おしらせ


2013/01/22

GOERZ BERLIN, Doppel-Anastigmat DAGOR 90mm F6.8 and 120mm F6.8
ゲルツ ドッペル・アナスティグマート・シリーズIII(ダゴール)


まるで蒸気機関車の一部であるかのような2本の真鍮製レンズ。これらは1893年にドイツ帝国のGoerz(ゲルツ)社がDoppel Anastigmat Series III(ドッペル・アナスティグマート・シリーズIII)の名で世に送り出し記録的なヒット商品となったDagor(ダゴール)である。これまでに数十万本が生産され史上最も成功したレンズの一つと称えられている。Dagorの登場以来、写真用レンズの歴史は本格的なアナスティグマート時代に入っていった

アナスティグマート時代の幕開けを象徴する
ゲルツ社の傑作レンズ

難度の高い非点収差(アスチグマ/Astigma)を封じることで、ついにはサイデルの5収差全てに対する補正を実現した上級レンズのカテゴリーを昔はアナスティグマート(Anastigmat)と呼んでいた。現代のレンズも含め19世紀以降に登場した写真用レンズは、ほぼ全てがアナスティグマートである。この種のレンズとして黎明期に登場したものには1890年にCarl ZeissのRudolph(ルドルフ)が設計したProtar(プロター)や1893年に英国Cooke(クック)のTaylor(テイラー)が設計したTriplet(トリプレット)などがある。中でも特に高い人気を呼んだアナスティグマートが1893年に発売されたDAGOR(Doppel Anastigmat GOeRzの略)である。Dagorは登場後たちまち人気を博し、軍への納入を中心に4年間で3万本を売るという信じられない記録を打ち立てている。Goerz社はDagorのヒットで急成長を遂げ、1889年に僅か25名だった従業員の数は1901年に1000名、1914年には3000名にまで増え、第一次世界大戦中には12000名を突破している。レンズを設計したのは古いデンマーク貴族出身で27歳の数学者Emil von Hoegh(エミール・フォン・フーフ)[1865--1915]と呼ばれる人物である。Hoeghは独学でレンズの設計法を身につけ1892年にサイデルの5収差を全て補正できる新型レンズ(Dagor)のアイデアを考案した。彼はこのアイデアをはじめ大会社のCarl Zeissに売り込んだが取り合ってもらえなかったので、今度は創業6年目にあたるGoerz(ゲルツ)社に売り込んだのだ。同社の創設者Carl Paul Goerz(カール・ポール・ゲルツ)がHoeghの試作レンズをテストしたところ高性能だったので、すぐにレンズの特許をとり[3]、Hoeghを少し前に死去した設計主任Carl Moserの後任に抜擢したのである。実績もない若いHoeghの隠れた才能を見抜いたGoerzの洞察力は非常に優れたものであった。当時のGoerz社は前任者のMoserが設計したリンカイオスコープの製作に取り組んでいた。しかし、リンカイオスコープは旧来からのラピット・レクチリニア型レンズのコピーであり、ダルマイヤー社、シュタインハイル社、フォクトレンダー社などが先行商品を世に送り出していたため、後発のGoerz社が優位にたてる要素には乏しかった。そんな矢先に訪れたMoserの死去、新型レンズのアイデアを携えやってきたHoeghの加入、Dagorの記録的なヒットなど運命的な出来事が立て続けに起こり、Goerz社は事業規模を急速に拡大、ドイツ最大級の光学機器メーカーにまで成長したのである。

参考資料
[1] A History of the Photographic Lens(写真レンズの歴史), Kingslake(キングスレーク) 著
[2] ハヤタ・カメララボ 今月の一枚2012年12月:ロール・テナックス ダゴール
[3] Dagorの米国特許: Patent DE 74437(1892), U.S.Patent 528155(1894) Emil Von Hoegh, Carl Paul Goerz
[4] レンズ設計のすべて 辻定彦著  電波新聞社


Dagorの光学系(1892 Emil Von Hoegh)をトレースしたもの。設計構成は2群6枚の対称型で、左半分が前群、右半分が後群(カメラ側)となる。空気と硝子の境界面を僅か4面しか持たないという特異な構成のため内面反射光の蓄積が起こりにくく、更にハロやコマなどが殆ど出ないこともあり、戦前のノンコートレンズとしては抜群の高いコントラスト性能を実現している

