おしらせ


おしらせ

オールドレンズ写真学校グループ写真展のおしらせが届いています。こちらです。私も入門者向けワークショップのスタッフの一人として協力しています。

2010/04/22

KMZ INDUSTAR 50 (M39/M42) & INDUSTAR 50-2 (M42)


ソビエト連邦の白い鷲と黒い鷲
KMZ Industar 50 and 50-2 50mm F3.5  Rev.2
インダスター50(50-2)は1950年代後半から90年代初頭にかけて、ロシアが旧ソビエト連邦時代にモスクワ近郊のKMZ(クラスノゴルスク機械工場)で製造した50mm/F3.5のパンケーキ型標準レンズである。通称「鷲(わし)の目」とも呼ばれるシャープでキビキビとした描写で有名なカールツァイスのテッサーを手本に造られた(下図)。レンズを設計したのはKMZのM.D. Maltsevという人物で、彼は有名なJupiterシリーズを設計したことでも知られている。開放からフレアのないスッキリとした描写で、赤や黄など暖色系の発色が良いと評判である。
インダスター50には初期型ZENIT(M39マウント)用の交換レンズとして1960年代に製造されたアルミ鏡胴のモデル(前期シルバーモデル)と、70年代初頭からM42マウントカメラ用に製造されたモデル(後期ブラックモデル)が存在する。両モデルの設計面や描写面での差異は明らかにされてはいないが、コーティング色が異なるため、描写面で僅かな差があると考えられる。インダスター50シリーズはパンケーキ型と呼ばれる薄型レンズのパイオニア的な存在で、価格も安いことから、今でもたいへん人気のある製品だ。
INDUSTAR 50-2の構成図。A. F. Yakovlev Catalog The objectives: photographic, movie, projection, reproduction, for the magnifying apparatuses, Vol. 1, 1970からのトレーススケッチ。設計構成は3群4枚のテッサー型である
前期シルバーモデルと後期ブラックモデルは鏡胴の形状が若干異なり、シルバーモデルの方が手間のかかった凝った造りになっている。下の写真を見てほしい。シルバーモデルの方はヘリコイドリング上の絞り値が記された場所が傾斜になっており、カメラマンが上から覗きこんで視認しやすいよう工夫されている。ところが、後期のブラックモデルでは生産性の向上が優先されたのか、この部分が平らになり、絞り値の確認が不便になってしまった。各指標もシルバーモデルでは刻印だったものがブラックモデルでは単なるペイントに変更されている。
INDUSTAR 50(左)/50-2(右), 重量:65g / 67g, 最短撮影距離: 両者とも65cm, 絞り値: F3.5-F16, 光学系は3群4枚のテッサータイプ, フィルター径:33mm/ 35.5mm(一部33mmあり), シルバーモデルはZenit M39マウント用でブラックモデルはM42マウント用である






M42-M39アダプターリングを装着するところ。このリングはeBayやヤフオクで入手できる
前期シルバーモデルは初期型Zenitの採用したM39スクリューマウントに対応する製品のため、現代のカメラで使用するにはM42-M39ステップアップリングを使用しM42マウントに変換する必要がある(上の写真参照)。変換用のステップアップリングはeBayやヤフオクなどで購入できる
 
海外相場
本品はeBayでロシアやウクライナの業者が大量に売りさばいている。ヤフオクでも常時取引されている。価格はシルバーモデルもブラックモデルも送料込みで30㌦前後である。前玉に傷の入った個体が多いので、商品解説にMINTやNEWと記されているものを選び、フロントキャップやケースが付いているものを購入するのがよい。ただし、シルバーモデルで状態のよい個体はなかなか見つからない。モスコーフォト(こちら)がブラックモデルの新品を28ドル(送料別)で販売している。

