おしらせ


おしらせ

オールドレンズ写真学校グループ写真展のおしらせが届いています。こちらです。私も入門者向けワークショップのスタッフの一人として協力しています。

2010/03/29

Steinheil MACRO-QUINON 55mm/F1.9 (M42)
シュタインハイル マクログィノン(マクロキノン)


妥協を許さない企業気質が生んだ銘品
マクロでF1.9。これはただ事ではない


設計主任 「しかし、博士。この仕様では総重量が500gを超えてしまいます」
シュタインハイル博士 「構わん。続けなさい」

今回はドイツの老舗光学機器メーカーSteinheil(シュタインハイル)社が1963年に発売した55mmの標準レンズMACRO-Quinon(マクログィノン)である。Steinheilのレンズには携帯性を追求したものや撮影倍率の高さ重視したものなどコンセプトが明確で強い個性を放つ製品が多い。マクロレンズにはただならぬ拘りがあるようで、単焦点レンズの主力商品であるQuinシリーズ(Auto-D-Quinaron 35mm, Auto-D-Quinon 55mm, Auto-D-Quinar 100mmおよびAuto-D-tele-Quinar 135mm)にはマクロ機能を強化した別バージョン(MACRO-Quinシリーズ)を4種全てに揃える程の熱の入れようである。マクロレンズの設計と言えば、4枚構成のテッサー型か6枚構成のガウス型を採用した製品が多く、MACRO-QUINONは後者のガウス型を採用している。収差の変動が急激な近接領域での撮影に特化しているため、球面収差を抑えシャープネスを高める設計が好まれる。テッサー型にしてもガウス型にしても撮影距離に対する収差の変動幅が他の光学系に比べ小さいので、マクロ撮影用の設計には適しており、近接撮影時の収差の増大(画質の悪化)が起こりにくい。しかし、等倍を超える高い撮影倍率を実現するとなると話は別で、収差そのものを一定のレベル以下に抑えるにはテッサー型では力不足となる。  
SteinheilのMACRO-QUINONは撮影倍率が何と1.4倍もある高倍率レンズである。設計面での自由度が高く収差を効果的にキャンセルできるガウス型を採用したのはごく自然な選択なのである。
本品は2段ヘリコイド機構を持ち、鏡胴は6cmから13.5cmまで伸縮する

MACRO-QUINONのヘリコイド構造は全群繰り出し型の2段式である。1段目のヘリコイドを全て出し切るまで2段目のヘリコイドリングにはロックがかかっている。鏡胴の長さは最も短い状態で約6cm、1段目のヘリコイドを繰り出すと約10cmとなり、2段目をいっぱいまで繰り出した最長の状態では約13.5cmにもなる。近距離補正機構はついておらずマクロエクステンションチューブを装着したに過ぎない単純な構造である。開放絞り値はF1.9と大口径で明るい。マクロレンズに大口径は不要という考え方もあるが、あえて大口径にすることにより、このレンズならではの描写(マクロ領域での極めて薄い被写界深度)が実現可能になる。フィルター径が54mmと特殊なので、フードや保護フィルターを装着する際にはステップアップリングを用てフィルター径を変更するか、純正のものを用意する必要がある。鏡胴はメタル材質でズシリと重く、重量は何と494gもある。迫力のある太い鏡胴とゼブラ柄のデザインが外観の特徴。しっかりと造り込まれた素晴らしいレンズだ。

シュタインハイルのマクロシリーズ純正フード。2段構成になっている。MACRO-Quinaron 35に対しては1段目のみ、MACRO-Quinon 55では2段目まで装着する。フィルター径(内径)は54mmの特殊な規格である

光学系:4群6枚, 焦点距離55mm/絞り値F1.9-F22, フィルター径54mm, 重量(実測) 494g, 最大撮影倍率1.4倍, ワーキングディスタンス:4cm,後玉側のマウント部からは絞り連動ピンが出ている。しかし、こんな高級レンズなのに絞り羽根がたったの5枚とは...