ドッペル・アナスティグマート
ドッペルとはドイツ語のダブルに相当する語である。Dagorのレンズ構成が上図のように中央の絞り羽を挟んで対称の構造を持つ事を意味している。この種の対称型レンズにはコマ収差(M成分)、倍率色収差、歪曲収差が自動的に消滅するというアドバンテージがある。コンピュータによる設計法の無かった時代では、この性質を利用することが有効な設計手段の一つであった。アナスティグマートの登場まで一世を風靡していたフォクトレンダー社のラピット・レクチリニアも対称構造をもつレンズであり、Dagorはこのレンズの発展型と考えられている。Hoeghが対称型レンズの開発に熱中していたことは彼がGoerz社在籍中に設計したHypergon(ハイパーゴン)Doppel Anastigmat Series IB(Celorの原型)などのレンズ構成からも明らかである。
Kingslakeの著書にはDagorの設計手順の一部始終が掲載されており、Dagorが「サイデルの5収差」の全てを攻略したアナスティグマートであることを改めて確認することができる。設計法を要約すると、まず正負正の順に配置した3枚の貼り合わせレンズを用意し、その最外殻の曲率半径を非点収差が0になるように与える。次に内部の2枚の貼り合せ面の一つで球面収差を補正し、残る一つの面で像面湾曲を補正する。こうして出来る貼り合せレンズを2セット用意し絞り羽を挟んで対称に配置することで、残る収差(コマ収差、倍率色収差、歪曲収差)を自動消滅させるのである。収差表を見ると球面収差、軸上色収差、倍率色収差の補正効果は素晴らしく、非点収差、歪曲、コマ収差の補正レベルも良好である。中心解像力とコントラストが非常に高く、画角を広げても良好な画質が得られるなど、口径比が明るくできないことを除けば収差的には欠点のほぼない優秀なレンズであることがわかる(文献[4])。


Doppel Anastigmat Series III 120mm F6.8(推奨イメージフォーマット 3.5x4.5 inch): 真鍮製バーレルレンズ, フィルター径 28mm, 絞り羽 10枚構成, 絞り値 F6.8-F32, 光学系は2群6枚, シリアル番号からレンズの製造は19世紀末(1896-1899年頃)となる。希少価値の高い初期のレンズだ。この頃のレンズにはまだDagorの名が刻まれていない。レンズ名がDagorに改称されたのは1904年からである。市販の部品をいろいろ組み合わせマウント部をM42ネジに変換している
Dagor 90mm F6.8(推奨イメージフォーマット 3x3 inch): ダイアルコンパー型シャッターを搭載, フィルター径 20mm前後, 絞り羽 10枚 , 絞り値F6.8-F32, 光学系は2群6枚, シリアル番号からレンズの製造年は1915-1918年頃(第一次世界大戦中)であることがわかる

製品ラインナップ
Dagorは1892年に開発され、翌1893年にDoppel Anastigmat Series IIIの名で登場している。発売当初は口径比がF7.7であったが、後に焦点距離12インチ以下のモデルが全てF6.8へと変更され、名称の方も1904年からDagorへと変更されている。レンズは軍への納入を中心に売れまくり、発売から4年で3万本、累計でも数十万本が出荷された。Dagorの設計は広角から超望遠まであらゆる焦点距離に対応できる万能性を備えており、1913年のGoerz社のカタログには焦点距離の異なる19もの製品ラインナップが掲載されている。このうち広角レンズの焦点距離1+5/8インチ(約4cm)、2+3/8インチ(約6cm)、3インチ(約7.5cm)、3+1/2インチ(約9cm)の4製品については主にステレオカメラ向けの製品として市場供給された。一般撮影用レンズとして大判カメラ向けに供給されたモデルは焦点距離4+3/4インチ(約12cm)、6インチ(約15cm)、7インチ(約18cm)、8+1/4インチ(約21cm)、9+1/2インチ(約24cm)、10+3/4インチ(約27cm)、12インチ(約30cm)、およ14インチ(約35cm) F7.7、16+1/2インチ(約42cm) F7.7、19インチ(約48cm) F7.7、24インチ(61cm) F7.7、30インチ(76cm) F7.7、35インチ(約89cm) F7.7の13種である。また、Kodak製等の小型カメラ向けに焦点距離5インチ(13cm)と6+1/2インチ(約16.5cm)の2種も供給されている。ただし、焦点距離が78mm、80mm、83mmなどカタログには掲載されていない個体も数多く出荷されていた。焦点距離の規格が不徹底なのは光学系を組み上げるまで焦点距離がどうなるか判らなかったからで、Goerz社はレンズを組み上げ一定の性能基準をクリアした製品ロットに対して改めて一本一本の焦点距離を計測し、その結果を製品のスペックとしてレンズに表記していたのだ。なお、ステレオカメラ向けに供給されていた先の広角の4製品も1921年にGoerz社がRoll-Tenaxと呼ばれるロールフィルム式の中判カメラを発売したことで、一般撮影用レンズとして供給されるようになった。