撮影テスト
値段は安くコンパクトなレンズだが、設計はテッサータイプなので侮れない。開放からスッキリとヌケがよく透明感のある写りで、ピント部の像も四隅まで端正、スナップ撮影にとてもよいレンズだ。背後のボケは近接域で僅かにグルグルすることがあるが、概ね安定している。順光ではとてもシャープに写るものの、前玉が飛び出ているためか、逆光になるとコントラストが急激に落ち発色も淡くなる。フードの装着は必須であろう。解像力はテッサータイプ相応で可もなく不可もなくといったところだ。こんなにチープでコンパクトなレンズなのに、シッカリと写るのは素晴らしい。ただし、絞りリングを回すと一緒にピントリングが回ってしまう構造的な難点を抱えている。
Black moder @ F3.5(開放) Sony A7(WB:晴天) 開放からとてもシャープに写るレンズだ
Black moder @  F3.5(開放) Sony A7(WB:Auto) 開放でもフレアは全く見られず、ボケにも安定感がある。よく写るレンズだ


Black moder @  F5.6 Sony A7(WB:曇天) 



Black moder @ F5.6 Sony A7(WB; 日陰)

Silver model  @F3.5(開放) Sony A7(WB:日陰)

Black model @Sony A7(WB:晴天)

Silver model @F5.6 Sony A7(WB:曇天)

Black moder F5.6 Sony A7(WB:晴天)

Black moder @  Sony A7(WB:晴天)










両モデルのコーティングの比較
前群ユニットと後群ユニットを鏡胴から取り外し、前期シルバーモデルと後期ブラックモデルの差異を比較観察してみた。はじめに各レンズユニットの厚みをノギスで測り比較したが、両者に差は見出せなかった。次に各ユニットのガラス面に蒸着されているコーティングを観察してみた。両レンズともガラス面に施されているのは単層コーティングである。
前列が後群ユニットで後列が前群ユニット。鏡胴から取り外すだけなら光学系をばらす必要はない

前群ユニットの比較。上がシルバーモデル、下がブラックモデルのもの
まずはじめに前群ユニットに施されたコーティングに光を当てるとシルバーモデルのコーティングは第1エレメントがマゼンダ色、第2エレメントはアンバー色に輝いている。対するブラックモデルでは両エレメントともマゼンダ色に輝いている。インダスター50シリーズが前期シルバーモデルから後期ブラックモデルに移行した際の最大の改良点は、ガラス面のコーティングであったことがわかる。コーティングのみならず、硝子硝材にも変更があったものと考えられる。続いて後群ユニットのコーティングを比較してみたが、シルバーモデルのコーティングは薄いアンバー色、もしくはノンコートであるのに対しブラックモデルにはマゼンダ色のコーティングが施されていることがわかった。コーティングの差異はレンズの描写傾向、とくに色味に多少なりとも差異をもたらすと考えられる。

描写の比較
晴天時に屋外にて両レンズを同一条件で使用し、撮影結果を比較してみた。両レンズの描写には顕著な差が表れ、ブラックモデルの方がコントラストが高く、暗部に締りがあることが分かった。改良されたコーティングの効果であろう。発色はシルバーモデルの方が赤みが強くなる傾向がある。
F3.5 シルバーモデル(左)/ ブラックモデル(右): 金属の柱の暗部に注目するとブラックタイプのほうが僅かにコントラストが高くメリハリがある
F4 シルバーモデル(上)/ ブラックモデル(下): シルバーモデルの方が赤みが強くなる傾向がある。コーティング色の違いによる差なのであろうか?なお、両タイプとも下段の写真のように距離によってはグルグルボケが出やすくなる

2010/04/16

MULTI COATING PENTACON auto 50/1.8(M42)
& Meyer-Optik Goerlitz ORESTON 50/1.8(M42)