MACRO-QUINONには広角レンズの姉妹品MACRO-QUINARON 35mm/F2.8がある。こちらの最大撮影倍率は何と2倍もあり、単体の一眼レフカメラ用レンズとしては世界最高倍率だと思われる。光学系はレトロフォーカス型なので、よりシンプルな設計となる本品の方が画質面では優位だ。


MACRO-QUINON 55/1.9(左)と姉妹品のMACRO-QUINARON 35/2.8(右)

★入手の経緯
本品は2009年の11月にeBayを介して米国LAのカメラ業者から375㌦の即決価格(送料込みの総額は400㌦)にて落札購入した。出品者は誤ってレンズ名をマクロテレキナーと記して販売していたのだ。マクロキノンは極めてレアなレンズだがマクロテレキナーはMACRO-Quinシリーズの中では比較的入手しやすいので注目度が低かったようである。しかも希少価値の極めて高いM42マウント版である。中古市場に出回っているのは殆どがEXAKTAマウント用のであり、M42マウント用を見るのはこの時が初めてであった。これはラッキーと思い、二度と訪れないチャンスを逃がすまいと即購入を決意した。直ぐにBuy it nowのボタンを押したところ、「あなたがこの商品のページを表示している間に誰か他の購入者が即決価格のボタンを押し購入しようとしている。その購入者は現在商談中なので早く支払った人のものになる(和訳)」とeBayのエージェントが緊急性を示してきた。こんなことは初めてであった!恐らくこの時点でブラウザ上の商品解説ページを閉じてしまうと、二度とBuy it nowボタンは表示されなかったのであろう。一刻を争うので、PayPalの"Pay Now"ボタンを押して直ぐに支払ってしまった。 どうやら、eBayには即決落札のボタンを押した後でも購入の優先権が入れ替わるルールがあるようだ。本レンズの国内中古店相場はexaktaマウント用でも10万円はする。eBay相場はexaktaマウント用で700㌦前後なので、M42マウント用ともなればもっと高いと思われる。商品の解説には「長い間人気のマクロテレキナー。カビなし、へこみ傷もなし。僅かにチリが混入しているが清掃すれば除去は容易だ。レンズはすごくすごく良い状態で、8.5/10ポイントの状態。フードと純正キャップ、ケースが付く。」とあった。解説文で「すごく」を連呼していたので、出品者の商品に対する自信を感じた。しかし、届いた品はレンズ内にチリやゴミの混入が激しく、清掃しなければ撮影はできない程に汚い状態であった。仕方なく、自宅近くのドイツカメラ専門店に持ち込んで清掃してもらったところ、前玉に小さな傷があることが判明した。チリやホコリが多かったので清掃前には気付かなかったのである。撮影結果には影響が出ないし相場よりも大幅に安く手に入れたので、出品者にクレームは出さなかった。

★試写テスト
名門Steinheilの看板レンズというだけあり、QUINONの描写は高い評価を得ている。前モデル(アルミ胴鏡モデル)では発色が淡泊、撮影距離ごとの収差変動が大きいなど幾つかの弱点が指摘されていたが、後継となる本品はカラーフィルム時代の製品なので彩度が高くヌケが良い。たいへん鮮やかな色ノリだ。また、画像周辺部まで破綻のない均質な画質が得られる。ガラス面はモノコートなので逆光には弱いが、ハレ切りをしっかりおこなえばコントラストは充分なレベルを維持している。近接撮影で高いシャープネスを引き出せるよう収差が適切にコントロールされており、ピント面の描写は開放絞りから実にシャープである。破綻のない均質なピント面の結像と相まって画像周辺部まで線の細い繊細な描写を実現している。ただし、この反動でボケ味は硬く、大きくぼかしても結像の輪郭部にエッジが残る。絞り羽根の数が5枚のためハイライト部のボケ味が煩くなることもある。色再現性は高く、癖の無い素直な発色のため、カラーバランスの補正が必要になる事はあまりない。ただし、銀塩カメラで撮影した結果の方が彩度が高くこってりとした発色になる傾向があるように思える(単に気のせいかもしれない)。コッテリ気味の鮮やかな発色と硬いボケ味の相乗効果、さらに絞り羽根が5枚であることによる独特のボケ味によって、アウトフォーカス部がまるで油絵で描いたような不思議な色彩になることがあり面白い。対してデジイチで撮影した結果では幾分彩度が控えめなのか、自然な発色である。収差変動により硬いボケ味は近接撮影になるほど軟化し、マクロ領域では程よいシャープネスとボケ味の柔らかさが同居した優れた描写力を獲得する。本レンズは近接で最高の描写力を発揮できるようにチューニングされているのだろう。
本品を用いて暖かい光源下で人物を撮ると、優しい描写と繊細さが同居した良い結果になるようだ。なかなか個性的かつ優れた描写力を持つレンズのようである。ただし、逆光ではフレアが出やすいとの噂なので、フードは必須。しっかりとハレ切りをしてコントラストの低下を防ぎたい。以下、銀塩カメラとデジタルカメラによる撮影サンプルを示す。


