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2013/11/20

Schneider-Kreuznach Retina-Tele-Arton 85mm F4 (DKL)





銘玉の宝庫デッケルマウントのレンズ達
PART2Retina-Tele-Arton 85mm F4
四隅まで高画質な
Xenotarタイプの中望遠レンズ
Schneider(シュナイダー)社もまたデッケルレンズに力を注いでいたメーカーであり、その徹底ぶりは同社が誇る主力ブランドのほぼ全てをラインナップ展開していたほどである。主にレチナ・デッケル機の交換レンズとして広角レンズのCurtagon(クルタゴン)、標準レンズのXenar(クセナー)とXenon(クセノン)、中望遠レンズのTele-Arton(テレ・アートン)、望遠レンズのTele-Xenar(テレ・クセナー)を生産していた。今回取り上げるデッケル特集の2本目は同社がTele-Xenarの上位ブランドとして1957年から1971年まで生産し、中望遠レンズの中核に据えてていたTele-Arton 85mm F4である。このレンズは口径比がF4と控えめで最短撮影距離が1.8mと長いため人気はなく、WEB上にも写真作例は少ない。中古市場では手ごろな価格で取引されているレンズである。ところが使ってみると驚いたことに実にシャープな写りなのである。知れば知るほどこのレンズの正体に興味がわいてきたので構成図を探してみたところ、下の図のようなものが見つかった。何と4群5枚のXenotar (クセノタール)である。Xenotarと言えば高解像で硬階調、切れ味の鋭い描写を特徴とし、中大判カメラ向けに供給された同社が誇るプロフェッショナル用レンズとして知られている。中古市場では現在も500-1200ドル程度と高値で取引される高級ブランドであるが、対するTele-Artonはデッケルレンズ自体が全体的に安値で取引されることもあり、僅か100ドルから150ドルで手に入る。Xenotarのシャープな写りを手軽に楽しむことができる穴場的なレンズと言えるのではないだろうか。
Tele-arton F4/F5.5の光学系(左が前方で右がカメラ側):Australian Photography Nov. 1967に掲載されていた図をトレーススケッチした。レンズの構成は4群5枚の望遠Xenotar型であり、普通のXenotarよりも前後群の間隔が広い。このタイプのレンズ構成は望遠レンズによくある糸巻き状の歪曲を後群の正の空気レンズで効果的に補正できるという優れた長所がある。一方で焦点距離(望遠比)を大きくとると球面収差の短波長成分のみがオーバーコレクション側に大きくなる短所がある(「レンズ設計のすべて」辻定彦著参照)。シュナイダーの望遠レンズ(焦点距離135mmと200mmの2種)がTele-XenarブランドがらTele-Artonブランドに置き換わらなかったのには、こうした性質を憂慮したためではないかと考えられる。なお、Tele-Artonには大判用(6x9や5x4)に供給された口径比F5.5、焦点距離180 /240 /279 /360mmのモデルも存在する。こちらは登場が35mm判よりも少しはやく、180mmF5.5のモデルが1955年から登場している。また、リンホフ用に1968年8月から供給された180mmF4のモデルは例外的に3群6枚構成である
Tele-Artonは旧西ドイツのBraun(ブラウン)社から発売されたレンジファインダーカメラSuper Colorette II (1956-1959製造)の交換レンズとして1957年に登場し、その後、Kodak社のレンジファインダーカメラRetina IIIS (Bessamatic互換)が1958年に採用した新規格のデッケルマウントにも対応している。1962年にはRobot用に90mmF4のモデルが108本、Edixa用(M42マウント)に85mmF4のモデルが100本造られ、更に1967年にはデッケルマウントの90mm F4も登場している。WEB上では各所で90mmのモデルが85mmのモデルの後継品であるとする見解を目にするが、この解釈はどうも間違いのようである。90mmの登場後も85mmのモデルの生産は続き、シュナイダーの製造台帳では1971年に生産された85mmの個体を確認することができるからである。そこで台帳上にて90mmF4のモデルのルーツを追うと、同社が1954年に僅か5本だけ試作したLongar-Xenotar 90mm F4という試作品に辿り着く。この記録は90mmのモデルが85mmのモデルよりも早く開発されていたことを意味しており、Tele-ArtonがXenotarをルーツとするレンズであることを裏付ける証拠にもなっている。設計者はギュンター・クレムト(Günther Klemt )であろう。