入手の経緯
焦点距離90mmのDagorは2012年11月にeBayを介して米国カリフォルニアの個人出品者「ブラックス2」から落札購入した。この売主は販売実績が2737件で落札者評価が100%、ニュートラルの評価すら無いという好成績者である。扱っている商品は殆どが写真機材であった。商品の解説は「4x4inchのボードに搭載されていた小さなダゴール。焦点距離は3と1/2インチで絞り値はF6.8である。グレートコンディションだ。硝子は完全にクリアで傷や拭き傷はない。シャッターはすべての速度で正常に作動しハングアップはない。ただし、若干スロースピードになる事はあるかもしれない。たまにしか市場に出てこないとてもナイスなレンズだ。商品がこの記述と異なる場合には受け取り後14日以内であれば完全返金する。」とのこと。商品は85ドルのスタートで売り出され、私を含め6人が入札した。最大価格を233ドルに設定し、自動入札ソフトでスナイプ入札したところ201ドル(送料込みの総額では218ドル)で私のものとなった。届いた品は外観・ガラスとも経年を考えると素晴しい状態であり、強い光を通すと極軽いスポット状のヤケが2~3個見られる程度であった。Dagorはプライスリーダーのカメラメイトが長焦点のものを250ドル(送料込み)で売りだしているので、このあたりが中古相場なのであろう。ただし、焦点距離90mmのモデルは珍品なので、この値段で入手できたのはラッキーである。
続いて焦点距離120mmのDagorは2012年11月にオールドレンズ愛好家のL51さんからお借りした。L51さんは当初私に浮き世離れした写りが楽しめる別系統のレンズをすすめていた。今回お借りしたDagorに対しては「良く写りすぎてガッカリするかもしれない(笑)」とのことである。所持されているレンズ同様に、写りに対する価値感も人並み外れた持ち主のようだ。
焦点距離120mmのDagorはフランジが長いのでヘリコイドにマクロエクステンションチューブを継ぎ足している
DAGOR 90mmのフード問題
今回入手した2本のDagorはガラス面にコーティングが敷設されていないノンコート仕様のレンズであり、撮影時にはフードの装着が必須となる。Dagor 120mmはフィルター径が28mmなのでステップアップリングを介して市販のフードが装着可能であるが、Dagor 90mmの方はフィルター径が20㎜前後の特殊径となっているため、市販のフードやレンズキャップはおろかステップアップリングすら装着できない。そこで、北方屋が880円で販売しているエルマー専用の特製マイクロメタルフード(フィルター径19mm)を使用することにした。下の矢印で示すようにハサミで細長く切った薄いポリエチレン板をフィルターのネジ切りの部分に鉢巻きのように巻き付け1mmの隙間を埋めるのである。ポリエチレン板の末端は瞬間強力接着剤で留めている。ここで用いたポリエチレン版は商品の包装に使われていたものである。ちなみにクリアフォルダーのポリエチレン素材では厚みが足りなかった。

北方屋のエルマー50mm専用マイクロメタルフード(フィルター径19mm)。矢印のようにポリエチレン板を細長く巻き末端を瞬間協力接着剤で留めている。このようにしてDagor 90mmのフィルター径(おそらく20mm径)にピタリとフィットさせることができる
フードを2段重ねにした状態での装着例(写真・左)と3段重ねにした装着例(写真・中央)。ホームセンターで買える椅子の脚ゴム(内径21mm)をキャップにしている(写真・右)
北方屋のフードは焦点距離50mmのエルマーに合うよう8mmの深さで設計されているため、焦点距離90mmのDagorに対しては丈が短すぎる。そこで、このフードを2段に重ねて使用することにした(写真・左)。ちなみに3段重ねでもケラレは発生しない(写真・中央)。デザインを重視し2段にするか、光学性能を追及し3段にするかは悩みどころである。レンズキャップについては市販品の中にサイズの合うものが見当たらないため、ここではホームセンターで買える椅子の脚ゴム(内径21mm)を流用している(写真・右)。