新旧撮り比べ第一弾
コストパフォーマンスは驚異的だが後継品の方が安価という悲運のレンズ

マイヤー(フーゴマイヤー)社は1896年にドイツのゲルリッツに生まれた老舗光学機器メーカーである。優れた技術力を持ち、プリモプランやプラズマートなど中古価格が3000㌦以上にもなる高級品も存在する。戦前はカールツァイスの最大のライバルとして君臨していたが、戦後はロシア(旧ソビエト連邦)の社会主義体制下で解体され、VEBゲルリッツ精密光学工場に社名を変更、さらに1970年にはZeissの一部の工場と共にペンタコン人民公社(ドレスデンを拠点とし1968年に創業)に吸収されてしまった。東独メーカーの技術力を収めたペンタコン人民公社は新型レンズ群PENTACONシリーズ(29mm/F2.8, 50mm/F1.8, 135mm/F2.8)を発表し、1971年から1990年まで製造している。このときに広角29mm、望遠135mmの設計ベースとなったのはMeyer-OptikのOrestegon 29mm F2.8、Orestor 135mm F2.8である。一方、標準レンズのPentacon 50mm F1.8だけはやや複雑な経緯を経ており、ある文献にはPentacon 1.8/50に2系統、3種のバージョン(初期バージョンとセカンド・サードバージョン)が存在することが記されている。この内、ごく初期バージョンだけはZeissのJena工場にてPancolar 1.8/50(5群6枚構成)をベースに生産され[注1]、後に登場したセカンド・サードバージョンはMeyerの工場(Zeiss所有)にてMeyer Oreston 1.8/50(4群6枚構成)をベースに生産されたとのことである。MC PENTACONにはルーツや構成の異なるZeiss系統(5群6枚)とMeyer系統(4群6枚)の2種系統が存在したようである。
今回注目するレンズはMeyer-Optikの製造した高速標準レンズのORESTON(オレストン)と、その直系の子孫であるペンタコン人民公社製MULTI COATING PENTACON 50mmの2本である。2007年9月の某大手カメラ雑誌では「カールツァイス完全BOOK」と題した記事の中で50mmのPENTACONを取り上げ、「中身はプラナー」と持ち上げ大絶賛している。初期バージョンのPENTACON(5群6枚)ならまだしも、詳細な記述のないまま紹介されてしまったため、ペンタコンの国内中古相場はセカンドやサードバージョンも含め全てのモデルが一時1.5万円近くまで上昇している[中古レンズ販売店談]。私はよく調べもせず、この時の記事を読んで、MC PENTACONを衝動買いしてしまったお馬鹿の一人だ。

謝辞:情報を提供してくださったMr Keyser Sozeに心から感謝いたします。

注1・・・ただし、Zeiss Jena製の初期モデルを私自身まだ見た事がなく、信憑性は低い。Prakticar 50mm F1.8については、Carl Zeiss銘のものが市場に流通している。

注2・・・PENTACONブランドのレンズがメイヤー製レンズの直系であるという確固たる証拠はないが、マイヤー説が有力なのは、PENTACONブランドのレンズの初期製品(私が目撃したのは135mmの望遠と50mmの標準)にMeyer-Optik製レンズの銘板のみをすげ替えた同一品が出回っているため。また、過渡期の一部の製品個体にはPentacon Orston 50mm F1.8やPentacon Orestor 135mmのようにMeyer時代のレンズ名を残したものもみつかる。さらにレンズの口径や最短撮影距離、光学系の構成などの一致から考えればPENTACONブランドの各レンズがメイヤー製レンズから造られていることはほぼ間違いないといえそうだ。

PENTACON 50mm/F1.8 M42マウント用(各左): 重量(実測)195g, 絞りF1.8-F16, フィルター径49mm, 最短撮影距離33cm, 4群6枚(ガウス型)  /  ORESTON 50mm/F1.8 M42マウント用(各右): 重量(実測)240g, 絞りF1.8-F22, フィルター径49mm, 最短撮影距離33cm, 4群6枚(ガウス型) 。PENTACONの鏡胴側面には絞りオート/マニュアル切り替えスイッチがある。対するORESTONの鏡胴側面には絞り込みボタンがある。絞り羽根の形は両レンズとも6角形であるがPENTACONの方がやや丸みのある形だ。コーティング色はPENTACONが赤紫でORESTONが紫