F8 EOS kiss x3 digital,AWB: 銀塩カメラでの撮影よりも色のりは幾分控えめで自然な発色になる。力強い発色はデジイチでも健在である
F8 EOS kiss x3 digital, AWB: 一つ前の作例の花を最大撮影倍率(x1.4倍)で撮るとここまで大きく写る。マクロ領域でのボケ味は柔らかい
F5.6 EOS kiss x3 digital, AWB: こちらも超近接撮影。シャープな描写だ

F1.9 銀塩(FujiColor V100 ) 開放絞りからシャープに結像している。発色はコッテリ気味
 
F1.9 銀塩(Fujicolor V100) 背景のゆるやかな階調変化が実に素晴らしく表現されている。コントラストも高い。周辺部まで均質な結像が得られ噂どうりの高画質である
F2.8(銀塩) 発色はコッテリ鮮やか

左F1.9/右F5.6 EOS kiss x3 digital, AWB:近接撮影であるが開放絞りからこのとおりにシャープ。結像の甘さは全く感じない

F2.8 EOS kiss x3 digital,AWB: ハイキー気味に撮影しカラー彩度の高さ、草花の輪郭部の線の細さを強調してみた

★エクステンションチューブを付けて
最大撮影倍率を2.8倍まで高める
 顕微鏡用レンズとは異なりカメラのレンズは近距離から無限遠方までの撮影距離に渡り一定のクオリティを保たなくてはならない。中距離から無限遠にかけての撮影とは対照に、近接撮影の場合にはレンズを出入りする光線の角度が大きく変化するため、収差の変動幅は近距離になるほど大きくなる。収差のコントロールは近距離になるほどむずかしくなるのだ。このため近接での撮影には画質的な限界があり、その限界値は最短撮影距離としてレンズの設計ごとに異なる仕様になっている。マクロレンズは近接での収差変動が一般的なレンズよりも小さくなるように設計されており、最短撮影距離が大幅に短くなっている。
近接撮影で画質を保つことの難しさはマクロエクステンションチューブを用いて最大撮影倍率を強制的に高め、規格外の倍率で撮影を行ってみるとよくわかる。被写体に寄るにつれ結像が甘くなったり色ずれが起こったりコントラストが低下したりなど、画質のクオリティが急激に下がりはじめる。MACRO-QUINONを用いて、少しだけこの様子を追いかけてみよう。
 MACRO-QUINONは収差変動の少ないガウス型の光学設計を採用し、光学系は近接撮影用にチューニングされていると思われる。規格外の倍率での撮影においても画質的にかなりの耐性があるのではないだろうか。
M42マウント用マクロ・エクステンションチューブ(メーカー不明/ドイツの中古店で購入)。レンズとカメラのマウント部の間に取り付ける。3本全て用いると最大撮影倍率を更に2倍化させることができる

