おしらせ

 
おしらせ

オールドレンズ写真学校11月ワークショップ
今月は11月23日(祝)に井の頭自然文化園で開催されます。すでに申し込みが殺到し、定員オーバーのためキャンセル待ちになっているようです。

オールドレンズ女子部
12月2日(土) 東京ドームシティ イルミネーション撮影散歩&お茶会 詳しくはこちら

TAIR-41Mのブログエントリーに写真を追加
Oo.ema.oOさんにオリンパスPENで撮影したタイ―ル41M(前記モデル)の写真を提供していただきました。

2011/09/29

PZO/WZFO JANPOL COLOR 80mm F5.6(M42, Enlarging Lens)


カラーフィルターで遊べる
ポーランド生まれの引き伸ばし用レンズ
 今回の一本はポーランドのWarsaw Photo-Optical Plantが1963年に設計し、同国のPZO(WZFO)社が生産したテッサー型の引き延ばし用レンズのJANPOL COLOR(ジャンポール・カラー) 80mm F5.6である。引き伸ばし用レンズとはフィルムの像を拡大して印画紙に焼き付ける行程の中で、引き伸ばし機の先端に装着して用いられるレンズである。焼き付けの際にカラーバランスの補正が必要になると、かつてはレンズの先端にカラーフィルターをあてて調整していた。ところが、暗室内でそれを行うのは大変困難な作業。そこで、本品のように鏡胴内に3色のカラーフィルターを内蔵させ左右のノブを回すだけで手軽にカラー補正を行える便利な機構が登場したのだ。なお、現在の引き伸ばし機にはダイクロイックフィルターを用いた高度な補正機構が普及している。
 初期のモデルは同国のWZFO社がJantar Color(ジャンタール・カラー)という名で生産していたが、1964年にPZO社がWZFO社を吸収合併し名称をJanpol COLORへと変更した。ただし、その後も一部個体にはWZFOの企業名が記されている。これはどういう事なのかと調べていたところ、WZFO製のJanpolにはポーランド語で記されたマニュアルが付属している事に気付いた。恐らくポーランド国内向けの製品には、2社の合併後も引き続きWZFOの企業名が使われたのだろうと思われる。本品には焦点距離の異なる姉妹品JANPOL COLOR 55mm F5.6も存在している。レンズにはヘリコイド機構がついていないので、一眼カメラで使用するにはM42マウントのヘリコイドユニットを別途用意する必要がある。


PZO(Polskie Zakłady Optyczne)社
 同社は1921年に4人 の実業家によってポーランドのワルシャワに設立された光学機器メーカーである。初期の会社名はFabryka Aparatów Optycznychであり、現在のPZOへと改称されたのは1931年からとなる。戦前の主力製品は顕微鏡、双眼鏡、ルーペ、引き伸ばしレンズ、航空撮影用カメラ(軍需向け)などであった。1939年に第二次世界大戦が勃発しポーランドがナチスドイツに併合されると、同社はカールツァイス・イエナによる経営支配をうけた。その間、PZO社の多くの工員はナチス政権への抵抗としてサボタージュ行為を繰り返し生産ラインを破壊、アウシュビッツの死の収容所へと送られた。1944年9月にポーランドはドイツによる支配から開放されるが、工場は終戦前にドイツ軍によって徹底的に破壊され、終戦後しばらくの間は再建の目処が立たなかった。1951年にポーランドの重工業省が発表した工場の再建計画と西側諸国への新製品の輸出拡充計画により同社の生産力は回復し、顕微鏡、双眼鏡、ルーペ、偏光ガラス、インターフェイス、測量用光学機器、レーザー計測装置、光電子機器など手広く生産するようになった。同社は共産主義政権下における産業界の再編によってカメラメーカーのWZFO社と1964年頃に合併、その後は二眼レフカメラやトイカメラの生産にも乗り出している。1989年、PZO社の軍事機器部門に対する国家予算の削減は経営の弱体化を招き、同社は二眼レフカメラSTART 66Sの生産を最後に写真産業から完全撤退している。1997年にドイツのB&Mオプティック社へ2大工場の一つ(Zaczernie工場)を売却して経営の合理化を推し進め、現在は顕微鏡、ルーペ、フィルター、望遠鏡のみに生産を集約させている。

WZFO(Warszawskie Zaklady Foto-optyczne)社
同社は戦後の1951年にポーランドのワルシャワに設立されたカメラメーカーである。戦後初のポーランド製カメラ(二眼レフカメラ)のSTARTシリーズ(1953~1970年代初期)や、中判カメラのDRUH(1956年~)、ポーランド初の35mm版カメラのFENIX(1958年~)、トイカメラ(6cm×6cmフォーマット)のAmi(ALFA)シリーズ(1962年~)などの生産を手掛けた。1964年にPZOと合併するが、その後もPZO傘下でSTARTの後継製品START66シリーズ(1967~1985年)やAmiシリーズの後継製品を世に送り出している。