細長いフードを用いてハレーションをカットする
Dagorのような中・大判撮影用に設計されたレンズは35mm判レンズよりも広いイメージサークルを持っている。このためフルサイズセンサーやAPS-Cセンサーなど小さなイメージフォーマットを持つデジタル一眼カメラに装着して用いると、撮像センサーに収まりきらないイメージ光(イメージサークルの外周部)がミラーボックス内で乱反射し、さらに内面反射光となって光学系の内部に蓄積することでレンズ本体の描写力を損ねてしまう。戦前のノンコートレンズともなれば内面反射光の影響は甚大で、ミラーボックスやヘリコイドユニットの内壁から反射した光が画像の中央部に酷いフレア塊を生み出すこともある。また、コーティングのある戦後のレンズにおいてもイメージフォーマットの合わない規格外のレンズをアダプターを介して用いると、シャープネスを損ねる結果になる。フレアの発生はイメージサークルの大きな中判用レンズ、さらには大判用レンズになるほど深刻である。レンズ本来の描写性能を維持するには純正フードでは不十分であり、細長いフードを用いたりレンズのフィルター部にステップダウンリングを装着するなど不要光を遮断(つまりイメージサークルの周辺部をトリミング)するための徹底した対策をとらなければならない。ヘリコイドユニット等の内壁に黒色の植毛やフェルトを貼っても一定の効果が得られるようだ。今回テストした2種類のDagorの場合、焦点距離90mmの方はイメージサークルが小さくフレアの発生量は僅かであったが、焦点距離120mmのDagorにはかなり悩まされた。このレンズには初めフィルター径55mmの中望遠レンズ用メタルフードを装着し使用していたが、画像中央には見事なまでのフレア塊が発生し、撮影に全く集中できなかった。オーナーのL51さんに相談したところ、長い(深い)フードを用いているだけでは効果は弱く、細いフードを用いる事が重要であるとのアドバイスを得た。そこで、eBayを徘徊し市販で手に入る細長い望用遠フードを探してみた。ところがレンズに合った細長いフードとやらがどこを探しても無い。Dagor 120mmにはフィルター径28mm程度のフードが必要なのである。手に入らないならば自分で造るしかないとトイレに籠もって考えていたが、しばらくして良いアイデアを思い付いた。手にしていたのはトイレットペーパーの芯である。芯の内側をつや消しブラックでペイントし細長いフードが完成。レンズに装着し試写してみたところフレア塊の発生を完全に封じることができた。コントラストも明らか向上し、レンズ本来の性能を引き出すことができるようになったのだ。よし、これで撮ろう!。