★入手の経緯
今回入手したMC PENTACONは2009年9月にイギリスのカメラ専門業者「パブカタ75」が41㌦(3690円)の激安価格(即決)で出品していたものだ。この業者は過去の取引件数が1200件、取引評価が100%とeBayでの成績はかなり優秀であった。商品に対する評価は"VERY GOOD CONDITION"と控えめであったが、「傷、チリはなく、絞りの動作はFINEで精確に動く。鏡胴に非常に僅かな傷がある」と的を射た解説でありレンズの写真も鮮明で、状態はかなりよさそうに見えた。この業者の他の出品レンズを見る限り、"Very Good Gondition"は、いつもの言い回しなので、控えめな商品解説を行う業者であると判断し、購入に踏み切った。送料と手数料込みの総額はたったの5000円弱である。届いた商品は鏡胴に極僅かなスレがあるが、新品に限りなく近い極上品。うーん。これが3690円なんて本当に安い。eBayでの相場は通常60-70㌦、国内相場は10000円くらいであろう。すぐれた描写力を備え、驚異的なコストパフォーマンスが評判のレンズだ。
対するORESTONはドイツのデグ・カメラズから落札購入した。前玉にスポット状のシミがありヘリコイドは重めとの解説でジャンク品扱いになっていた。出品者に問い合わせ実写には影響ないと判断し、35㌦で入札したまま放置しておいたら翌日になって落札されていた。送料込みでもたったの51㌦(4500円)であった。eBay相場は100~150㌦くらいで、何と後継のPENTACONの倍の値である。

★試写テスト
MC PENTACONとORESTONの描写はかなり良く似ている。ボケ味やピント面の解像感などに両者の差異を見出すことは難しい。光学系が同じであると仮定するならば、両者の差はガラス面に蒸着されたコーティングに由来する発色や階調表現力の差だけとなる。MC PENTACONには赤紫色のマルチコーティング、ORESTONには紫色のシングルコーティングが施されている。もちろんマルチコーティング仕様のMC PENTACONの方が逆光には強くフレアが出にくいため屋外撮影においてもコントラストが低下しにくい。両レンズの以下に共通項をまとめると

●シャープネスはかなり高いがカリカリとドライになる程ではない。開放ではやや柔らかさも残っている。ボケ味はやや硬めで、距離によっては煩く結像すると言われている
●濃厚な色のり。特に青系統の深い色が出る
●画像周辺部まで歪みの少ない均質な画質が得られる
●アウトフォーカス部の結像はよく整っている。二線ボケやグルグルボケはでない

など。描写力に差が出るのは屋外での撮影時であり、MC PENTACONのほうがコントラストは高い。しかしながらその差はわずかで両者とも大きな欠点のない素晴らしいレンズだ。平凡で無難すぎると酷評する人も多いが、チープなレンズであるという先入観を排除して考えるならば大変優れたレンズである。以下に比較結果を示す。

左列はORESTONで右列はMC PENTACON。上段はF1.8で下段はF4における撮影結果。MC PENTACONのほうがORESTONの撮影結果よりも僅かに露出がアンダー気味になってしまったようだ。屋内での撮影の場合、両レンズの描写は区別できないくらいに良く似ている

屋外、近接距離での比較。左列はORESTONで右列はMC PENTACON。全くわからない程両レンズの差は小さく、ピント面前後のボケ味や発色など極めて良く似ている。両者とも素直なボケ味だ

PENTACONとORESTONの描写は大変良く似ている。コーティングの性能に差が出る逆光下での撮影でもなければ、これらを比較しても明確な差は見いだせない。以下にはMC PENTACONによる作例のみを示す。

F5.6(EOS Kiss x3+ MC PENTACON) 最短撮影距離で撮影すると草花がこれくらいになる。ちょっとしたマクロ撮影もこなせる

F2.8(pentax MZ3 + MC PENTACON, 銀塩ネガISO100) PENTACONは濃厚な発色が特徴だ。洋服の青や岩に張り付いたコケの発色が大変濃い。現代のレンズと比べても遜色のない素晴らしい色ノリといえる

 F2.8(pentax MZ3 + MC PENTACON, 銀塩ネガISO100) 周辺部まで歪みの少ない高い画質である。結像も良く整っている

F2.8(EOS kiss x3 + MC PENTACON) このレンズは中遠景でのボケ味の硬さを指摘されることがあるが、いかがであろうか。上の作例を見る限りではやや硬めなのかな・・・?

