツのブラウンシュバイグ工場で製造された前期型(初期型と称されることも)と、シンガポールのローライ工場で製造された後期型があり、設計構成や外観が異なります。設計構成は前期型が5群5枚で、下図に示すような第一群に負の凹レンズを置きバックフォーカスを稼いだレトロフォーカス型レンズですが、第2群にやたらと分厚い正の凸レンズを置いて屈折力を稼いでいる独特の形態です。後期型は前期型の基本構成に1枚レンズを追加し歪みの補正を強化した6群6枚で、1枚増えた分だけ鏡胴も長くなっています。外観については前期型のピントリングがメタル素材で後期型がラバー素材、前期型から後期型への過渡期にはラバー素材のドイツ製やメタル素材のシンガポール製が入り乱れています。定説ではありませんが、過渡期のレンズが前期型(5群5枚)なのか後期型(6群6枚)なのかを判断するには鏡胴の長さ(=ピントリングの素材)をみればよいはずです。歪みを気にする方は後期型がよいでしょうし、ピントリングのラバー素材が気に入らない人は前期型がよいでしょう。私が入手した個体はドイツ製・前期型です。製品が発売されてから半世紀近くが経ちますが、シンガポール製であろうとドイツ製であろうと、ローライが生産管理した製品に今のところ品質面での差はないようです。ゴム製ローレットの加水分解によるべたつきは品質管理というよりは保管環境と手入れの問題です。この手のベタつきは自分でも簡単に除去できます。
  
DISTAGON 35mm F2.8(QBM)の構成図:上段は前期型で5群5枚のレトロフォーカス型。下段は後期型で6群6枚のレトロフォーカス型。オレンジ色で着色した部分のメニスカスが1枚入り、鏡胴も長くなっている。文献[1]からのトレーススケッチ(見取り図)である

   
入手の経緯

レンズはeBayにて170~250ユーロ(20000円~30000円)あたりで取引されています。今回入手した個体はドイツの個人セラーがeBayに出していたもので、150 ユーロ+送料とやや安めの価格でした。レンズのコンディションは「ガラスは綺麗でカビ、クモリはない。絞りの開閉、ヘリコイドの動作も問題ない」とのこと。届いた品はガラスこそ綺麗でしたが、マウント部に少しガタがあり、絞りリングがグリス抜けであるなど難点のある品でした。明らかにセラーの説明不足ですが、緩みを締めればすぐに改善する気がしたので自分で修理して使うこととしました。相場より安値で売られている個体には、表面上わからない何らかの落とし穴が潜んでいることが多くあります。

 

Carl Zeiss DISTAGON 35mm F2.8(前期型): 最短撮影距離 0.4m, フィルター径 49mm, 絞り F2.8-F22, 絞り羽 6枚構成, 構成 5群5枚レトロフォーカス型, 重量(実測)201g


 

参考文献・資料

[1] Rollei Report 3:Rollei Werke, Rollei Pototechnic, Claus Prochnow

[2] Frank Mechelhoff, Rollei QBM MOUNT Objektivprogramm, Update 2009

 

撮影テスト

開放から滲みはなく、スッキリとしたヌケの良いシャープな描写です。解像力は控えめですがコントラストは良好で、線の太い力強い性質がこのレンズの特徴です。設計がレトロフォーカス型であることを反映し、四隅まで光量落ちは目立ちませんし、ボケにも安定感がありグルグルぼけ等は出ません。ピント部の画質は均一で像面も平坦なので、立体感がやや物足りないかもしれません。歪みは樽型で前期型は少し目立つ事がありますが、後期型はこの点が改善しています。癖の少ない高性能なレンズだと思いますがオールドレンズとしては、どうしてもここが弱点になります。せめて旧東ドイツのフレクトゴン35mmの前期型みたいに少し開放で線が細い描写である方が面白いと思うのですが、どうでしょうか?。

イメージサークルは35mmライカ判向けとして設計されていますが実際にはかなり余裕があり、レンズを中判デジタル機のGFXシリーズで使用しても僅かに光量落ちがある程度で、ダークコーナーは出ません。GFXで使用する場合は35mm換算で27mm F2.15相当の写真が撮れるスーパーレンズに化け、画角が拡大する分だけ画質に味がでるようになります。フルサイズ機では小さくまとまってしまい大人しい描写ですが、GFXではパースペクティブが強く、光量落ちが少し出るせいか諧調がよりダイナミックに見えるようになります。自分はこっちの方が好きかな。今回はメイン機のSONY A7R2(フルサイズセンサー)とサブ機のFujifilm GFX100S(中判44x33mm)の両方で撮影をおこなっていますので、順番にどうぞ。

 

DISTAGON x SONY A7R2

 

F5.6 sony A7R2(WB:日光) 
F5.6 Sony A7R2(WB:日光)参考までに開放F2.8での写真はこちら。引き画では違いはほとんどわからない

F5.6 sony A7R2(WB:日光)







  

 

DISTAGON x Fujifilm GFX100S

model:  #はらみか #えぞえこうざぶろう

F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(AWB, Standard)

F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(AWB, Standard)

F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(AWB, Standard)

F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(AWB, Standard)
F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(AWB, Standard)





















F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(AWB, Standard)













 

★DISTAGON x Fujifilm GFX100S★

 

F4 Fujifilm GFX100S(AWB, Standard)