撮影テスト
Dagorは中・大判撮影用に設計されたレンズであるからフルサイズセンサーの一眼レフカメラやミラーレス機で使用する場合には細長いフードを装着し、徹底したハレ切り対策を施しておく必要がある。不要光をきちんとカットしたDagorはコントラストやシャープネスが高く、発色も良好で、現代の写真撮影にも十分に通用する優れた描写性能を発揮する。
Dagorは「アナスティグマート」を明示し、ユーザーに対して全ての収差が高いレベルで補正されていることを約束したレンズである。実際にレンズを使用してみると開放からハロと色収差は完全に抑えられておりスッキリとしたヌケの良い像が得られる。コマや非点収差もよく抑えられており、フルサイズフォーマットのカメラによる不完全な評価ではあるが、画質は四隅まで均一で像面湾曲や歪曲も全く目立たない。解像力についても十分なレベルをクリアしている。ただし、キッチリと写りすぎるので線の細い描写までは期待しない方が良い。今回入手した2本のDagorはガラス面にコーティングのないノンコート仕様のレンズである。このため逆光には弱く、撮影条件がシビアになるとフレアが発生し、発色も淡く軟調気味の写りになるが、2群構成という特異な設計である事や空気境界面同士が離れている事が内面反射光の過度な蓄積を抑え、この時代のノンコートレンズとしては異例ともいえる高いコントラスト性能を実現している。後ボケはやや硬くザワザワと騒がしくなることがあり、近接撮影時には2線ボケの傾向がみられることもあるが、像は良く整っておりグルグルボケや放射ボケは見られない。発色は概ねノーマルである。露出をアンダー気味にして色濃度を上げると、赤だけが異様なほど引き立って見えることがある。口径比がF6.8とやや暗い事を除けば大きな欠点はなく、120年前に設計されたレンズとはとても思えない素晴らしい描写力である。
2本のレンズを比較すると階調描写については焦点距離90mmのDagorの方が安定感がありコントラストやシャープネスは高い。これに対し焦点距離120mmのDagorは90mmのモデルに比べると軟調気味で発色も淡く、逆光時になると癒し系の性格をおびることがある。描写力が撮影条件に左右されやすく、コンディションが悪いとハレーションが盛大に出たりシャープネスが急に落ちたりと階調描写には安定感がない。解像力については肉眼でわかるほどの差は見られず、120mmのモデルの方が大口径であるにも関わらず、90mmのモデルより劣るようなことは全くなかった。Dagorの光学設計は広角から超望遠まで幅広い焦点距離に対応できる万能性を有する。焦点距離の変化に対して収差の補正効果を高いレベルに維持することのできる優れた性質を持っているのであろう。ちなみにDagorは絞りに対する焦点移動がたいへん大きなレンズであることが知られている。開放でピントを合わせても、絞り込むとピントが外れてしまう時があるのだ。ジャスピンを狙う場合には絞ったままピントを合わせるのが無難なようである。

Dagor 90mm F6.8@F6.8(開放), AWB(フード無しでの撮影): フードを装着しないまま半逆光の厳しい条件で撮影したためフレアが出ているが、それでもシャドー部には驚くほど締まりがあり、とてもシャープなレンズであることがわかる。戦前のノンコートのレンズとは思えない優れた逆光耐性である。やや軸上色収差が出ているようだ


Dagor 90mm F6.8@F6.8(開放): 以下の作例ではきちんとフードを装着している。90mmのDagorは逆光にもある程度は耐える。この程度の光源ならば全く問題はない

Doppel Anastigmat Series III (Dagor) 120mm F6.8@F6.8(AWB): 続いて120mmのDagorである。光量の多い条件下で使用するとコントラストが低下しやすく軟調気味の描写になる

Dagor 90mm F6.8@F6.8, AWB:  これに対し90mmのDagorは階調描写に安定感があり、光量の多い条件下でもコントラストや発色は、そこそこ良好である
Dagor 90mm F6.8@F6.8, AWB: こちらも90mmだが、先の写真よりはもう少し軟調気味だ
Doppel Anastigmat Series III (Dagor) 120mm F6.8@F6.8(AWB):   再び120mmのDagorである。少しアンダー気味に撮影し色濃度を上げると赤の発色だけが妙なほどに引き立つ結果となる。この発色傾向はインターネット上のDagorの作例にもみられる
Doppel Anastigmat Series III (Dagor) 120mm F6.8@F6.8(AWB):  階調表現は120mmのDagorの方が明らかに軟らかく、オールドレンズらしい淡い発色傾向である




Doppel Anastigmat Series III (Dagor) 120mm F6.8@F6.8(AWB): 有名な雑司が谷鬼子母神堂にある駄菓子屋さんでのショッピング。綿菓子とラムネを手にニンマリご機嫌のご様子で、娘にはお気に入りの場所となった。後で知って驚いたのだが、娘の祖母はこのお堂の氏子なのだそうだ。つまりは氏子の血を引いていたのである

Doppel Anastigmat Series III (Dagor) 120mm F6.8@F6.8(AWB): この作例では太く短いフードを装着し撮影ている。画面中央部にモヤーッとしたフレアが出てしまった(この作例はまだましな方)。細長いフードの効力を知ったのはこの直後である

Doppel Anastigmat Series III (Dagor) 120mm F6.8@F6.8: このとおり後ボケはやや硬く、距離によっては2線ボケになることもある。この傾向は焦点距離90mmのDagorにもみられる