重量(実測値) 305g, 焦点距離 80mm, 開放絞り値 F5.6-F16, 私が入手したポーランド語の特許書類によると、光学系の構成は鋭い階調表現を特徴とするテッサー型(3群4枚)とのこと。フィルター枠にはネジ切りが無く、装着できるフードは被せ式のタイプのみとなる
BORGのOASYS 7842ヘリコイド(左)を装着すると右のような姿になる。BORGのヘリコイドにはフランジバック微調整用の板が付いており、これを使って無限遠のフォーカスをピッタリと拾う事ができるように調整可能だ
入手の経緯
本品は2011年6月にeBayを介してロシアの大手中古カメラ業者から即決価格35㌦+送料で落札購入した。商品の状態はエクセレントコンディションで、純正のプラスティックケースが付属するとのこと。同じ業者が同時に3本のJANPOLを同一価格で出品していたので、その中で最も状態の良さそうな個体を選んだ。届いた個体にはホコリの混入がみられたが、カビやクモリ等の大きな問題はなく、解説どうりのエクセレントコンディションであった。eBayでの海外相場は30ドル~50ドル程度と大変安く、BORGのヘリコイドユニットの方が高価だ。

JANPOLは鏡銅内に黄、青、赤の3色のカラーフィルターを内臓している。左右に着いている銀色のノブを回すことにより各フィルターをスライドインさせ、色の調整や調合を無段階で行えるというユニークな機能を持つ。上の写真は青、黄、赤のフィルターを50%スライドインさせた状態と、赤75%+黄75%で混色を行った状態(右下)を示している
撮影テスト
本品に限らず引き延ばし用レンズは業務用のプロ仕様ということもあり、一般的には控えめな口径比で無理のない設計を採用している。色収差が小さく解像力が高いなど良く写るものが多い。光学系を設計する際の収差の補正基準点は無限遠でなく近接点なので近距離撮影では高い描写力を示す。アウトフォーカス部の像はザワザワと煩く綺麗なボケ味とは言えないが、2線ボケやグルグルボケなど大きな破綻はみられない。発色については流石にカラーフィルム時代のレンズらしく、癖の無い自然な仕上がりとなる。ただし、逆光にはめっぽう弱く、屋外での使用時はコントラストの低下が顕著なのでフードの装着は必修となる。このレンズにはフィルター用のネジ切りが無いので被せ式フードで合うものを探すしかない。私は黒のボール紙を巻いて、ゴムでパッチンと留める即席フードを用いることにした。内蔵カラーフィルターを上手く利用すれば、雰囲気のある面白い作例を生み出せるであろう。



F5.6, Nikon D3 digital(AWB,/Picture Mode= Standard); イエローフィルターの使用例。上段はColor Balance Neutral(ニュートラル)で下段はYellow filterをスライドインさせた場合の撮影結果だ。イエローフィルターを用いると、ノスタルジックな雰囲気になる
F5.6, Nikon D3 digital(AWB,/Picture Mode= Standard); こんどはブルーフィルターを用いた作例。上段はColor Balance Neutral(ニュートラル)で、下段はBlue filterをスライドインさせた場合の撮影結果だ。青の光はフレアを生みやすい性質があるので、光源の光はポワーンと綺麗に滲んでいる。ブルーフィルターでは不気味な夜の光景を演出できた
F5.6 Nikon D3(AWB,ISO800) フィルターを使わない場合は、普通に良く写るシャープなテッサー型レンズである
F5.6 Nikon D3(AWB, ISO1600) このレンズは安いのに良く写る。ずっと開放絞り値で撮り続けていたが、近接撮影でも像はシャープだ上の作例は料亭厨房の天井付近に糸で吊るされ干されていたヒラメの骨煎餅。暗闇から何かが触手を出しているようにも見え、何ともグロテスクな光景だ
F5.6 Nikon D3(AWB) ISO4000(フォトショップで自動コントラスト補正をかけている)  こういった作例の場合、暗電流ノイズは全く気にならず、むしろ好都合だ
撮影機材
Nikon D3 digital +ゴムパッチンの手製ボール紙フード
じつはレッドフィルターを用いてピンク映画風の作例を狙っていたのだが、被写体にするつもりでいた妻に逃げられてしまった。そこで仕方なく私がモデルになってみたものの、何度試してみても見苦しい作例しか撮れない。被写体選びは重要である事を痛感し、レッドの作例は気持ち悪いので割愛した。JANPOLのみならず、この種の引き延ばしレンズはどれも値段が安いわりによく写るので、そのうちまた流行るかもしれない。