MC PENTACONはコントラストが高く濃厚な色ノリが特徴の優れたレンズであるが、価格が安く大量に出回っていることなどからチープという印象が定着してしまった。世間からは実力相応の評価を得ていない実に哀れなレンズであるが、おかげで安く入手できる。現代のレンズと比べても何ら遜色のない高い描写力を持っているので、これからマニュアルフォーカスで写真撮影を始めようという方の最初の一本として是非おすすめしたいレンズだ。

★撮影機材
EOS kiss x3 + MC PENTACON auto 50//1.8 + PENTACON純正メタルフード(49mmフィルター径)使用
PENTAX MZ-3 + Meyer-Optik ORESTON 50/1.8 + PENTACON純正フード(49mm径)使用

2010/04/02

Steinheil MACRO-QUINARON 35mm/F2.8
シュタインハイル マクログィナロン(マクロキナロン)


最大撮影倍率2.0を実現したマクロレンズ界のモンスター

MACRO-QUINARONはシュタインハイル社が1963年に発売したMACROシリーズ4製品の中で焦点距離が35mmと最も短いレトロフォーカス型広角レンズである。本ブログで過去に取り上げたAuto-D-QUINARONをマクロ撮影用に特化した製品となる。ヘリコイドの構造は全群繰り出し型の2段式で、1段目のヘリコイドをいっぱいに繰り出したときの鏡胴の長さは約10cm、2段目をいっぱいまで繰り出した最長の状態では約13.5cmにもなる。オールメタルのズシリと重い鏡胴で、重量は515gもある。

ワーキングディスタンス:約0.5cm, 重量(実測):515g, 焦点距離:35mm, 光学系: 5群7枚, 絞り値:F2.8-F22, フィルター径:54mm, 最大撮影倍率:2.0倍, 本品はEXAKTAマウント用,

本レンズの特徴は何と言っても最大撮影倍率が2.0倍もあるという点だ。マクロレンズの多くは0.5倍から1.0倍であり、これだけ高倍率のレンズは他に見当たらない。撮影倍率とは撮像面(フィルムやセンサー)に投影される被写体の像の大きさが、原寸の何倍であるのかをあらわしている。特に被写体に近づき最短撮影距離で接写撮影したときの倍率を最大撮影倍率とよび、このときに10mmの虫が10mmの大きさで撮像面に写るならば最大撮影倍率は1.0倍、20mmの大きさで写るならば2.0倍である。撮影倍率が大きい程、小さなものをより大きく拡大して撮影できることになる。
このレンズを用いて倍率2.0を実現させるには前玉を被写体に5mmの距離まで近づけなければならない。まるで一般道をレーシングカーで走行するかのような実用性の無さ・・・。嫌いではないが、一体どう使いこなせば良いというのだ。