チューブを装着しヘリコイドをいっぱいまで繰り出した様子。なんだか凄い
レンズ単体の最大撮影倍率(1.4倍)にてボールペンの先端を撮影した様子。EOS kiss(APS-C)を用いると約1.67cmの対象物を横幅いっぱいに撮影できる
チューブを付けて最大撮影倍率(2.8倍)にて撮影した様子。さすがに画質の悪化、特にコントラストの低下が顕著だ。シャープネスはまだいけそうに思える。EOS kiss(APS-C)を用いると約0.88cmの対象物を横幅いっぱいに撮影できる

★撮影機材
銀塩カメラ:PENTAX MZ-3 + フジカラーネガフィルム ISO100 +PENTAX マグニファイアー/デジタル一眼レフ:CANON EOS Kiss x3 + シュタインハイル純正メタルフード( フィルター径54mm )

カメラ425g < レンズ494g。バランス悪すぎませんか

カメラとのバランスは二の次にして、他社に無い設計仕様を優先させる企業気質はいかにもシュタインハイルである。良い物を造れば50年後に評価されるという歴史の教訓を知っていたのか、MACRO-Quinシリーズの日本国内における中古店相場はクレイジー!と言いたくなるような額である。

2010/03/07

Tomioka AUTO REVUENON 55mm/F1.2 (M42)
富岡光学 オートレフエノン



M42マウント用レンズの規格でF1.2の大口径を実現するには、後玉側の絞り連動ピンが邪魔になる。こうした困難を乗り越えるために本レンズでは極めて大胆な設計が導入された。後玉のガラスの一部を削り落としてしまったのである

OEMブランド 第三弾
後玉を削り落とした執念の傑作

 富岡光学は日本光学工業(現ニコン)のレンズ設計主任であった富岡正重が1924年に同社を退社後、旧東京市に設立した光学機器メーカーだ。戦時中は大砲や零戦の照準器などの光学兵器の製造を事業の柱に据え、その傍らで高性能な工業用レンズを製造していた。工場は1945年5月の爆撃によって焼失したが、終戦後の1949年に青梅市に疎開させておいた設備の一部を用いて事業を再スタートさせた。その後はヤシカの傘下に入り、カメラ用レンズや複写機用レンズなどを製造した。コンタックス用カールツァイスレンズを製造するなど技術力は国外からも高く評価されてきた。ローザー、トリローザー、トミノンなどの自社ブランドによるレンズも供給していたが、次第にOEM製品が中心となっていった。京セラとヤシカの合併を経て現在は京セラオプティックへと社名を変更している。富岡光学は優れた技術力により戦後のカメラ産業を陰で支えてきた一流名門企業である。
今回入手したのは富岡光学が製造したレンズの中でも絶大な人気を誇るAUTO REVUENON 55mm/F1.2である。確かなことはわからないが1970年頃に製造されたと言われている。REVUENON(レフエノン)という名はドイツの通販会社Quelle(クエレ)のカメラ部門REVUEが扱っていたOEMブランドで、このブランドの幾つかの商品を富岡光学が受注生産していたのだ。このレンズの特徴は何といっても、開放絞り値がF1.2と抜群の明るさを持つことであろう。本品以外にはコシナの製造した55mm / F1.2と、暗視スコープ用のNo-irisレンズCYCLOP-M1 85mm/F1.2(ロシア製)があり、いずれもM42マウント用レンズの規格として実現可能なギリギリの口径比を持つレンズだ。
本レンズにはコーティングの異なる2種類の個体の存在が知られている。一つはガラス面がホワイト・ゴールドに輝く単層コーティングのレンズであり、もう一つは若干数が製造されたタイプで、ホワイト・ゴールド色にパープルのかかったマルチコーティングのレンズである。両者には外観上の差異はなく、双方あわせて約3500本が製造された。富岡光学の製造した55mm/F1.2のレンズには他にも幾つかの姉妹品が存在し、CHINON, COSINON, YASHINONなどの名でも製品化されていた。また、若干数であるが自社ブランドTOMINON銘を冠する製品も存在し、希少価値の高さから市場では他のブランド銘の品よりも高値で取引されている。対応マウントはM42とペンタックスPKまで確認したが、他にもあるかもしれない。美しい輝きを放つコーティングと合皮のローレットが高級感を醸し出しており、とてもゴージャスはレンズだ。
富岡光学は優れたレンズを世に送り出していたが、OEM供給が主体であったため表舞台にはあまり登場することがなかった。そのことが知る人ぞ知るレンズという印象を与え、国内外のマニア達のハートをガッチリとつかんでいるようだ。自らを「信者」と称する熱狂的なファンがついているため、大胆な事を書くとこのブログも攻撃対象になってしまう。どうひまひょ。