入手の経緯
本品は2013年9月にeBayを介し米国の古物商から即決価格166ドル(120ドル+送料30ドル+関税等仲介手数料16ドル)で落札購入した。オークションの解説は「西ドイツ製のTele-Arton。硝子に傷やカビ、汚れ、その他の悪い部分はない。フォーカスはスムーズで絞り羽の開閉はスムーズだ。鏡胴には軽度な傷があるが依然として新品に近いコンディションである。純正ケース、箱、ステッカー、マニュアル(1959年印刷)がつく」とのこと。状態はよさそうである。届いた品には後玉のコーティングに極軽い拭き傷があったものの、実写には影響の無いレベルである。eBayでの相場は100-150ドル程度であろう。
重量(実測)130g, 絞り羽 5枚, 最短撮影距離 6ft(1.8m), フィルター径(専用バヨネット式), 4群5枚Xenotar型, Kodak-Retina(DKL)マウント。EOS5D/6D系では無限遠近くを撮影する際にミラー干渉する。マウント部の溝はレンズファインダー機に対応するための距離計連動カムである。初期のデッケルレンズにはこのカムが多くみられるが、フォクトレンダー製レンジファインダー機の製造計画が進まず消滅している




撮影テスト
前エントリーで取り上げたテッサータイプのColor-Skoparとは発色の傾向が全く異なることが一目瞭然でわかるはずだ。Color-Skoparはテーマを選ばずにどんなシーンでも万人受けする写りであるのに対し、Tele-Artonはシュナイダーらしい青みの強い発色を特徴とする上級者向けのレンズである。使い方次第では美しく幻想的な写真効果が得られるが、使い方を誤ると重々しい病的な雰囲気に呑み込まれてしまうので、このレンズを用いる際にはテーマを慎重に選ぶ必要がある。明らかに普通の写りではないので、ツボに填るとオールドレンズの底力(奥深さ)を体感できるはずだ。例えば明け方や日没間際の低照度な条件でハイキーな写真を撮ると、この世のものとは思えない素晴らしい写真が撮れる。反対にアンダー気味に撮ると重苦しい雰囲気が増すが、こうした性質を廃墟など無機質なものを撮る際に積極的に活用するという手もある。開放から解像力、コントラストなどの基本性能がずば抜けて高く、硬質感の高い鋭くシャープ階調描写はクセノタール型レンズならではの特徴である。ピント部は四隅まで高画質で、控えめな開放F値のためボケは概ね安定している。ボケ味がクリーミーになるという事前情報を得ていたが、どうもよくわからなかった。

撮影条件
フィルム撮影: カラーネガフィルム Fujicolor SuperPremium 400  1本分を使用
デジタル撮影: EOS 6D(遠方撮影時にミラー干渉が起こるのでミラーアップモードで撮影)

今回は事情があり、このレンズと長く付き合うことができなかった。2013年9月22日の午後に京都で開催されたレイノカイのお散歩撮影会で撮った8枚の作例をお見せする。

F5.6, フィルム(Fujicolor S.P.400ネガ): シャドー部がクールトーン気味の発色になるのはシュナイダーレンズの特徴だ



F4(開放), フィルム(Fujicolor S.P.400ネガ): 開放でも画質には安定感があり、四隅まで高解像でボケも素直だ



F4(開放), フィルム(Fujicolor S.P.400ネガ): この距離でグルグルボケが出ないのは口径比が控えめであるおかげだろう



F5.6, EOS 6D(AWB): こんどはデジタル撮影。フィルム撮影の時と同様にクールトン気味な発色傾向が得られている
F5.6, EOS 6D(AWB): 近接撮影でも画質は良好である。 デジタルカメラには不得意な紫の発色だが淡白になならず忠実な色再現である

F4(開放), フィルム(Fujicolor S.P.400ネガ):ハイライト部のまわにのモヤモヤ感は出ていない。開放からキッチリと写るレンズだ
F5.6(開放), フィルム(Fujicolor S.P.400ネガ):緑が黄色に転びやすいのはシュナイダーのレンズによく見られる傾向だ







F5.6, EOS 6D(AWB)::再びデジタル撮影。ご覧と通りに優れた解像力である

8 件のコメント:

  1. デッケルレンズのなかでもSchneuderのレンズは、どれも他のメーカのものとは発色傾向が違うように思います。
    本文で指摘されておられますが、暖色系のものを撮ると「病的」に写るのは、XenonとこのTele-Artonが双璧です。Curtagon、Xenarはやや弱いものの、そうした傾向を感じます。