2013/01/21

M42 Helicoid-hood M42ヘリコイド・フード


フォーカッシング・ヘリコイドをレンズフードにしてしまう逆転の発想

最近のM42フォーカッシング・ヘリコイドには伸縮率の高いものがあり、丈の長さが35mmから90mmまで変化する製品も出てきている。このヘリコイドにM42リバースリング・アダプターを取り付けると、何と丈の長さを自由に変えることのできる伸縮自在のフードになる。こんな製品を今まで待ち焦がれていた方も多いのではいだろうか。なお、フォーカッシング・ヘリコイドと言えば日本製ならBORGブランド、世界的にはeBayで入手できる中国製のノンブランド製品が主流となっている。
 私はイメージサークルの大きな中・大判用レンズをフルサイズ・フォーマットのカメラで用いる機会が多く、純正フードよりも丈が長く、口径の細いフードを探して使っている。しかし、市販のフードでは長さの規格が数限られているため、都合良くケラレの起きないギリギリの長さのフードが見つかる機会は極稀である。その困難をいっぺんに解決してくれるのが、今回発案するM42ヘリコイド・フードというわけだ。

前列の2枚はM42リバースリングで、後列の4本はM42フォーカッシング・ヘリコイド。後列左からBORG OASYS 7840(11-18mm)、BORG OASYS 7842(15-25mm)、中国製M42ヘリコイドユニット(25-55mm)、中国製M42ヘリコイドユニット(35-90mm)である
M42フォーカッシング・ヘリコイドの市販品
伸縮範囲     製品
11mm - 18mm  BORG OASYS 7840(日本製)
12mm - 17mm  中国製(eBay)
15mm - 25mm  BORG OASYS 7842(日本製)
17mm - 31mm  中国製(eBay)
25mm - 55mm  中国製(eBay)
27mm - 47mm  BORG OASYS 7841(日本製)
35mm - 90mm  中国製(eBay)

M42リバースリングアダプターはいろいろな規格のものがオークションやショップで購入できる。ステップアップリングやステップダウンリングと組み合わせれば装着できるレンズの幅が広がる。
M42リバースリングアダプターを介してM42フォーカッシング・ヘリコイド(35-90mm)をCarl Zeiss Jena Tessar 80mm F2.8の前方に取り付けるところ。M42リバースリングアダプターは片側がフィルタースレッドの雄ネジであるため、レンズのフィルターネジに装着できる。もう片側はM42マウントネジになっている。このレンズは35mm判のレンズとして販売されていたが、光学系自体はもともと中判撮影向けに設計されたものなので広いイメージサークルを持つ。深いフードを装着し徹底したハレ切り対策をとる必用のあるレンズだ
Meyer Primotar 80mm F3.5に中国製M42フォーカッシング・ヘリコイド(25-55mm)を装着したところ。このレンズも35mm判として販売されていたレンズであるが、上のTesssar同様に光学系自体は中判撮影用にも対応できる広いイメージサークルを持つものからの流用である。やはり深いフードを必用とするレンズだ


  本稿では2本のレンズ(Carl Zeiss Jena Tessar 80mm F2.8とMeyerのPrimotar 80mm F3.5)に対するヘリコイド・フードの装着例を示している。これら2本はもともと中判撮影用に設計されたレンズをメーカーが35mm判レンズとして売っていたものだ。不思議なことにTessarタイプの中望遠レンズには中判用からの流用が目立つ。何か深い意味でもあったのだろうか。イメージサークルが大きいので光学系が取り込む光の量も通常の35mm判レンズに比べると遙かに多い。35mm判レンズとして用いる場合には、その大半が不要光として内面反射光の供給源になってしまう。深いフードを用いて徹底したハレ切り対策を施さないとレンズ本来の描写力(シャープネスや発色)を損ねることになりかねない要注意レンズだ。
 なお、この手のフォーカッシング・ヘリコイドには内壁に内面反射防止のためのペイントや凹凸構造が施されているのでフードとしての性能も充分である。フロント部が不細工でデザインには改善の余地を残すが、機能や性能は充分のはずである。M42の口径よりも細いフードが必用な場合にはM39リバースリングを介してM39(L39)エクステンションチューブを用いるという手もある。フード用キャップにはM42マウントのリアキャップをそのまま流用すればよい。