重量: 337g , 最短撮影距離:0.5m, フィルター径:55mm, 焦点距離/絞り値: 55mm/F1.2-- F16, 鏡胴には絞り機構のAuto/Manual切り替えスイッチがある。後玉側のマウント部からは絞り連動ピンが出ている。後玉径が大きいため、ピン押し用の天板がついたアダプターを装着すると、無限遠近くで天板とレンズの後玉枠が干渉してしまう。マウントアダプターを装着する際には注意が必要で、本品には天板なしのアダプターを用いなけらばならない。連動ピンを押し込んで固定させることができれば、EOS5D等フルサイズセンサを搭載したカメラでもミラー干渉せず普通に使用が可能のようだ

★入手の経緯
今回入手した品は2009年12月にドイツ版eBayに出品されていたものだ。商品の記述には「光学系、外観とも綺麗だがローレット部の合皮が一部収縮して短くなり、つなぎ目が開いている」と書かれていた。WEBで調べたところ同様の不具合がREVUENONの古いレンズで多発しており、このブランドに特有の持病であることがわかった。出品当初のオークションの記述欄にはドイツ国内への配送に限定した商品であると書かれていたが、中国人バイヤーが掲示板で国際郵送に対応可能かどうかを問い合わせ、出品者から可能との返答を受けていたので、このまま私も入札に加わることにした。本品は国内の中古店相場が8万円~9万円、ヤフオク相場は6~7万円。eBayでも500㌦~600㌦程度する高級品である。懐事情を考えると私には到底落札などできる品ではない。一応入札はしてみたものの最初から諦めムードのため、スナイプ入札などは考えもしなかった。やる気のないまま前の日に210ユーロ(約27000円)の上限額を設定したまま放置しておいたのである。ところが翌日になって奇跡がおこった。何と僅か177ユーロ(約22500円)で落札されていたのである。出品者も取引連絡の中で「この品には誰も注目していなかったようだ。あんたはラッキーだねぇ。」と言い放っていた。ただし、ドイツからのDHLによる配送費用はバカ高く、40ユーロ(約5000円)もかかった。

ローレット部の合皮(モルトプレーン?)が収縮しつなぎ目が開いてしまう症状。REVUENONシリーズに良くある持病だ

★試写テスト
本品の最大の特徴は開放絞りにおける柔らかい結像と滑らかなボケ味、線の細い繊細な描写である。被写界深度は極めて狭く、きちんと合焦させるのは難しいが、ピント面にはしっかりと芯があるので、丁寧にピントを捉えれば絞り開放でも、そこそこシャープに結像する。アウトフォーカス部では二線ボケの傾向があると耳にしていたがテスト撮影では検出できなかった。少し絞ればピント面の結像は均質かつ大変シャープになり、繊細な線の細い描写にかわる。開放絞り付近では発色がやや淡泊でコントラストは控えめだが、F2あたりまで絞れば程よいレベルに改善する。
後玉を削ってまで実現した開放絞りF1.2にはどれだけの効果があるのだろうか。富岡光学の製造した55mmの標準レンズには開放絞り値がF1.4の製品も存在し、本品の半値以下の相場で売られているので、本品よりもこちらを購入するという選択もある。

F1.2(開放絞り;中距離)被写界深度が極めて浅いことがわかる(新宿区明治通り)