    鉄と石で出来た国からやってきたレンズという気がします。
    (製品試作品のチェックでも、鉄や石ばかり写していたのかも、と想像してしまいます。)

    ドイツに居を構えたといえ、もともとオーストリアの生まれのVoigtlanderとは、やはり育ちが違うというところでしょうか。

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  2. dymaさんこんばんは

    感想いただきました。鉄や石を印象的に写すのに適したレンズ。うまい表現ですね。デジカメ時代は画像処理エンジンの性質による撹乱(自動カラーバランス補正)をうけてしまいますので、色については、あれこれ言いにくい状況です。それでもシュナイダー製レンズは元気良く個性を発揮してくれます。オールドレンズの発色特性はカラーバランス補正の撹乱後もしっかり生き残っている。このレンズはそのことを改めて確認させてくれました。

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  3. はじめまして。いつも楽しく読ませていただいております。
    さて、自分はCanon5Dシリーズでこのデッケルマウントのシュナイダーレンズを使っています。
    Curtagon35mm,Xenar45mm,Xenon50mm,Tele-Arton85mm,90mm,Tele-Xenar135mmを使っています。
    Xenon50mm1.9はとてもすばらしいレンズで、現在の単焦点に勝るレンズと思い、2本所持しています。
    ですが、Tele-Artonに関しては85mmも90mmもそこそこ(使えないレベルではないです)の解像感で、Xenon50mm比べると数段落ちるのです...
    これは私の個体だけでしょうか?Xenon50mmが素晴らしすぎるのもあるのですが。
    人を撮ることが多いのでXenonよりTele-Artonのほうがよい画角のため、気になっております。

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    1. 木村様

      書き込みありがとうございました。
      Xenonシリーズは素晴らしいレンズです。私の知っている何人かの写真家はXenonの優れた性能に惚れ込んでいます。Xenonばかりを集めている方も知っています。Tele-Artonとの比較ですが、中央の解像力(ディテールの分解能)はXenonが圧勝です。四隅を見てください。Xenonがいかに高性能とはいえ、ダブルガウスレンズの一派は四隅と中央の解像力の落差が大きいことがわかります。一方、Tele-ArtonのようなXenotar型はこの落差が小さいのが特長で四隅ではダブルガウス(Xenon型)に逆転勝利します。シュナイダーのレンズでXenonとXenotarが双璧をなしていたのは、こういう理由からだと思います。中判・大判撮影の分野では大きな撮像面の隅ずみまで一定レベルの解像力を求めますが、ダブルガウス型レンズ(XENON)が進出できなかった理由の一つは四隅まで解像力を維持できないからだと思います。Xenon型とTele-Arton型の関係はトリプレット型とテッサー型の関係にも似ています。中央の解像力だけで判断するならTriplet型の圧勝です。

      ブログエントリーのタイトルに掲げた「デッケルレンズ随一の解像力!?」は、こういう理由からやや乱暴な表現です。誤解を生むのかもしれませんので少し無難にしておきたいと思います。参考になりました。

      人を撮るとのことですが背景のボケはXenonの方が柔らかく拡散し綺麗です。Xenotar型のTele-Artonはどちらかといえばブツ撮りに向いているのではないでしょうか。ご参考まで。

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    2. 迅速なご返信ありがとうございます。
      詳しいご説明で、たいへんよく理解できました。人物にはXenonが向いていますよね〜ドキッとさせられるほどの解像感、ボケは独特ですが、キレイな部類ですし。
      なによりクールトーンの描写が自分の撮りたい作風ととてもあっております。
      そうなんです、Tele-Arton、画角的には人物に最適なのですが実際撮影するとちょっとちがうのですよね...。これもレンズ構成からくるものなのですね。
      勉強になります。

      自分はシュナイダーレンズに魅せられて、現在このデッケルシリーズのほかに、
      Exakta66(Pentacon6)の、Curtagon60,Xenotar80,Exaktar80,Tele-Xenar150を中判で使っております。もっとも好きなのはTele-Xenar150で、その高級感ある描写がたまらないです。
      現行のHy6というカメラのシュナイダーレンズも高性能なのですが、こちらは「現代の」描写。それでも好きですが。

      おすすめのシュナイダーレンズ等ありましたらまたご教授いただければ幸いです。

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    3. おすすめのレンズですか?
      アリフレックス用クセノンはスゴいみたいですよ。「シネレンズとクラシックレンズで遊ぶ」のヨッピーさんが心酔しています。

