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11月3ー5日 場所は原宿 申込制:定員13名(参加資格有) 詳しくはこちら スタッフとして参加予定です。

2014/04/11

Carl Zeiss Jena Pancolar 55mm F1.4 (M42)

ハイテンションな色ノリで世界を華やかに写しとる
温調レンズの決定版 PART2:
Carl Zeiss Jena Pancolar 55mm F1.4
Pancolar(パンコラー)55mm F1.4は旧東ドイツのVEB Carl Zeiss Jena社が1967年から1971年まで生産した高速標準レンズである。同社が誇る最高級一眼レフカメラのPentacon Super(ペンタコン・スーパー)[4579台生産]に標準搭載され、4年間で5101本が製造された。光学系は4群6枚のダブルガウス型レンズをベースとする5群7枚構成の発展型(下図)で、後群の最後尾に凸レンズを1枚追加し正のパワーを強化することでF1.4の明るさを実現している。このタイプの設計(後群分割型ダブルガウス)にはバックフォーカスを確保しやすいといった長所があり、その後、現代に至るまで一眼レフカメラ用に設計された明るいレンズでは、ほぼ例外なくこの設計方式が採用されている(「レンズ設計のすべて」辻定彦著:7章(2)節参考)。
Pancolar 1.4/55の構成図: 左が前群側で右が後群(カメラ)側となっている。「東ドイツカメラの全貌」(朝日ソノラマ)からトレーススケッチした。構成は5群7枚でダブルガウス型レンズの発展型である。正の凸レンズを黄色、負の凹レンズを水色に着色した
ガウス型標準レンズが基本構成(4群6枚)を維持したまま実現できる口径比は、せいぜいのところ明るくてもF2前後までである。仮にこの構成のまま正パワーを強化し、一段明るいF1.5程度のレンズを実現したいなら、レンズエレメントを肉厚に設計し、かつ屈折面のカーブ(曲率)を大きくすることになる。各エレメントに大きなパワーを持たせ、光学系全体のパワーレベルを向上させるというアプローチである。しかし、パワーの大きなレンズエレメントからは大きな収差が発生するため、このアプローチではAngenieux Type-S 1.5/50 (4群6枚)のような滲みやフレアの多い趣味性の強いレンズとなってしまう。そこで、光学系に凸エレメントを一枚追加し、光学系全体のパワーを強化しながら各部のエレメントのパワーは逆に緩めるという手段が選ばれるのである。この場合、レンズを明るくしても諸収差は一定レベルに抑えることができるので、画質的には有利である。凸エレメントを追加する場所として効率的なのは、軸上光線が高い位置を通る前群最前部か後群最後部のどちらかであるが、このうち前群最前部に配置する場合にはバックフォーカスが短くなり、一眼レフカメラへの適合が困難になる。そこで、本レンズ(上図)のような後群最後部に凸エレメントを配置した構成形態が選ばれるのである。
凸レンズの追加はペッツバール和を増大させるので、放っておくと周辺部の画質はさらに厳しいものとなる。そこで、Pancolarでは凸レンズに酸化トリウムを含む高性能な新種ガラス(低分散高屈折率ガラス)を導入し、この増大を最小限に抑え込んでいる。高屈折率ガラスを導入したことにより、直接的な効果としては画像周辺部の解像力の向上とグルグルボケの抑止、間接的には収差全体の補正力を改善させる波及効果が得られる。しかし、後に酸化トリウムが放射するα線がガラスを黄褐色に変色させる先天性の病気の「ブラウニング現象」が発覚、現在では多くの製品固体でこの病気が進行し、ガラスに黄褐色の変色がみられる。この影響が少なからず撮影結果にも出ており、カラーバランスへの影響は無視できない。フィルム撮影時、特にカラーポジフィルムでの撮影時には黄色転びが顕著にみられ、カラーバランスの事後補正が必須となる。しかし、前向きに考えてはどうだろうか。ブラウニング現象がもたらしたカラーバランスへの影響は、歳月を経ることで獲得できたオールドレンズならではの描写特性と言えるもので、実際に使ってみると思いがけないシーンで素晴らしい演出効果を提供してくれる。フツーに写る無着色なガラスのレンズには決して真似のできない、味わい深い写真効果が得られるのである。
 
紫外線照射によるガラス材の修復
Pancolarのガラスが黄色く色づくのは、ガラス材に含まれる酸化トリウムという放射性物質がα線を放射し、ガラス中に格子欠陥(電子正孔対)を生じさせるためである。これはブラウニング現象、あるいはソラリゼーションと呼ばれ、格子欠陥が光を吸収するためガラスは黄褐色に色づいてみえる。これに対し紫外線を一定時間照射しガラス材を熱すると、電子正孔対からトラップ状態の電子を解放させることができる。格子欠陥は消滅し、Pancolarにみられるブラウニング現象は紫外線の照射のみで除去できるのである