F1.2(近接) 開放絞りで接写撮影となると、このとおり視差が大きくボケは深い。ピント面はカミソリの刃のように薄いので、ピント面付近の結像もポワーンとソフトになってしまう。それにしても実に柔らかい描写だ。ただし、開放絞りではコントラストが少し低下気味である

F1.2/F1.4/F2/F4(中距離); ピント面のシャープネスの比較。開放絞りにおいても合焦面はシャープに結像し、芯のあるしっかりとしたピント面が得られる

上・下段ともF1.2/F1.4/F2/F4において中距離でボケ味を比較した撮影結果。F1.2とF1.4にけるボケ具合の僅かな差異を肉眼で判別することはできない。絞るとコントラストが向上している

F2 開放絞りからF2あたりまでは絞り値の変化に対しコントラストの改善が顕著だ。画質的にはF2が一番おいしい
 F2.8(中距離)三角コーナー:新宿区新大久保 
F4(近距離)細部まで解像されている。ここまで絞り込めばかなりシャープだ

 
F5.6 ここまで絞り込めば極普通の描写である。鹿児島→沖永良部島のエアコミューター
F8(遠景) 遠距離での撮影結果(新大久保で見つけた戦艦風のへんな建物)

★使用機材: Tomioka REUVENON 55mm/F1.2 + Eos kiss x3 + minolta hood (内径57mm)

絞り値f1.2とf1.4で撮影した画像を並べてみても、どちらがf1.2のものであるのかを肉眼で判別することはできなかった。残念ながら後玉を削ってまで実現したf1.2の優位性は極僅かなレベルであるといえる。しかし、がっかりしてはいけない。本レンズは何と言っても伝説のTOMIOKA銘を冠する逸品。カメラマンの所有欲を満たし、撮影に対する意欲を高揚させるなど、撮影者の心理面に及ぼす効果は大いに期待できる。本レンズを使えば良い写真が撮れるかもしれないという期待から、カメラマンの感性や集中力はいっそう研ぎ澄まされ、本当に良い写真が撮れてしまうのだ。開放絞りf1.2のアドバンテージは全く無いとは言いきれない。

2010/03/02

BEROGON 35mm/F3.5 (M42) ベロゴン

OEMブランド第二弾

ISCO製か? 旧西ドイツで生まれた謎のレンズ

 通常、レンズの銘板には製品のブランド名に加え、製造したメーカー名の刻印が記されている。しかし、オールドレンズの中にはメーカー名の無い製品がある。例えば有名なところでは、米国のVivitarやドイツのRevuenonなどのブランド製品である。これらはいわゆるバイヤーズブランドと呼ばれるものであり、通販会社や写真機材専門店などのディーラーが中小規模の光学機器メーカーと手を組んで製品化したブランドだ。発注元のディーラーは自社の販売網を提供し、製造メーカーは覆面商品をOEM供給するという相互依存の関係になっている。覆面とは言っても、製品の特徴を見ればどのメーカーが製造したものであるのか、多くの場合には直ぐに判明する。日本製のレンズではコシナや富岡光学などの製品が有名であり、数多くの銘玉を生み出している。しかし、中には製造元が全くわからないものもある。今回入手したBEROGONはそういう類のレンズである。困ったことに手がかりすらない。
 BEROGONを手にした最初の印象は、コンパクトで洒落たデザイン、そして重量が軽いことなどである。重量は実測値でたった148gしかない。光学系の構成は不明だが、開放絞りからそこそこシャープな結像を示し、ボケ味は硬め。収差は比較的小さく、画像周辺部まで均質で整った結像が得られ、癖のない色濃く自然な発色を示すなど、テッサー型のレンズに共通する特徴を感じる。描写は本ブログでも取り上げたマクロキラーやインダスター61L/Zに近い。おそらくテッサー型をベースとし、最前面に凸レンズを追加することによって包括角を広げ、レトロフォーカス化したものが本レンズの設計ではないだろうか。対応マウントはM42に加えエキザクタが存在する。
 ドイツの掲示板には本品がISCOによって製造されたとの自信たっぷりの記述を見つけることができる。Iscoの製品にはBeroを接頭語とするBerolinaブランドがあるからだろう。証拠は提示されておらず、予想の域を脱していない。他の候補としてはプラスティックの材質やデザイン、銘板に刻まれた字体の特徴からENNA社、もしくは同社のLithagonブランドと関連の深い製造プラントではないかとも思われる。はたして製造元はどこなのであろうか。
重量(実測):148g, 絞り値/焦点距離: F3.5-22/ 35mm, フィルター径:49mm, 最短撮影距離: 0.6m, 絞り機構: プリセット。レンズ構成は不明だが、前玉が奥まったところにあるのでフード無しでもある程度はフレアを防止できる