全群繰り出し式の直進ヘリコイドであり2段目のヘリコイドまでをいっぱいに繰り出したときの鏡胴の長さは約13.5cmにもなる(写真右)。

★入手の経緯
本品は2009年10月にドイツ版eBayにて個人の出品者から452ユーロ(6万円弱)にて落札購入した。配送先を欧州に限定していたので掲示板を介して出品者に日本への配送を交渉したところOKとの返事をもらえた。オークションの解説には「光学系の状態は傑出している。傷・チリ・補修を要するダメージは無く、カビもない。2段のヘリコイドまで滑らかに回転する。マウント部は綺麗で傷はない。非常にレアなドイツ製品だ。これはプライベートな販売なので保障はつかない。」と書かれていた。入札額は締め切り数日前からじわじわ高騰しており、本品が注目度の高い商品であることを感じ取ることができた。私は300~400ユーロで落札したいと願っていたが、締め切り6時間前には既に325ユーロの値をつけていた。締め切り時刻は日本時間の午前5時15分で、5分前に365ユーロをつけ、そのまま安定していたので1分前に401ユーロで入札してみたがダメ。直ぐに451で再入札したがダメ。まさか競買相手は500なのかとビックリした。500も払う気はなく予算オーバーなので、10秒前に試しに476を投じてみたら452で落札できた。どうやら競買相手の設定額は451ユーロで私と同じ端数の手を使うようであった。記録には入札者数12人、入札件数28とあり、最後に競り合ったスナイパーは5日まえからちょこちょこ威嚇入札していた。
MACRO-QUINシリーズは元々かなりの高級品であることに加え、流通している個体数の少ないレアなレンズなので、中古相場は高値で安定している。市場に流通しているのは主にEXAKTAマウント用であり、M42マウント用はさらに稀少である。本品の国内中古店での相場はEXAKTAマウント用で10万円前後、海外での相場(eBay)は500-700㌦程度であろうと思われる。参考までに同じ時期にeBayに出品されていた姉妹品のMACRO-QUINAR 100mm(M42マウント用)は使用感のある品ではあったが560㌦(5万強)で落札されていた。また同じレンズの美品(エキザクタマウント用)が660㌦で売られていた。クラシックカメラ専門のオークションPHOTOGRAPHICA AUCTIONでは純正フード付きのMACRO-QUINARON(M42マウント用のMINT品)が660ユーロで落札されていた。

★試写テスト
本ブログで過去に取り上げたノーマル仕様のAUTO-D-QUINARONは開放絞り付近での柔らかい結像が持ち味であった。これに対してMACRO-QUINARONは光学系のチューニングが全く異なるようだ。球面収差の補正が過剰気味で開放絞りから極めてシャープに結像するが、この反動で後ボケは大変硬めである。撮影距離によってはアウトフォーカス部がガサガサと煩く、さらに5枚の絞り羽根が不自然なボケ味を演出してしまう。しかしながら、硬いボケ味は近接撮影になるほど軟化し(収差変動)、マクロ領域では程よいシャープネスとボケ味の柔らかさ滑らかさが同居した優れた描写に変化する。本レンズは通常の撮影距離での描写力をやや犠牲にする代わりに、接写撮影時に高い描写力を発揮するよう設計されているようだ。

以下、本レンズの描写力をまとめると、

●ガラス面のコーティングが単層なので逆光には弱いが、フレアの発生さえ防止すればコントラストは充分に高い。レベル曲線は端部まで平坦で安定している
●開放絞りからシャープに結像する
●発色は癖のない素直で自然な仕上がりだ。鮮やかな色ノリで、難しい中間色に対しても高い再現性がある。WEB上ではメタリック系の色の表現力が素晴らしいというユーザーレポートを目にする
●前ボケは柔らかく後ボケはかなり硬い。絞り羽根の構成枚数が僅か5枚のため開口部が5角形になる。これが原因で中遠景の撮影の際には滑らかさを欠いた不自然なボケ味になる事がある
●近接撮影では諸収差がしっかり補正されており画像周辺部まで歪みや乱れの少ない均質な画質得られる。ボケ味も柔らかく滑らかである。これに対して中遠景になると非点収差らしい結像の流れ(グルグルとした回転)が見える時がある

まさにマクロ撮影のために生まれてきたレンズである。近接撮影で最高の描写力を発揮できるようチューニングされている。以下、JPEG撮りっぱなしの作例を示す。レンズ本来の能力を知るためにコントラストや色調など一切の補正は行っていない。

上段はF4における屋内での撮影結果/下段は上段の写真のレベル曲線(輝度分布)。このとおり輝度成分が幅広い領域にわたって充実している。コントラストが高いことがわかる。発色は自然だ

F5.6 難しい光沢感のある紫色。多くのレンズではもっと淡い色になってしまうが、MACRO-QUINARONはほぼ完璧に再現している。メタリック感の表現も実に素晴らしい

★ボケ味についてのテスト結果(通常の撮影倍率)
本レンズは中遠景の撮影時においてボケ味に弱点を持つ。それを再現したテスト撮影の結果をお見せする。
F4  皿の輪郭に注目すると前ボケは柔らかく後ボケは硬い事がわかる
F2.8 肩のラインやテーブルの境界線、紺色のエプロンの水玉模様などに注目すると後ボケが硬いことがよくわかる