      気になるシュナイダーレンズはいっぱいあります。列記しますと

      Gold dot dagor シュナイダー製ダゴールでコーティング付きです

      Xenogon 35ライカ用 未知の存在 広角ダブルガウスだとしたらあまりみないタイプなので面白そうです。

      Radionar 80mm 切れます。高解像。正攻法の頃の若いトロニエが設計
      Radiogon 構成見る限りかなり楽しめそうな癖玉です

      あと、ジンマーやコンポノンも美味しそうです。Jsogonは暗いですが面白かったです。おっと物欲を封印中でした。

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  4. Xenotar構成だとは知りませんでした.お教え頂きありがとうございます.
    RetinaIIISと,マウント改造のキヤノンFTで使っていますが仰る通り素晴らしい画質で,非常にコンパクトなのに明るいので重宝します.
    IIISでは近接RFとクローズアップレンズも使え,ちょっとしたマクロ域まで楽しめますが単体でも人物用としては結構な拡大率になりますね.
    大判用Tele-Artonは味見しかしたことないけれど,この構成ならもう一度欲しくなりました.

    GDDは最後期にシュナイダーに買収されマルチコートになりました.Koelnとのダブルネームかと思いましたが,只でさえ鮮鋭なDagorがさらに高コントラストになり,人像撮影されるカメラマンには不評なくらいだそうです.なんでも髪の毛がつぶれて針金になるとか?(又聞き)そういった方は戦前のノンコートBerlin製が柔らかな質感が出てよいそうです.モノコートKoeln355は一度テストして,解像力は良好だが,Nikkor360より柔らかな画質だなと思った記憶が有ります.
    シュナイダーMC355mmf8は1990年代日本プロフォートが代理店でかなり入ったはずですが,短い焦点距離のMCは有ったのか存じません.Koeln単名のGDDは180くらいから見ています.GoerzAM銘GDDは92mmからあり(もっと短いのもあるんでしょうか),180-210を(テストで)RB67で使うとRB純正レンズ顔負けの鮮鋭度で畏れ入ります.8x10周辺まで高画質でカバーしてますから...

    L39XenagonはHeligonよりましですが高騰して中々遭遇困難かも.今はRobot用のほうが安価でしょう.写楽彩さんのL39を拝借すると,とても素直で良い描写だと思いました.

    Radionarは未経験,興味あります.
    Symmarは安価ですが素晴らしいです.暗いけど同じ絞り値のPlanarより鮮鋭と思いました.
    同じ構成で高屈折率ガラスを奢ってf値暗め,イメージサークル狭め近接設計のG−Claron,実は凄く良いんじゃないかと思ってますがまだ試していません.

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    1. >Xenotar構成だとは知りませんでした.お教え頂きありがとうございます.

      いえいえ。

      >大判用Tele-Artonは味見しかしたことないけれど,この構成ならもう一度欲しくなりました.

      大判用はXenotar型以外に複数の構成モデルがあるので注意が必要です。

      >GDDは最後期にシュナイダーに買収されマルチコートになりました.

      そうですね。

      >なんでも髪の毛がつぶれて針金になるとか?(又聞き)そういった方は戦前の
      >ノンコートBerlin製が柔らかな質感が出てよいそうです

      経験あります。硬い階調のレンズ。シャープなのはいいのですが、ブツ撮りにしかつかえませんよね。人物撮りでは被写体を選びます。

      >GoerzAM銘GDDは92mmからあり(もっと短いのもあるんでしょうか)

      米国製はわかりません。本家は60mmの存在を知っています。

      >L39XenagonはHeligonよりましですが高騰して中々遭遇困難かも.今は
      >Robot用のほうが安価でしょう.写楽彩さんのL39を拝借すると,とても
      >素直で良い描写だと思いました.

      高いですよね。手が出せません。

      >Radionarは未経験,興味あります.

      トロニエ設計の戦前の80mmを使いました。すばらしく切れます。

      >Symmarは安価ですが素晴らしいです.

      そうですか。分離DAGORですと、Boyer Saphir B 3.5/80が手元にあり、
      近いうちに試してみたいです。

      RodenstockのSynnar/Synaron 4/80は使われたことありますか?

      >同じ構成で高屈折率ガラスを奢ってf値暗め,イメージサークル狭め近接設計
      >のG−Claron,実は凄く良いんじゃないかと思ってますがまだ試していません.

      ちょっと興味あります。お互いに興味が尽きませんね。
      かきこみありがとうございます。

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