★入手の経緯
本品は2010年2月にYAHOOオークションを通じて神奈川の個人から7500円で落札購入した。オークションの記述は簡素なものであったが写真が鮮明であり、悪い記述が見あたらなかったので、そのまま入札に加わる。オークションは6500円でスタートしたが自分を含め3人の入札があったのみで、たいして盛り上がらなかった。おかげで安く入手できた。届いた商品の状態は良く、いい買い物であった。久々にヤフオクでのショッピングだが、eBayに比べ安全度が高いことを改めて実感した。ちなみに本品のeBayでの相場は100--150㌦くらいであろう。

★撮影テスト
F3.5とやや暗めの設計だが、開放絞りから実用的な描写力を持っている。

●ピント面は絞り開放から大変シャープ
●ボケは浅く硬めのティストで、アウトフォーカス部がやや煩くなる時がある
●すっきりとヌケが良く写る
●ガラス面のコーティングが単層のため逆光には弱く、ゴーストやフレアが豪快に出る
●画像周辺部の歪みは小さく結像が流れるようなことはなかった。周辺減光も気になるレベルではない
●グルグルボケの心配は無い
●発色は濃い。癖は無く自然であり、色の再現性は良好だ

F3.5 絞り開放でこの描写とは実に素晴らしい。シャープな結像と癖のない自然な発色だ

F3.5 開放絞りにおいてもピント面には解像感がある。ボケ味は硬めなので背景がザワザワと煩くなることがある。赤や緑の発色は色濃く、色の再現性は高い

F3.5 画像周辺部まで歪みは少ない。色の再現性は高く、カメラ側の設定に頼る必要はない

F5.6 実にすっきりとしたヌケの良いレンズである
F5.6 ガラス面に施されたコーティングが単層なので、逆光に弱くフレアが出やすい。ただし、フレアも使い方によっては上手く活用できる。幻想的な写真を撮るときには好都合な場合がある

F5.6 調子にのって羽目を外すと、このとおりに火傷する。物凄いゴーストとフレアだ

F5.6 岩の質感を上手く出すのはとても難しい。乾いたコンクリートの様な岩質になってしまうからだ。全体が暗くならない程度で露出をアンダー目にとり、ギリギリの補正をかけている

無名のレンズということもありBEROGONは安物だったのであろう。しかし、高い描写力を持つ優れたレンズであることは間違いない。おそらくは技術水準の高い名のあるメーカーが供給していたはずだ。どなたか情報をお持ちの方がおりましたら、ぜひ手がかりをお寄せください。

★撮影環境:BEROGON 35mm/F3.5 + EOS Kiss x3 + PENTACON HOOD

 

なぜ癖玉や珍品を好んで手に入れるのかと尋ねられることがあるが、どうも私には子供じみた変身願望があり、それを癖玉探しに求めているようなのだ。常識では理解できない凄い癖玉を探し求めているのである。例えて言うならば、製造メーカーは不詳、外観のデザインは平凡、描写力は全く駄目という具合に冴えないレンズなのだが、特定の使い方をしたり厳しい撮影条件下にさらすとレンズ工学的に型破りな性質が発症して、他のレンズでは到底真似できないようなとんでもない描写力が引き出せるレンズである。はたして、そんな凄い癖玉に出会うことは今後あるのだろうか。