F2.8 これに対して前ボケは柔らかく、瓶の輪郭部がフワッと滲むように見える
F5.6 これくらいまで絞ると絞り羽根の開口部の形が5角形になり、点光源を撮影すると5角形状にボケる。半逆光なので若干フレアが発生気味で、暗部が持ち上がりコントラストが低下しているが、おかげで黒潰れが回避され中間階調域が充実した目に優しい仕上がりになっている

F2.8 このとおり通常の撮影距離ではボケ味が極めて硬く、特にハイライトのボケ味が不自然になる
F4 これくらい遠い撮影距離ではボケ味に滑らかさなくガサガサと煩い。非点収差がでているのかな?結像が流れグルグルと回っているように見える

★高倍率マクロ領域での描写
通常の距離で撮影をおこなう際の描写の特徴は、シャープな結像と極めて硬いボケ味であった。一方、高い倍率にて近接撮影をおこなう際には球面収差が増大するためか結像がややソフトになり、アウトフォーカス部も柔らかく程よい結像具合になる。他の収差はしっかりと補正されており、中距離の撮影時に顕著化した非点収差(結像の流れやグルグルボケ)は全く表れない。画像周辺部まで歪みや乱れの少ない均質な画質が得られる。

F5.6 近接撮影では諸収差の補整は良好。歪みが出たりグルグルと結像が流れるようなことは全くない。アウトフォーカス部の結像もよくととのっている。ボケ味はだいぶ柔らかくなっている
F5.6 ここまで近接になるとボケ味は柔らかく滑らか
F4 ピント面の程よいシャープネスとボケの柔らかさが共存した高い描写力である
F5.6 こちらも周辺部まで良く整っている。花びらの繊細な色彩が見事に表現されている

★エクステンションチューブを付けて超高倍率撮影を行う
キターーーー。規格外倍率での撮影だ。今回は新宿の中古カメラ市場で倍率を最大で3.5倍化できるマクロエクステンションチューブを入手した。チューブをすべて継ぎ足し3.5倍化したときの最大撮影倍率は約7倍である。撮影倍率を強制的に高め、どこまで画質を維持できるのかテストしてみた。
Ihageeエキザクタマウント用マクロエクステンションチューブを接続してみた。チューブを全て用いると撮影倍率は最大7倍程度まで高められる


撮影対象は上段の左側に示したボールペンの先端である。2段目のヘリコイドをいっぱいに繰り出しレンズ単体の最大倍率(x2.0)で撮影した(上段・右)。ピントの芯をつかむことができ、ペン先のボールをしっかり解像している。次にマクロエクステンションチューブを付け倍率を約3倍に高めてみた(下段・左)。球面収差が急激に増大しておりピント面の解像感が落ちてきた。被写界深度はかなり狭いが、何とかピントの芯は出ている。このあたりが画質的には限界に思える。最後にチューブを継ぎ足し倍率4倍で撮影した。ペンの先が前玉に接触してしまうすれすれでの撮影結果だが、ピントの芯を得ることができなかった。これ以上倍率をあげても無駄であると判断し、継ぎ足すのをやめた。
レトロフォーカス型の光学系を持つMACRO-QUINONにエクステンションチューブを装着し撮影したが、倍率を2倍化した段階で既に画質の低下が著しく、収差の爆発的な増大には対応できていないことがわかった。ちなみにチューブを全て連結し倍率を7倍まで高めてみたが全く結像しなかった。これに対して、ガウス型の光学系を持つMACRO-QUINON(55/1.9)では、マクロチューブを用いて最大撮影倍率を2倍化しても、そこそこシャープな結像を保っていた(前回ブログ参照)。このあたりの耐性の差はガウス型の光学系によるアドバンテージなのであろうか。

★撮影機材:Steinheil MACRO-QUINARON 35mm/F2.8 + EOS Kiss x3 + Steinheil Metal Hood(54mm径)

このレンズ、やはり私には使いこなせない。もっと写真の腕を磨かなくては、このレンズの設計者に申しわけない。