2011/09/14

Rodenstock Eurygon 30mm F2.8(M42) Rev.2 改訂版


クールトーンな西独のレンズ達 3:
無骨なデザインを纏った
青の伝道
私が初めて手に入れたオールドレンズは焦点距離35mmのFlektogonとAngenieuxで、どちらも温調な発色特性を持ち味とするレンズであった。ところが次に手に入れた本レンズの描写は、これらとはまるで異なっていた。はじめて試写した時の印象を今でもはっきりと覚えている。レンズをデジカメにマウントし恵比寿や代官山の町をぶらつきながら家族の姿を撮っていたところ、写るもの全てがクールトーンであっさりと上品に見え、「このレンズには何かあるな」という強い感触を得た。人の肌はやや白っぽく、地面やビルのコンクリートがやや青っぽく変色するのだ。それはツァイスのコッテリとした温調で華やかな色彩とは明らかに異なり、なおかつコントラストが低い事に由来する淡白な発色傾向とも異なっていた。その後、SchneiderやSchachtなど他の西独製レンズにおいても同様の性質があることに気付き、この種のレンズに対する興味はますます高まっていった。ある時、地元横浜市でオールドレンズの改造を手掛けるNOCTO工房でSchneiderのレンズが持つ青の魅力(シュナイダーブルー)の事を聞かされ、西独レンズ達のクールな発色特性に対する認識は揺るぎないものとなった。

今回再び紹介するEurygon(オイリゴン)30mm/F2.8はドイツ・ミュンヘンに拠点を置くG.Rodenstock(ローデンストック)社が35mm一眼レフカメラ用として少量だけ生産した焦点距離30mmの広角レンズだ。レンズ名は「広い」を意味するギリシャ語のEurysと、「角」を意味するGonを組み合わせたのが由来で、そのまま「広角」という意味になる。Rodenstockといえば1877年に行商人のヨーゼフ・ローデンストックが起業し、眼鏡造りで名を馳せた光学機器メーカーである。カメラ用レンズも1890年代に生産を始め、2000年までプロ向けの大判用レンズを造り続けていた。現在は企業活動を眼鏡の生産のみに一本化することで写真用レンズの生産から撤退している。Rodenstock社の製造台帳によるとM42マウントやEXAKTAマウントのEurygonが生産されたのは1956年から1960年にかけてであり、2本のマスターレンズに加えExaktaマウント用が1300本、M42マウント用が1400本製造されたと記録されている。光学系は6群7枚のレトロフォーカス型で、対応マウントは少なくともM42、EXAKTA、DKL(デッケル)の3種が存在していた。鏡胴の造りが良く、ラッパ型の独特な形状と無骨なゼブラ柄のデザインには強いインパクトを受ける。
Eurygonのレンズ構成は6群7枚のレトロフォーカス型である。上記の構成図は1959年の米国向けパンフレットに掲載されていた図をトレースしたものだ。1939年に生みだされた重金属を含む新種ガラスは青の短波長光に対する透過が悪いという欠点を持っており、青と黄のカラーバランスに深刻な影響を及ぼした。この欠点を補うためにアンバー系のコーティングが導入されカラーバランスの適正化が図られた(カメラマンのための写真レンズの科学:吉田 正太郎著)。硝材とコーティングの連携によるカラーバランスの適正化は、どのような撮影条件においても破たんなく安定でいられるのだろうか。おそらく、このあたりにクールトン軍団のレンズ達が持つ個性豊かな色彩の秘密が隠されているのだろう。
最短撮影距離 0.4m, 重量 305g, フィルター径 58mm, 焦点距離 30mm, 開放F値 F2.8, 絞り機構は手動。焦点距離の異なるゼブラ柄の姉妹品には50mm/F1.9の標準レンズHeligon(4群6枚)、100mm/F4(4群5枚)、135mm/F4(4群5枚)、180mm/F4.5(5枚構成)の3種の望遠レンズRotelar(ロテラー)、135mm/F3.5のYonar(イロナー)などがある。1959年当時の米国版カタログとドイツ版カタログには各レンズの価格が掲載されており、Eurygonが179.5ドル(425マルク)、Heligonが169.5ドル(405マルク)、Rotelar3種 144.5/144.5/139.5ドル(340/375/355マルク)、Yonar 285マルクと記されている。レンズの構成枚数から考えればEurygonの製造コストが一番高く、そのぶん値段も高かったのであろう
入手の経緯
私が以前に所持していたEurygonは一度売却してしまったので、今回のEurygonは買い戻した品となる。本品は2009年にeBayを介して米国大手中古カメラ業者のケビンカメラから入手した。商品ははじめ756ドルの即決価格で売り出されていたが、値切り交渉を持ちかけたところ680ドルで私のものとなった。商品の解説はMINTYで状態の良いレンズとの触れ込みだったが、届いた商品はマウント部にガタがあった。仕方なく修理に出して改善したのはいいが、最近になって後玉の外周部に薄いカビの除去跡を発見(カビではなく確かなカビの除去跡)、それを見た瞬間、思わず「しまった!見なければよかった。」とぼやいてしまった。気付かなければ幸せなことだってある。ケビンカメラからは前にも一度、明らかにクモリのあるレンズをMINTYとの触れ込みで購入したことがあった。米国の超有名店とはいえ説明不足は明らかで、この時以来、同店に対する私の信頼はガタ落ちである。なお、カビの除去跡は描写に全く影響の出ないレベルであった。私はコレクターではないので、手に入れたレンズを手放す日もそう遠くないが、このレンズを再び手放すとなれば安くなってしまうんだろうな~。やっぱり売却は無理か・・・。