F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(AWB)






































 
DISTAGON x Fujifilnm GFX100S
model: 彩夏子
 
F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(AWB, F.S.: NN)

F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(AWB, F.S.:NN)

2020/12/27

Voigtländer COLOR-ULTRON 50mm F1.8 M42/QBM muont



 
優れたガラス硝材が登場するとともにコンピュータによる自動設計技術が普及し、明るい標準レンズの代表格であるガウスタイプの設計は1970年代に成熟期を迎えます。過剰補正に頼らなくとも輪帯球面収差を無理なく補正でき、高いコントラストと解像力を両立させながら、素直なボケ、スッキリとしたヌケのよい開放描写を実現できるようになります。レンズ設計の関心はピント部からアウトフォーカス部へと移り、それまでボケ味のザワザワとしたレンズが大勢を占めていた中、ボケ味トロトロ系の美ボケレンズが各社から登場するようになります。ガウスタイプのレンズはここに来て新次元の領域に到達したわけです。

ウルトロン型レンズの集大成
グラッツェル博士のウルトロン
Voigtländer COLOR-ULTRON 50mm F1.8

カラー・ウルトロンはフォクトレンダーブランドの一眼レフカメラVSL-1に搭載する交換レンズとして1974年より供給された凹みULTRONの後継レンズです。凹みUltron同様に7枚玉の贅沢なレンズ構成を踏襲していますが、フロント部の第一レンズが凹メニスカスではなく弱い正パワーの凸レンズに変更されている点が大きな違いです(下図)。光学系の原型は1970年にZeiss Ikonから発売されたRolleiflex SL35用のCarl Zeiss Planar 1.8/50ですが、このPlanarに採用された拡張ガウスタイプの設計構成は元を辿れば凹みULTRON、さらに遡るとVoigtlander ULTRONからの流れを汲んでおり、カラー・ウルトロンが登場したことで設計構成が再びUltronブランドに回帰したわけです。Zeiss Ikonは1971年にカメラ産業から撤退し、Zeiss IkonブランドとVoigtlanderブランドの商標はシンガポール・ローライに譲渡されており、これ以降の両ブランドはレンズの設計こそドイツ本国でしたが、シンガポールで製造されました。レンズを設計したのはホロゴンやディスタゴンなど革新的なレンズの設計で知られるカール・ツァイスのグラッツェル博士(Erhard Glatzel 1925年-2002年)で、レンズの開発にあたっては前モデルまでの設計を担当したトロニエ博士の助言が反映されているそうです。
 



カラー・ウルトロンは凹みウルトロンよりもコントラストや発色の改善に力を注いでいますが、それでも解像力は十分に高く、コンピュータ設計により7枚玉の底力が遺憾なく発揮されています。天下のCarl ZeissがPlanarの名で発売したレンズと同一設計なわけですから実力は間違いありませんが、残念なのは生産国がシンガポールであたっため過小評価され、不遇な扱いをうけてきたことです。安価なわりに高性能でコストパフォーマンスは抜群に高く、マニアの間では誰もが認める隠れ名玉として一目置かれる存在となっています。
 
入手の経緯
レンズはeBayに豊富に流通しており、相場はQBMマウントのモデルが100ドル~150ドル程度、M42マウントのモデルが150~200ドル程度です。この値段の差はM42マウントのモデルの方が使用できる一眼レフカメラが多いためですが、現在はミラーレス機が主流となり、値段の安いQBMマウントのモデルでも多くのカメラで使用できます。何ら不自由はありません。日本国内では海外相場の1.5倍くらいの値段で取引されています。
 
Voigtländer COLOR-ULTRON 50mm F1.8(中央はM42マウント、右はRollei QBMマウント): フィルター径 49mm, 絞りF1.8-F16, 絞り羽 6枚構成, 最短撮影距離 0.45m, マウント規格 M42/Rollei QBM, 重量(実測)180(M42) /188g(QBM), マルチコーティング
  
撮影テスト
開放から解像力は高く、コントラストも十分で、現代のレンズに近い欠点の少ないレンズです。前モデルの凹みULTRONが持っていたシアン成分の発色の癖は完全になくなり、ハッとするような鮮やかな発色に出会えます。ボケは安定しており美しく、グルグルボケや放射ボケが目立つこともありません。ここまで高性能なレンズがこの程度の値段で入手できることは大変な驚きです。
 
F4 sony A7R2(WB:日光) マルチコーティングが良く働き、曇りの日でもコントラストは高いレベルをキープしています



F1.8(開放) sony A7R2(WB:日光)

F1.8(開放) sony A7R2(WB:日光)aaa










F1.8(開放) SONY A7R2(WB:日光) 定評どうりの凄い性能。開放でこの描写力はもう異次元です



左右接合: 左F4/ 右F1.8(開放): SONY A7R2(WB:日光) 


F1.8(開放) SONY A7R2(AWB) 

F1.8(開放) SONY A7R2(AWB) 
F1.8(開放) SONY A7R2(WB:日陰) 


F1.8(開放) SONY A7R2(WB:日陰)


F1.8(開放) SONY A7R2(WB:日陰)

F1.8(開放) SONY A7R2(WB:日陰)

F1.8(開放) SONY A7R2(WB:日陰)

F1.8(開放) SONY A7R2(WB:日陰)