入手の経緯
このレンズはブログの読者の方からお借りした。はじめは何とAngenieux 50mm F1.5(中古相場50万!)をお貸しくださるとの申し出で正直驚いたが、あまりにも高価なレンズのため、万が一の事を考え、こちらから丁重にお断りし、その代わりにこのレンズをお借りしたのだ。生産数5101本とレアなレンズのため中古市場での流通量は少なく、現在の中古相場は1000ドルを超える。ちなみに兄弟レンズのPancolar 75mm F1.4(M42)は生産数550本と更にレアで、ここ最近になってeBayで売り出された個体には10000ドル程度(100万円程度)の値段がついていた。既に売れたようである。
Pancolar 55mm F1.4(M42マウント): フィルター径58mm, 絞り値 F1.4-F22, 絞り羽:8枚構成 最短撮影距離0.39m, 重量400g, M42マウント, 製造: 1967-1971年(1963年設計), 設計者はZeissのEduard Hubert (1964年設計)と言われているが、根拠となる文献を掴んでいないので噂と思ってほしい。製造本数:5101本, Pentacon Super用としてM42マウント用のみが市場供給された



撮影テスト
このレンズが発売された1960年代で口径比がF1.5未満の明るさを実現した写真用レンズには、どこか背伸びをしたような危うさがみられるのが普通である。高い技術力を誇ったZeiss Jenaの製品でさえ開放での描写は穏やかではない。Pancolar 55mmも例外ではなく、開放では抑え切れない収差から像がモヤモヤとフレアにつつまれ、解像力とコントラストに明らかな低下がみられる。発色は淡く、ボケは嵐のように激しい。一方、F2まで絞ると画質は改善し解像力は向上、収差を伴いながら線の細い描写となる。F2.8まで絞るとヌケはよくなり、画質的に充実したレベルに達する。階調は驚くほど軟らかく、トーンはなだらかで深く絞り込んでも硬くはならない。ただし、曇天時に開放でフィルム撮影をおこなうと軟らかすぎてメリハリ感の乏しい描写となる事があるので、使い方には注意を要する。デジタル撮影ならば問題はない。変色したガラス材の影響で発色が黄色に引っ張られ、フィルム撮影時、特にカラーポジフィルムでの撮影時にはその影響を顕著にうける。一方、デジタル撮影ではカラーバランスの補正機能が自動で働き、黄色転びはフィルム撮影の時よりも控えめになる。しかし、それでもなお現像時にカラーバランス補正は必須となるであろう。ボケは柔らかく開放付近ではフレアを纏いながら綺麗に拡散している。開放では距離によってグルグルボケがみられるが、Biotar F2ほど激しくはならず、高性能な硝材が導入されたことによる一定の改善効果がみられる。反対に前ボケには距離によって2線ボケ傾向がみられるとの世評がある(ただし、私は確認できなかった)。もしかしたら開放で意図的に球面収差を補正不足にしたレンズなのかもしれない。この種の補正不足型レンズの特徴は開放で像がソフト、後ボケはフレアにつつまれ大きく柔らかくボケる。反対に前ボケはやや硬めで2線ボケが出る。もう少し撮影テストに時間をかければよかったのが残念ではある。Pancolar 55mmの前ボケについてコメントなどでご教示いただけると幸いである。
vF2.8 Nikon D3 digital AWB→Photoshopのカラー補正を適用(補正前の画像はこちら): 純白の花だが黄色っぽい。ここまで絞るとボケは穏やかで綺麗である

F2.8 銀塩撮影(Kodak Profoto XL100/無補正): 今度はフィルム撮影(ネガフィルム)。こういう被写体ならば黄色転びも大して問題にはならない。とてもいい味を出している
F1.4(開放) Nikon D3 digital, AWB :再びデジタル撮影。Photoshopの自動カラー補正を適用した。補正前の画像はこちら。レタッチで人相に手を加えてある。開放ではさらに黄色転びが激しく、カラー補正を入れてもまだ温調気味だ。ボケはやはり激しいが硬くはない。アウトフォーカス部の像の流れを生かし、被写体に動きを与えている
F2.8, Nikon D3, AWB, Photoshopの自動カラー補正を適用(補正前の画像はこちら): 最短撮影距離でのショット。他の一般的なガウス型レンズと同様に近接撮影では球面収差がアンダー方向(補正不足方向)に大きく変化しており、後ボケはフレアをともないながら柔らかく綺麗に拡散している。ピント部は依然スッキリとしていてヌケは良好だ
 当時のF1.5はアナスチグマートを崩壊させる言わば死線ともよべる口径比だったはずである。技術水準から考えればアナスチグマートが5大収差の全てを満足のゆくレベルで封じ、画質的に健全でいられたのは、F2前後までだったのであろう。これを越えてしまった1960年代のPancolarやContarex-Plannarが画質的に厳しいレンズであったのは確かなことである。しかし、当時のユーザーサイドがこれを拒絶しなかったのはとても興味深いことではないだろうか。私の知る限り55mm F1.4が嫌われ者であったという悪い評判はどこにもみられない。むしろ、ユーザーサイドには限界に挑むスーパーレンズを暖かく見守る広い心があったようにも思える。なぜ嫌われ者にはならなかったのか。恐らく人間の感性には収差の嵐すら写真効果のひとつ、表現の可能性の一形態として受け入れてしまう柔軟性と許容力があったからであろう。これより後もF1.4クラスのレンズは各社から次々と登場しており、このクラスの大口径レンズの需要は現代に至るまで途絶えることなく続いてゆくのである。 

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