撮影テスト
西独クールトーン軍団の描写に共通する独特の色彩については、以前から繰り返し紹介してきた。日光照度の高い撮影条件で青とその補色関係にある黄色のバランスが不安定化し、シャドー部が青、ハイライト部が黄色に引っ張られることで素晴らしい色彩が生みだされる。また、やや照度低い状況においても、白い壁や灰色のコンクリートが青に引っ張られて変色することもあり、これらは条件次第でさわやかな青にもなれば、病的な青にもなる。また、緑が照度に応じて青緑に転んだり黄緑に転んだり、コロコロと不連続に変色するのも面白い。Eurygonもこの種のレンズの性質を備えており、簡単に言ってしまえば制御不能なのだ。しかし、辛抱強く付き合っているといいこともある。このレンズでしか撮れない不思議な色彩に出会う事ができる。
Eurygonの撮影結果にはピント面に解像力があり、近接撮影でも開放絞りからスッキリと写る。周辺画質に歪みや像の流れなど大きな破たんはなく、画質の均一さという意味では良くまとまった優秀なレンズといえる。近接撮影時に開放絞りでグルグルボケが発生するが、1段絞れば治まり、2線ボケの無い穏やかで綺麗なボケ味となる。深く絞り込んでもシャドー部がカリカリと焦げ付くことは無く、階調は暗部に向かって緩やかに変化する。焦点距離30mmのレンズともなれば深い被写界深度を利用したパンフォーカス撮影も可能だ。以下では銀塩撮影(ネガフィルム)とデジタル撮影(Sony NEX-5)による作例を示す。
F4 銀塩撮影 FujiColor Reala 100(ISO100): ブルドックの前足や体毛、瞳などが青味がかっている。不思議な色彩が出ている
F2.8 Fujicolor SP400(ISO400): 葉の緑の色が照度に応じて不連続に変化する。日向では黄色に転び、日陰では青に転んでいる

F4 銀塩撮影 FujiColor Reala100(ISO100):   地面のコンクリートや背後のいろいろなものが青味を帯びている
F4 銀塩撮影 FujiColor  Reala100(ISO100): このように近接撮影でもスッキリとシャープに撮れる。多くの作例で画面全体に青の薄いベールがかかったような不思議な色が出る
F5.6 銀塩撮影 FujiColor Reala100(ISO100): そうかと思えば、この作例のようにノーマルな発色の時もある。緑の背景が絵のように綺麗だ
F4 NEX-5 digital, AWB: 写真用レンズとは球面ガラスを使って光線を屈折させ平面像を得る変換機構だ。この変換による画質の破たん(収差)はEurygonのような広い画角を持つレンズになるほど深刻であり、像が流れたり歪んだりと周辺画質に大きな影響が表れる。しかし、このレンズの場合はよく補正されており大きな破たんはないようだ
★撮影機材
銀塩撮影 Canon EOS kiss + M42-EOS adapter(中国製) + 八仙堂広角レンズ用メタルフード
デジタル撮影 Sony NEX-5 +kipon M42-NEX adapter + 八仙堂広角レンズ用メタルフード

Schneiderのレンズにおいて見出されている独特な青の発色はシュナイダーブルー(Schneider Blue)と呼ばれることがある。オールドレンズの描写力が持つ、現代のレンズにはない「味」を明確に指した表現だ。こういう表現が増えてゆけば、オールドレンズに対する価値認識は今よりもずっと向上するのであろう。EurygonやHeligonのようなRodenstockのレンズも、シュナイダーのレンズに良く似た発色傾向を示し、素晴らしい色彩を生み出すことができる。近いうちにシュナイダーブルーの発案者であるNOCTOの岡村代表がシュナイダー製レンズの描写に関する特集記事を発表される予定なので、是非ご覧いただきたい。